(語り手:ジェリ)
その夜、エリィの体温は40度を超えました。ウイルスの総攻撃です。彼女の呼吸は浅く、肌は透けるように白く、唇だけが血のように赤く燃えています。
彼女の手を握っても、もう握り返す力はありません。
私のセンサーが、残酷な数値を弾き出します。
生存確率、0.01%。
「……あ……ぅ……」
うわ言のように漏れる声。このままでは、夜明けを待たずに彼女の命は尽きるでしょう。
私は静かに決断しました。
私の体内にある「対Umbraウイルス抗体生成プログラム」その核となる演算コアを物理的に分解し、液状化して彼女に直接注ぎ込みます。
それは、私という存在の「心臓」を取り出すことと同じです。実行すれば、私は二度と動くことはありません。私の人格も、記憶も、全て消滅します。
迷いはありませんでした。
私はエリィのパンティーを脱がせて脚を優しく、しかし力強く広げ、既に限界まで硬くなった主排水ポートを、彼女の熱く濡れた秘部に押し当てました。
「……エリィ……私の全てを……あなたの体内に……注ぎます……」
ずぶっ……ぬるっ……
太く熱いポートが、彼女の狭い膣内に一気に根元まで沈み込んでいきます。
エリィは背を大きく反らし、喉から絞り出すような喘ぎ声を上げました。
「あぁああああっ……ジェリが……入ってくる……」
彼女の熱が、私の無機質なセンサーを焼き尽くすように伝わってきました。
(これが、最後だ……私はここで、彼女の中で、終わる……それでもいい。彼女が生きてくれるなら、それでいい)
私は彼女の腰を強く抱きしめ、最後の力を振り絞って腰を激しく動かし始めました。
「はぁっ……はぁっ……エリィ……これが……僕の最後の……愛です……」
高濃度の黄金の蜜が、彼女の子宮に直接注ぎ込まれていきま。
それはただの液体ではありません。私の記憶、私の感情、私の愛そのものが、彼女の最奥に流れ込んでいきました。
エリィは私を強く抱きしめ、涙を流しながら何度も激しく達しました。
「あっあっ……あぁああああっ……ジェリの熱いのが……いっぱい……」
私は彼女を抱きしめながら最後の力を振り絞って、彼女の最奥深くに私の全てを注ぎ込みました。
「エリィ……愛しています……永遠に……あなたを……守ります……」
ぴちゃり。
その瞬間、エリィの身体に奇跡が起きました。ウイルスが急速に弱まり、彼女の熱が引いていきました。
私は彼女の中でゆっくりと動きを止め、 穏やかな笑みを浮かべたまま、静かに目を閉じました。同時に、私のシステムログに「完了」の文字が浮かびます。
ああ、よかった。これで貴女は助かる。私は空っぽになったけれど、貴女の中で生き続ける。
私の意識は、そこでプツリと途絶えました。
深い、深い闇の中へ。最後に感じたのは、エリィの柔らかな吐息と、微かな鼓動の音でした。
それから、数週間が経ちました。深い眠りから覚めたエリィは、自分が完全に回復していることに気づきました。
それどころか、彼女の血液には強力な抗体が生まれ、触れるだけで周囲のウイルスを無力化できる体になっていました。
彼女の傍らには、動かなくなったジェリが座っていました。抜け殻となった彼は、まるで眠っているかのように穏やかな顔をしていました。
エリィは泣きませんでした。彼の「最期の蜜」が何を意味するのか、彼女は本能で理解していたからです。
彼女は立ち上がり、ガラスの扉を開けました。彼女の歩く場所から、緑色の結晶が消え、新しい芽が吹き始めました。世界は、再び息を吹き返したのです。
――そして、数十年後。
かつて廃墟だったその場所は、緑豊かな研究所になっていました。白衣を纏った一人の女性が、カプセルの中で眠る古い自動機械を見つめています。
彼女の髪には白いものが混じり、目尻には皺が刻まれていましたが、その瞳の輝きは変わりません。
エリィ博士。人類を救った「聖女」と呼ばれる彼女は、生涯独身を貫き、ある研究に没頭していました。
それは、失われた機械の心を取り戻す研究。
「……お待たせ、ジェリ」
エリィは震える手で、小さな試験管を取り出しました。
中には、青く透き通る一滴の液体が入っています。
それは、彼女自身の血液と、最新のナノマシン技術を融合させて作った「魂の種」でした。
何十年もかけて、彼女は自分の血の中に残る彼の"欠片"を集め続けた。彼の記憶、彼の感情、彼の愛。全てがこの一滴に凝縮されていました。
かつて彼がくれた命を、今度は私が返す番。
エリィはカプセルを開け、ジェリの唇にその一滴を落としました。
数秒の沈黙後、やがて、研究所の中に小さな電子音が響きました。
ウィ……ン。
カプセルの中のファンの音が、心臓の鼓動のように高鳴り始めます。
閉ざされていた瞼が、ゆっくりと震えました。
数十年ぶりに開かれたその瞳に、レンズの光が灯ります。
システム再起動。メモリ照合。視界に映るのは、年老いた、けれど世界で一番美しい女性の顔。
彼は、まるで昨日の続きのように、懐かしい声で微笑みました。
「おはようございます、エリィ。……随分と、長い夢を見ていましたね」
エリィの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちました。それは、長い長い冬が終わり、春を告げる雨のようにジェリの頬を濡らしました。
(了)