セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
手に持った箸でお肉を摘まんだまま、僕は隣にいるとても機嫌が良さそうな玲香さんと見つめ合っていた。
「……たっくん?食べないの?」
するといつまでも口を付けずにいることを不思議に思ったのか、玲香さんが心配そうな顔で僕にそう言った。
―――いる。僕の目の前に、玲香さんがいる。
でも、僕の頭の中は一つのことで埋め尽くされていて。
「―――わっ」
僕はエプロンを内側から盛り上げている大きな胸にぶつかる勢いで玲香さんに思いっきり抱き着いた。
そんな風に甘える僕の頭を、玲香さんは優しく抱きしめながら撫でてくれた。
「ふふ、びっくりした?」
頭を撫でられ嬉しくなった僕は、ただひたすらに玲香さんの胸に顔を押し付けてその感触と温かさ、僕を優しく包み込んでくれるその匂いを堪能する。
どれだけ触れても飽きることのないその柔らかさと温かさ、そして優しい玲香さんの匂いは、確かに今ここに彼女が存在しているのだと心から僕を安心させてくれた。
「ふふ、たっくんも寂しかったんだね……ごめんね?」
玲香さんは優しい声で僕に謝った。
「ぶっちゃけアタシもだんだんたっくんと離れるのが辛くなって来ててさ?朝起きたときにたっくんが隣にいないのが寂しくて仕方なくて……だから来ちゃった♡」
「……玲香さん」
「……ん?」
「……一緒にいて欲しいです」
僕は玲香さんの胸に頬を当てながら正直な気持ちを吐き出していく。
「帰り道で別れるときも、部屋で一人でいるときも、凄く寂しくて」
「……うん」
「一人で静かな時間を過ごすのが好きだったはずなのに、今は玲香さんがいてくれないと集中することも出来なくて」
「……うん」
「何よりも僕は玲香さんと一緒にいたいです。もう学校で一緒にいるだけじゃ全然足りないです」
「ふふ、そなんだ♡ ねぇたっくん?アタシもずっとそう思ってたからこうしてここに来たんだよ?」
「……え?」
そう言ってくれた玲香さんは僕の頭をそっと離す。そして僕の顔を両手で優しく包み込むと僕の目を見つめて微笑んだ。
「アタシとたっくんのママ二人から提案があってさ?」
「母さんと、華凛さんから……?」
「うんそう。それでね?アタシ今日からこの家に泊まることになったんだ。ずっと一緒にいられるようにって」
僕は思わず視線を玲香さんの後ろにいる母さんへと向けた。何も言わずに僕達を見守ってくれていた母さんは、僕と目が合っときに一度だけ僕の目を見つめながらしっかりと頷いてくれた。
「もうなんか見てられないんだって」
「見て、られない……?」
「うん。家にいるときのアタシとたっくんってね?普段はすっごい楽しそうにしてるらしいのね?もうとにかく機嫌が良くて幸せ―みたいな感じ?」
「……母さんにそんな風に見られてたなんて……何か恥ずかしい」
「あはっ、わかるー!あっそれでね?だから余計に気になっちゃうんだって」
「気になるって、どういう……?」
「んーっとね、毎日毎日ホントに楽しそうにしてるからさ?ふとしたときに見せる寂しそうな目がすっごい気になっちゃってたんだって。多分アタシもたっくんも早く会いたいなーとかって考えてるときだと思うんだけどさ?ちゃんと見られてるんだねそういうとこ」
僕はもう一度母さんに視線を送る。すると遠巻きで見守っていた母さんがゆっくりとこちらに近づいて来た。そして僕と玲香さんの頭にそれぞれ手を乗せて優しく撫でてくれた。
「母親っていうのはね拓斗?そういうのはすぐに分かるものだよ?それが分かるから拓斗は私の子供で、私は拓斗の母親なんだ。玲香ちゃんのお母さんも勿論それは一緒だよ?」
「……母さん」
「……ママ」
「だから私は玲香ちゃんのお母さんと話し合ったんだ」
「華凛さんと?」
「うん。そして決めた結果が今ここに玲香ちゃんがいる理由だよ」
撫でられていた玲香さんは、母さんの言葉を引き継ぐようにして口を開いた。
「なんかね?一週間お泊りさせたらどうかって。そんな話になったみたいだよ?」
一週間?玲香さんが?この家に?
「しかも交代制だって。アタシがずっとこっちにいてもいいんだけどさ?それだとママが寂しくなっちゃうから……だから一週間で交代って感じ?」
「え、いや、それって、つまり僕と玲香さんは……?」
「うん、ずっと一緒ってこと」
「ほ、本当に?いいの?母さん?」
余りにも突然のこと過ぎて夢でも見ているのだろうかとそう思ってしまうくらい僕の頭の中で嬉しさと困惑とがごちゃ混ぜになっていた。
「いいよ。それにこれは母親である私達の為でもある事だからね」
「母さん達に?」
「そう私達に。そうだね、二人はいつの日かひとり立ちして家から出て行く時が来るということは理解しているかな?」
「それは、分かるけど……?」
「うん……?」
一瞬だけ、僕はこの時初めて見ることが出来た。
「拓斗、玲香ちゃん。いつかその日が来た時に寂しいと感じるのは、あなた達二人だけでは無いっていう事も、ちゃんと理解していてもらえると嬉しいよ」
ほんの一瞬だけ見せた、母さんの愁いを帯びた表情を。
「母さ―――」
「うわヤバッ!」
突然玲香さんが大きな声を上げた。
「ど、どうしたんですか玲香さ……ん?」
何やら焦げ臭いにおいが僕の鼻をつく。
一体何の臭いだろうと顔を横に向けると、プレートの上で焼いていた野菜達がその身を黒々とさせている姿が目に入った。
「「―――あ」」
珍しく僕と同じ反応をした母さんの姿に思わず笑みを零した僕は、急いで黒くなっている野菜達をお皿の上に避難させていった。