セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
無事に午後の授業も終わり放課後になったときのことだった。
「たっくんごめんっ!」
パンッと両手を叩くようにして合わせた玲香さんが、とても申し訳なさそうな顔で謝罪の言葉を口にした。
「何かあったんですか玲香さん?」
「ちょっと委員会のこと忘れててさ?少し待っててもらってもいい?」
「あっなるほど、僕は全然大丈夫ですよ」
「ホントにごめんね?」
「いえいえ、教室でゆっくりしてるので安心して行って来てください」
「うん、ありがと。行って来るね?」
「はい、転ばないように気を付けてくださいね?」
そう言った僕に自然と顔を近づけてキスをしようとして来た玲香さんは寸でのところでその動きを止めた。
「―――あっ、ふふ、はーい♡」
僅かに頬を赤く染めながらもすぐにその身を翻し、委員会へ向かうため教室の中を足早に駆けていく。
急いでいるにも関わらず一度だけ教室の出入り口のところで足を止めた玲香さんはこちらへと振り返り、そのぱっちりとした目で僕を見つめる。
名残惜しそうな瞳で僕を見つめたあと、可愛らしい微笑みを浮かべた玲香さんは小さく手を振り今度こそ教室を出て行った。
僕は玲香さんが出て行った教室の出入口の方をしばらく見つめたあと、玲香さんが帰って来るまでの時間を潰すためにポケットからスマホを取り出す。
すると間もなくして、まだ教室の中にいたクラスの男子の一人が近づいて来た。
「なぁ水崎?前から聞いてみたかったんだけど、花宮にあんな風に見つめられるのってさ?一体どういう気持ちなんだ?」
「えっと、どういう気持ちってそれはどういう……?」
「あーっとだな?普段の花宮はやっぱり花宮なんだよ。誰と話す時も何か一枚壁があるみたいな?」
「壁、ですか?」
「そうそう。話しかければちゃんと話してくれるし、笑う時もちゃんと笑ってくれるんだけど、でも絶対にこれ以上は踏み込ませないっていう境界線《ライン》があるみたいな?」
「踏み込ませない……境界線《ライン》……?」
「で、その花宮がさ?唯一お前を見つめる時だけそれが一切無くなってるっていうか、さっきの教室を出て行く時の顔も完全にそうだったんだけどさ?あの花宮にそんな顔で見つめられるのって一体どんな気持ちなのかなってのを一度聞いてみたくてさ?」
少しでも離れたくないと言いたげなあの瞳。そしてすぐに帰って来るから待っててねと言わんばかりに見せてくれた微笑み。
「どんな気持ち……そうですね……玲香さんは今みたいな顔であればもう何度も僕に見せてくれてますけど、素直に嬉しいですし、本当に可愛いなとは感じますね」
それを聞いた彼は目を見開き、驚きの表情を浮かべる。
「マジか……さっきみたいな乙女の顔した花宮からもう何度も……?」
そして愕然とした表情のまますぐ近くの机に突っ伏した彼は、何か急にガチ凹みしながら「彼女欲しい……俺もあんな風に見つめてくれる彼女欲しい……」と涙声で呟き始める。
「いや、あの……?」
正直に答えただけなのになぜか凹んでしまっている彼に、僕は一体どうしたものかと悩んでいると、彼とは別の男子が彼に話しかける。
「おいおい、水崎が勇者だってこと忘れてないか?俺達の様なチキンと違ってちゃんと行動したから水崎が選ばれたんだぞ?お前も俺もショックを受ける権利なんてないだろう?」
眼鏡をキラリと光らせながらバッサリと切り捨てた彼に、凹んでいた彼はガバッと勢いよく起き上がると、内に秘めていたらしい本音で言い返す。
「でも羨ましいだろっ!」
「いやまぁ、そりゃ確かに羨ましいけどな?でも無理なものは無理だし」
「だからって諦めんなよっ!」
「そんなこと言われてもなぁ。というかお前そんなに花宮押しだったっけ?」
そんな仲の良さそうな彼等のやり取りに、僕は思わず顔を綻ばせていた。
「いやだって見ただろお前もっ!?あんなんお前っ、ずるいっつうかもう何て言うか、可愛過ぎるだろ花宮ぁっ!頼むぅ!俺と結婚してくれーーーーっ!」
と優しい気持ちで見守っていたら、いくら何でも流石に看過できない言葉を叫んだことに僕が抗議の声を上げようとしたところ、眼鏡を掛けている彼が羽交い絞めにしながら僕に謝罪してくれた。
「あー悪い水崎。こいつは未だ年齢イコール彼女いない歴の初心《うぶ》な奴なんだ。今のはただの童貞の戯言だと思って聞き流してくれ」
「やめろぉ!俺を童貞って言うんじゃねぇっ!」
「はいはい、ほら帰るぞ。じゃあまた来週な水崎」
「え、あ、うん。また……」
羽交い絞めにされたまま連れていかれるところを見つめていた僕は、彼が「うぅ、彼女欲しい……彼女欲しいよぉぉ……」と再び涙声で呟いているのを聞いて思わず切ない気持ちになってしまった。
「……彼女……出来るといいですね」
僕はせめて気持ちだけでもと、涙声で呟いていた彼に彼女が出来ることを切に願った。
◇◇◇
それからしばらくして、委員会の用事を終わらせた玲香さんがもの凄い勢いで教室へと戻って来た。
「たっくん終わったっ!!待たせてごめんーーっ!!」
よっぽど僕への気持ちが強かったのか、スマホを弄っていた僕が顔を上げて玲香さんの方を見た時には玲香さんはすでに僕のすぐ側まで来ており、いつものようにその大きな胸で僕の顔を包み込む勢いで抱きついて来た。
「んふっ、たっくん成分補充ちゅう♡」
僕の成分とは一体何だろうと思いながら、こうして抱きしめられている間は玲香さんの柔らかさを堪能しつつ心地のいい匂いを嗅いでいられるので、僕はされるがまま玲香さんに抱きしめられ続けた。
「んーーよしっ!」
十分に補充出来たらしい玲香さんは抱きついていた体を離し、座っている僕の手を取って引っ張り上げる。
「それじゃデート行こっ!デートっ!」
そしてとても嬉しそうな顔で笑いながらそう言った。