セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
カフェで休んだあと、僕と玲香さんは前に命令できる権利を巡って熱いバトルを繰り広げたあのゲームセンターへとやって来ていた。
最近の日常があまりにも刺激的過ぎて何となく久しぶりに来たように感じられるゲームセンターは相変わらず盛況で、僕達のように学校終わりに来ていると見られる制服姿の学生達の姿も結構見ることが出来た。
「今日はどうします?また何かで勝負とかします?」
「勝負かー……うーん……なんかそういう気分じゃないんだよねー……」
「あ、そうなんですか?なら取り合えずクレーンゲームの方とか適当に見て回ります?」
「うん、そうしよっか」
エレベータから降りて右側にあるクレーンゲームのエリアに向かった僕達は、ふと見覚えのある姿を視界に捉えたことで足を止めた。
「―――ん?玲香さん、あれ」
「あれって?……あっ、美香じゃん」
「彼と一緒にいますけど、美香さん達もデートですかね?」
「まー見た感じそうだろね」
「邪魔したら悪いですし、クレーンは後回しにします?」
「んー、せっかくだしちょっと話しかけてびっくりさせちゃおっかなっ」
「あまりやり過ぎないでくださいよ?」
「もちっ」
悪い顔をしている玲香さんにちゃんと釘を刺しつつ、僕達は美香さん達の元へと近づいて行った。
ある程度近づいて美香さん達の声が聞こえたところで足を止め、僕と玲香さんは二人の様子をこっそりと伺う。
「あーーおしいっ」
「ふむ、もうちょっと右だったか」
「何でこう、行けそうで行けないのこれっ!」
「クレーンゲームってのはそういう物だからな」
「んぎぎぎ、マジで腹立つ」
「どうする?俺がやろうか?」
「ん”ぅ”ーー……あと一回だけアタシやる」
「分かった。頑張れみーちゃん」
「……ダメだったら取ってくれる?」
「それはもちろん。みーちゃんが欲しいならいくらでも取るさ」
「……あ、ありがと」
クレーンゲームの中に鎮座している大きくて可愛らしいウサギのぬいぐるみから目を離さないまま顔を赤くしている美香さん。
そんな美香さんを隣に立っている彼が優しい瞳で見守っている。
「……玲香さん」
「……うん、やめとこっか」
初々しくもラブラブな空気を漂わせながらデートを楽しんでいる二人を見た僕と玲香さんは、流石にこんな甘い時間を過ごしている二人の邪魔をするのは悪いと思い、話しかけるのを止めてその場から静かに離れることにした。
◇◇◇
手を繋ぎながらクレーンゲームのエリアとは反対の方向にあるリズムゲームをメインとした筐体が並んでいるエリアへと来ると、何をやっているのか全く理解出来ないくらいの速度でボタンを押している人がいた。
もの凄い勢いで何か四角い物体が奥から手前に流れ、それを華麗に捌いてスコアを伸ばしている。
あれは一体どこを見てどういうタイミングでボタンを押しているのだろう?いや、リズムゲームだからリズムにノって押してるだけなのだろうか?
―――何個もあるボタンを画面を見ながらあの速度で?
最早凄いというより恐怖が勝ってしまうくらいのそのテクニックに驚愕していると、玲香さんが僕の頬を優しく突いて来た。
「たっくんたっくん」
「あっはい?どうしました?」
「こっちにも少しだけクレーンゲームあるみたいだよ?ほらあそこ」
「え?あっ本当だ。ちょっと見て見ます?」
「うん、行こ?」
玲香さんが指さした先にある四台程のクレーンゲームの筐体の方へ向かうと、さっきのクレーンゲームのエリアにあった大きなものとは違い、手乗りサイズのぬいぐるみが中に置いてあった。
「えー可愛いじゃんこれっ」
手乗りサイズのクマのぬいぐるみや、何かのデフォルメされたキャラクターのぬいぐるみが置いてあるのを見た玲香さんがテンション高めに反応する。
玲香さんのその反応から取ってあげたい欲が湧いて来た僕は、クレーンゲームに挑戦するためポケットからスマホを取り出す。
「玲香さんはどれが欲しい感じですか?」
「えっ?あっいいよいいよっ!こういうのって結構お金かかっちゃうじゃん?」
玲香さんはすぐにそう言ってくれたけれど、僕としてはこういう時くらいは何とかしてあげたい。
「いえいえ全然気にしないでください」
「でもっ」
「僕が玲香さんに何か取ってあげたいんです」
「たっくん……」
まだ少し遠慮しているような感じで迷っていた玲香さんは、ゆっくりと筐体の中に置かれている手乗りサイズのクマのぬいぐるみを指さした。
「えっと……じゃあ……アタシこのクマさんがいい」
「これですか?」
「うん。これがいい」
「分かりました、それじゃやりますね」
「……うん、頑張ってね?」
「はい、任せてください」
小銭でもICカードでも始められる筐体に、さっき取り出したスマホをタッチして入金した僕は意識を集中させる。
残念ながらこのクレーンの筐体は時間内であればいくらでもレバーで自由に動かせるタイプの筐体では無く、ボタンを押している間だけ動かすことが出来る、やり直しの効かないオーソドックスなタイプの筐体だった。
まずは横に動かすボタンをクマさんの位置に合わせたあと、クレーンの位置をクマさんの位置を確認する。
そしてクレーンを見ながら奥へ動かすボタンを押し続け、ここだと思ったところでボタンから指を離す。
クレーンゲームというのは、最初の一回は大体アームの強さやアームがどのくらい動くのかを確かめるためのお試しでやることが殆どだと思う。
だから一回目に取れないのは言ってしまえば当たり前であり、お約束みたいなものだ。
ボタンから指を離した僕が横目で隣を見れば、そこにいるのは両手を祈るように握り合わせながらクマさんのぬいぐるみを目で追っている玲香さんの姿。
いくら確かめるためのお試しだとはいえ、玲香さんのぬいぐるみを見つめるその健気な姿を見てしまえば、僕もその祈りが届いて欲しいと願ってしまう。
「―――ぁっ」
祈るようにしながら見つめていた玲香さんが小さく声を上げたのを見た僕は、咄嗟に視線を目の前のクレーンへ戻す。
するといい感じにクレーンのアームに引っ掛かったクマさんのぬいぐるみが、アームの動く衝撃で落ちることなく上まで持ち上げられたところだった。
「―――え?」
いやいや流石に一回は無いだろうと思いつつも、僕は上に持ち上げられたクマさんのぬいぐるみから目を離せない。
ピロリロ♪ピロリロ♪と軽快な音楽と共に、アームに引っ掛かったまま運ばれていくクマさんのぬいぐるみ。
僕も玲香さんと同じように、運ばれていくその様子を祈る気持ちで見守っていると、クマさんのぬいぐるみはそのまま最後まで落ちることなく取り出し口の上まで辿り着き―――。
◇◇◇
「―――♪」
恋人繋ぎで手を繋いで家に帰っている途中、玲香さんはずっと嬉しそうに鼻歌を奏でていた。
最初のナンパ男のときの玲香さんとは正反対のとても機嫌が良さそうな彼女のその姿に僕も自然と顔を綻ばせてしまう。
そんな喜びで溢れている彼女の鞄には、手乗りサイズのクマさんのぬいぐるみがぶら下がっていて。
「でも、まさか三回やって二つも取れるなんて思わなかったですね」
「うんっ!あーいうことってあるんだね?すっごいびっくりしちゃったっ!」
そして彼女の隣を歩く僕の鞄にも、全く同じクマさんのぬいぐるみが嬉しそうにぶら下がっていた。