セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
アタシは生まれて初めて特定の誰かを想像しながら自分を慰めた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ、んっ……♡」
今まではなんとなく『ただそういう気分だから』でこれを済ませてた。だって今までのアタシにとってこれはその程度ことだったから。
「……ふふっ♡」
でも今は違う。明確にそうしたいと思う相手がいる。そうして欲しいと思う相手がいる。
「アタシって、こんなにえっちだったんだ……」
少し前のアタシが今のアタシを見たら、きっとびっくりするどころじゃ済まないと思う。それくらいアタシにとっては衝撃的なことだったから。
「水崎、拓斗くん……」
何度も呼んで慣れたからなのかさっきまでの刺激的な感覚は無くなり、代わりに名前を呼ぶだけで心がポカポカと温かくなる。
彼の名前をこうしてただ呟くだけで自分の中が満たされていくのがハッキリと感じられる。
「アタシの、彼氏……ふふっ♡」
アタシを優しく見つめるあの瞳。アタシに微笑みかけるあの笑顔。一度想像するのを始めてしまえば止まることなくアタシの記憶の中から溢れ続ける彼の姿。
―――そういえば。
そんな中でふと浮かび上がって来たのは、恥ずかしそうにしながらアタシの胸をチラチラと見ている彼の可愛らしい姿。
アタシはその姿を思い浮かべながら自分の大きな胸を見下ろして、グイっと手で寄せて持ち上げる。
「大きいおっぱい、好きなのかな……?」
今までは望んでもいない多くの気持ち悪い下心満載の視線を吸い寄せ続けるだけの胸だった。
知り合いどころか話したことすらない女からたくさんの嫉妬を買って陰口を言われるだけの胸だった。
「好きだと、いいな」
だけど彼には見て欲しいと思う。彼だけには触れて欲しいと思う。いっぱい甘えて欲しいと思う。
「―――あはっ♡」
ずっと不快だったはずのことに手の平を返してしまっている自分に思わず笑ってしまう。
「ふふ♡ふふふっ♡」
だけど、今のアタシはどうしてかそれ幸せで堪らなかった。
◇◇◇
目の前で眠っていた玲香さんの瞼がゆっくりと開く。
「あ、起きました?」
「……たっくん?」
「結構激しかったですから、疲れてるならゆっくりしてていいですからね?」
「……うん、ありがと♡」
僕が玲香さんの頭をそっと撫でると、玲香さんはとても気持ちよさそうに目を細める。
「……ねぇたっくん?」
「はい?どうしました?」
「……ぎゅってして?」
疲労が残っているからか、まだ少しだけ眠気を感じさせるような声で甘えて来る玲香さんは凄く愛らしくて。
「もちろんですよ」
「やたっ♡」
僕に両腕を伸ばす玲香さんをしっかりと抱きしめる。
「ふふっ♡あったかーい♡」
「玲香さんだって温かいですよ。それに凄く柔らかいですし」
「えっち♡」
「そうです。えっちなんです」
「あはっ、知ってる♡」
「ですよね」
「うん」
そうしてお互いの温もりを感じ合っていると、僕は玲香さんが起きる直前のことを思い出した。
「あっ、そういえばさっき母さんが帰って来たんですけど晩ご飯食べますよね?一応お風呂に入ってからにするとは言ったんですけど、玲香さんもそれで大丈夫でした?」
「ホント?流石たっくん気が利くじゃーん♡はいご褒美♡」
玲香さんはちゅっと僕の頬にキスをしてくれた。
「それじゃちょっとお湯入れて来るので玲香さんはこのままゆっくりしててくださいね?」
「うん、ありがと♡」
玲香さんの優しい微笑みに見送られながら僕は部屋を後にした。
◇◇◇
栓が閉まっているかを確認してから温度を設定、最後にボタンを押してちゃんと動いているかを確認した僕は母さんのいるリビングへと向かった。
朝のこともあったので、ドアを開ける直前に深呼吸をくり返してからリビングのドアを開けて中に入る。
「か、母さんお風呂やって置いたからさ?お湯が張れたら先に玲香さんに入ってもらうけどいいよね?」
「うん、それで構わないよ」
母さんはいつものまま、何も変わらない様子だった。
「……あの、さ?」
「うん?」
「……あ、朝のこと、なんだけど」
「うん」
「あの、急にその、抱き着いて……えっと……」
「あぁ、その事についてはそれはもう玲香ちゃんから聞いてるよ」
「……え?」
「拓斗がすぐに家を出て行ったあとに少しだけね」
「そ、そうだったんだ」
確かに思い返してみれば、玲香さんはサッと家を出て行った僕の後から追い付く形だった。
「拓斗のその気持ちは本当に嬉しく思ってるよ」
その事に少しだけ肩透かしを食らった気持ちでいると、母さんが僕を見つめながらそう言ってくれた。
「拓斗は私も一人の人間として当然寂しく思う時もある、という事は分かるね?」
「……うん」
「なら、それだけでいい」
「……え?」
「拓斗にはそれだけを頭の片隅にでも入れて置いてもらえれば、私はそれで構わないんだ。親の元から子が巣立つのは確かに寂しい事ではあるけれど、でもそれが親にとっての喜びでもあるんだからね」
「母さん……」
「だから拓斗?貴方は私達が寂しく思う事を考えるよりも、玲香ちゃんを幸せにする事を何より一番に考えて欲しい。華凛さんも、華凛さんの旦那さんも、真くんも。そしてもちろん私も。貴方と玲香ちゃん二人が幸せな姿で巣立ってくれる事が一番の望みでもあり喜びだから」
優しく微笑む母さんを見つめながら、僕は溢れ出そうになっている涙をこらえるのに精一杯になっていた。
玲香さんという最愛の人に出会うまでは、僕にとって最も大切な存在だったのは他ならぬ母さんと父さんだったからだ。
そんな母さんの口から直接伝えられたこの言葉は、喜びという感情と共に深く深く僕の心の中に染み渡っていく。
「もちろん拓斗が甘えたいのなら私はいくらでも受け入れるよ。でも貴方が本当に甘えるべき相手は、私では無いよね?」
母さんの言う通り、今の僕には誰よりも甘えるべき相手が部屋で待っていてくれている。
「―――ありがとう、母さん」