セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
とても広い室内の一番前にはその広さに見合った大きな黒板が設置されており、プロジェクターからの映像を映す為のスクリーンがその黒板を挟むように設置されている。
段々になっている床の上にはびっしりと長く連なる机が並べられていて、その机にはそれぞれ固定されている椅子が同じような間隔で並べられていた。
前に行くほど位置が低く、後ろに行くほど位置が高くなるように造られているこの部屋は、一般的に教室や講義室と呼ばれている場所であった。
そんな場所であるにも関わらず、すでに多くの席が学生達によって埋まっており、彼等は時間になり出席が可能になると同時に次々とスマホを使って出席コードを読み取っては送信していく。
とある理由からこの講義を含めたいくつかの講義は出席率が異常に高く、その理由を知らない人からすれば「なんで?」首を傾げる程の出席率であった。
中には始まるニ十分以上前からすでに外で待機している学生もいる程に多くの人が集まるこの講義は、どうしてか男子学生の割合が異常な程に多いというのも特徴的であった。
そんな多くの学生達が今か今かと待ち詫びているのは、当然ながら講義を行う大学講師などではない。
「―――え?マジ?」
「―――うん、なんだかんだで私達も続いててさ?それで先週に……♡」
教室のドアが開き、聞こえて来たのは二人の女子学生の話声。
「えっマジおめでとっ!良かったじゃんっ!」
「ありがと玲香」
「えっ、式とかは?」
「うーん、それはまだ全然なんだよね」
「えっ、じゃ決まったら教えてよ?絶対行くからさ?」
「それはもち」
「約束だかんね?―――ってあれ?座るとこほとんど埋まっちゃってんじゃん」
「あそこでいんじゃない?」
「そうしよっか」
そんなとても喜ばしい会話で盛り上がっている彼女達に視線を送るのは、すでに教室で談笑する振りをしながら待機している学生達であった。
いや、実際に彼等が見ているのは彼女
そんな彼女を見つめる彼等の目的はただ一つ、それは彼女のはち切れんばかりに盛り上がっているその暴力的なまでに大きな胸である。
「よいしょっと……いやーそれにしても相変わらずって感じ」
「んー?何が?」
「何がって、あれ?確か玲香が言ったんじゃなかった?」
「んん?何のこと?」
「自分で言って忘れたの?本当に玲香って気にしなくなったよね?」
「んー?……あーそゆこと?まーホントどうでもいいしね」
「玲香も成長したなー色々と」
「どこ見て言ってんのそれ?」
「どこも見てませーん」
「いやバレてっから」
「ごめんて。でもいくら玲香が前にあー言ったからってさ?ここまで分かりやすく見る普通?」
「まーそれで満足して黙ってくれてるならアタシはいいんだけどね」
「ふっ、本当に玲香らしいわ」
「そう?」
「そうだよ」
「ふーん」
そんな二人の会話の中であっても、室内にいる多くの学生達の視線は彼女の胸に注がれ続けていた。
◇◇◇
「あのさ?俺達これから遊びに行くんだけど水崎さんも来ない?」
キャンパス内にある自販機前のスペースに設置されているベンチに腰かけていた彼女に、今年この大学に入って来たばかりの新入生である男子学生の一人が声を掛ける。
「ごめんね?アタシ人待ってるからさ?他の子誘ってあげて?」
数多く在籍している男子学生の中でも間違いなくイケメンの部類に入っているであろう容姿の彼だったが、今年二年生となる彼女は一切見惚れる事無くいつも通りの態度でそれを断った。
「そ、そっか……」
一人でスマホを弄っている彼女を見てチャンスだと思った彼等がこうして声を掛けたが結果はこの通り。
イケメンの彼であってもこうしてあっさりと断られた事で、すぐ後ろで待機していた二人は仕方が無いかといった様子で顔を見合わせていた。
「あっ、あのさ?もし良かったら連絡先とか―――」
しかしどうしても諦めきれない彼は、彼女と何とか繋がりを持ちたいと考え、彼女の連絡先を聞こうとしたその時だった。
―――ピコンッ!
そんな音が彼女の手にあるスマホから聞こえ、それに気付いた彼女の視線がそのスマホへと注がれた。
「「「――――――っ!!」」」
先程の誘いを断る時に見せてくれた愛想の良い笑みとは比較にならない、余りにも深い愛情を宿した瞳とその微笑みは、言葉を失う程に可憐で美しかった。
目の前にいる男子学生三人組が自分に見惚れている事など全く気付かないままに、彼女は声を掛けて来た彼等に向かって「ごめんねっ」と一言だけ謝ると、急ぐように立ち上がりそのまま向こうの方へと駆けて行ってしまった。
声を掛けた学生の後ろで彼女の姿を見ていた二人だったが、無言のまま改めてお互いに顔を見合わせる。
「……なぁ」
「……あぁ」
高鳴る鼓動を抑えきれないままに二人は吐息を漏らすように呟いた。
「「……この大学に女神がいるって、本当だったんだ」」
そんな彼等の声を聞きながら、彼女に声を掛けた彼だけは遠ざかっていく彼女の後姿を熱を帯びた視線でじっと見つめ続けていた。
◇◇◇
―――玲香と呼ばれた彼女がこの大学に入学して間もない頃の話。
この大学では入学式よりも前から予め目を付けていた新入生を獲得する為、入学式当日には多くのサークルによる熾烈な戦いが繰り広げられるのが日常であった。
そして彼女が入学したこの年の争いは、例年では考えられ無い程に激しいものとなっていた。
特に男子の割合が多いサークルや、可愛い新入生を狙っているようなサークルはそれはもう血走った目で新入生である彼女を追いかけ続けた。
「あっ、興味ないんで」
目的がすでに隠しきれていないような怪しいサークルも含め、あらゆるサークルが彼女を引き入れようと躍起になる毎日であったが、当の本人は全く意に介した様子もなく全てを断った。
何度声を掛けようが、どれだけ魅力的な提案をしようが、彼女はそれら全てをその一言でバッサリと切り捨てていったのだ。
そうした彼女の取り付く島も無い対応に、多くのサークルがいつまでも一人の新入生にばかりかまけてはいられないと勧誘を諦め散っていった。
小麦色の健康的で張りのある肌と艶のある唇、そして日の光などを反射させてキラキラと輝く大きな瞳。
美人の中にも可愛らしさを含んだとても魅力的な顔と、肉付きのいい太腿やムチッとしたお尻。
同じ大学に通う多くの男達の目を釘付けにする高い身長と、その身長によって生み出される抜群のスタイル。
そして何より数多くの男達を引き付けて止まないのは、高校を卒業してからも尚育ち、今では『Mカップ』だと噂される程の大きな胸であった。
彼女の爆乳の影響力は凄まじく、お前らは一体何のために大学に来たんだと恥ずかし過ぎるお叱りを受けてしまう者も出た程に、この大学に通う多くの男子学生達を夢中にさせてしまっていた。
彼女からすればやっとしつこいサークルからの勧誘が無くなったと思ったら、今度は男子学生達からの熱烈なお誘いのオンパレードである。
しかも彼等の意識は明らかに胸の方に向いており、その視線は常に自身の大きな胸と顔を行ったり来たりしているのがバレバレという、完全に男の性欲丸出しの状態なのだからイラついてしまうのも仕方が無いだろう。
そうした事が続いた事でいい加減イライラが限界に達した彼女は、室内でしつこく話し掛けて来た男子学生に向かって、敢えて周囲にも聞こえるような強い圧のある声で言い切った。
「見たいなら見ればいい。別にアタシの胸を遠くから見る分にはアタシは何も言わない。でも触ろうとするとか、付き合おうとするとか、絶対にあり得ないから二度と関わらないで。もしそのラインを越えようとするならアタシは誰であろうと許さない」
今現在では裏で『お触れ』とも呼ばれているその言葉を聞いた当時の男子学生達は、彼女と付き合えない事を残念に思うよりも先に『胸を見てもいいんだ、見ても彼女は怒らないんだ』という、親が聞いたら本気で頭を抱えたくなるような解釈してしまった。
そんな脳内がピンク色に染まっている愚かな連中ばかりだった事もあって、告白をするような行動力のある男子学生は一気にその数を減らし、見るだけで満足する層が激増した。
どうせ自分では彼女と付き合えないのだからせめて見るだけでもと、そう考える男は想像以上に多かったという事だろう。
そんな流れがあった事で、黒板、おっぱい、ノート、黒板、おっぱい、ノート……と順番に視線を回していくだけの作業を繰り返す学生達が増え、それが今現在の出席率だけが異常に高いという不健全な状況を生み出していたのだった。
◇◇◇
彼女が大学に入り、二年生に上がる少し前の事。
いつものようにチラチラと横目で彼女の胸を眺めていた学生の視界に、ほんの一瞬だけ見知らぬ光が差し込んだ。
不思議に思ったその光に視線を向けると、彼女の左手の薬指にぴったりと収まっている指輪の存在に気が付いた。
その日から、彼女が通う大学内に彼女が結婚しているという噂が一気に拡散されていった。
そして結婚しているという噂に付随してもう一つ、本人の預かり知らぬ所で生まれたある噂があった。
「水崎さんだよね?」
その噂とは『指輪は未だに諦めていない男達から声を掛けられるを防ぐ為のフェイクであり、本当は結婚などしていない』というもの。
「そうですけど、誰ですか?」
当然ながらそんな事実はなく、単に彼女を狙う男達の現実逃避から生まれただけの、取るに足らないただの噂でしかなかった。
しかしその二つの噂は急速に学内へと広まってしまい、それによって学生の中には結婚してないならイケるじゃんと言う者達や、寧ろ結婚してる人妻の彼女を寝取るのこそが最高だと、冗談なのか本気なのか分からないようなふざけた事を言う者達まで現れてしまった。
「俺は三年の佐伯。佐伯湊《さえきみなと》って言うんだよろしく」
講義を受ける為に歩いていたキャンパス内、他にも多くの学生達がいる中で彼女は突然声を掛けられた。
声を掛けた相手は彼女よりも数センチは背が高く、その綺麗な二重瞼から覗く瞳は多くの女性達を虜にして来た実績があった。
この大学に置いてもそれは健在で、大学に通う女子学生達からは多くのお誘いや熱っぽい眼差しで見つめられるという、まさに高身長イケメンにのみ許される特権を今もこうして享受している彼。
そんな彼と大学内で最も有名な彼女が並ぶ光景に、偶々近くにいた学生達は思わず足を止めて二人を見つめてしまう。
「……その三年の佐伯さんがアタシに何か?」
「ちょっと話があってさ?今少しだけ時間いいかな?」
「……時間がないんで少しくらいなら」
「ありがとう。それじゃ時間も無いから早速なんだけどさ?水崎さん、俺と付き合って欲し―――」
「お断りしますごめんなさい」
一瞬の間も無いどころか、若干食い気味で彼女は断りの謝罪を入れる。
「もういいですか?それじゃ」
彼女のその余りの返答の早さに、告白をした彼もそれを周囲で見守っていた学生達も呆然とした表情をしたまま言葉を失っていた。
そして本当に興味が無さそうに再びそのまま向こうへと歩き始めた彼女の姿に彼は慌てて声を掛ける。
「あっ、ちょっ、ちょっと待ってくれっ」
そんな彼に向かって振り返った彼女は、少しだけ面倒そうな色を含ませた瞳で彼を見つめ「ごめんなさい、時間がないので」と一言だけ言うと、またすぐに向こうの方へと歩き始めてしまった。
多くの女性達を虜にして来た彼にとって、自分に全く興味を示す事無く去ってしまう女性というのは初めてであった。
そのため彼は何とか彼女を引き留めようと焦ってしまう。
「あっ、あのさっ!」
その焦りによって、彼は耳にしていた噂を口実に何とか彼女を引き留めようと考えてしまい、彼女に向かって直接その噂を口走ってしまった。
「その指輪なんだけどさ?男避けの為のフェイクだって聞いたんだけど?」
―――ピタリ、と彼女の足が止まる。
彼女が足を止めた事でこれはイケるかもしれないと盛大な勘違いをした愚か者は一気に饒舌になり、彼女に向かってその勘違いだらけの言葉を垂れ流す。
「あっ、もしかしてだけどやっぱり噂じゃなくて本当だったんだ?それなら水崎さんは今フリーって事だよね?ならもう一度だけ付き合う事を良く考えてくれないかな?俺だったら水崎さんを幸せに出来る自信があるんだよね」
その場で足を止め、ゆっくりと振り返った彼女に彼はどこまでも愚かな言葉を吐き続ける。
「身長も水崎さんよりあるしさ?二人で並んだら美男美女の凄いお似合いのカップルになれると思うんだ。俺は絶対に浮気なんてしないしさ?それこそ水崎さんが付けてるその指輪に誓ってもいい。絶対に後悔はさせない。だからどうかな水崎さん?」
爽やかでありながらどこか人懐っこさを感じさせる微笑みを浮かべている彼の姿を、二人の行く末を見守っている周囲の女子学生はキラキラとした瞳で見つめている。
その高身長イケメンという事からも分かる通り、彼は言ってしまえばずっとモテる側の人間だった。
今までにも何人もの女性を抱いて来た経験から、例え目の前にいる彼女であっても俺ならイケるという絶対の自信が溢れ出ている。
そんなイケメンに見つめられながら、彼と初めて出会ったこの場所で告白をされた彼女は、その大きく綺麗な目を更に大きく見開き、艶のある唇をぴたりと閉じながら驚きを隠せない様子で静かに彼を見つめ返している。
その場に居合わせた多くの男子学生達がこれで俺達は終わったと、高身長イケメンと仲良く歩く彼女の姿を見ることになるのかと、そんな事を思いながら二人の様子を見つめていた。
高身長のイケメンと、高身長で爆乳美女である金髪黒ギャルの彼女。
誰がどう見てもお似合いの二人の姿は、彼等にそう思わせるだけの説得力があった。
そんなお似合いの二人を諦めの境地で見守り続ける男子学生達と、イケメンによる告白に目を輝かせている女子学生達。
各々の想いを内に秘めた学生達が見守っている中、驚いた顔のまま固まっていた彼女がついに閉じていたその口を開く。
「は?」
まるで路傍の石を見つめるような彼女の瞳。
瞬き一つする事無く見つめ続けるその瞳に、次第に持っていたその自信は薄れ消えていき、ついには不安や恐怖といった感情へと変化していってしまう。
彼女の指に嵌められているその指輪は、世界で一番大切な人と共に選んだ、最初で最後のかけがえのない大切なものだ。
世界で一番大切な人が、世界で一番大切な彼女と一緒に過ごす時間を削ってまで用意してくれたその結晶だ。
何よりも大切で、何よりも尊い、二人の愛の証となる指輪だ。
その愛の証となるこの指輪を、今この男は何と言った?
――――――偽物《フェイク》?
「は?」