セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
「水崎君っ、元々の予定より早いけど今日はもう上がっていいよっ」
「えっ?本当にいいんですか?まだ結構時間ありますけど?」
「今日はこの時間だともうそんなにお客さんも来ないからさ?早く帰って嫁さんに会いに行ってやりな?」
「―――っはい!ありがとうございますっ!お先に失礼しますっ!」
「おうっ、またよろしくぅ!」
彼がアルバイトとしてここに務めてから早二年ちょっとが過ぎていた。
最初は指輪を買う為だけに働いていたこの場所も、こうした気さくな店長や先輩のアルバイトの人達に可愛がられてきた今の彼にとって、例えやめようと思ったとしてもそう簡単にはやめられない、そんな大切な場所となっていた。
挨拶をしながら店を後にした彼は、愛する妻へ向けて事前に連絡していた時間よりも早く終わった事を知らせるメッセージを送る。
送ってからすぐに帰って来たメッセージは大量のハートマークと喜びの言葉で溢れており、それを見た彼は思わず笑みを零す。
『そっちの近くに着いたらまた連絡します』
そうメッセージを返した彼はスマホをポケットに仕舞い込むと、彼女の待つ大学へ向けて歩き始めた。
◇◇◇
「―――アンタ今、何て言った?」
怒りを通り越した感情の無い瞳に、彼は動揺を隠せずにいた。
「ねぇ?何て言ったかって聞いてんだけど?」
彼女の『何て』という言葉が一体何を指しているのか、今の彼には理解出来ていなかった。
(どれだ?どれの事だ?俺は今この女に何と言った?)
誤魔化すように笑みを浮かべながら彼は目まぐるしく頭の中を回転させていく。
「えーっと、さ?」
(思い出せ、よく思い出せ……こいつが足を止めた時、俺は何て言ったんだ……何て―――そう……そうだ……俺があの安っぽい指輪を男避けのフェイクだって言った時に―――)
彼女に冷たい瞳で見つめられている中、それでも素早く答えを導き出した彼はすぐに頭を下げて謝罪の言葉を口にした。
「水崎さん本当にごめんっ。その指輪が男避けの為に付けてる物だっていう噂を耳にしてて、それで俺もそうなんだって思って勘違いしちゃってたんだ。流石に配慮が足りな過ぎたっ、本当にごめんっ」
彼は付き合って来た多くの女性達を相手に様々な種類の怒りを買って来た。そうした経験を積んで来た事で、今ではこのようにすぐに何が問題だったかを見つけ、その事に対して頭を下げて謝罪するなど手慣れたものだった。
(この女が怒ってるのは、間違いなくあの安っぽい指輪の事を言われたからで間違いないはずだ)
かつて付き合ってきた女達は、自分が多少失敗したところですぐに非を認めて謝罪すれば何だかんだで許してくれた。
申し訳なさを顔に出しながら、ほんのちょっとの優しさを含ませた微笑みを浮かべて見せるだけで、彼女達はその怒りを鎮めて機嫌を直してくれた。
そこに追加で甘い言葉でも囁いてやれば、彼女達はすぐに発情して股を開き、ベッドの上で可愛らしい声を上げて鳴いてくれたものだ。
(この女も今までの女達と同じだ。俺がちょっと下手《したて》に出てこうして謝りでもしてやればすぐに許してくれる)
彼は先程感じた不安や恐怖を忘れ、誰もが羨む魅力的なあの肢体をもうすぐ味わえるという幻想を抱きながら心の中でほくそ笑んでいた。
(過去にも乳がデカイ女はいたが、この女はまさに別格だ)
服の上からでも圧倒される大きく張りのあるあの膨らみは、まるで漫画やアニメに出て来るキャラクターのようだった。
同じ大学の男達の欲望の対象となっているあの胸は、もし手に入れる事が出来ればこれまで以上に羨望と嫉妬の眼差しで見られる事になるだろう。
(しかも乳だけじゃねぇ。あのスタイルの良さと今すぐにでも揉みしだきたくなるデカ尻だって他の女とは比べ物にならねぇ。こんないい女マジで一生に一度会えるかどうかだろ。絶対に手に入れてやるからな?)
見ているだけで涎が出てしまいそうになる彼女の身体。
目の前にいる女を全て脱がせた時の事を妄想した彼は、この後どこのホテルへ連れ込もうかと一人気持ちを昂らせる。
「もしあれだったらさ?お詫びとして俺がもっと高くて綺麗なやつを買ってもいいと思ってるんだけど、どうかな?」
下げていた頭を上げた彼は、彼女を正面から見つめ返しながら冗談では無く本気でこれを言っていた。
もしその薬指に嵌められている指輪が誰かの女の証であるのなら本気で奪い取るつもりだった。なぜなら一度でも自分と体を重ねてしまえば、どんな女でも自分を選ばせ乗り換えさせる自信が彼にはあったからだ。
表面上は優しく接する高身長イケメンという仮面を被ってはいるが、その本性は余りにも分かりやすいただの勘違いクソ野郎だった。
「お前さ、舐めてんだろ?」
彼女のその一声で、さり気なく彼女に近づこうと一歩を踏み出した姿勢のまま彼はピタリとその動きを止めた。
もし彼女が恋に恋する夢見る乙女のような、そんな初心で純粋な女性であったのなら、彼の頭の悪い言葉にも引っ掛かっていたのかもしれない。
彼のその見た目に惹かれ、一夜限りの火遊びのつもりで体を重ねた結果、そのまま知らず知らずの内に彼の中に飲み込まれてしまった、という可能性も場合によってはあったのかもしれない。
間違いなくクソ野郎ではあるが、外見だけに限って言えばそれだけの魅力が彼にはあったからだ。
「自分で言った言葉の意味、本当に分かってんのか?」
しかし悲しいかな、彼の前に立っている女性は夢を見る時期などすでに通り過ぎていた。
高校一年生の時の勇気ある彼の行動によって出会った二人は、何度も想いを言葉にして伝えて来た。何度も体を重ねて愛し合って来た。
そんな彼女に向かって放たれた彼の言葉は、彼女への愛情など欠片も無い、ただの欲望塗れの空っぽの言葉でしかなかった。
一体彼女がどういう気持ちで大切な人と指輪を選び、どういう覚悟で大切な人から指輪を受け取り、どういう想いで大切な人から指輪を薬指に嵌めてもらったのか。
「分かる訳ねぇか、そんな頭じゃ」
それを知らないのだから、彼女には何も響かない。
「お前は自分をイケてると思ってんのかもしんねぇけどさ?この指輪を偽物扱いするような、そんな程度低い男がイケてる訳ねぇだろ」
彼を見つめるのは一切の感情が感じられない『無』そのものだった。
「ただアタシとヤりたいだけのお花畑に言うのもはっきり言って意味あんのかわかんねぇし面倒なんだけど……まぁ仕方ねぇか」
怒りも、敵意も、憐れみも無い。
「アタシはさ?身も心も全てこの指輪をくれた彼に捧げてんだよ」
ただ無機質な瞳がじっと彼を見つめ続ける。
「なのに何でお前の相手をしてやらねぇといけねぇんだよ気持ち悪ぃ」
何の感情も感じないその瞳とその言葉に、彼はただただ言葉を詰まらせながらその場に立ち尽くす。
「それとお前がさっきからアタシを水崎って呼んでるけどさ?それアタシの夫の苗字だからな?」
何の感情も感じられなかった無の瞳から、ビリビリと周囲へ伝わる程の怒りを宿した瞳へと変化した彼女の強い眼差しが、立ち尽くしている彼に鋭い刃となって突き刺さる。
「この苗字はさ?毎日、毎日、何度も、何度も数えて楽しみにしてたんだ。早くそうなりたいって、ずっと名乗りたくて堪らなかった大切な苗字なんだよ」
――――――だからさ?
二人を周囲で見ていた野次馬の学生達も、彼女の口から直接暴露されたその事実に驚愕し、大きく目を見開いたまま誰一人として言葉を発せずに立ち尽くす。
「――――――二度と呼ぶんじゃねぇぞ?お前がその苗字を口にするだけで、アタシは不愉快で不愉快で仕方ねぇからさ。わかったか?」
◇◇◇
―――そして現在。
当時の事を全く知らない一年生三人組の誘いを断った女子学生、水崎玲香は大学の入口の方へ向かって足早に駆けていた。
通り過ぎる際に揺れる彼女の大きな胸に、自然と数多くの男子学生達の視線が突き刺さるが、今の彼女にとってそれは不快どころか存在すら感じない程の些事であった。
ただただ少しでも早く会いたい。とにかく今すぐにでも彼を抱き締めたい。
彼女を突き動かしているのはただそれだけだった。
そうした愛する人への想いが溢れている中、大学の入口を出た所で彼女が周囲を見渡していると、こちらに向かって歩いて近づいて来る人影に気が付いた。
――――――っ!!!!
その人影が自分にとっての最愛の人だと分かった瞬間、彼女は全力でその人影に向かって走っていく。
――――――!!
すると向こうも走って近づく彼女の姿に気が付いたのか、こちらに向かって軽く手を振って足早に駆けて来る。
「良かったっ、玲香さ―――」
その顔に喜びを浮かべた彼が言えたのはそこまでだった。
「――――――たっくん!!!!!♡♡♡」
なぜなら一切速度を落とす事無く抱き付いた彼女の胸に、たっくんと呼ばれた彼の顔はずっぽりと埋まってしまったからであった。
「んぅぅぅぅ♡♡たっくんだあぁぁぁぁぁ♡♡♡んふふふふ♡♡♡」
そんな事はどうでもいいと言わんばかりに彼を抱きしめ、その温もりと匂いと感触を確かめながら『たっくん成分』なる物を補充する玲香。
こうして学校終わりに大好きな夫である彼と会えるのは、一緒に住んでいる家で会うのとはまた違う喜びがあり、その喜びが二人の気持ちをより強く結びつける。
「ふふ♡たっくんだぁ♡♡アタシの旦那様のたっくんだぁぁ♡♡♡」
胸に埋まっている彼の頭に頬を擦り付けながら、玲香はぎゅうぅ♡♡♡っと愛の籠った抱擁をし続ける。
しかし、いよいよ息が苦しくなった彼が玲香の腕をタップした事で、彼女は抱きしめていた彼の頭を解放した。
「―――ぷはっ、せっ、せめて名前くらいは呼ばせて下さいよ玲香さんっ」
「あはっ、ごめんね?でも早く会えるって連絡もらってからずっと我慢してたんだしさ?許して?」
「いやそれはもちろん許しますけど……ってもそもそも許すとかそういう話じゃないような気が―――」
「ありがとたっくんっ♡♡」
「うわっまた―――」
高校時代を超える大きさと柔らかさで再び拓斗の顔を包み込む玲香。
「もがもがっ、ふすーっ、ふすーっ」
「やん♡くすぐったいよたっくん♡」
この大学の学生達の間で噂されている彼女の胸の大きさは、実はまだ少し前の頃の話であり、今の彼女の胸の大きさは噂されている大きさより更に二つ上へと上がっている。
「「「…………ゴクリ」」」
男の顔が本当に丸々胸の中に沈み込んでしまう瞬間を目撃した周囲の学生や通行人達は、その衝撃の光景に思わず生唾を飲み込んだ。
「んふ♡たっくん好きぃ♡」
家での激しい運動を終えたあとのまったりとした時間。その時に胸の成長が止まったという事を報告した玲香は「これがたっくんからもらった愛の重さだよ?」と、彼の体の上にズッシリとした胸を乗せ、その重さを確かめさせていたのはつい最近の出来事であった。
「んーーーよしっ♡たっくん成分補充完了♡♡♡」
十分に彼をを抱きしめて満足した玲香は、胸に抱いていた拓斗を解放するとすぐにその手を握り自分に拓斗の体を引き寄せる。
「ねぇたっくん?今日はもうなんもないんだよね?」
「―――ふぇ?……あっはい、今日はもうずっと一緒に居られますよ」
「やたっ♡じゃデート行こデートっ♡」
彼女のその喜ぶ姿は、周囲の人達を一瞬で見惚れさせる程に魅力的だった。
「玲香さんはどこか行きたいとこあります?」
「んーーーっとね……あっ」
「おっ?もしかして行きたい所どこかありました?」
玲香は拓斗の耳元に口を寄せ、甘い吐息のような言葉で優しく囁いた。
「(ホテル行きたい♡)」
その意味を瞬時に理解した拓斗は顔を赤く染める。
「そっ、それは家でいくらでも出来るじゃないですかっ」
「えー?たまには違う場所でヤりたいじゃん?」
「普通は食事とかに行くものじゃないんですかこういう時って?」
玲香は自分の唇を舌でぺろりと舐め、拓斗をじっと見つめながら微笑んだ。
「たっくんを食べたい♡」
「れ、玲香さんっ」
「ねぇいいじゃん?たっくんもさ?食べたいよね?」
玲香はつい先程まで拓斗の顔が埋まっていた大きな胸を自分の腕で挟み込むようにして寄せて上げ、着ている服ごと深い谷間を作って拓斗に向かって見せつける。
「―――それはっ……えっと……はい」
赤く染めた顔のまま自分の言葉に素直に頷いてくれた拓斗の姿を見た玲香は、最高の笑顔と最大の愛情を込めて拓斗へ言葉を贈る。
「あはっ♡やたっ♡たっくん大好き♡♡」
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『セメギャル』これで完結となります。
最初の話から一度書き直し、そこからまた書き直す事になるという、読者の方々には大変なご迷惑をお掛けする事になりました。
改めて謝罪させて頂きます。本当に申し訳ありませんでした。
しかしどうしてもこの二人を完結させてあげたいという気持ちが強く、皆様の応援もあって無事ここまで書き切る事が出来ました。本当にありがとうございます。
長くお付き合い頂いた読者の皆様に改めて感謝を申し上げさせてもらい、それを最後の言葉にしたいと思います。
本当にありがとうございました。