セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
学校の敷地に足を踏み入れると、同じく登校途中の生徒達の殆どが一度はこちらへ振り返ったり視線を送ってくる。驚きの表情を浮かべる人や衝撃を受けたような顔をする人、ひそひそと何かを話す人など様々な反応が見て取れる。
「ねぇあれ本当だったんだ?」
「嘘?マジ?」
「ただの噂じゃなかったのかよ?クッソ羨ましい」
「何あれ見せつけてんの?気分悪いんだけど」
「えー?何か逆にお似合いじゃないあの二人?」
「分かるっ!なんか良いよねっ!」
当然強く反応していたのは昨日の時点で噂話として聞いた人や人伝に聞いた人達だけで、すでに僕や玲香さんと話をしていた人や自分の目で直接見ていた人達は一瞥するだけに収まっていた。
「凄い見られてる……凄い見られてますよ玲香さん……。本当にこれで良かったんですか?敢えて見せつけるような事をしなくても良かったんじゃ?」
学校の近くまで来てから玲香さんが手を繋ぎたいと言って来たので了承したところ、想定以上に注目を集めてしまい僕は若干腰が引けてしまっていた。
「なに言ってんのたっくん?見せつけないと意味ないじゃん?」
「で、でもやっぱり視線が凄くて……」
「気にしなきゃいいじゃん」
「そんな簡単に言われても」
「アタシはたっくんのもので、たっくんはアタシのものだってちゃんと見せつけとかないとさ?また色々言われたら面倒じゃん?だから堂々としてればいいの」
「それはまぁ、確かにそうですけど」
「だってずっと隠してたじゃん?けどこれでやっとたっくんと学校の中でも一緒にいられるようになったんだし、いっぱい楽しみたいじゃん?」
玲香さんの言っている事は至極真っ当な事だと僕も思う。けれど言っているのが玲香さんだからなのか、どうしても含みを持たせたように聞こえてしまう。
「あの、玲香さん?堂々と一緒にいられるのはいい事だと僕も思いますよ?でもだからと言って学校でするのは本当に駄目ですからね?」
「えっ?」
「えっ?」
玲香さんは本当に分からないといった様子で聞き返してくる。
「ダメなの?」
「逆に何で良いと思ったんですか?」
「え、だって学校じゃん?隠れてそういうことするのが定番じゃん?」
「どこでそんな情報を見てるんですか!絶対に駄目ですからね!?」
「えーー?学校で濃密な時間を過ごす予定だったじゃん!」
「そんな予定はないです」
玲香さんにハッキリとそう言って僕はまた歩き出す。
「いいじゃんいいじゃん!ヤろうよっ!」
「朝の登校中にヤろうとか言わないでください!」
「たっくんのケチっ」
「ケチでもなんでもいいです」
「ムー」
「唇を尖らせても駄目なものは駄目ですからね?」
「じゃあ今日もウチに泊まって」
「じゃあってどういうことなんですか?泊まらないですよ?」
「今日も泊まってくれなきゃヤダ」
「いやいくらなんでも平日に二日連続で泊まるのは流石に母さんだって―――」
「昨日電話して許可もらってるけど?」
「……嘘だろ母さん?」
僕が知らない内に外堀を埋められている?
「ねぇねぇたっくん?彩音ママがいいって言ってるんだから泊まるよね?」
「うぐっ、でも今回も着替えを買う訳にはっ」
「家《ウチ》で洗って乾かしておけばいいじゃん?」
「それだと乾くまで僕が着るものが無いじゃないですか」
「服なんて着なくでもいっぱい出来ることあるじゃん?ね?ね?」
「………………泊まります」
「あはっ、たっくん大好きっ」
そんなやり取りをしていた僕達が通り過ぎた後、学校の玄関付近で何人かの生徒達がとんでもない量の甘いものを食べさせられたかのような表情で苦しんでいたと、後に登校して来たクラスメイトが話していた。
「はよー」
「お、おはようございます」
玲香さんはいつものように、僕は少し緊張しながら教室に入って挨拶をする。
「あっ玲香じゃんおっはー。それから水崎くんもおっはー」
「おはよー玲香。なに?朝っぱらからイチャついてんの?」
「水崎君おはようっ」
「おはよう水崎」
昨日の事で少し不安を感じていたけれど、そもそも空気のような存在だった僕にとっては認知度を爆上げさせる要因になったようで、寧ろこうして挨拶してくれる人が増えた事に少しだけホッとしてしまった。
「ふふ、仲いいっしょ?」
「ってか一緒に登校して来たん?」
「うん、そだよ」
「家近いとかじゃないよね?待ち合わせ?」
「あー違う違う、昨日
「あーなる」
玲香さんが何事もないようにサラッと話した事で、隣で固まってしまっていた僕もひょっとしたらこのままいけるかと期待していたけれど、現実はそんな甘くはなく。
「「「「「はっ!?」」」」」
全員が一斉にこちらへと振り返り同じ声を上げた。
「いやっえっ?どゆこと玲香?」
「んー?そのままの意味だけど?」
「えっ泊まったって、水崎が?」
「うん」
「玲香の家に?」
「うん」
「マジ?」
「ってか別にアタシもたっくんの家に泊まったことあるし。今回はたっくんに泊まってもらっただけ」
その一言で教室の中がまたも阿鼻叫喚に包まれる。そんな状況の中、教室に入った時に僕に挨拶をしてくれた隣の女子から声を掛けられる。
「ねぇ水崎君、今の話本当?」
「え?はい本当です」
「泊まりって事はご両親はもちろん知ってるんだよね?」
「はい知ってます。僕の母さんなんて玲香さんと会ってからは寧ろ連れてきて欲しいって言ってるくらいには玲香さんを気に入ってくれてますね」
「へーそうなんだ?それって花宮さんのご両親も?」
「玲香さんのお父さんとはまだ会った事が無いので挨拶は出来てないんですけど、お母さんとはもう挨拶を済ませましたね」
「凄いね?もうほとんど親公認みたいな感じになってるんだ?」
「はい。ありがたいですよ本当に」
そんな話をしていると、ギャル友が玲香さんにもう一歩踏み込んだ質問をしていた。
「ねぇ玲香?泊まりってことはさ?その、やっぱり水崎と?」
「え?そんなの当たり前じゃん?」
ギャル友に答えたその一言で、僕と玲香さんの行為を察した複数の人が激しく盛り上がる。ただし男子の方は頭を抱えて悔しがっている人が殆どだった。
「当たり前ってアンタさぁ……男子連中なんか皆頭抱えてんじゃん」
「いや他の男とかどうでもいいし」
追い打ちをかけるように言い放った玲香さんにある男子が声を上げた。それは昨日最も玲香さんに絡んでいたあの男だった。
「なぁ花宮?なんで水崎なんだよ?俺だってそんな悪く無いよな?身長だって俺の方が高いし見た目だってイケてるだろ?」
昨日ここで玲香さんに向かってあれだけのセクハラをかましておいてよくそんな事を言えたなと思っていると、案の定玲香さんから突き刺すような冷たい言葉が飛んでいく。
「見た目がどうとかいう話じゃねぇし」
「いや、それだったら何でなんだよ?」
「言われなきゃわかんない?」
玲香さんは大きく溜息を吐くと、一度教室内の男子全員をぐるりと見渡した。そして最後にもう一度聞いて来た男子と目を合わせる。
「アンタも他の男もさ?そもそもアタシのこと好きになんてなんないよね?」
「は?何言ってんだよ?……もうこの際だから言うけどよ?俺はずっとお前の事好きだったんだよ。なぁ?だから水崎なんかじゃなくて俺と―――」
僕からすれば決して告白とは呼べないような告白を聞いた玲香さんは呆れたように笑みを浮かべる。
「アタシのことがずっと好きだったって?なに言ってんのアンタ?」
「いやマジだって!なぁ?花宮と俺って絶対相性いいと思うんだよ?」
何度も玲香さんに言い寄っている手前、どうにも彼は引くに引けなくなってしまったいるらしい。玲香さんが浮かべた呆れたような笑みを、自分の告白が好感触だったから笑ってくれたと間違った意味で捉えてしまっているように見える。
「あのさぁ?アタシのこと好きだとかなんとか言うけどさ?そうじゃないじゃん?ねぇ?アンタらもそうでしょ?」
そしてそれはどうやら間違っていなかったらしく、玲香さんは可哀そうな目で彼を見た後、二人のやり取りを眺めている振りをしながらさり気なく玲香さんの胸や脚を見ていた男子達にも釘を刺す。
「アタシが気付かないとでも思ってんの?ねぇ?」
知らない振りをして視線を逃がしても、最早すでに手遅れだった。
「まぁアタシも面倒だからっていちいち言って来なかったのも確かに悪かったかもしんないけどさ……」
玲香さんの自分にも否があるような言葉を聞いた事で、責められていると感じていた彼等の心の中に、一瞬だけホッとするような安堵の気持ちが生まれる。それがギロチンを落とす為の罠であるとも気付かずに。
「でもさ?アンタらってぶっちゃけアタシとセックスしたいだけだよね?」
教室内にいる男子全員が玲香さんに何一つ声を上げる事も出来ないまま固まってしまった。
それはそうだろう。僕との関係を知った時に彼等は何と言っていたのか。セクハラをされている時に玲香さんにどんな目を向けていたのか。
それを考えれば反論どころか声を上げる事すら出来ないのは当然だ。
だけど彼は違った。分かっているはずなのに声を上げてしまった。自分を守る為に彼はまたも噛み付く事を選んでしまった。
「じゃ、じゃあ水崎はどうなんだよ?なぁおい水崎!お前だって花宮とやりたいだけで近づいたんじゃねぇのかよ!?」
それも玲香さんではなく、僕に向かって。
「え?いや違いますけど?結果的にそうなっただけで付き合う事になった理由は全然違います」
「そんなわけねぇだろ!?お前だって花宮の体が目当てだったんだろ!?」
「一緒にしないでもらえません?それはそれで不愉快なので」
違う事は違うと僕は普通に言い返した。僕が昨日玲香さんに言った事は紛れも無い事実だから。
「口だけなら何とでも言えんだろ?なぁ花宮、一体何が違うんだよ?俺とこいつの何がっ!?」
腹が立つ事ではあるけれど確かに彼の言っている事にも一理あると思う。実際のところ人は口だけなら何とでも言えるというのは事実だから。でもそれは僕と玲香さんには当てはまらない。
「何もかもが違うじゃん?」
「何もかもって何だよそれ?答えになってねぇだろふざけんなっ!」
なぜなら僕も玲香さんもお互いの気持ちを誰よりも良く知っていて、そしてそれは自惚れでもなんでもなくただの事実だからだ。僕がどれだけの覚悟を持って玲香さんに別れを言って、どれだけの覚悟を持って告白したのかを知らない彼には一生理解出来ない事ではあると思うけど。
「ふざけてないけど?アンタとたっくんじゃ何もかもが違うって言ってんじゃん」
そもそも玲香さんにあんな事を言っておいてどうして自分はいけると思ってしまうのか僕には理解出来なかった。本当に好きなのであれば玲香さんに誠心誠意尽くすべきだった。それ以外に玲香さんの心を動かす事なんて出来る訳が無い。
「だから何が違うのかって―――」
「何もかもがって言ってんのが聞こえてねぇのかお前?」
心の奥底から這い出して来たような低い声で玲香さんが威圧する。
「っつうか興味がねぇしどうでもいいって最初から言ってんだろ。それからさ?他人《アタシ》の彼氏をバカにするようなやつを好きになる女なんていねぇから」
今度こそ静かになった教室。
「花宮さんカッコイイ……!」
隣の女子が漏らした言葉が僕の耳に届いていた。
静かになっている教室でそれを耳にしていた僕は、啖呵を切って怒ってくれている玲香さんに感謝と深い愛情の念を抱いていた。しかしそれと同時にこのままではまずいとも思い始めていた。
先程彼に矛先を向けられた僕もつい感情的になって彼に強く言い返してしまったことで、それがより一層彼を苛立たせる事に繋がってしまった。そうして苛立った彼はまたも玲香さんに食って掛かり、結果玲香さんはさらにきつい言葉を彼に吐いてしまった。
まさに悪循環となってこのクラスの空気諸共全てを破壊しまくっていた。
もしこのままクラスの空気が悪い状態なままなのを放置してしまえば、今後の学校生活に間違いなく悪影響を及ぼしてしまう。それにセクハラをしていた彼や他の男子にだって男としてのプライドはある。そんな彼等にハッキリと物申した玲香さんがこれまで以上に強烈に敵視され続けてしまい、最終的に最悪の事態へと発展してしまう可能性だって十分にある。
それだけは絶対に避けたい。玲香さんが傷つく未来だけは絶対に。
僕は目を瞑り、一度深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「玲香さん、もうやめましょう」
そして僕は、教室の皆に聞こえるように力を込めて口を開いた。