セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
「玲香さん、もうやめましょう」
口火を切った僕へと全員の視線が集中する。
「確かに腹が立ちますし色々と言いたい事もありますけど、これ以上続ければこのクラスが崩壊してしまいます。だから―――」
ひとまずこの重苦しい空気と緊張感のある場を収める為、教室内にいる全員に深く頭を下げる。
「―――え?」
頭を下げた僕に、玲香さんが驚きの声を漏らす。
「ご迷惑をお掛けして、本当にすいませんでした」
時間にして十秒程度だろうか。僕は下げていた頭を上げ、驚いた表情で僕を見つめている玲香さんへ顔を向ける。
「なんで?なんでたっくんが謝るの?」
「必要だからです」
「必要だからって、それでなんでっ」
玲香さんからしてみれば、昨日の事も含めてこれだけ玲香さんや僕をバカにするような発言をして来た相手に対し、僕が頭を下げるという行為そのものが受け入れ難い事なんだろう。
「玲香さん。僕は玲香さんと楽しく過ごしたいだけなんです。当然その中には学校生活だって含まれてます。なのにこうしてクラスの空気を壊した状態のままではそれさえも出来なくなってしまいます」
「でも悪いのはっ!」
「それでもですよ玲香さん」
「っ!!」
「腹が立つのは分かります。僕だってそうですから。でもだからといって全ての事を相手が悪いで済ませてしまえばこのクラスが崩壊してしまいかねません」
このままでは間違いなくこのクラスは持たない。まだ一年以上の時間がある中で今こんな状態のまま突き進んでいってしまえば必ずこのクラスは……。
「学校行事だって沢山あります。修学旅行だって。それなのにこんな状態のまま放って置いてしまったら、卒業するまでの間このクラスはどうなってしまうと思いますか?」
「それは……」
僕はもう一度僕を見つめて話を聞いている皆に顔を向ける。
「僕も許して欲しいとは言いません。僕も玲香さんも皆さんに見せつけるような事をしてしまっていましたし、酷い言葉を言ってしまった事も事実ですから。でもその一方で玲香さんも僕も酷い事を言われました。それはここにいる皆さんが良く分かっているはずです」
僕はそこで一度大きく息を吸い込むと、心を落ちるかせるようにゆっくりと吐き出した。
「でも理解はして欲しいんです」
「たっくん……」
「彼女が今までどういう事を言われて来たのか、どういう目で見られて来たのか。それだけは理解して欲しいんです」
そしで僕はもう一度頭を深く下げる。
昨日の夜、玲香さんから打ち明けられた玲香さんの過去。僕が玲香さんへ接触する機会となったその過去を知らない彼等には、僕の言葉がどこまで届くのかは分からない。そうして僕が頭を下げていると、突如息を飲むような気配が伝わって来た。一体何が起きたのかと思い下げていた頭を上げると、そこには頭を下げている玲香さんの姿があった。
「……アタシもちょっと言い過ぎた。だからごめん。でもそれでもやっぱりアタシたっくんのことが好き。だから学校でも手を繋ぐとか腕を組むとかは許して欲しい、です」
「……玲香さん」
「アタシもさっきまでは見せつけるつもりだった。そうすれば誰も寄って来ないって思ってたから。でもそんな単純な話じゃないってとこまで考えてなかった。考えようとしてなかった」
「玲香、アンタ……」
「勝手なこと言ってるのは分かってる。でもアタシはたっくんのことホントに好きで好きで仕方がないから、だからそれだけでもいいからどうしても許して欲しい、んです」
先程までの玲香さんとは全く違う姿に、張り詰めるような緊張感と息苦しくなるような重い空気はあっという間に薄くなっていく。
代わりに現れたのは驚きと困惑。あれだけの強い言葉と態度を見せていた玲香さんが頭を下げ、謝罪とお願いをしている姿はそれだけの衝撃があった。
「あの玲香が、こんな……」
頭を下げた玲香さんを見た皆がそれぞれ目配せをしたり話したりしていると、玲香さんに最もしつこく言い寄っていた彼がその口を開いた。
「……その、俺の方こそ謝らないといけなくて。花宮の言う通り、俺は花宮の体見て、それで触りてぇなって思ったりとかそんな妄想ばっかりで。好きだって言ったけど、多分本音は花宮と付き合ってる俺すげぇだろって、あの花宮と付き合ってるんだぞって周りに見せつけたいみたいな。だからその、そんな俺もマジでキモかったし本当にごめん……」
最も玲香さんに固執していた彼の言葉はあっという間にクラスの男子全員に波及した。
「……なんか、水崎が花宮にあんなに思われるとこ見てるとさ……俺もすげぇ彼女欲しくなってきた」
「……お、俺も思った。マジで頑張ろっかな」
「おっ俺さ、ギャルっていいなって最近思っててさ」
「え?お、お前も?いや俺もちょっとそう思っててさ。いいよなギャル」
「ギャルの彼女とか最高じゃね?」
「それ思った。お前も?」
何故か彼女が欲しいという話からギャルがいいという話になり、最後にはギャルの彼女が欲しいという話にまで変わっていく。その急な流れに僕も困惑して周囲を見回していると、一人の勇者が立ち上がった。
「な、なぁ美香っ」
「なっなに?どしたの?」
「美香って彼氏いなかったよな?」
「は、はぁ?いない、けど?だから?喧嘩売ってんの?」
「良かったらさ、その、俺と付き合ってくれないか?」
「はっ……えっ……な、何言ってんの急に!?」
「実は結構前からお前の事気になってて、それで今の二人を見てたら俺も何だか我慢出来なくなって来て……頼む!俺と付き合ってくれ!」
「はっはぁ!?だ、だからってこんなとこで言う!?」
玲香さんのギャル友に一人の男子がその場で告白した。その結果玲香さんのギャル友数人に男子達が群がって告白する事態となり、なぜかこのクラスの中でギャルの需要が爆上がりした。
その後、熾烈なギャル争奪戦を繰り広げた結果、僕達のクラスでは勝者と敗者によって違う意味での分断が起きたがそれは個人の責任なので僕達のせいにはしないで欲しい。
学校が終わり僕は玲香さんをデートに誘った。朝から怒ったり不安になったりと精神的に疲れる事が沢山あったので、玲香さんにリラックスしつつ喜んでもらいたいと思ったためだ。
「ねぇたっくんどこいこっか?カラオケは前に行っちゃったし」
「んーそうですね。ならあれなんてどうですか?」
街中をぷらぷらと手を繋ぎながら歩いていた僕が指をさして提案したのは、カラフルな看板が掲げられていて、何やらポップな音楽が流れている有名なアイスのチェーン店だった。
「あっアイス?いいじゃん食べよっ」
「僕、実はまだ一回も入った事ないんですよね」
「え?たっくんここ入ったことないの?マジ?」
「それがマジです。宣伝とかで色々な種類があるのを見ててずっと気にはなってたんですけど、女子高生とか中学生の子とかばっかりで一人だと入り辛くて」
「えっじゃ行こうよ!たっくんと食べ合いっこしたいっ」
「いいですね、それなら二人でいくつか違う種類のアイスにして色々な味を楽しみませんか?」
「そうしよそうしよ!ってかさ?たっくんもっと早く言ってくれればよかったのに」
「お店の看板を見てそういえば入った事無いなって思ったんですよ」
「そうなんだ?それじゃあさたっくん?」
「はい?」
「そういうのあったらもっと言って?たっくんの初めてもっと欲しい」
「な、何か言い方がちょっとあれですけどわかりました」
「あはっ、たっくんはなにを想像しちゃったのかなー?」
「いっいいじゃないですかそういうのはもうっ」
「たっくん赤くなってるカワイイ」
僕の両手には二つのアイスが握られている。
取り合えず気分でチョコレートチップの入ったダブルチョコを選び、その後に最初に食べたかったバニラを上に乗せてもらった。初めてだったので目移りしてしまって大変だったけれど、あまり時間をかけて迷惑になるのも嫌だったのでパパっと決めてしまった。
もう一つは玲香さんの分でピスタチオベリーとストロベリーの二つだった。両方ともベリーが入っている事から分かる通り、玲香さんは甘酸っぱいものが好きらしく、大体二つの内どちらかはベリーが入っているものを選ぶとか。今回は僕と食べ合いをするので両方ベリーが使われているものを選んだらしい。
「たっくんおまたー」
「おかえりなさい玲香さん。はい玲香さんのアイス」
「ありがとっ」
僕が目で他の人達が食べているアイスを見て楽しんでいる間に玲香さんが戻って来たので、玲香さんの分のアイスを手渡した。
「んーおいしー」
「凄くおいしいですねこれ。やっぱりアイスと言えばバニラなんですけど、チェーン店でありながらこの味は中々どうして」
「なんかたっくん変」
「いきなり変人扱いしないでくださいよっ」
「あっそうだった、たっくん食べ合いっこしよ?」
「えっ?あっはいどうぞ」
僕が食べていたバニラのアイスを玲香さんの口元に持っていくと、玲香さんはわざわざ僕の手を握って位置を調整した。そして敢えて僕が舐めたところを僕の目を見つめながらゆっくりと味わうように舐め取っていく。
「んふ、たっくんのバニラおいし」
口元に白いバニラアイスが付いた状態で意味深な事を言う玲香さん。その表情と言葉を見た僕は思わず白い液体をとても嬉しそうに舐めている玲香さんの姿を思い出してしまった。
「ねぇねぇたっくん?」
僕の表情を見た玲香さんは僕の耳元に口を寄せて囁いた。
「あとでたっくんのバニラもちょうだい?」
ボソッと言うだけ言って満足したらしい玲香さんは顔を離し、今度は僕に自分の持っているアイスを差し出してくる。
「はいたっくん。アタシのアイスもどうぞ?」
「あ、ありがとうございます」
恐る恐る口を近づけると、玲香さんは僕の口が付く直前にアイスをくるりと回し、自分が口をつけたところを僕の方に向けた。それによって僕も玲香さんが舐めていたところに口を付けてしまう。
「あーアタシが口付けたとこ舐めたー。たっくんのえっち」
「むぐっ!?」
「あはっ、冗談だってっ!たっくんおいしい?」
口の中に広がったのは苺の果肉の酸味とそれらを包み込むような優しいミルクの甘さだった。
「っ!すごいさっぱりしてて美味しいですねこれっ」
「ふふ、でしょ?」
「今度買う時はこれも買ってみようかな」
「うんっそれがいいと思う!あっでもねたっくん?」
「はい?」
「アタシが舐めてあげるトッピングはタダなんだけどさ?欲しい?」
彼女はニヤニヤしながら横から覗き込むように僕を見つめている。
「ねぇ欲しいの?それとも欲しくないの?どっちなのたっくん?」
「……欲しいです」
「あはっ、じゃあ今度食べるときいっぱいトッピングしてあげるね?」
「いっぱいください玲香さん」
玲香さんはとても嬉しそうに笑っていた。