セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
「たっくん急いでっ!」
「わ、分かってますけどっ!玲香さんの足が長くてっ!」
僕達は僕が玲香さんに手を引かれる形で教室へとダッシュしていた。
残り一分で鐘が鳴るという所で何とか辿り着いた僕達は、二つの意味で汗だくになっていた。
「間に合ったーー!セーフ!」
「おっ、おはようございますっ」
「ギリギリ?」
「なんとかね」
玲香さんに聞かれた美香さんがスマホで時間を確認して答えた。
「けほっ、本当にっ、はぁっはぁっ、危なかったですねっ」
「玲香だけ疲れてないのウケる」
「いやっ、流石に体格差がっ、んくっ、あり過ぎてっ」
「玲香足長いかんねー」
「手を引っ張るんじゃなくて抱えてくれば良かったかも。たっくん次からそうしよ?その方がくっ付けるし」
「いやっ、はぁっはぁっ、勘弁してくださいっ」
「玲香やめときなって。水崎の尊厳こわれちゃう」
なんだかんだで僕の擁護をしてくれる美香さんに感謝しつつ、僕は膝に手をついたままひたすら乱れた息を整える事に集中した。
「で?なにがあったん?」
「んー?たっくんが寝坊しちゃってさ」
「へー水崎が寝坊したんだ?」
「そだよ。アタシは近くのストレでラテ飲んで待ってた」
「いや先に来いよ。女子高生が朝の登校時間中にストレ行くなし」
「いやだってあそこ朝早いからさ」
「そうじゃねぇよ」
僕と玲香さんは本当の事を話す訳にはいかないため、『寝坊したので急いで走って来た作戦』を決行している最中だった。今も美香さんに話していることは全て玲香さんのアドリブによる嘘の説明である。
息を整えた僕は玲香さんに声を掛けてからそのまま自分の席に座った。その直後、最近色々とよく話すようになった隣の席の女子が話し掛けてくれた。
玲香さんが美香さんにそうしているように申し訳ないという気持ちを持ちつつも、誤魔化すために事実を織り交ぜながら嘘の説明をする。
「水崎君おはよう」
「おはようございます」
「珍しいね寝坊なんて」
「昨日色々と考え事をしてたら中々寝付けなくて」
「親は起こしてくれたりしないの?」
「父さんは母さんにべったりなので母さんの考え方を優先してるんです。それで母さんはこういう時起こしてくれないんですよ。学生の内にかける恥はかいておきなさいって、そういう考え方をしているので」
これは事実の方だ。母さんは遅刻が確定するまでは起こしてはくれない。それが母さんなりの優しさなのだ。
「な、中々ハードな家庭なんだね」
「ちゃんと自分で起きられるようになりなさいっていう母さんなりの育て方だと思うのでそれはそれで感謝してますけどね。やっぱり遅刻して恥をかくと次はちゃんとやろうって思いますから」
「愛のムチっていうやつかな?ムチがあるなら飴とかはるの?」
「無いですね。普段の生活で十分飴をもらってますから」
「……水崎くんってさ、素直にいい子だよね?」
「な、何ですか急に?そんな事言ったって何も出ませんよ?」
「いやだって普通の人はそんな風に考えないって」
「そうですか?」
「そうだと思うよ?」
「あまり気にした事なかったですけど。その話でいけば―――」
彼女と話していた僕は逆に彼女は一体どういう考え方をしているのだろうと気になり、その事を彼女に聞こうとした時だった。
僕はある事実に気が付き薄っすらと冷や汗をかき始める。
「どうしたの?」
「あの、本当に今更なんですけど……気付いた事がありまして」
「なになに?」
「あのですね、怒らないで聞いて欲しいんですけど」
「怒る?私が?いくらなんでも怒るって事は無いと思うけど?」
「本当ですか?本当に怒らないですか?」
「怒らないよ?えっていうか私が怒るような事なの?」
「えーっと、多分その可能性が高いかもしれないです」
「えっなに?スリーサイズ知りたいとか?」
「違いますっ!」
「違うんだ。えー?怒るようなこと?なに?」
「本当に怒らないでくださいね?」
「うん」
これだけ何度も確認したんだからきっと彼女は怒らないでいてくれるだろうと思った僕は意を決して口を開いた。
「あのですね」
「うん」
「名前を教えてもらってもいいです、か?」
直後、彼女は強く握り締めた拳を大きく振りかぶった。
「殴っていい?」
「おっ、怒らないって言ったじゃないですかっ!」
「隣の席なのに私の名前知らないとか殴られて当然だと思うんだけど?」
「いやだって今までこんな話す事も無かったですしっ!授業も特に話すあれもなかったじゃないですかっ!」
「……まぁ確かにそう言われればそうだったかも」
「で、ですよね?」
「でも私は水崎くんの名前知ってるんだけど?」
「…………」
僕は何の言い訳も出来なくなってしまった。そんな僕をジトッとした目で見つめていた彼女は大きく溜息を吐いたあと、仕方ないといった様子で名前を教えてくれた。
「新島佳奈美《にいじまかなみ》」
「えっ?あっ新島、さん?」
「ちゃんと覚えた?」
「は、はいっ!もう覚えましたっ!」
僕は背を伸ばしハッキリとした声で答える。そんな僕を彼女は少しだけ呆れた様子で見ていたけど、ふと何かを思いついたのか彼女は僕へビシっと指をさしながら言った。
「私の名前を知らなかった水崎くんには罰を与えようと思います」
「ばっ、罰ですか?」
「そう罰です」
「罰を無くすという方向でお願いの方は?」
「駄目だけど?」
「そこを何とか」
「あっ、じゃあさ私をカナちゃんって呼んでくれたら許してあげる」
「呼びません。絶対に呼ばないです」
「断るのはっや」
「勘違いされると大変なので」
「水崎くんって本当に一途だね」
「当たり前じゃないですか」
何を馬鹿な事をと目を瞑って頷いていた僕に新島さんから予想外の事を言われる。
「そうだよね一途だもんね」
「そうです一途なんです」
「でもごめん、遅かった」
「えっ?」
僕が思わず目を開けて新島さんの顔を見ると、彼女は僕では無く僕の後ろを見上げるようにして見つめていた。
「そんなにながーく話し込んじゃってさ?ずいぶんと楽しそうだよね?」
「ひえっ」
毎日のように聞き続けているその声だからこそ恐怖が膨れ上がっていく。目には見えないけれど背中に感じる圧力はどうしてか息が苦しくなってしまう程に強い。
「そういえば昨日もなんか二人でコソコソ話してたよね?なに?なに話してたの?教えて?ねぇたっくん?」
後ろから僕に抱き着いて来た玲香さんは僕の耳元で優しく囁いた。
「いや、えっと、本当にその、大した事じゃなくてですね」
「そうなんだ?」
さらに僕の耳元に近づけて来た玲香さん。吐息をはっきりと感じられるだけでなく、口を動かすたびに玲香さんの唇が僕の耳に触れてしまっている。
「大したことじゃないんだったら言えるじゃん?ねー?」
「はい言います。全部言いますから許してください」
「んー?なにも悪いことしてないのに許してくださいってどういうことなのかな?」
「いやっそれはっ、つい言ってしまっただけといいますかっ」
「ふーん?浮気じゃないってこと?」
「それだけは絶対に違います。誓って違います」
震えながら話している僕を見て流石に可愛そうだと思ってくれたのか、新島さんが助け舟を出してくれた。
「花宮さん、水崎くんと私は花宮さんが思ってるような関係じゃないから安心してもらって大丈夫だよ?」
玲香さんは近づけていた顔を僕から離し、新島さんの方へ顔を向けた。
「ムム?じゃあどうして仲良さげにあんなに長く話してたの?」
「勝手に聞いちゃったのは悪いとは思うけど、さっき花宮さんと水崎くんが教室に入って来たとき寝坊の話をしてたじゃない?」
「それで?」
「それで水崎くんが寝坊なんて珍しいねっていう話を私から振ったら、思いのほか盛り上がっちゃって」
「ふーん?でもさ?それだけだとあんなに長く話さなくない?」
どうやら玲香さんはまだ納得がいっていないらしい。とはいえこれ以上一体どうしたものかと考えていると新島さんが更に説明をしてくれた。
「花宮さん」
「うん?」
「実は水崎くんと長く話してたのは理由があるの」
「なに?どんな理由?」
「水崎くんったら隣の席なのに私の名前知らなかったの。だから私が水崎くんにその事を詰めてたら話が長くなっちゃって」
女子である新島さんの方から説明してくれたのは本当に心からありがたいと思うけれど、今この人『詰めて』って言った。怖い。
「だから花宮さんごめんね?勘違いするようなことしちゃって?」
「……たっくんさ?」
「はっ、はいっ?」
「隣の人の名前知らないのは流石にどうかと思う」
「うっ!?」
「でしょ?!花宮さんもそう思うよね!?」
玲香さんからの援護射撃によって花開いたかのような笑顔になった新島さんは『これで許してあげる』とアイコンタクトで僕に伝えて来た。
「ちょっと今の話はたっくんを擁護できないかも」
そして玲香さんはそんな彼女に気付いてはおらず。
「うぅっ、本当に申し訳ありませんでしたぁ!!」
ある意味で浮気を疑われるよりも辛くなる視線で見つめられた僕はその場に膝から崩れ落ちるようにして頭を下げた。
ちなみに担任の先生も会議で十分程遅れて来たため、あんなに急がなくても出欠確認には全然余裕で間に合っていた。