セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
―――次は……駅。次は……駅。お出口は右側です。
電車のアナウンスを聞いた僕は立ち上がり、アナウンスの通り右側のドアの前で開くのを待つ。
早く会いたい。今の僕の中にあるのはただそれだけだった。
いつもなら電車が止まるまで座って待っているけれど、今の僕はあまりにも気持ちが強すぎてアナウンスが聞こえた瞬間には立ち上がっていた。
何度も見て来た風景がドアの窓越しに流れていく。だけどそんな風景も今は僕を急かせるだけのものとなっていた。
「いいよ。でもそれは相手方に迷惑がかからないなら、だけどね」
電話を終えたあと僕は母さんにすぐに話をしに行った。明日が土曜ということもあり、母さんはそう言ってすぐに送り出してくれた。
そうして風景を眺めながら待っている内に気が付けば電車はその速度を緩め、少しずつ流れていた街の風景は駅の中の風景へと変化していった。
完全に電車が止まってからいつものアナウンスが流れる中、電車のドアが開くと同時に僕は体を捻じ込むようにして外へ出る。
とにかく僕は一秒でも早く彼女の元に行きたかった。
足早に玲香さんのマンションのある方の改札へと急ぐ。普段であれば不快に感じる生温い空気や汗ばむ体は今の僕にとっては寧ろ心地良さすら感じるものとなっていた。
予めポケットから取り出しておいたスマホを改札へタッチさせる。『ピッ』という音が、ついにここまで来たと僕の心を躍らせる。
駅の改札から外へ出た僕は肩に掛けていた鞄を抱え直し、彼女の待つマンションへ続く方へ向かって足を動かした。
街灯が立ち並び、家路を急ぐスーツ姿の人達が目に映る。スマホを見れば時間はすでに夜の九時を過ぎていた。
「そっか、この時間に帰る人も沢山いるんだよね」
僕はつい足を止めて彼等を目で追ってしまった。彼等が向かっているのはきっと誰かがその帰りを待ってくれている場所で。
いつか自分も彼等のようになっている日が来るのだろうか?
もしそうであるのなら、その先で待ってくれているのは彼女であってくれるのだろうか?
そんなことを考えていた時だった。手に持っていたスマホから電話を知らせる音楽が鳴り出し、それによって明るくなったスマホの画面が僕の顔を照らした。
「玲香さん?」
スマホの画面に映し出されていたのは『♡れいか♡』の文字。ついこの間まではまだ『玲香さん』だったその文字は、僕が玲香さんの家に泊まったときにいつの間にか勝手に変えられてしまったものだ。
その文字を見た僕はまるで何かのお店のようだと思わず笑みを零してしまう。それからすぐに慣れた手つきで画面をタッチしてスマホを耳に当てた。
「もしもし玲香さん?」
『あっ、たっくん?今どこ?』
「今ですか?さっき駅に着いてそのまま真っすぐ玲香さんのマンションに向かって歩いてるところですけど、何かありました?」
『はやっ』
「あはは、ちょっと会いた過ぎて急いじゃいました」
『アタシも早く来てって言ったけどさ?流石に早すぎてビビったんだけど?』
「だって本当に早く会いたかったんです」
『たっくんはアタシのこと好きだもんねー?』
「はい、好きですよ」
『アタシも好き』
「知ってます」
『あはっ、アタシも知ってる』
心地よかった。電話越しに話しているだけなのにさっきまでの生き急ぐような勢いは無くなり、ただただ穏やかな気持ちと安心感が僕を包んでくれていた。
そして気が付けば周囲にいたサラリーマンの姿は見えなくなっていて。
「―――たっくん見っけ」
そんな声が、僕の後ろから聞えてきた。