セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
「あはっ、びっくりした?」
振り向いた僕の視線の先で、玲香さんはいつものいたずらっぽい笑みを浮かべながら立っていた。
その姿は僕が会いたくて仕方のなかった彼女の姿そのもので。
僕は玲香さんが待っていたのではなく来てくれたのだと理解した時にはすでに駆けだしていた。
「えっ?ちょったっくっ―――!」
僕は彼女に飛びつくように抱きついた。
強く、強く抱きしめる。
ここに来るまでにじっとりとかいていた汗も、駅の方から歩いて来る人の目も、今の僕にとってはどうでもいいことだった。
抱きついた玲香さんの胸に甘えるように顔を埋め、何度も何度も息を吸い込んだ。柔らかい感触も、顔を包んでくれる温かさも、落ち着かせてくれるその匂いも。
そのどれも全てが僕を満たしてくれた。僕を安心させてくれた。
彼女が今こうして目の前にいて、こうして抱きしめていられることが、今の僕にとって何事にも代えがたい幸せだった。
「あはっ、そんなに会いたかったんだ?」
抱きしめている僕の耳に届いたのは、込み上げる嬉しさと強い愛情を感じられる玲香さんの声。
「ふふ、たっくん汗かいてる」
全力で甘えている僕の頭を優しくそっと撫でてくれている玲香さんの手はとても心地良くて。
「どうしても玲香さんに会いたくなって、声も直接聞きたくて、それにこうして抱きしめたくてそれで―――」
「たっくん落ち着いて?ほら、アタシはどこにもいかないからさ?」
「―――はい」
玲香さんはどこまでも優しくて温かくて。
「ねぇたっくん?せっかくだから少し歩こ?」
正直このまま玲香さんを抱きしめていたかったけれど、ここがまだ部屋ではない事を想い出した僕は、名残惜しい気持ちを抑えつけるようにして体を離す。
「えっと、それじゃあ少しだけ」
「やたっ」
玲香さんはすぐに僕の手を取りその綺麗な指を絡ませた。
「玲香さんの手、気持ちいいです」
「えー?まだ手握っただけじゃん?」
「それが凄く幸せなんです今」
「……そっか……ふふ」
一歩一歩をゆっくりと歩く僕達の周りには、まるで見守ってくれているかのように街灯の光が道を照らしてくれている。
遠くの方へ目を向ければ、駅の光と賑やかな音がこの綺麗な夜を彩っていて。
「「……」」
玲香さんも僕も無言だった。無言だったけれど気まずい空気は一切なく。
ただこうして手を繋いで歩いているだけで僕の心は満たされていた。
玲香さんと一緒にオートロックの玄関を通り過ぎ、エレベーターに乗って三階へと向かう。その間も僕達は一度も繋いでいた手を離さなかった。
玲香さんの住む部屋の前まで辿り着き、玲香さんがドアの鍵を開けて中へと入る。
「ただいまー」
「お邪魔します」
踵が少し高めのサンダルを脱いで先に上がった玲香さんが、靴を脱いで上がろうとしていた僕の前に立ちふさがる。
「どうしたんですか玲香さん?」
「たっくんもただいまって言って?」
「え?」
「彩音ママがアタシに言ってくれたじゃん?行ってきますでいいって」
「―――!」
「アタシ彩音ママに言われたときホントに嬉しくてさ?だってそれってアタシを家族だって、たっくん家《ち》の子だって言ってくれたってことでしょ?」
確かに母さんはすでに何度も玲香さんを本当の娘のようだと話していた。
それにそれだけじゃない。母さんは僕と玲香さんが結婚することをすでに受け入れてくれている。寧ろ絶対に逃がすな結婚しろとそう考えてさえいるはずだ。というか別れたら捨てるとかそんなことを言われたような気がする。
であるなら玲香さんの家にとっての僕もきっと同じなんだろう。
「だからさ?たっくんも言って?ってか言わないと入れないし」
「あっえっと……ただいま、玲香さん」
「あはっ、おかえりなさいっ!」
「うわぷっ!?」
それを聞いた玲香さんは満足そうに笑うと、そのまま僕に抱きついて来た。
「これマジでヤバイかも……。たっくんが家にきて『ただいま』って……ホントにヤバイ、幸せ過ぎておかしくなりそう」
そのまま僕は華凛さんが現れて止めるまで、玲香さんから解放される事は無かった。