攻めギャル-金髪黒ギャルの玲香さんは色々デカイ- 作:もすまっく
二人がトイレで朝から大満足した月曜日。特に何事もなく進んだ日常は昼休みの直前である四時限目の体育の授業で大きく変わる事となった。
急な通り雨なのか、もの凄い勢いで雨が降り出したため予定していた外のグラウンドでの授業は中止となり、代わりに空いていた体育館での授業へと変更されたのだ。
この学校での体育の授業は二クラス合同で行うのが基本のため、体育館でやる授業というのはその人数から大体内容が決まっており、主に男子はバスケットボール、女子はバレーボールをやるというのがいつもの流れであった。
そして拓斗達の学年の男子は皆、体育の時に行われる女子のバレーボールを心待ちにしていた。一年生から二年生に上がる時のクラス替えの際、多くの男子が花宮玲香とせめて体育だけは同じであってくれと祈る者が多かったのにはこれに起因している。
「玲香っ!」
「まかせてっ!」
向こうのコートから飛んで来た白青黄色のカラーのバレーボールを美香さんが上手く弾き、すかさず近くで待機していた女子がネットの近くでトスをした。
そこに玲香さんが大きくジャンプして合わせ、重い音と共にバレーボールをまるで弾丸のように相手のコートの床へと叩きつける。それを見た美香さんが拳を振り上げながら雄たけびを上げた。
「っしゃおらーーっ!」
「ナイス玲香ーーっ!」
「ナイスーーっ!!」
見事なアタックを決めた玲香さんの元に同じコートの女子達が集まり、皆でハイタッチしながら喜び合っている。
「「「…………」」」
そんな女子達の華やかな光景に男子達の視線は釘付けになっていた。というか全員がバレーボールではない別の大きなボールへと視線をロックオンさせており、そのボールの持ち主である玲香が飛び跳ねる度にその視線も追従して動いている。
しかしそうして男子全員が動きを止め、バスケをせずに大きく揺れる胸に視線を送っていれば、見られている側の女子からは非難の声が上がるのは当然の事だった。
「ねぇちょっと男子さー?さっきから玲香の胸ばっか見過ぎでキモイんだけどー?」
「アンタら今日はバスケって言われてんだからバスケやりなさいよ!」
事実を言われぐうの音も出ない男子達は言い返す言葉も無く、そのままバスケを再開した。だがしかしすぐにまたその動きを止めてしまう事となる。
「たっくーーん!今の見たーー?スゴかったっしょ!?」
女子の非難の声も空しく、ピョンピョンと大きく飛び跳ねて拓斗にアピールする玲香。当然ながら決して隠しきれる大きさでは無いその胸は、それはもう凄い事になる訳で。
「「「おーーーーー」」」
上下に激しく揺れる二つの大きなボールを見た男子達の口から野太い歓声が沸き起こる。そんな声にクラスの女子達は本気で嫌悪の声を上げ始める。
そんなカオスな状況に担当の教員が女子だけを一時休憩とさせ、男子にバスケを続けるよう促した。健全な身体と精神を作るための体育であるはずなのに、このままではあまりにも不健全な空間になってしまっていたのでその判断は致し方ないと言える。
二クラス合わせると男子は計三十人になるため、六つのチームに分かれて試合をする事になる。その際に決められたのは一試合五分という時間制限と総当たり戦という事だけであった。
とは言っても一試合に五分も掛けていては一時間の授業では全ての試合を終わらせる事など時間的に不可能なため、自動的にこの総当たり戦は二回に分けて行われる事になる。つまりは次回の体育の授業は天気関係なくバスケで確定するという事でもあった。
A~Fチームの中で今回拓斗はEのチームに属されており、同じ五人のメンバーの中にはバスケ部員が一人いたため、彼のワンマンチームだという評価を他チームの人達からはされていた。
CとDのチームの試合が終わり、コートに入った拓斗はメンバーと軽く挨拶を交わすと時間が来るまで一人で体を解していた。それを出来る限りよく見える位置まで近寄って見つめているのは彼女である玲香だ。
拓斗と同じチームになったメンバーは玲香から応援される側であるため悪い気はしないのだが、玲香の彼氏という事で拓斗に直接手を出せない分、他チーム(特に教室内でのやり取りを知らない隣のクラスの男子)からの『バスケで水崎拓斗の情けない姿を花宮玲香に見せてやろう』という悪意に満ちた一方的な怨嗟は凄まじかった。
そんな男たちの悪い意味での熱い視線を一身に受けて、拓斗たちのチームの試合が始まった。
だが皆は知らなかったのだ。拓斗は元々目立つのが苦手な人間であり、玲香と付き合い始めてからは皆に気付かれないよう今まで以上に目立たないようにしていた事を。そして玲香と付き合い、
玲香を不安にさせないと誓った彼にとって、苦手だからというのは何の障害にもならなくなっていた。
―――ピッ!
審判が真上に投げたボールを中央の円に立っていた背の高い二人の男子が同時にジャンプし手を伸ばす。
―――っ!!
僅差で先にボールに触れたのは拓斗と同じEチームの男子だった。その手に弾かれたボールをEチームのメンバーが受け取り、すぐにバスケ部員の方へパスを出そうとしたが、当然ながら相手はそこを最も警戒している。
「―――っ」
パスしてもカットされると判断した彼は、そこまでバスケが得意では無いために自分でドリブルをするよりも先にパスを優先してしまう癖があった。そのためパスを出せる仲間メンバーを先に探す事で、僅かな時間足が止まったままになってしまうという欠点が存在しており、その欠点はバスケが得意な人物にとっては絶好のチャンスとなってしまった。すぐさまその一人である相手チームの男子がボールを奪おうと詰め寄って来てしまう。
「―――水崎っ」
詰め寄られ切る前に、何とか完全フリーとなって佇んでいた拓斗の元にボールをパスする事が出来たが、拓斗がバスケが得意では無いと思っていた彼は心の中で拓斗に謝った。
何の障害も無くボールを受け取った拓斗は、ただの体育の授業とは思えない形相でこちらに向かって来る相手チームの男子に恐怖しながらも、冷静にドリブルをしながら体を捻る。そして左手で相手を牽制しつつ一瞬のフェイントをかける事で相手の重心がずれて咄嗟に動けなくなったところを狙った拓斗は―――。
玲香の目が大きく開いていく。
―――拓斗はその場でスリーポイントシュートを放った。
大きく弧を描いて飛んでいくボールを皆が動きを止めて目で追ってしまう。まさかそんな事は無いだろうと思いつつも、その結果を見届けるために。
そして、そのボールがもたらす結果を心から祈っている少女が一人。
―――ファサッ。
かくして少女の祈りは届き、その結果を全員が見届ける事となった。
その少女である花宮玲香の視線は、ボールがネットを揺らした直後から水崎拓斗へと向けられ、そして。
同時に玲香の方へ向けられた拓斗の視線とピタリと交わった。
目が合った拓斗が玲香に向けて微笑むと、玲香はその場で腰が抜けたように力なく座り込んでしまった。
玲香は自分自身でも信じられないくらいに高鳴っている胸を抑える事で精一杯になっていた。