攻めギャル-金髪黒ギャルの玲香さんは色々デカイ- 作:もすまっく
「はよー」
「玲香おはー」
あの日から一日過ぎた時にはアタシはいつも通りの日常に戻っていた。いつも通り学校に来て、いつも通り友達と駄弁って、いつも通りウザったい視線をもらいながら過ごすだけ。
それでも一つだけ変わったことがあった。
名前もクラスも分からないあの小柄な男の子。履いてた上履きの色がアタシと一緒だったから、同じ一年生なのは間違いないと思う。でもアタシよりもずっと小柄なその男の子は、教室に来るまでにこっそり横目で探すだけじゃ全然見つからなくて。
「何かテンション低いじゃん玲香」
「そんなことないし」
「あっ、そいえばさ?昨日のあれどうだったん?」
「昨日……?」
―――本当に大丈夫なんですか!?
ほんの一瞬だけ、自分の胸が高鳴った。
―――僕にはどうしても花宮さんが大丈夫なようには見えないんです!!だから!!
顔が熱くなる。じんわりと体全体が火照っていってるようにも感じられた。
「聞いてんの玲香?」
「―――っ!えっあっ、なんだっけ?」
「アンタ大丈夫?なんか顔も赤いしさ?熱あるんじゃない?」
「だ、大丈夫だし。なんかちょっと熱いだけ」
「ふーん、それならいいけどさ?で、どうだったの?」
「な、なにが?」
「だから昨日玲香呼び出されたじゃん?付き合うの?」
「あー、あんなんどうでもいいし」
「あれ?告白じゃなかったん?」
「違う違う、ただ欲情してるだけのバカだった」
「うっわサイアク」
「だからもう昨日のこと聞かないで。マジで腹立つから」
「聞かない聞かない、ってか聞きたくないわそんなやつの話」
「でしょ」
聞かないと言われたアタシは正直ホッとした。だってこれ以上昨日の話をされたら本当におかしくなりそうだったから。もちろんそれはあんなどうでもいい男のことなんかじゃなくて。
―――あのっこれっ、か、返さなくていいですからっ!それじゃっ!
そのまま洗うこともせずに部屋の机の中にしまってあるあのハンカチ。洗剤だけじゃない、嗅いだアタシの心を落ち着かせてくれるような、そんな良い匂いのするあのハンカチ。その匂いはきっと彼の―――。
(……なんて言うんだろう……彼の名前…………)
それからずっと、アタシは彼のことを思い出しては考えるようになっていた。
それから数日が過ぎた日のこと。それは三時限目の授業が終わったあと、アタシがトイレに向かってるときだった。
――――――あっ。
ふと遠くの方へ視線を送ったときに見えたのは、あの時と全く変わらない彼の姿だった。三つ隣の教室からまるで人の影に紛れるように現れた彼の姿を見つけたとき、アタシは思わず足を止めて見つめてしまった。
――――――!
すると遠くの方にいた彼が、偶然なのかアタシの方へ視線を向けた。そのときアタシと彼はバッチリと目が合った。一秒にも満たない時間、確かにアタシと彼は見つめ合った。
―――数日前のあのときのように。
だけど彼はすぐにアタシから目を逸らしてしまった。次の授業が移動教室だったのか教科書やノート類などを筆記用具と一緒に抱えるように持ったまま、彼は何の反応も見せず向こうの方へと行ってしまった。
そんな彼の姿を見つめながら呆然と立ち尽くしていたアタシは、ふと自分の手が微かに震えていることに気が付いた。
「……なんで…………なんでアタシ…………?」
無意識の内に震えている手を口元の近くで撫でるように擦り合わせる。
「……なんで、こんなに……なんで…………?」
こうして何度も繰り返してしまう言葉。この言葉は彼がアタシから目を逸らしてしまったからではなく、なにも言わないまま行ってしまったからでもなく。
「……なんで…………?」
彼から目を逸らされたことが悲しいと、なにも言わずに行ってしまったことが寂しいと、そう感じてしまっている自分に対しての言葉だった。