攻めギャル-金髪黒ギャルの玲香さんは色々デカイ- 作:もすまっく
アタシは彼のいる教室の前をさりげなく通りつつ、彼の姿を探すのが日課のようになってしまっていた。
「(おい、あれ。マジでデケェよな)」
「(あのおっぱい好きなだけ揉みしだきてぇ)」
「(最近こっち通るよな?もしかして気になる男でもいんのか?)」
「(なわけねぇだろ。でもまぁ確かに最近よく見るよな)」
「(花宮って顔も普通に可愛いし、マジでヤりてー)」
「(そういや頼んだらヤらせてくれるっての嘘だったんだろ?)」
「(ボロクソに罵倒してそのまま帰っちゃったらしいぞ)」
「(つうか人呼び出しといてヤらせてくれは普通にキレるだろ)」
アタシを見るたびに好き勝手言いまくってる男共にうんざりしながらも、それでもアタシはやめることが出来なかった。
―――いた。
だって彼の姿を見ることが出来るから。
彼はいつものように誰かと話すでもなく、静かに席に座ったままスマホの画面を見つめていた。今は無料でいくらでも小説が読めたりもするし、多分そういうのを見ているのかもしれない。教室の外から横目でチラッと見るだけじゃ何を見ているのかまでは分からなかった。
(彼の横顔、今日も見れた)
彼のいる教室の前を通り過ぎたあと、少しだけ口元がニヤけそうになるのをアタシは気合で抑えながら歩いた。今日もただ席に座っている彼の横顔を盗み見ただけ。それだけなのにアタシの心はふわりと軽くなっていた。
―――でも。
(アタシの方……見てくれないかな……)
毎日のように見ていると、自分が彼の姿を見ているるだけじゃ満足出来なくなって来ているのがハッキリとわかる。アタシが彼を見るだけじゃない、彼にアタシを見て欲しい。あのときのようにまるでアタシを睨みつけるような強い目でアタシを。
そこまで考えてアタシはハッとして首を振る。
(男に自分を見て欲しいとか……何考えてんだろアタシ……)
さっきの男共の視線。あれがいつも自分を見る男の視線だ。アタシの気持ちなんてどうでもよくて、アタシという女の体だけを見ている視線。
彼の横顔を見て軽くなっていた心は、いつの間にかずっと重くなっていた。
◇◇◇
状況が変わったのは、あの日から一カ月が過ぎた頃だった。
いつものように彼の教室の前を通り過ぎようと、アタシがドアが開いたままになっていた教室の出入り口へ近づいたとき。
トイレに行こうとしてたのか、急に教室から飛び出して来た彼がアタシの胸にぶつかって弾き飛ばされた。
「―――あ」
突然のことでアタシは思考が止まってしまっていた。ただ目の前で尻餅をついている彼をじっと見つめてしまっていた。
「―――っててて、ごっごめんなさいっ」
飛び出して来た彼は自分に非があると考えているのか、アタシの方を見る前に先に謝罪の言葉を口にした。
「飛び出しちゃってすいませんっ、大丈夫です……か……」
謝りながらゆっくりと顔を上げていった彼は、ぶつかった相手がアタシだと気が付くと少しずつその言葉を尻すぼみにしていった。
「「…………」」
このときのアタシは内心パニックになっていて、何を言えばいいのかわからなくなってた。だっていつもみたいに教室の外から彼の姿を見るつもりだったから。でも今こうして彼は目の前にいて、目の前でアタシを見つめていて。
そんな彼をアタシも見つめ返しながら、アタシは何度か小さく口を開けたり閉じたりを繰り返した。そしてなんとか絞り出すような声でアタシを見つめている彼に話しかけることが出来た。
「「……大丈夫?」ですか?」
アタシと彼の声が被る。たったそれだけのことが堪らなく嬉しくて。でもアタシはその気持ちが顔に出ないように必死に抑えつけてた。
「……転んだのそっちじゃん。服、汚れてない?」
「え?あっはい、多分大丈夫だと思います」
「……ぶつかってごめん」
「えっいやっ!飛び出した僕が悪いのでっ!その本当にごめんなさいっ」
「……怪我とかないなら行くから」
「あっ、はっはい、心配してくれてありがとうございます」
アタシはぶっきらぼうな態度でそのまま彼と別れて教室に向かった。そのときのアタシは心臓が破裂するんじゃないかってくらいものすごくドキドキしてて。
(話しちゃった……彼に見てもらえるだけじゃなくて話しちゃった……)
冷静じゃなくなってたアタシはこのときまだ気付いてなかった。この気持ちにつけられている名前が『恋』であるということに。
―――昼休み。
いつもの四人で食堂に来たアタシ達は空いている席に座って昼食を取っていた。
「玲香、箸止まってる」
「……うん」
「いや、うんじゃなくてさ?」
「……うん」
「一口も食べてないじゃん。昼終わるよ?」
「……うん」
「ねー絵里香ー?玲香おかしくなったんだけどー?」
「いや私に言われてもさ」
「麻由美もなんか言えよー」
「なんかって何?」
「何ってなんかあるじゃん」
「だからそのなんかってのが何なのか聞いてるんだけど?」
「ループしてね?」
周りでなにか言ってるみたいだけど、アタシはずっと上の空だった。彼がぶつかったときの感触、アタシを見つめる目、アタシを心配してかけてくれた声。その全部が何度も何度も頭の中で繰り返されていたから。
そんなアタシを目覚めさせたのは、昼休みが残り五分で終わることを告げる鐘の音だった。
「あーもう昼終わっちゃうじゃん」
「んー玲香なら昼食べなくても大丈夫じゃね?」
「それはそう」
「アンタら好き勝手言い過ぎだし」
「あ、帰って来た」
「別に、最初からどこにも行ってないから」
「そういう言い方がもうそういうあれじゃん」
「……うるさい。授業遅れるから早く行くよ」
「玲香ってこんな分かりやすかったっけ?」
「うるさい」
アタシは一口も手を付けなかったパスタを近くにいた運動部の男子にあげた。なんかすごいうるさくてウザったかったけど、このまま捨てるのはもったいなかったから。
食堂から教室に戻る途中、隣を歩いていた麻由美が反対から歩いて来た女子とすれ違う際、ちょっとだけ肩がぶつかりお互いに謝っているところを見た。
「あっごめん」
「ごめんなさい」
その瞬間、彼とぶつかったときの光景がフラッシュバックする。それと同時にアタシの中でなにかが強く煌めいた。
「―――ぁ」
「どうかした玲香?」
「……なんでもない」
「そう?」
「うん、ホントになんでもないから」
「そっか」
アタシが漏らした声に反応して聞いて来た麻由美は、アタシがそう言うとそれ以上はなにも言って来なかった。アタシには麻由美のその気遣いがすごくありがたかった。
―――だってこのときのアタシには、今のアタシとたっくんの関係を形作るための、とても大切で、とても重要な閃きが駆け巡っていたから。