攻めギャル-金髪黒ギャルの玲香さんは色々デカイ- 作:もすまっく
あれから二週間が過ぎた。結局アタシはタイミングを見て近づいた彼に一度だけ胸をぶつけるくらいしか出来ていなかった。理由としてはそもそも教室が遠いというのと、あれ以来彼がアタシを少し警戒しているみたいで二人っきりになれるタイミングが全然無かったからだ。
でもそんなときだった。その日アタシが一人で二階から一階に階段を下りてってるとき、同じく一人で彼が階段を上って来るのが見えた。
――――――!
彼は一瞬だけこっちに視線を向けた。二階から下りて来るのがアタシだと気付いた彼は少しだけ驚いたような顔をして足を止めたけど、すぐに視線を逸らして何事もなかったかのようにまたすぐに足を動かして階段を上り始めた。
アタシはたった今自分が降りて来た二階の方に視線を送って、誰も来ていないことを確認する。そしてまたすぐに下にいる彼に視線を戻した。下には彼以外に誰もいない、つまり今この場ではアタシと彼は二人っきりということだった。絶好のチャンスだと思ったアタシは、階段を降りながらそっと彼の方に近づいて行く。
―――スッ。
すると彼は近づいたアタシの気配を感じたのか、アタシから壁の方へ距離を取るように一歩動いた。
―――ススッ。
アタシは彼が離れた距離より一歩多く近づいた。
―――スッ。
すると彼がまた一歩距離を離す。
―――スススッ。
今度は二歩分多く近づいた。すでに彼はすぐ隣が壁になっていてこれ以上アタシと距離を取れない。
―――ピタ。
すると最後のあがきなのか、彼は自分の背を壁にくっつけて僅かに隙間を空けるようにしてそのままアタシの横を通り過ぎようとした。そんなにアタシと近づきなくないのかと、アタシはちょっとだけムッとして声をかけた。
「……ねぇ」
彼はまさか声をかけられるとは思っていなかったのか、すごくビックリした顔でアタシの顔を見た。その直後に一瞬だけアタシの胸に視線がいってたのはバレバレだったけど、でもどうしてか他の男子に見られてるときと違って全然不快だとは思わなかった。
「は、はい?」
アタシは壁を背にしていてこれ以上後ろに下がれなくなっている彼の方に体を向けて胸を押し付ける。
「えっ?あっあのっ」
壁とアタシの胸に挟まれた彼は完全に身動きが取れなくなってしまっていた。それでも彼はせめて顔だけはと、なんとか横に逸らして顔が正面からアタシの胸に埋まらないようにしていた。カワイイ。
「なんで逃げんの?」
「に、逃げてないですっ」
「アタシが寄ったら離れたじゃん」
「いやっ、それは邪魔になると思ったのでっ」
「なに?アタシがデカイからってこと?」
「ち、違いますっ。あのっ、それよりもそのっ、むっ、胸がそのっ」
「胸がなに?」
彼は顔を真っ赤にしながら出来るだけ胸に顔が当たらないようにしているみたいだった。ぶっちゃけ完全に無駄な抵抗だったけどそんなところがすごく可愛いかった。
「むっ、胸がそのっ、あ、当たってっ」
そんな無駄な抵抗をしている彼は、ぎゅっと目を瞑ってアタシの胸を見ないようにしながら答えてくれた。そんな彼を見てアタシはもっと困らせたくなった。
「ねぇ」
「はっはいっ」
「当たってるんじゃなくて、当ててるって言ったらどうする?」
「ふぇ?!いやっ、えっと、そのっ」
ふぇって言った。もう可愛い過ぎる。もっと困らせたい。
でもこれ以上は誰か来るかもしれないし、彼に嫌われてしまうかもしれない。そう思ったアタシはゆっくりと彼から体を離す。
「なんて、冗談だから」
「あっ、そっそうですよねっ」
焦っていた様子の彼がホッと一息ついて、心から安堵した表情をアタシに見せてくれた。カワイイ。
アタシはポケットに大切にしまっていた物を取り出して彼に差し出した。
「これ、返す」
「―――ぁっ」
アタシが手に持っているのは、あの日、彼から手渡されたハンカチだった。ホントは返したくなかった。だってあのとき彼がアタシに向けた瞳が、アタシに言ってくれた言葉が、あれは決して夢なんかじゃないんだってことを証明してくれてたのがこのハンカチだったから。
でも、アタシはこれを返すことにした。
アタシの手にあるハンカチを見た彼は、どうしてか少しだけ寂しいような、悲しいような、そんな色をその瞳に浮かべていた。
そんな彼がアタシの手の中にあるハンカチに触れたとき、アタシは意を決して彼に声をかける。
「ねぇ」
ハンカチに手を触れたまま、彼は顔を上げてアタシの目を見つめた。
「名前、教えて」
彼の目が大きく開かれていく。
「あの日、アタシを花宮さんって呼んだでしょ?あなたはアタシの名前を知ってるのに、アタシはあなたの名前を知らない。だから教えて」
アタシは彼と目を見つめ合いながらじっと待ち続けた。
長いような短いような、そんな時間が過ぎたとき彼は震えるようにその唇を動かした。
「―――み、水崎、です。水崎、拓斗って言います」
―――やっと知れた。彼の名前。
「……水崎、拓斗」
彼の名前をアタシは噛み締めるように呟いた。
「……さっきも言ったけど、アタシの名前は花宮―――」
「玲香さん……ですよね?」
そう言ったときの彼の瞳からは、さっきの悲し気な色も寂しげな色も無くなっていて。
代わりにあったのは、少しの気恥ずかしさと喜びの色だった。