セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
「ここですか?」
「そ、アタシが住んでるとこ」
玲香さんが指さした先にあるのは、国内有数のオートロック式の有名なマンションだった。
「有名なマンションじゃないですかっ」
「パパお金もってるし」
「なんか急に玲香さんと距離が開いたような気が……」
「離れようとしても離さないし、逃げても連れ戻すよ?」
「わ、わー愛されてるなー」
「当たり前じゃん?」
玲香さんに繋いでいる手を引っ張られながら、僕は目の前の立派なマンションの中へと入っていく。
オートロックのドアは見るからに頑丈そうで凄く重量感を感じさせるものだった。手前に一つと空間を挟んで奥に一つという二重構造になっており、片方が閉まらないともう片方が開かない仕組みとなっていて、入る時も出る時も大変そうだなとそんな感想を抱いた。
エレベーターに乗り込むとお姉さんの声でアナウンス流れる。僕はそれを軽く聞き流しながら玲香さんが三階のボタンを押すのを隣で見ていた。
振動をほとんど感じる事無く滑らかに動いているエレベーターは、あっという間に三階まで辿り着いてしまった。目的の階へ着くとドアが開きますというアナウンスと共にエレベーターのドアが開く。僕は玲香さんに手を引かれながら彼女のすぐ後ろをついて歩いていく。
「着いた。ここがアタシが住んでる部屋」
「三〇七号室、結構奥の方なんですね」
「住む場所選ぶときにアタシがその方がいいってパパに言ったからね」
「そうなんですね」
その部屋番号が彫られているプレートを何も考えずにぼーっと見ていると、玲香さんが動いていない事に気付く。自分の住んでいる部屋の前まで辿り着いたというのに玲香さんは中へ入ろうとせず、手を離そうともしない。どうしたんだろうと玲香さんの顔を見ると、彼女の顔は赤くなっていて何かに耐えている様にも見えた。
その様子に少し違和感を感じた僕が玲香さんに声を掛けようとした時、玲香さんの方から口を開いた。
「たっくんさ?」
「は、はい?」
「あんなこともできるんだね?アタシびっくりしちゃった」
「えっと、あんな事って?」
顔を赤くしたままの玲香さんは握っていた手を離すと、そっと僕を胸に抱き寄せる。僕の頭の中が玲香さんの匂いで充満する。
「後ろからあんなに激しくしちゃってさ……たっくんのヘンタイ」
僕は咄嗟に弁明しようとしたけれど、彼女の胸に包まれている状態ではただ息をすることしか出来なかった。もしかしたら敢えてそうなるように抱きしめて来たのかもしれない。
「びっくりしたけど、でもすごく気持ち良かった」
彼女のその言葉に、僕は心の中でごめんなさいと謝りながらも安心していた。流石に少しやり過ぎたんじゃないかという不安も僕の中には残っていたからだ。
「何度も意識飛ばされたせいなのかな?ここに来るまで何度か膝から力が抜けちゃってさ。危なかったんだよね」
抱き締められて動けない僕は、即座に心の中で土下座した。少しどころじゃなく完全にやり過ぎていた。
「だから決めたの。たっくんがそのつもりならアタシだって手加減しないって」
「んーっ!?」
「ダーメ、たっくんからの反論は受け付けないから」
「んーんーー!」
「あはっ、たっくんの大好きな玲香ちゃんの匂いだぞー?」
玲香さんは更にぎゅっと強く僕を抱き締める。
「アタシだって、たっくんにもっと満足して欲しいんだからね?」
最後にキスをして別れた僕は、一階へ降りるためにエレベーターの前で待っていた。エレベーターが到着してドアが開き、これから乗り込もうとしたところでスマホから通知音が聞こえた。何だろうと思いすぐに確認した僕は思わず吹き出してしまった。
『明日はどれがいい?』
という文字と共に真っ赤なものや黒く透けているものなど、いくつかの下着の写真が添付されていたからだ。
「れ、玲香さん……!」
全くあの人はと思いながら黒でお願いしますとメッセージを返す。返してからふと学校にあんな透けてる下着を着けて来させるのはまずいんじゃないかと思ったけれど、やっぱりなしでと言ったところで玲香さんの事だ、逆に履いて僕を困らせようとするに違いないので諦めた。
別れ際の玲香さんとのやり取りや今の玲香さんとのやり取りで浮足立っていた僕の頭の中からは、とある事が完全に抜け落ちてしまっていた。
それは部屋番号のプレートをぼーっと眺めていた後の事。動かない玲香さんを不思議に思って見た時に感じた、ほんの少しの違和感だった。
「花宮は体調不良で今日は休むと親御さんから連絡があった。皆も体調管理には気を付けるように」
翌日の学校で玲香さんが登校してこない事に疑問を持っていた僕は、連絡事項として先生の口から聞かされたその内容に体が芯から冷えるのを感じた。
朝にその話を聞いた時から一切授業内容や他人の話が耳に入らなかった僕は、ずっと玲香さんの事ばかりを考えていた。時間が経つにつれ僕の中には不安と焦燥感だけが溜まり続けていく。
(寒気が止まらない。このままだと僕の体調もおかしくなっちゃいそうだ。早く急いで何とかしないと)
徐々に自分の体調にも異変を感じて来た僕は、こうなっている原因である玲香さんの体調不良の詳細を知るために先生の元へ急いだ。体調不良という言葉だけではどんな状態なのかが分からず、いつまでも不安や恐怖が無くならないからだ。
「ん?どうした水崎、珍しいな?」
「あ、どうも先生。あの花宮さんなんですけど」
「花宮?花宮がどうかしたのか?」
「えっと、実は今日貸してた物を返してもらう約束をしてたんですけど休んでるじゃないですか?それで花宮さんの体調不良っていうのが、結構時間が掛かるような重いものなのかが気になって」
「貸してたってお前、ひょっとして花宮に何か無理矢理……いや見た目は派手だが花宮はそんなやつじゃないか。何、ただ珍しく熱が出たってだけだ。数日か早ければ一日二日もあれば元気に登校して来ると思うぞ」
「―――っ!!」
先生の話を聞いた瞬間、積もり続けていた不安が一気に消え心が晴れて行くのを感じた。
「そうですかっ!じゃあすぐに良くなるんですね!教えて頂きありがとうございました!」
「お、おう。お前も後で急ぎになるような大事なものを余り人に貸すんじゃないぞ」
「はい気を付けますっ。それじゃ先生ありがとうございましたっ失礼しますっ」
職員室のドアを静かに閉めた僕は大きく安堵の息を吐く。
「良かった。本当に良かった」
不安で胸が押しつぶされそうになっていた僕の心はすっかり元通りになっていた。
「でも、熱って事はやっぱり昨日お風呂場で長時間湯船に浸からずに濡れたままだったから……?」
だとするなら僕にも責任があるはず。幸いな事に昨日玲香さんを部屋の前まで送った事で、そこまでの道と部屋の番号ははしっかりと覚えている。
「よし、学校が終わったら玲香さんの様子を見に行こう。状況によっては看病とかもしてあげられるかもしれないし。そうだ、玲香さんのマンションに向かう前に先にドラッグストアに寄ろう」
学校が終わった後の予定を決めた僕は、熱が出ている時に必要となるであろう物をスマホで調べてピックアップしながら教室へと戻って行った。
放課後になり予定通りドラッグストアへと足を運んだ僕は、スマホを確認しながらドラッグストアの中を歩き回り、カゴの中に目的の商品を見つけ次第入れていく。
「えーっと一応これも。あっあとあれも買っていこう」
買おうと決めていた物を全てカゴに入れた僕は、他に何か目ぼしいものは無いかと店内を適当に見て回っていると、とある物が視界に入り思わず足を止めてしまう。
それは『世界最薄』の文字が書かれたポップと共に置かれている四角い箱。
「…………」
チラリと周囲を確認した僕は、無言のままそれをそっとカゴの中に入れた。
まさか初めて来たその翌日にまた来ることになるとは思っていなかった僕は、買い物袋を手に下げ玲香さんの住むマンションの入口を見上げていた。
「……よし、行こう」
入り口にあるパネルの前に立ち、玲香さんの部屋の番号をタッチしてからコールボタンをタッチする。
何度か音がなるとガチャっという音が聞こえたので、声が裏返らないよう落ち着けと心の中で自分に言い聞かせながら、取り付けられているカメラに向かって声を掛ける。
「あっあの、僕は玲香さんの同級生で―――」
最後まで言い切る前に、オートロックのドアが静かに開いて行く。僕はカメラの方に向かって少し頭を下げてから中へと入り、今開いたドアが閉じるのを待ってもう一度同じことを繰り返した。
エレベーターに乗ると昨日聞いたものと全く同じアナウンスが流れる。僕は少しだけ緊張しながら玲香さんが押したのと同じ三階のボタンを押した。エレベーターのドアが閉じるとすぐに動き出し、僕の体に僅かな重力をかけながら静かに昇っていく。
三階へと辿り着いた僕がエレベーターから降りたその時、足早に駆ける音が聞こえて来た。マンションの住人かと思い僕がその足音がする方へ視線を向けると、顔が赤いままの玲香さんが、それはもう激しく揺らしながらこちらに向かっている姿が目に入った。
「れ、玲香さんっ!?駄目ですよそんな走ったりなんかしたらっ!」
彼女は僕に体当たりをするかのように飛びつくと、絶対に離さないと言わんばかりに強く抱き締めて来た。僕はそんな彼女をしっかりと抱き止め優しく声を掛ける。
「あまり無茶しないでください玲香さん」
「…………」
「本当は昼にでも連絡しようと思ったんですけど、もし玲香さんが寝てたら起こしちゃうと思ってやめたんです。でもどうしても玲香さんの様子を確認したくて。それで学校が終わってからそのまま直接来ちゃいました」
「…………」
玲香さんは何も言わず、僕に顔を擦り付けている。
「でも本当に良かったです。こうして玲香さんの姿を見る事が出来て……本当に」
何も言わないまま甘えるように顔を擦り続けている玲香さんの頭をそっと撫でる。
「玲香さん、そろそろ部屋に戻りませんか?玲香さんさえ良ければ、僕も一緒にいますから」
「……うん」
素直に僕の言う事を聞いてくれた玲香さんと共に、僕は玲香さんの住む三〇七号室の部屋の中へと入っていった。