攻めギャル-金髪黒ギャルの玲香さんは色々デカイ- 作:もすまっく
「たっくんまたね?」
「はい、また明日」
学校の帰り道、いつもの分かれ道で僕を抱きしめてから名残惜しむように手を絡ませていた玲香さんは、僕の手を離したあと何度も僕の方を振り返りながら駅の方へと向かって行った。
毎日こうして別れる寂しさを感じるのは辛いけれど、その辛さが明日また会えるという気持ちを強めてもくれるので中々難しい感情だなと思う。
「いられるのなら、一緒にいたいんだけどね」
自分の正直な気持ちを呟くように吐露しながら、僕は玲香さんとは違う方向へと向かって歩いて行った。
◇◇◇
「ただいま母さん」
「おかえり」
「あれ?」
「うん?」
「いや、今日ってなんかあったっけ?」
家に帰った僕の目に映っているのは、テーブルの上に並べられている買って来たばかりだと思われるいいお肉の数々だった。基本的に母さんがこんな量のお肉を用意するときは何かをお祝いするときだというのが僕の認識だったので素直に驚きながらも気になった。
「うん、とてもいい日だよ」
「あっ結婚記念日とか?」
「それはまだ」
「え?違うの?」
「違うよ」
「えー?なんだろ?誕生日でないしなぁ」
「後でちゃんと説明するよ。先にお風呂入っておいで」
「うん、わかった」
母さんが説明すると言ったのなら説明してくれるんだろうと、僕は考えるのをやめて自分の部屋に向かう。
机の横に鞄を置き、ハンガーに掛けた制服をいつもの場所へ吊るして置く。そして替えの下着を持って浴室へと向かった。
お風呂に入ってスッキリサッパリとした僕は、冷蔵庫から持って来たお茶を机の上に置いた。そして鞄から教科書とノートを出して今日の授業の復習をする。
なんせ玲香さんと見つめ合っていたことで完全に聞き逃したところがあり、訳が分からないところがいくつかあったからだ。
「取り合えずこれは今の内に終わらせちゃおう」
僕はお茶を一口飲んでからシャーペンを持ってノートに書き始めた。
◇◇◇
シャーペンで書く音とページを捲る音だけが静かなこの部屋で鳴っている。
―――カラン。
時折混じって聞こえるコップの中の氷が動く音。
僕はこの静かな時間が好きだった。元々一人でいることが多かった、というかそれが僕にとっての日常だったから。
だからもしかしたら好きというのとは違うのかもしれないけど、それでも嫌いかと言われたら絶対に違うので、きっと好きなんだと思う。
今もこうして静かな部屋の中で一人で勉強をしていることに、僕自身何の不満も感じていない。不満は感じていないけど、一つだけどうしても気になってしまうことがある。
―――あはっ、たっくん!
書いていたシャーペンの動きが止まる。
それは好きなはずのこの静かな時間に訪れる、ふとした寂しさだった。
「……玲香さん」
ポツリと呟いたのは彼女の名前。僕の心を捕らえて離さない最愛の人の名前。
一人が当たり前だった。
一人でいるのが気楽だった。
一人でいるのが、寂しくなった。
時計に視線を向けるとすでに時間は十九時を過ぎていた。僕はシャーペンをノートの上に転がして、椅子の背もたれに背を預けるようにしながら背を伸ばす。そしてすぐに机の上に突っ伏した。
「……明日会えるまでまだ十時間以上もあるのか」
頬を机の上にくっ付けるように突っ伏していた僕は、ずっと追いかけて来る寂しさから逃げ回っていた。そうでもしなければ、その寂しさに捕まった僕は今すぐにでも家を飛び出して行ってしまいそうになるからだ。
「(拓斗?起きてる?)」
そんな僕の耳に部屋をノックする音と母さんの声が聞こえた。
「母さん?起きてるよ」
「(そう。夜ご飯出来てるから早めに下においで)」
「あっそっかご飯まだだった。すぐ行くよ母さん」
母さんが静かに遠ざかっていくのを感じながら僕は手早く机の上を片付ける。そして部屋のドアを開けて電気を消した僕は、そのまま静かにドアを閉めて一階に下りて行った。
テーブルの上にあるのは焼肉を焼くプレートと、焼き肉用に切り揃えられているお肉と野菜の数々だった。当然そこには僕の好きな焼肉のタレもちゃんと用意されている。
正直言うと凄く嬉しい。焼肉は大好きだしあのタレで食べるお肉と白いご飯の愛称は抜群だからだ。でもそれよりも僕はいつもとは違うその量に疑問を持った。
「母さん?何か量多くない?」
「そう?」
「うん、だって僕も母さんもそこまで沢山食べないじゃん」
「そうかもね」
「いや、かもねって……父さんに残り全部食べさせるつもりなの?」
「真くんはこんなに食べられないよ」
「えぇ?じゃあ何でこんなに―――あっ」
そこまで言って僕は先程の母さんとのやり取りを思い出した。
「そういえばいい日の説明まだ聞いてなかった。教えてくれるんだよね母さん?」
「うん教えるよ。でもまずは食べようか」
「……本当に教えてくれるんだよね?誤魔化そうとしてない?」
「本当に教えるし、誤魔化すつもりもないよ。とりあえず今は食べよう」
「……わかった。えっと、それじゃあ頂きます」
取り合えず目についたお肉をトングを使ってプレートの上に置いた。
―――ジュワァァッ。
お肉が焼ける気持ちのいい音と香ばしい匂いに、僕のお腹がまだかまだかと踊り始める。焼くのに時間が掛かるので野菜もいくつか適当に並べた僕は、最初に置いたお肉が焼けたのを確認して取り皿へと移す。
そして箸を手に取りお肉を掴もうとしたその時だった。
「はい、たっくん白いご飯」
「あっありがとうございます玲香さん」
「どういたしまして」
炊き立ての白くて温かいご飯の入ったお茶碗を受け取った僕は、今度こそお肉を箸て掴んでタレに漬ける。
そしていよいよ最初の一口目を頂こうと口を開いた時に違和感に気付く。
今、何か変なやり取りがなかっただろうか?
そう思った僕は口を開けたまま隣へ顔を向ける。するとそこにはエプロンを身に着けた玲香さんが、隣の椅子に座りながら僕を嬉しそうに見つめている姿があった。