攻めギャル-金髪黒ギャルの玲香さんは色々デカイ- 作:もすまっく
名前を聞いたあの日から、アタシは本格的に彼にえっちないたずらをするようになった。
例えば階段を上って来る彼を見つけたとき。
彼が上って来る階段の少し先で待ち構えてたアタシは、彼が階段の踊り場まで来たときに見上げるその瞬間を狙った。
狙い通り踊り場まで来た彼が一瞬だけ階段を見上げたとき、その視線の先にいたアタシはスマホを拾う振りをして前に屈んだ。
ほんの一瞬だったけど、アタシのスカートの中に彼の視線が吸い込まれた。
そのときに盗み見た彼の真っ赤な顔はとても可愛かった。
例えば彼が図書室に入って行ったのを見かけたとき。
本棚の前で何かの本を探しているその後ろから、アタシは背を伸ばして自分の大きな胸を彼の後頭部に押し付けるようにしながら読みもしない高い位置にある本を取った。
そのときの彼はやっぱり顔を赤くしてて。
学校の中でも学校の外でも遠慮なく突き刺さる、まるで刃物のような多くの視線は本当に不快そのものだった。
下心しか感じられない視線に何度も心が折れそうになった。
それなのに、どうしてか彼にだけは見せたくて仕方なかった。
彼にだけはもっと触れて欲しいと思ようになっていた。
流石のアタシでも、これが恋によるものなんだと理解するのにそんなに時間はかからなかった。
そして自分の中にあったその気持ちに気が付いたとき、学校の中で偶然アタシは見てしまった。彼がどのクラスなのかも分からない女の子と話している姿を。
―――その瞬間、世界が凍りついたように冷たくなったような気がした。
それを目にして以来、アタシは彼とその子との関係が気になって仕方がなかった。寝るときも、お風呂のときも、友達と話すときも。
ふとした瞬間に浮かんでくるあのときの光景。その光景がアタシの中を不安でいっぱいにしてしまっていた。
あの子は誰なんだろう?彼女?それとも知り合い?ただのクラスメイト?
アタシは気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって気になって仕方がなくなって。
自分でもどうしようもないくらい気持ちが強くなったアタシは決意する。
待っているだけじゃ良いことなんてない。アタシはあの男から呼び出されたあの日にそれを学んだから。
女の子の憧れを待つんじゃなくて、女の子の方から憧れを手に入れる。
―――アタシから、攻めに行く。
彼に名前を聞いて以来、アタシと彼は偶にではあったけどこっそり隠れて話すような関係になっていた。
だからアタシは、その関係を利用して彼に聞くことを決めた。
彼の方から話しかけて来ることは無かったけど、それでもアタシから話しかければ彼は素直に答えてくれることがわかっていたから。
彼は学校では大体いつも一人でいたから、だから周りに誰もいないタイミングを見つけて声をかけることは簡単だった。
―――その日も一人でいた彼にアタシは声をかけた。
「ねぇ」
「あ、花宮さん」
アタシは手に持っているパックジュースを一つ彼の顔の前に差し出した。
「あげる」
「え?い、いいんですか?」
「うん」
「えっと、ありがとうございます。頂きます」
「うん」
パックジュースを手渡す時にちょっとだけ触れた彼の指先。その感触だけでアタシの心が少しだけ温かくなった。
二人でパックジュースにくっ付いているストローを剥がし、そのストローを銀色の小さくて丸いところに突き刺してから口を付ける。
―――爽やかなストロベリーの甘酸っぱさとミルクの滑らかさが、アタシの喉と心を優しく潤してくれた。
「おいしい?」
「はい、凄く美味しいです」
「そっか。良かったじゃん」
「いえっその、ありがとうございます」
彼に気付かれないようにアタシは萌絵袖にして手を隠していた。このときのアタシの手は、ほんの少しだけ震えていたから。
だって、もしアタシがそうであって欲しいと願う答えとは違う答えが彼の口から聞かされたら。
―――それでも、アタシは。
「……あのさ」
「あっはい?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「聞きたいこと、ですか?」
「うん」
「えっと、僕が答えられることなら……?」
―――よし、と思った。
あとは彼女との関係を聞くだけ。そして出来ることならあの子が彼女じゃかなったとき、付き合っている彼女がいるのかを聞くこと。
たった二つのことだけを聞けばいい。
そう思ったアタシが口を開いたとき、アタシは彼にそれを聞くことが出来なかった。
言いたいのに、聞きたいのに、声が出ない。
彼とあの知らない子が話している姿は本当にお似合いで。そのときの彼の優し気にあの子を見つめる瞳が、安心したように目元を和らげているあの子の顔が、アタシの声を喉から先へ進むことを塞き止めている。
「―――さん?」
もしあの子が彼女だったら?
「―――宮さん?」
例え彼女じゃなかったとしてもあんな小柄で可愛らしい子がいるのに、男子みたいにデカイ女であるアタシを好きになる?
「―――花宮さん?」
いきなり胸を押し付けたり下着を見せて来るような、そんな痴女みたいな女を好きになる?
そう考えた瞬間、アタシは彼と彼女が一緒にいるのを見たときよりも遥かに強い悪寒に震えが止まらなくなった。
―――寒い。
――――――すごく、寒い。
―――――――――寒いよ。
「玲香さんっ!!」
寒さで震えるアタシの中に、温かい火が灯った。