攻めギャル-金髪黒ギャルの玲香さんは色々デカイ- 作:もすまっく
ふっと意識が浮かび上がり、目を開いたアタシの視界の中に頭を泡だらけにしているたっくんの姿が目に入った。
シャコシャコと泡だらけになっている頭を優しく揉み解すように手を動かしているたっくんの姿。
(……たっくんだ……アタシの大好きなアタシの彼氏)
湯船の縁に両腕を枕代わりにして頭を預けているアタシは、眠たい目のままたっくんを眺めていた。
座っているたっくんがシャワーヘッドを手に取って頭に付いている泡を丁寧に流していく。泡で真っ白になっていた髪の毛が、たっくんの地毛である真っ黒な髪の毛へと戻って行く。
シャワーヘッドを元の位置に戻したたっくんは、自然と湯船に浸かっていたアタシへと顔を向けてくれた。
「玲香さん?凄く眠そうですけど、やっぱりまだ寝る時間が足りてなかったんじゃないですか?」
そしてアタシが眠たい目でたっくんを見つめていることに気が付くと、彼は心配そうな顔をしながらそう言ってくれた。
「んーん、大丈夫」
「本当ですか?」
たっくんはアタシに手を伸ばして頭を撫でてくれた。
「長時間やりましたから疲労が溜まるのは当然なんですからね?絶対に無理はしないでくださいよ?」
「うん、ありがと」
―――温かかった。
さっきまで見ていたあの時の夢のアタシは、寒くて寒くて仕方なかったのに。今は湯船に浸かってる体よりも心の方がずっと温かかった。
「ね、たっくん?」
「はい?」
「アタシね?夢を見てたんだ」
「夢、ですか?」
「うん」
「それはどんな?」
「たっくんの夢」
たっくんは少しだけ驚いたように目を開いて。
「夢の中の僕は、どうでした?」
「たっくんはね?たっくんだったよ?アタシの大好きなたっくんのまま」
それを聞いたたっくんは、安心したように優しく微笑んだ。
「たっくんはさ?」
「はい?」
「アタシを玲香さんって呼ぶようになった日のこと、覚えてる?」
「はい、覚えてます」
たっくんは一切の迷いも考える素振りも無いままにそう言ってくれた。
「だってあの頃ってちょくちょく僕にえっちな悪戯をして来てたじゃないですか?いや今もですけど。それで記憶に焼き付いちゃってるんですよね」
「えー?今はしてないじゃん?」
「いやいや、普通にランジェリーショップとかあとはカフェ入って僕がトイレから戻って来たときにしてるじゃないですか?あのとき玲香さんが僕に何て言ってたか胸に手を当ててよく思い出してみてくださいよ?」
「アタシの胸に手を当ててるのはたっくんじゃん?え?もしかして遠回しに触りたいって言ってる?」
「そういう意味で言ってないです」
「やーん、たっくんのえっちー♡」
「やーんじゃないですよ玲香さん」
「あはっ、ゴメンゴメン」
「本当にもう、それで話を戻しますけど―――」
ホントに楽しい。たっくんと話してるだけで心が温かくなる。
「で、それで僕も意識するように―――」
その声を聞いてるだけで幸せだと思える。その目で見つめてくれるだけで頭が痺れるような興奮と喜びを覚える。
「―――さん?玲香さん?聞いてますか?」
「ゴメン聞いてなかった♡」
「えぇ?玲香さんから先に……いやいいんですけどね?」
たっくんはちょっとだけ呆れたような顔でアタシを見ていたけど、その瞳の奥にある愛情がちゃんとアタシには伝わってて。
「ねぇ、たっくん」
「どうしました?」
「アタシってさ、ホントに最低だなって……さっき見てたあのときの夢で改めてそう思っちゃった」
「……玲香さん」
今こうして思い返せば、アタシがたっくんにして来たことはクラスメイトの男子がアタシにして来たセクハラとなにも変わらない。
「えっちないたずらだって、いたずらって言ってるけどアタシがぶちギレたセクハラと同じ、っていうかセクハラそのものだし。人のこと言えんのかよって、そう言われても仕方ないことをたっくんにしちゃってたんだよね」
胸を押し付けて、下着を見せつけて。
偶然たっくんがアタシにその気があったから上手く進んだだけで、普通だったらきっとたっくんは深く傷ついてた。そんな他人を傷つけるようなことをアタシはたっくんにしてしまってた。
「……あのときはそれに気が付いてさ?それでアタシ、言葉も声も何もかもが出て来なくなっちゃって。だってさ?こんなセクハラするようなデカ女を好きになるわけなくない?って。そう考えた瞬間から震えが止まらなくなっちゃって。寒くて、寒くて……すごく、寒くて」
あのときに感じたあの寒さは、アタシの体の奥底から凍り付いていくようなそんな寒さだった。あんな寒さは二度と経験したくないとそう思えるほどに。
「でも、たっくんがアタシを呼ぶ声一つで全部消えちゃった。あの寒さは何だったんだろうって、そう思っちゃうくらいあっという間に消えちゃったんだよね」
だからアタシは懇願するかのようにたっくんにお願いをした。
縋るようにたっくんに抱き着いて、抱きしめて。
―――玲香って呼んで?
―――え?いやっ、でもっ。
―――お願いだから、アタシのこと玲香って呼んで欲しい……お願い。
怖かった。あの寒さがまた自分のところへやって来ることが、あのときのアタシはどうしようもないくらい怖かった。
―――えっと……玲香……さん……。
名前を呼んでくれたその声だけでアタシは自分の心も体も安らいでいくのがはっきりと理解出来た。まるで温かいベッドの中にいるような、そんな温かさに包まれているかのような感覚だった。
そしてアタシの名前を呼んでくれたたっくんが、恐る恐るアタシを抱きしめ返してくれたときのその優しさに、アタシの口からは自然と言葉が零れ落ちていた。
―――ねぇ、彼女とか、いるの?
―――え?いない、ですけど……?
―――じゃあ、アタシと付き合って。
―――え?
―――アタシが彼女になる。だからアタシの彼氏になって。
―――いやあの、その、えっと……本当に、いいんです、か?
―――うん。あなたじゃなきゃ、イヤ。
このときのアタシは自分でも驚くくらい素直に気持ちを吐き出していた。どうしてか彼ならアタシのこの気持ちを受け取ってくれると、そんな確信めいた予感がしてたから。
―――えっと、その、僕で良ければ……お、お願い、します。
その日以来、たっくんから別れを告げられるあの瞬間まで、アタシの元にあの寒さがやって来ることは一度もなかった。
「ねぇたっくん?」
「何ですか?玲香さん?」
「アタシのこと、好きになってくれてありがと」
「大好き」