セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
「あっ彩音さんアタシも手伝いますっ」
僕と一緒にリビングに来た玲香さんは、母さんが食器を並べている姿を見てすぐに声を掛けて手伝い始めた。
「ありがとう玲香ちゃん。そのお皿を並べたらそっちにあるお肉とかをテーブルにお願い出来る?」
「はーいっ」
部屋で着替えた玲香さんは柔らかくてフワモコッとした薄いベージュのショートパンツに胸元がパツパツになっている白いシャツ、そしてそのシャツの上に大きめのフワモコッとした薄いベージュのカーディガンを羽織っている。
カーディガンとショートパンツはセットで買ったものなのか、小麦色の肌にとても良く似合っている。
食卓の準備している玲香さんの姿を見た僕は、その場で立ち尽くしていた。まるで結婚して一緒に暮らし始めた新妻のような姿に感動していたからだ。
「いい光景だな拓斗」
「っ!?と、父さんいつの間に!?」
突然そんな事を言われ驚いた僕が隣を見ると、晴れやかな表情で涙を流している父さんが立っていた。
「拓斗よくやった。僕はこんな光景を見る事が出来て本当に幸せだよ」
「いや父さんのために付き合ってる訳じゃ無いけどね?」
「分かっているさ。でも素晴らしい事じゃないか。あんな綺麗な女性を自分の息子が彼女と言って連れて来てくれた、それはつまり僕の娘になるという事だからね」
「父さんが喜んでくれるのは嬉しいし安心したけどさ?父さんはその、玲香さんの見た目とか気になったりしないの?」
「拓斗、お前は何を言っているんだ?」
本当に何を言っているのか分からないといった顔をした父さんが僕を見る。
「え?いやだって玲香さんってその、金髪だし……ギャルだし……」
「はあぁぁぁ……」
本当に呆れたと言わんばかりに長く深い溜息を吐いた父さんは、やれやれと言った表情で首を横に振った。
「我が息子ながら何と想像力の無い。父さんは残念で仕方が無いよ」
急に馬鹿にされた僕は思わずむっとしながら父さんに聞き返す。
「想像力が無いってどういう事さ?」
「そんな事決まっているじゃないか拓斗」
父さんは仕事で大切な案件を扱っている時のように真面目な表情をして言った。
「金髪黒ギャルは、男の夢だろう?」
この日から僕は父さんを尊敬するのをやめた。
途中から手伝いに参加して玲香さんと楽しく食事の準備を進める事が出来た僕は、玲香さんの椅子を引いて先に座らせてからその隣に座って手を合わせる。
「「いただきます」」
「たくさん食べて」
「んー!おいひいです彩音さん」
「それは良かった。喉につまらせないように気を付けて食べて?」
「ふぁーい」
頬を膨らませてとても美味しそうに食べている玲香さんは小動物のようでとても可愛らしい。僕より大きいけど。
「それにしても母さん結構奮発したんだね。このお肉すごい美味しい」
「こういう時くらい良い物を用意しないと格好がつかないからね。それにこうして玲香ちゃんと会って話が出来ただけで十分に元は取れてるよ」
「……ごめん母さん、黙ってて」
「構わないよ。寧ろ一人の母親として拓斗が玲香ちゃんを彼女として連れて来てくれた事がとても嬉しい」
「……うん」
父さんと同じように玲香さんを歓迎してくれた母さんに、少し込み上げるものを感じながら器に入れたお肉を食べようとした時、隣から突然鼻をすする音が聞こえた僕は思わずそちらを見る。
するとそこには玲香さんが箸を止めたまま目を潤ませ、じっと母さんを見つめている姿があった。
「玲香さん?」
「あっ……えっと……。ただちょっと、何ていうかすごい安心しちゃって」
玲香さんは口元を少し震わせながら袖で目元を拭った。
「アタシもその、ずっと挨拶しなきゃって思ってたんです。でももしたっくんと付き合ってることを反対されたらって、そんなことばっかり考えちゃって……。それで結局今日までたっくんにも言い出せないままで」
母さんはじっと玲香さんを見つめながら耳を傾けている。
「だからたっくんから相談されたときチャンスだって思って、それで思い切って挨拶しよっかってたっくんに言ったんです。たっくんとシてたときの声が聞かれちゃってたなら、もういっそのことそれを口実に押し通せばいいじゃんって思って」
パワープレイで突っ切るつもりだったのか玲香さん。
「でもこうして彩音さんと会って話して、アタシ何をそんなに不安に思ってたんだろうって。もっと早く挨拶すればよかったって……。それで今の彩音さんの言葉を聞いたらなんかすごく安心しちゃって気が付いたらえっと、あははっ」
最後に誤魔化すように笑う玲香さんに、母さんは優しく声を掛ける。
「玲香ちゃん」
「……ぐすっ……はい……?」
「さっきも言ったけど、私にとって玲香ちゃんはもう娘も同然なんだ。だからこれからは遠慮しないで何でも相談してくれると嬉しいよ」
「―――はいっ!」
その時の玲香さんはとても綺麗で、心から嬉しそうな笑顔でそう言った。
◇◇◇
楽しく会話をしながらの食事を終え、玲香さんを先にお風呂へ入るように促した僕は、部屋へ戻ろうとしたところを母さんに呼び止められる。
「拓斗」
「うん?」
「少しいいかな」
「うんいいけど、どうしたの?」
「拓斗とちゃんと話をしておこうと思って」
「話?」
「そう、とても大切な話」
落ち着いた様子で話す母さんからは、明確な怒りの感情を僕は感じ取った。
「大切な……話?」
「玲香ちゃんの事」
心臓が一度だけ大きく跳ねた。
「玲香さんの……?」
じんわりと手の平が汗で湿っていく。母さんから伝わる怒りの感情は何よりも恐ろしかった。
「どうして玲香ちゃんの事を黙っていたの?」
母さんの言葉に僕は困惑する。なぜなら食事の時、黙っててごめんと言った僕に母さんは『構わない』と言ったからだ。
「私が言っている意味が理解出来ない?」
困惑したまま固まっている僕に、母さんは仕方が無いといった様子で一つ溜息を吐いた。
「さっきあの子がどうして涙を流したのか、貴方は本当に理解出来ている?」
「…………」
「そう。なら質問を変える。私も厳しく言うのはあまり好きじゃ無いけれど、この際だから仕方が無い」
ただでさえ緊張していた体が更に強張るのを感じた。
「拓斗。貴方は玲香ちゃんを不安にさせていた事をどう思ってる?」
母さんの言葉に僕は冷たい刃を体に差し込まれたような感覚がした。
「あの子が感じていた不安や流した涙はね拓斗?貴方が私達に黙って隠し続けるという判断をして来た結果なのだという事を、本当に分かっているのかい?」
「それ、は……」
「貴方が私達に隠そうとせず、最初から玲香ちゃんをこの人が自分にとって大切な人なんだと、そう言って連れて来てくれていれば、あの子は少なくとも今日まであんな不安を感じる事は無かった。あんな涙を流す事は無かった」
母さんは淡々と、しかし強烈な言葉を持って僕を突き刺す。
「私と対面した時、玲香ちゃんはとても不安だったはず。そんな不安な状態であってもあの子は貴方を大好きだと言い切った。一切の迷いも無く私の目を見て言い切ったの」
そこまで言って母さんは、睨みつけるように目を鋭くさせて僕に問いかける。
「でも貴方は?」
僕にとって最も重い言葉を。
「貴方は、玲香ちゃんに不安を与えるような存在で居続けるつもりなの?」
「―――そんなことっ!!」
僕は喉が潰れるような声で大きく叫んだ。そんな僕の姿を見た母さんの顔が安心したように綻んだ。
「そうやって私に怒れるのなら大丈夫。あの子の為にそうやって私に言い返せるのなら貴方はまだ大丈夫」
そう言って母さんは僕に近づきそっと抱きしめた。
「……ごめん」
僕も母さんをそっと抱きしめ返す。
「……ごめん、隠してて」
母さんは誰よりも僕の事を考えてくれていて。
「怖かったんだ。紹介したいっていう気持ちはあったのに……言わなきゃいけないって分かってたのに……」
誰よりも僕の事を心配してくれていて。
「……今の僕にとって一番大切な玲香さんが……同じくらい大切な母さんに否定されたくなかった……他の誰よりも母さんにだけは……っ」
「……拓斗」
「それだけは、どうしても……僕は、どうしても怖かったんだ……」
「……ねぇ拓斗?貴方がそれを私に言えたのなら、次に何をするべきか、玲香ちゃんに何を伝えるべきなのか、理解出来ているね?」
◇◇◇
そして僕は今、曇りガラスの浴室のドアの前に立っている。当然中には一糸まとわぬ姿の玲香さんがお風呂に入っているはずだ。
そんな浴室のドアの前で立ち尽くした状態のまま、僕はここに来る直前の母さんとのやり取りを思い出す。
「拓斗、玲香ちゃんの所へ行ってあげて?」
「えっ?いやでも、玲香さんは今お風呂に」
「もうすでにそこで致しているくせに何を言ってるのかな?」
「耳が痛い話です」
「こっちのドアや窓は全部閉めて置くから存分にするといいよ」
「急に母親の言葉とは思えない事を言われた気がするんだけど……?」
「それこそ何を言っているのかな?もし玲香ちゃんと別れるような事になって、あの子が私の娘になる可能性が潰えてしまった暁には貴方を捨てるからね?」
「なん……だと……?」
つまり玲香さんを大層気に入ったらしい母さんは、浴室でゆっくりしながらたっぷりと話し合い、たっぷりと愛し合って関係を盤石なものにしろとそう言っているのだった。
「あれ?もしかしてたっくん?」
曇りガラス越しに僕の姿を見た玲香さんが声を掛けて来た。
「あっえっと、玲香さん?何か足りない物とか無いですか?」
まだ何を言おうか決まっていなかった僕は誤魔化すようにそんな事を聞いてしまった。
すると何やら浴槽から立ち上がるような水の音が聞こえたかと思うと、すぐに曇りガラスのドアが少しだけ開く。
「たっくんもお風呂に入りにきたの?だったら一緒に入ろ?」
少しだけ開いたドアの隙間から顔を覗かせた玲香さんは、僕の瞳を見つめ優しく微笑みながらそう言ってくれた。