セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
入浴が終わり玲香さんに僕の部屋で寛いでもらっている間、僕はコップを二つ棚から取り出し冷蔵庫に入っていたペットボトルのお茶と一緒に持って部屋へと向かう。
でも部屋に戻るその途中偶然この場に居合わせたのか、それとも僕が来るのを待っていたのか分からないけれど、そこにいた母さんと目が合った。
だけど僕も母さんも一言も発しないまますぐに目を逸らす。
―――次に何をするべきか、玲香ちゃんに何を伝えるべきなのか、理解出来ているね?
結局浴室では何も伝えられなかった僕に、母さんがもう一度そう言ってくれたような気がした。
◇◇◇
「あっ、たっくんおかえりー」
「ただいま玲香さん」
僕は持って来たお茶のペットボトルとコップ二つを小さな一人用のテーブルの上に置く。
そしてそのままお茶をそれぞれのコップに注ぎ入れ、一つを玲香さんに手渡した。
「はいどうぞ玲香さん」
「たっくんありがとっ」
受け取ってすぐに口を付けて飲み始めた玲香さんは、気持ちの良い音を喉から鳴らしてお茶を飲んでいた。
「んー冷たくておいしっ」
「喉乾いてるときのお茶とか水ってすごい美味しいですよね」
「わかるーめっちゃ美味しいよね」
「でも美味しいんですけど普段飲むとそこまででもないですよね」
「それもわかるー」
食事の際に着ていたフワモコッとしたカーディガンとショートパンツはそのままに、白いシャツが白のキャミソールに変わっている。
玲香さんが動く度に揺れる大きな胸は僕の視線をくぎ付けにする。
「あはっ、たっくん胸見過ぎだし」
「ごめんなさい、つい」
「さっきはあんまり触ってなかったしさ?触る?」
「寝る時に是非お願いします」
「ふふ、りょうかーい」
喉が渇いているのか嬉しそうに笑った玲香さんは、またすぐにお茶の入ったコップに口を付けた。
そんな彼女の姿を見ていると、ふと自分の手の平にじっとりとした汗をかいている事に気が付き、着替えたばかりのシャツにその汗を拭った。
そんな少しの違和感に気付いた玲香さんは不思議そうな顔で聞いて来る。
「どしたのたっくん?」
「え?あっいや、何かちょっと緊張しちゃって」
「えーなんでなんで?」
完全に寛ぎモードの玲香さんはいつもと全く変わらない様子だった。
「だってその、玲香さんがこの部屋に泊まるじゃないですか?」
「うんうん」
「それって今日寝て明日起きても玲香さんが隣にいるって事ですよね?それを想像したら何か嬉しいんだけど現実味を感じないというか……。何でかは分からないんですけどそれで緊張しちゃってるみたいな」
「ふーん、そゆことかー」
玲香さんは素直に信じてくれた様子だったけれど、僕はこのとき玲香さんに嘘を吐いた。
僕が今言った事は本当の事を隠す為のただの言葉でしか無い。
玲香さんは手に持っていたコップをテーブルの上に置くと、ベッドの上に座った状態のまま僕に向かって両手を伸ばす。
「たっくんたっくん」
「何ですか玲香さん?」
「ほらほらこっちにおいで?ほら早く」
僕は言われるがまま座っている玲香さんの脚の間に腰を下ろす。
当然後ろから抱き締められる形となった僕はそのまま力を抜いて玲香さんに背を預けた。
お風呂の時と同じように背中に感じる玲香さんの大きな胸の弾力が心地いい。
「こうしてれば落ち着くでしょ?」
「……はい、凄く」
今も僕は半分だけ嘘を吐いた。落ち着くとは言ったけれど、それ以上に緊張感も増していたからだ。
「たっくんってば甘えん坊だもんね?」
「甘えん坊です」
「ふふっ」
お風呂上りという事もあり、後ろから優しく抱き締めてくれている玲香さんからはいつもより少しだけ濃いシャンプーの香りがした。
「このシャンプーの香り凄くいいですよね」
「でしょー?アタシがいつも使ってるやつ家《うち》から持って来たんだからいっぱい嗅いで?」
「いっぱい嗅ぎます」
温かい体温と、柔らかい体と、心を落ち着かせてくれる匂い。
全てが僕を包み込んでくれていた。
全てが僕を大切にしてくれていた。
玲香さんの心も体も、鼻を通り抜ける匂いさえも。
「玲香さん」
だから言わないといけない。これからの為に。
「不安にさせてしまって、ごめんなさい」
本来は僕の口から母さんに言わなければいけなかった。
玲香さんが抱えていた不安は僕が抱えるべきものだった。
それを今もこうして温かく包み込んでくれている彼女に、僕は全てを背負わせてしまっていた。
「玲香さんだって怖かったのに、僕は―――」
僕のこの怖いという気持ち自体は玲香さんも同じだった。
母さんに玲香さんを否定される事を怖がっていたのと同じように、玲香さんは僕と付き合ってる事を反対される事を怖がっていた。
僕は玲香さんの腕をそっと外し、座っている玲香さんの方へ体を向けて正面から向き合った。
「―――お願いがあります玲香さん」
でも一つだけ、僕と玲香さんとでは明確に違う点があった。
「……たっくん?」
―――アタシもその、ずっと挨拶しなきゃって思ってたんです。でももしたっくんと付き合ってることを反対されたらって、そんなことばっかり考えちゃって……。
玲香さんは戦っていた。
―――それで結局今日までたっくんにも言い出せないままで。
否定されるかもしれない、そんな不安という名の恐怖と戦いながら、僕にも言い出す事が出来ずたった一人で抱え続けていた。
「僕と……別れてください」
―――でも僕は?
「―――ぇ?」
母さん達に黙って玲香さんを家に連れ込み、母さん達と顔を会わせないように隠し続けて来た。
不安と戦うのではなく誤魔化して逃げ続けて来た。
その結果がこれだ。
今もこうして僕は彼女を悲しませている。
大きく見開かれた目に薄っすらと溜まるその涙は、見ている僕の心に鋭利な刃物のように突き刺さる。
「……ゃ……ぃゃ……」
だから覚悟を決めた。もう二度とそんな顔をさせない為に。
「玲香さん」
「嫌っ!!」
それだけは絶対に受け入れたくない、そんな顔をしたまま涙を流す玲香さんから決して僕は目を離さない。
覚悟を持たないまま付き合ってしまった結果逃げる道を選んだのであれば、覚悟を決めて付き合わなければきっといつかまた逃げてしまうから。
「ぃゃ……嫌っ!!」
「玲香さん」
「嫌ーーーーーっ!!」
目の前の現実を否定するかのように激しく暴れる玲香さん。
そんな彼女の顔をしっかりと両手で挟み込んだ僕は、逸らそうとする玲香さんの顔を無理矢理こちらに向かせ目を合わせる。
「玲香さん」
涙でぐしゃぐしゃになっている玲香さんの顔は、そうなっている理由を知っている僕には凄く魅力的で。
「僕はもう玲香さんに不安になって欲しく無いんです。不安にさせたくないんです。だから僕と別れてください」
僕の事を本気で想っていてくれるからこそ、好きでいてくれるからこそ流しているその涙のために、僕は逃げるわけにはいかなかった。
「その上で、玲香さんに改めて伝えたい事があります」
責任を持つという覚悟から絶対に逃げるわけにはいかなかったんだ。
「玲香さん、僕と結婚を前提に付き合ってください」