セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
泣けばいいのか、それとも笑えばいいのか。
玲香さんは僕の言葉にどうすればいいのか分からない様子だった。
結婚を前提に付き合って欲しいという僕の言葉と、別れて欲しいという僕の言葉の両方をを頑張って飲み込もうとしているからだろう。
そんな頭の中がぐちゃぐちゃになってしまっている中で、それでも玲香さんは僕の瞳を見つめたままその目を離さなかった。
そして僕もまた、玲香さんの瞳から目を離さなかった。
離したくなかった。
離すわけにはいかなかった。
だって、まだ玲香さんの答えを聞いていなかったから。
僕が一方的に押し付けた別れてくださいという言葉。
それは僕にとってけじめとなる言葉だった。
今までの逃げ続けて来た卑怯な自分と別れてもらうために必要となる言葉だった。
「―――の?」
そして伝えたのはこれからの言葉。
貴女の隣に立つのは他の誰でもない僕なんだという覚悟を持ち、それを約束するための言葉。
僕が貴女と共に生きて行きたいという願いを込めた言葉だ。
「―――アタシ、たっくんと別れなくても、いいの?」
少しだけ僕の言葉を飲み込むことが出来た玲香さんが漏らしたのは、不安を消すための確認の言葉だった。
その言葉自体はとても嬉しかった。
それは玲香さんが僕と別れずに済むかもしれないと、そんな希望を持ってくれていることを証明する言葉だったから。
「―――いえ」
でもそれでは駄目なんだと僕は自分に言い聞かせる。
例えこれが自分のエゴなのだとしても、僕は玲香さんと別れなければならない。
そうじゃなければ僕は僕を許せない。
「玲香さん、よく聞いてください」
「アタシ、たっくんと別れなくても……いいんだよね……?」
「そういう訳にはいかないんです。それが玲香さんをどれだけ傷つける事になるのか僕にも理解出来ています。どれだけ自分勝手で最低なことを言っているのかもちゃんと理解出来ています。でも、それでも、どうしても別れてもらわないといけないんです」
「なんで……?なんで別れなきゃなんないの……?」
「必要なことなんです」
「意味わかんないっ!別れることが必要なんてマジ意味わかんないっ!!」
「玲香さん」
「聞きたくないっ!!」
「いいえ聞いてください玲香さん」
玲香さんの頬に付いている涙の痕を僕は指でそっと拭う。
「僕は玲香さんのことをずっと黙って来たんです隠して来たんです。それでも隠しきれずバレてしまった。そしてそのことを母さんに言われた時、僕は玲香さんのことを正直に話そうとはせずに、どう誤魔化すかということを一番に考えていました」
玲香さんは何も言わず僕を見つめている。その瞳は揺れ、唇は震えている。
「多分、というか間違いなく玲香さんが母さんに会いたいと言ってくれてなかったら、僕は今でも嘘を吐いて誤魔化し続けていたと思います。例え誤魔化しきれないと分かっていてもその道を選んでいたと思います」
あの時の玲香さんの言葉が無ければ、僕は今でも道を間違えたままだった。
「玲香さんは優しいから、そんな僕でも受け入れてくれるかもしれない。いや、十中八九受け入れてくれると思います。でも僕はそれが許せない。玲香さんの優しさに甘えて逃げ続けて来ただけの自分が、こんなに僕を想ってくれている玲香さんと何の覚悟も持たないまま付き合い続けるということが、僕には許せないんです」
だからけじめをつける。
ただの心の持ちようだと言われればそれまでの話ではあるけれど、それでは僕は納得出来ない。
自分を認める事が出来ない。
「だから、僕と別れてください。そうじゃないと僕は堂々と玲香さんの隣にはいられないから。誤魔化して逃げ続けているような最低な僕のままでは、玲香さんを本当の意味で幸せには出来ないから。だからお願いします、玲香さん」
どのくらいの時間、僕達は見つめ合っていただろうか。
数秒かもしれないし数分かもしれない。
そんな時間の感覚すら無くなってしまっている中、玲香さんは震える唇をゆっくりと動かした。
「……わか、った……たっくんと……わかっ、別れ……ます……っ」
声を震わせ、言葉に詰まり、鼻声となりながら、それでも玲香さんはしっかりと僕を見つめながらそう言ってくれた。
「……ありがとうございます、玲香さん」
僕は玲香さんの顔を挟んでいた手を離し、目を瞑ってゆっくりと頭を下げる。
これで一つの関係が終わった。
逃げて誤魔化す道を選んで来た僕と別れる事が出来た。
―――あとは。
そう思った瞬間、下げていた僕の顔が左右から挟むようにして掴まれ、とても強い力で強引に上げさせられる。
「……別れて、あげたよ?……言うんでしょ?……さっきの、言葉……?」
強引に顔を上げさせられた僕の目に映る彼女の顔は、涙と鼻水でべしゃべしゃになっていたけれど、そんな顔だからこそ誰よりも愛おしくて。
「はい、言います」
「なら早く言って……っ」
怒っているようなその目も今はとても心地良くて。
「玲香さん」
「……はい」
垂れて来る鼻を何度もすすりながら、それでも僕から一瞬たりとも目を離さずに見つめ続ける玲香さんに、僕はもう一度未来へ進むための言葉を伝える。
「僕と、結婚を前提に付き合ってください」
僕の覚悟を決めた言葉。
その言葉を僕の目をじっと見つめながら聞いていた玲香さんは、ゆっくりと目を閉じながら僕に顔を近づける。
「―――もう一生離さないから」
そして、そのまま僕と唇を重ねた。