セメギャル-僕の彼女は金髪黒ギャルの玲香さん- 作:もすまっく
あれだけ騒がしかった教室が、まるで時が止まってしまったかのように静まり返っている。
「もう一度言います。やめて下さい」
静まり返っている教室内で、水崎拓斗ははっきりとそう言い放った。
「は?え?水崎じゃん」
「何だよ?急に?」
余りにも突然過ぎる事態に、彼等は困惑すると同時に引きつった笑みを浮かべながらお互いに顔を見合わせていた。
水崎拓斗という普段であればそこに居ても居なくても変わらないような存在が、今こうして目の前で怒りを露わにしていることに対して理解が追い付いていないからだ。
「いや、水崎お前さ?急に何なんだよ?いい子ちゃんぶってるけどさ?お前には関係ねぇじゃん?」
「そうだよ関係ねぇじゃん?」
先程から拓斗にとって最も大切な存在を傷つけるような、そんなふざけた会話をしていた男子二人が拓斗に突っかかる。
二対一という本来であれば臆するようなこの状況でも、拓斗は感情を押し殺した冷たい瞳で彼等をじっと見つめている。
「関係あるから言ってるんですよ」
そして開いた口から放たれた言葉には、聞いた者が僅かに気圧されるような圧があり、決して強がりながら声を上げているようには見えなかった。
そんな拓斗の雰囲気に飲まれつつ、その男子二人は尚も突っかかる。
「はぁ?関係あるってお前、何言ってんの?」
「お前が俺達に何の関係があるんだよ?」
「ありますよ、いくらでも」
「はぁ?」
「関係あるんです。玲香さんに関係することは全て。だから言ってるんですよ、やめて下さいって」
拓斗の言葉に教室内が一気に騒がしくなっていく。
「え?は?今、玲香って?え?」
「何でお前が花宮を下の名前で呼んでんの?」
「……玲香?」
激しく動揺する男子二人と玲香の友人であるギャル達の視線が、下の名前で呼んだ拓斗と玲香の間を往復する。
そんな周囲の人達の困惑を他所に、花宮玲香の視線は水崎拓斗という最も大切な存在に固定されていた。
そしてその顔には驚きと困惑、そして微かな喜びの色が広がっている。
(……たっくん?アタシとたっくんの関係がみんなにバレちゃうよ?みんなには隠すんじゃなかったの……?)
彼女が考えている通り、拓斗はずっと二人の関係をクラスや学校の皆には隠し続けるつもりだった。
それは今まではこの誰よりも魅力的な女性である花宮玲香という存在に対し、自分は相応しくないと、こんな素敵な女性の隣に立つのは自分ではないと、心の何処かでそう思っていたからだ、負い目を感じていたからだ。
でもそれも全ては過去の話となった。
今の水崎拓斗には、そんな負い目など微塵も無い。
なぜなら花宮玲香は彼を受け入れたから。
水崎拓斗からの『貴女と一緒に人生を歩み続けたい、一緒に歩ませてください』という願いを込めた言葉を、花宮玲香は受け入れたから。
拓斗は自分を驚いた表情で見つめている玲香に視線を向けると、表情を和らげ優しく微笑んだ。
その微笑みを見た瞬間から、玲香は拓斗の気持ちに気が付くと同時に水崎拓斗への想いが次々と溢れて来るのを止められなくなっていた。
だから花宮玲香は一度だけ、水崎拓斗に向かって微笑みを返しながら小さく頷いた。
今だ状況が飲み込めず皆が困惑している中、突然目の前で微笑みを浮かべて見つめ合い出した二人に対し、誰も、何も、声をかける事が出来ずにいた。
二人の様子から薄っすらと感じているものの、そんなはずはないと頭で理解することを拒んでいるからだ。
そんな中、拓斗は心から申し訳なさそうな顔で玲香に謝罪の言葉を口にする。
「ごめんなさい玲香さん。もっと早く止められたのに……本当にごめんなさい」
「んーん、そんなことない。すっごい嬉しい。でも本当にいいの?」
「はい。こんなふざけた状況を放置し続けるなんて僕には無理です。こんなに玲香さんを侮辱され続けるのを黙っていることなんて僕には無理です」
拓斗の言葉一つ一つが玲香の胸を高鳴らせる。
それはまるで全身の毛が逆立つような感覚だった。
全身が奮えるような感覚だった。
「僕は玲香さんに誓いましたから」
心も体も全てが悦んでいるのが手に取るように理解出来た。
玲香の脳裏に浮かぶのは、一瞬たりともその目を離すことなく見つめてくれていた拓斗のあの瞳。
泣き叫んでいた自分から一切目を離さず、決して逃げることなくしっかりと見つめ続けてくれていたあの瞳。
心からの言葉を伝えてくれた彼の、優しくも強い想いの込められたあの瞳だった。
「二度と不安にさせないと玲香さんに誓いましたから」