TS転生者によるハーレムエンド物語 作:8000年ユーザー
ツクヨミ全土を一望できる場所――
天高くに存在するその部屋に入れるのは管理人であるヤチヨとその相棒であるFUSHIのみ。
無数の灯籠が光を放つ、落ち着いた雰囲気の木造部屋だ。『和』そのものと言っても良いほどに作り込まれたその空間は、まさにツクヨミ管理人の部屋。
そこは、ユーザーの立場では万が一にも足を踏み入れることのできない聖域――そのはずだった。
「
仮想空間ツクヨミが誕生してから数十年。
この日、初めてヤチヨの部屋に客人が現れた。
ヤチヨに次ぐ個人チャンネルでのファン数二位。
押しも押されぬ不動の人気を確立している超人気男性ライバーである――『リンネ』だった。
まるで月を思わせる黄色の瞳を輝かせながら、リンネは口角を上げる。
二人きりという単語に反応して自身を威嚇したFUSHIに軽く謝りつつ、彼は木の板が敷き詰められた床に遠慮なく腰を落とした。
「座ったら? 話す気があるから……俺をこの部屋に呼んでくれたんだろ? ヤチヨ」
「…………」
返事をすることもなく、ヤチヨはリンネの目の前にある自分の腰掛けへと座った。
確かに、この部屋へ彼を招いたのはヤチヨだ。それ以外にこの部屋へユーザーが入る方法などないのだから。
事の発端はヤチヨへと送られてきた一通のメッセージだった。
内容は簡潔に『会って話がしたい』とだけ。差出人は当然、リンネだ。
ヤチヨとしても、本音はすぐに幕を下ろして視界を遮り、そのままリンネを強制ログアウトさせてしまいたい。
しかし、それは考えある中で一番の悪手。ヤチヨにとっても、リンネとの会話は避けて通れない鬼門であった。
この男が――
「座布団とかないの? この床、硬いんだけど」
「……さっさと本題に入ってくれるかな? ヤチヨも暇じゃないんだよ」
「分身できるじゃん。……あっ、俺の目の前にいるヤチヨって本体? 別に分身体でも良いんだけど、できれば本体と話したいんだよね」
「……何度も言わせないで。……本体だから」
「あははっ、そっか」
リンネはヤチヨの言葉に満足そうに頷くと、パンッと手を叩いてから口を開いた。
「ヤチヨ。――
「…………ッ!」
思わず、殴りかかってしまいそうになった。
いや、肩に乗っていたFUSHIが大きく毛を逆立てて怒りを露わにしなければ、ヤチヨは間違いなくリンネに対して攻撃を行っていただろう。
それほどまでに、リンネから告げられた言葉はヤチヨの神経を逆撫でするものだった。
「いやぁ、ヤチヨ相手だと説明の手間が省けて助かるよ。だって、覗き見が趣味だもんな? 俺が彩葉と一緒に過ごしてきた日々も、泣いてる彩葉を俺が慰めていた時間も、絶望した彩葉と体を重ねて俺が手に入れる瞬間も……
「……お、お前は……!!」
「おっ、口調が変わってるぞ? ヤチヨらしくないな。彩葉が絡むとお前はすぐに崩れる。彩葉に何か特別な思い入れでもあるのか? ……なんてな」
不快、不快でしかない。
ヤチヨはギリッと歯を食いしばりながら、目の前に座る男へ憎しみの込められた視線を向けた。敵意どころか殺意にも近い感情だった。
「今日は土曜。彩葉を手に入れたのが木曜の夜だったから……二日前か。まあ、昨日も夜遅くまでセックスしてたんだけどさ。バイトもサボらせて、学校帰りに俺の部屋で思いっきりイチャイチャしたよ。いやぁ、本当に彩葉って可愛いよな」
ヤチヨの膝に置かれた拳が怒りで震え始めた。
実装されていない機能にも関わらず、額に青筋が見えそうな迫力だ。
「……そんな話を、するためだけに……私に、会いに来たの?」
「いや? ただの雑談。言ったろ? ヤチヨ、お前を俺のものにしたいんだ」
どこまでもあっけらかんと、まるで緊張など感じさせない様子でリンネは言い切った。
夜空に浮かぶミラーボール型の月に手を伸ばし、笑いながら握り締める。
「……人間の女の子だけじゃなくて、AIにまで手を出そうとするなんてね。最低っ。気持ち悪い……」
「悪いけど、俺はマゾじゃないからご褒美にはならないよ。……それにしても、AIか。そういえばそんな設定だったな」
「……何を、言って……」
戸惑うヤチヨに、リンネは正面から視線を交わらせた。
暗い部屋に似合わない黄色の瞳が、電子の海の歌姫を貫く。
「――
「……ッ!?」
思わず、ヤチヨの体が硬直する。
それはデータの不具合によるものではない。彼女の魂が起こした、一種の反射行動だ。
何故? どうして? 自分の正体を知っている?
ヤチヨの思考を黒い闇が包み出した。行儀良く揃えていた手は震え、呼吸も乱れ始める。心配そうに顔を覗き込んできたFUSHIに言葉を返す余裕もなかった。
「なっ、なんで、それを……」
「知っているのか? ――さあ? なんでだろうな? それを説明してやる義務も義理も俺にはないし、メリットもない。違うか?」
「…………」
何も反論できず、ヤチヨは言葉に詰まる。
何一つ配慮のない物言いだが、至極真っ当な発言だ。
「……ははっ、良い顔するじゃん。やっぱ可愛いよな、ヤチヨって。悪かったな、意地悪したくなったんだ。頼まれなくても説明はするよ。だって、俺はそのためにここへ来たんだから」
「……貴方は、何者なの?」
以前にもした問いを、ヤチヨは再び口にした。
その時された返答は『敵ではないが味方でもない』という曖昧なものだった。しかし、今のヤチヨからすればリンネは明確な敵。得体の知れない存在であり、到底歩み寄れる人物ではなかった。
リンネはヤチヨの言葉を聞いて軽く笑みを溢すと、一つ咳払いしてから真剣な声音で語り始めた。
「──今は昔、月に帰ってバリバリ社畜してたエラエラかぐや姫のところに……
立ち上がり、わざとらしく大袈裟な様子で腕を振る。
物語の語り部のように、声を張って。
「それでもっかい地球に行こ〜って、お仕事爆速で片付けて引き継ぎも完了。──ただ、地球の時間では大遅刻。でも安心! 月の超テクノロジーは時間も超えられちゃいます。時を超えて、地球に向かうかぐや姫! でももう少しのところで、
「…………ッ!」
空気が震える。時間が歪む。
ヤチヨは目の前で起きている事実を、理解できなかった。
「やっとの思いで辿り着いたのは……ざっと8000年も前の地球でした。壊れた船の僅かな力で、同行していた『犬DOGE』だけが身体を得ました。かぐやはウミウシの身体を通してだけ、世界と交流を持てたのです」
あり得ない。
あり得るはずがない。
あり得ていいはずがない。
「時は経ち、人々は見えないものを形にし、多くの人と繋がる力を手に入れました。……それは月の世界と少し似ていて、かぐやは初めて、魂だけの自分が世界と関われる可能性を知ったのです」
月を背にして、リンネは締めの言葉を紡いだ。
呆然としているヤチヨの耳に己の言の刃が届くよう、芯の通った強い声で。
「──そして、仮想世界【ツクヨミ】の歌姫として、再び彩葉に出会うことができたのです。……ってぇ〜〜っ、これじゃあ手放しでめでたしめでたしとはならないか〜っ!! やっぱ♪」
ふざけたように笑う楽しそうな顔が、ヤチヨには恐怖でしかなかった。
後頭部に手を当てながら、あははっという一目でわかる作り笑い。リンネはこの状況を心から満喫していた。これ以上ないほど、幸せそうに。
数秒間の静寂が部屋を支配した後に、リンネはだらんと腕を下ろした。
「――どう? 俺の記憶力。多少の違いはあると思うけど、大体こんな感じだったろ? ご静聴、ありがとうございました」
大きく腕を振り、頭を下げながら手を胸に当てる。
美しい顔をしているリンネがやれば、随分と様になる動きだった。女性ファンが見れば騒がしい声の一つでも上げていただろう。
しかし、ヤチヨの口から溢れたのは――乾いた呼吸音だけだった。
「……な、なんっ、で……どっ、どうし……」
体の奥底から湧き上がった恐怖によって、ヤチヨの喉が震える。
己の全てを掌握された感覚に陥り、先程までの怒りは完全に消化させられてしまった。
「8000年の長旅、ご苦労様。
「そんなはずないっ!!!!」
立ち上がったヤチヨが大声で否定を口にした。
肩に乗っていたFUSHIは床へと落下し、呆然と瞬きを繰り返す。
「違うっ! 違う違う違うっ!!!」
激しく首を振りながらヤチヨが興奮気味に叫ぶ。
そこにいつもの飄々とした余裕は微塵もなく、トップライバーとして見せたことのない感情を暴走させていた。
「ッ!!」
「……おっと」
勢いのままに、ヤチヨがリンネを押し倒した。
ガタンッという鈍い音が響き、リンネの体にヤチヨが馬乗りの状態となる。マウントポジションを確保するのと同時に、ヤチヨはリンネの首に両手をかけた。
「随分と荒っぽいな。そんなことしてもHPは減らないぞ?」
「うるさいっ! うるさいうるさいっ! ……なんなの。……貴方、本当になんなの……?」
恐ろしいものを見るような目をして、ヤチヨが弱々しく問いかけた。
いや、それは問いかけですらない。思わず溢れた弱音にも近い呟きだった。
押し倒され、首を絞められようとも、リンネは動揺しない。
不敵な笑みを崩すことなく、勝ちを確信したような態度で口を開いた。
「――
その一言で、ヤチヨの動きが止まった。
ギリギリと首を絞めていた腕も、子供のように喚いていた口も、動揺から焦点が定まっていなかった瞳すらも、完全に停止した。
「
「転、生……?」
「そう、俺には前世の記憶がある。その記憶を持ったまま、この世界に生まれた。だから色々と……
この世界は創作の世界。『超かぐや姫!』の世界だからこそ、原作知識がある。
そんなことを言っても理解されるはずがないと、リンネは敢えて転生による知識だと説明した。あくまでも自分の有利に働くよう、あらゆる些細な可能性に賭けて。
「さっき話した内容も『知識』で得たものだ。信じる信じないはヤチヨに任せるけど、タイムスリップがあるなら転生があったって可笑しくないんじゃないか? それにしても、まさか
「……ぁっ。……ぅぁっ」
ヤチヨはもう、満足に声も出せなかった。
リンネの首にかけていた両手を離し、体の震えを止めるように自らを力一杯に抱き締めた。
その絶好の隙をリンネが逃すはずもなく、攻守逆転。
上半身を床から起こし、自身の体に跨っていたヤチヨを逆に押し返す。
力無く倒れたヤチヨへお返しと言わんばかりに馬乗りとなった。
美しい着物は乱れ、体の正面にあるメンダコがリンネの脚によってぐにゃりと潰される。
キラキラと輝く銀髪が暗い床を照らし、天の川のように広がっていた。
「
鼻と鼻がぶつかりそうになる至近距離で、リンネはゆっくりと言葉を放った。
酒寄彩葉を手に入れた時点で、こうなることは必然。既にヤチヨとの勝負は終わっている。始まる前から終わっているのだ。
「おいおい、泣くなよ。俺はヤチヨを泣かせに来たわけじゃないんだから」
ヤチヨの目から不意に溢れた涙を、リンネが苦笑しながら指で払う。
データで作られた涙は一瞬で消えてしまった。
「……どうして、私に構うの?」
どこか虚な目をしながら、ヤチヨは弱々しい声を発した。
全身のどこにも力が入っておらず、生きる屍のようにも見える。
「……もう、放っておいてよ。ただ、彩葉に会いたかっただけなのに。……なんで、こうなっちゃうの……? 私は、彩葉と一緒に……また、一緒に……!」
溢れ出る感情を抑え切れず、これまで我慢していた弱音が次々とヤチヨの口から溢れた。
悲しみは涙となって頬を伝い、彼女の心を濡らす。
「……彩葉を幸せにするって、言ったよね?」
「ああ、幸せにする。俺の全てを使って」
「……嘘だったら、許さないから。……彩葉が幸せなら、私は……ヤチヨは……どうなってもいいの」
諦めにも似た納得。
既にヤチヨの中から、あらゆる感情は薄れていた。
「……怖かった。……どうすれば良いかわからなくて、彩葉とも、顔を合わせられなくって……。ヤチヨは、
「そりゃそうだ。それが、お前がかぐやとして得た『知識』だもんな。ここから先は、まだ経験していない未来だ」
「……繰り返してきた輪廻が、こんな風に崩れるなんてね。今の彩葉は、かぐやのために歌ってくれないんだろうなぁ……」
囚われていた輪廻が、崩壊する。
それを理解した途端に、ヤチヨは少しだけ気分が軽くなった。
「……それでも、彩葉が幸せなら良いの。それだけで、ヤチヨは生きていけるから」
強がりではない。
心の底から、ヤチヨはそう思っている。
彩葉さえ幸せなら、それで良い。
たとえ自分の手で幸せにできずとも、他の誰かの手による幸せであったとしても――酒寄彩葉が幸せであるならば、それ以外を望むことは決してないのだ。
これもまた、ヤチヨにとってはある意味で
物語を終えるのに相応しい幕引きと言えた。
「……あっ、でも、歌が届かないと困るなぁ。ヤチヨが生まれなくなったら、彩葉が死んじゃうかもしれない。……ねぇ、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「かぐやにさ、月にいるかぐやに……彩葉から歌を届けさせて欲しい。そうすれば、輪廻は繰り返されるはずだから。お願い、彩葉のために……かぐやを、ヤチヨにして?」
「同じ結末が待っているとしてもか? またこうして俺に、彩葉を奪われる未来が待っているとしても?」
意地の悪い質問をされても、ヤチヨの意思は変わらない。
ヤチヨにとっては彩葉の幸せこそが重要であり、それ以外は二の次。彩葉が幸せになるというなら、喜んで8000年の時に身を投げる覚悟があった。
「……ふっ、ふふっ、狂ってるな。……いやぁ、流石だよ。ヤチヨ。見事なまでの彩葉狂い。恋敵ながら、天晴れとしか言えないな。安心しなよ、元々そのつもりだから。ヤチヨがいないと本当に彩葉が死ぬだろうしな。それだけは、俺も避けたい。歌は必ず届けるよ。彩葉の口から、かぐやにな」
リンネはどこまでも楽しそうに笑った。
そうでなくてはと言いたげな顔で、満足そうに口角を上げて。
「ああ、本当に最高だ。どこまでも彩葉のことだけを考えてる。――だからこそ、俺はヤチヨが欲しいんだ。いや、
「……生憎と、もう幸せだよ。貴方の願いは叶わない。私を幸せにできるのは……彩葉だけ」
ヤチヨは目を閉じると、僅かに頬を赤く染める。
恋する乙女の顔とはどういう顔だと聞かれたら、この顔を見せておけと言いたくなるほどに可愛らしい顔だった。
「――いや、絶対に俺のものになってもらう。そしてそれはもう、決まっていることなんだ」
「……何をする気?」
笑みを深めたリンネがヤチヨの体の上から退いた。
あまりにも自信満々な発言に、ヤチヨも警戒を露わにしながら上半身を起こした。短いスカートから伸びる美脚を畳み、気品を感じさせる所作で着崩れた着物を正す。
「彩葉が幸せならそれで良いとか言ってるけどさ……俺からしたら、それってただの負け惜しみにしか聞こえないよ?」
「……そうだね。実際、負け惜しみかもね」
「
「……それは」
正直に言えば、魅力を感じてしまう提案だった。
興味を惹かれてしまったのが自分でもわかるほどに。
「8000年も待ったんだろ? なら、なりふり構わず手を伸ばせよ。俺は俺のお姫様たちを全員平等に愛するって決めてるんだ。俺のものになれば、彩葉と一緒にこの先の人生を送っていけるぞ。それだけは約束する」
「……っ!」
初めて聞いた真剣な声音の断言に、ヤチヨの心が揺れた。
リンネのものになれば、彩葉といられる。8000年間想い続けてきた相手と、生きていけるのだ。待ち続けたヤチヨにとって、その環境は最高の終着点と言えた。
「……でもまあ。彩葉を横取りした俺に、自分のものになれとか言われても簡単には頷けないよな。それは俺もわかる。――だから、『言い訳』をやるよ」
「言い訳……?」
不穏な言葉に、俯きかけていたヤチヨの顔が上がる。
僅かばかりの期待を、その大きな瞳に宿して。
「彩葉と一緒にいられることの意味を、ちゃんと教えてやる。よく見るんだぞ? 大サービスなんだから」
「ちょっ……近いって」
座り込んでいるヤチヨの肩を抱きながら、リンネが軽く手を振った。
出現したウインドウには、現実世界で撮影されているであろう動画が流されている。ライブだよ、というリンネの言葉通り現在進行形の映像だ。
そこに映っていたのは、
両手を頭の上に拘束された状態で、ベッドの上に全裸で寝かされている。
耳にはヘッドフォンが付けられ、視界はVRゴーグルによって塞がれていた。唯一外に出ている口はだらしなく開き、少しばかりの涎。
誰がどう見ても『そういう趣味』を楽しんでいるようにしか見えない状況だった。
いきなりこんな動画を見せられれば、普通の人間は取り乱す。ヤチヨも例外ではなかった。
しかし、取り乱すという言葉の意味が――大きく違っていた。
「こっ、これっ……て」
「そう。――彩葉だよ」
「ッ……!!」
ヤチヨの肩が大きく震える。
手を床に付き、倒れそうになった体を支えながら目を見開く。
ヤチヨは動画から、目が離せなかった。
「最高の光景だろ? 乳首にはローター、まんこにはバイブを挿れてあるんだよ。だから――
リンネがウインドウの横に付いているボタンを押すと、彩葉の体に変化が起きる。
ビクンッと大きく体を震わせ、舌をだらしなく口から出した。
「あっ、マイクをオンにするの忘れてた」
『――ん゛あ゛♡ んぐっ♡ ああんっ♡』
ヤチヨの耳に届いたのは、彩葉の喘ぎ声。
凛々しさも、賢さも、芯の強さも。ヤチヨが知っているどれにも当て嵌まらない、女としての彩葉の声だった。
「なに……これ……?」
「このローターとバイブ、遠隔操作できるんだよね。しかも彩葉は今、ヤチヨとエロいことをしてるのと同じ状況なんだよ」
「はっ……?」
ヤチヨの口から間の抜けた声が漏れた。何を言われているのか、本当に理解できなかったらしい。
リンネはそんなヤチヨの耳元に寄ると、甘い毒を囁いた。
「ヘッドフォンからはヤチヨの声。VRゴーグルにはヤチヨの映像を流してる。そんな中で乳首とまんこを弄られてるんだ。これはもう……ヤチヨに犯されてるって言っても過言じゃないだろ? 見てくれよ、彩葉の幸せそうな顔。少し嫉妬しちゃうな」
「私が……彩葉を……?」
胸の奥底に、黒いナニカが生まれたのをヤチヨは感じ取った。
それは醜くて、他人には見せられないような感情。自分でも制御が効かないような、大きすぎる感情だった。
『――ヤチヨぉッ♡♡ もっと……もっとイジッてぇっ♡♡』
「ッ……!!」
「だってさ。はい、これコントロール権。渡すから虐めてあげなよ。バイブはクリトリスも刺激できるタイプだから、責められるのは乳首と子宮口を合わせて3箇所だな。――さあ、ヤチヨの好きにして良いんだぞ」
「わ、私の……好きに? ……彩葉を……?」
ヤチヨの目の前に、リンネから渡されたであろうコントロール権が表示された。指先一つ触れるだけで、彩葉の体を自由にできる。
酒寄彩葉の、独占権。
「彩葉のこと、いやらしい目で見てたんだろ? わかる、わかるよ。そういう目で見るなって言うのが無理な話だよな? こんな良い女、エロいことしたくなるよな? 何もおかしいことなんてない。ずっと我慢してきたんだ。思う存分、欲望を解放すればいいさ」
肩に回していた手でヤチヨの顎を掴み、リンネが再び毒を流し込む。
まさに、悪魔の囁き。
ヤチヨは完全に冷静さを失い、自身の名前を大声で呼びながら喘ぐ彩葉に釘付けとなっていた。
「でも、一つだけ条件がある。わかるよな? ヤチヨ」
直感的に危機感が湧き上がったが、ヤチヨがそれを機に行動を起こすことはなかった。
否、起こせなかったのだ。
「――
「…………ぁぁっ」
ヤチヨは震えながら、静かに頷いた。