「つまり『貧すれば鈍する』だと思うんですよ」
精子が欠乏すると、精巣の苦しさから心の余裕や判断力がなくなり、知恵や性質までも愚かになってしまう。
僕はしたり顔で自己分析結果を披露した。
やはり先人は偉大だ。
気づいた僕の頭も冴えている。
「………。何か言って下さいよ。本当にもう大丈夫ですって」
「馬鹿になっても、それらしい雰囲気と言葉を使うから、判断が難しいのよ」
「酷いっ」
九条先生は僕の分析結果よりも、僕自身を警戒したままだ。
「それにね、貴方は射精する前から馬鹿になってるわよ」
「もっと酷い!!」
最終検査の翌日、もう夕方が近いと言うのに今でも寝たきり。
筋肉痛で全く動けない。
そう、僕は暇を持て余している。
「兎に角、明日も丸1日休養日よ」
「そんなあ」
無慈悲の休養が告げられる。
完全に寝たきりなんて2ヶ月ぶりだ。
折角リハビリが進んでいたのに逆戻りになった気分だ。
「お話しなら私がしてあげてるでしょ~」
「そうですけど」
今日は一日中栗華さんのお世話になっている。
今日も、か。
口頭で勉強を教えてもらったり、何度か添い寝してくれたり。
不思議なことに、射精は一度もしていない。
2週間に渡ってのお射精祭りの反動だろうか。
栗華さんの肌に触れると気持ちいいし、性的な興奮もするけれど、ちゃんと心地よさを感じられている。
今後もこの状態が維持できたら嬉しい。
僕はあれを『終焉の輪廻祭』と名付けた。
ふふ、我ながら実に本質をつけている。
いいネーミングだ。
そしてそろそろ、この現実とも本気で向き合わなければならない。
いつまでも逃げていては駄目だ。
僕は意を決して本題に入る。
「…ここって、病院ですよね?」
「当たり前でしょ」
ほんの少し、九条先生の表情が変わるのを見た。
聞くのが怖かったが、遂に聞いてしまった。
「…ですよね。暇を持て余すと駄目ですね。思考がおかしな方向へ行っちゃって」
「おかしくないわよ。よく頑張ってくれてるわ」
「そうですか」
今度は表情を変えない、流石だ。
沈黙が流れる。
「どういう事?」
話が見えない栗華さんがキョトンとして尋ねる。
「天内君の立場からしたら、私達も監禁者に見えても不思議はないでしょ」
「えぇ~なんで~!?そうなのテル君?」
「それはもう信じてますよ。信じるしかないので」
「そう、ありがと」
もう、全部言ってしまうか。
そうだ、いつかは聞かないといけないんだ。
「実はもう、外の世界が滅んでて、昔の映像をテレビで見てるのかな、なんて」
「…それは、随分と壮大な空想ね」
「でしょう?」
乾いた笑いが室内に響く。
………
やはり、か。
心当たりはあった。
この部屋の窓は開かれたことが一度もない。
大きいのに外は見えないし、外からも見えないよう、大きな幕で遮られている。
カーテンを開けても日光を取り入れるだけで、景色は何も映らない。
窓からの情報まで遮断する理由なんて一つ。
外には人がいない、それを僕に知られたくないのだ。
「来週、正確には5日後に検査結果と事件概要を伝える予定よ。心の準備はいいかしら」
「はい、お願いします」
話題転換か、誤魔化されたな。
「当日は保安と厚生省からも1名ずつ同席するわ」
「………。
………え?…保安?」
「事件の情報を管理している偉いお役人さんの事よ」
「あ、はい」
「国家保安員会と厚生健康省、公民の教科書に載っているから、ちゃんと復習しておきなさい?」
「えっと、それは…、はい」
あれええええ?
違った、人類全然滅んでなかったわ。
「………」
「………」
九条先生が僕を覗き込んで、僕の泳ぐ目をじっと観察する。
「貴方、まさか本気で…」
「いやいやいや!そんなはずないじゃないですか。3人しかいなかったらご飯とか電気はどこからって話ですし。僕だってもう14歳ですし、まさかそんな妄想を真面目に…」
厨二病を疑われ、もの凄い早口で言い訳してしまう。
九条先生が携帯で御堂さんを呼びつける。
まずい。
「水無月さん、些細な違和感も見落とさないように。騙されないでしっかり休ませて。下半身の刺激は継続して厳禁よ」
「はい!」
九条先生と栗華さんは真剣な表情で頷き合った。
騙されないでってなに!?
まずい、まずいぞ。
まだ馬鹿になってる疑惑を高めてしまった。
角度が付いたベッドが戻される。
嫌だ、まだ起きていたいのに。
「失礼します」
ガチャリとドアが開けられて、聖母が現れる。
急いできたのだろう、少し顔が紅潮している。
「任せたわよ」
「はい」
九条先生の退出を見届けて、御堂さんが上を脱ぐ。
まずいまずいまずい。
逃げたくても動けない。
気持ちとは裏腹に、視線が勝手に追いかけてしまう。
たぷ~ん
ボロンじゃない、ボインでもない。
今絶対たぷんって聞こえた。
おっぱいを丸出しにした御堂さんがベッドに上がって、覆い被さる。
聖母の果実が降ってくる。
僅かに汗ばんだ香りが鼻腔を刺激し、簡単に僕の脳を麻痺させる。
陥没したお乳首さん…、僕が出してあげなきゃ。
「あっ、あっ…」
口元が、舌が勝手に吸い寄せられる。
だけど、今は嫌なんだ。
退化するから、今は嫌だ。
「天内様、おっぱいとお休みしましょうね」
「はーい」
ちゅぱあ
序章の区切りまで書けたので投下してみました。(30話くらいまでは予約入れてます)
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