次の議題に映る雰囲気になると、草加部さんが切り出した。
「少し、彼と2人にさせて下さい」
「わかったわ」
「ご案内します」
九条先生がすかさず立ち上がって大臣おばちゃんを先導し、あっという間に4人が退出した。
「天内輝君」
「はい」
取り残されて静まり返った室内に草加部さんの低い声が響き、反射で背筋がスッと伸びた。
テーブルにアタッシュケースがゴトリと乗せられる。
室内に重々しい音が響いて緊張感が増す。
鍵を開けて取り出されたのは3枚のディスク。
草加部さんはそれを順にテーブルに並べた。
「1枚目、このディスクには君が巻き込まれた事件の概要が収められている。マスコミにも提供している」
ディスクに指を乗せ、ツーとこちらに滑らせる。
「2枚目、このディスクには君が巻き込まれた事件の詳細まで収められている。機密情報だ」
同様に、2枚目がこちらに向けられる。
と思ったが、押し出されない。
「3枚目、このディスクには君個人の被害記録のみが収められている。こちらも機密情報だが、存在を知る者自体が極僅かだ」
こちらも指を乗せたまま、こちらに押し出さない。
「…私個人はまだ納得していない。君は見るべきではない。見たことで精神に異常をきたしても、我々は今日この日を存在しなかった事にする」
「………」
僕の視線は3枚目のディスクから目が離せない。
「その上で、どれを見るか君が決めてくれ」
僕は草加部さんの迫力に気圧されないよう、何度も大きく深呼吸をした。
「先ほどの4人の中で、2枚目を見た人はいますか?」
「武藤佳苗大臣だ」
「先ほどの4人の中で、3枚目を見た人はいますか?」
「いない」
「2枚目と、3枚目をお願いします」
「…もっと分かり易く言おう。君が壊れてしまった場合、私は君を見捨てる」
「理解しています」
「見るなと、私はそう言っているんだ」
「僕は見ます」
「興味本位で見るようなものでは決してない」
「………」
「………見たくない。一言でいい、そう言いなさい」
「すみませんが、言えません」
草加部さんは目を閉じて、ゆっくりと溜息をついた。
そして携帯電話を取り出し、「頼む」と一言だけ誰かに告げて切った。
続けてアタッシュケースからファイルを取り出し、中の一枚をこちらに向けた。
「今この瞬間から、機密情報の内容と存在について一切の口外を禁ずる。サインと母印をここへ」
契約書ではなく誓約書か、まあそうだよな。
課された義務だけをしっかりと確認してサインを済ませる。
罰はなんでもいい。
自分から約束する以上、破れば殺される位の気持ちで守る所存だ。
「これから2名加わる。彼女達は、今後しばらく君の護衛を務める」
「分かりました」
「但しそれは、君が無事に退院することが出来たらの話だ」
やっぱり、怒ってるのかな。
「まずは6名でディスク2を閲覧。その後、武藤佳苗、九条瞳には再び退出願う。3の存在について君は言葉を発するな。私が進行する」
「九条先生は必要は無いでしょう。もう外してください」
「駄目だ。君が閲覧するのであれば、彼女には把握してもらう必要がある」
「~~~っ」
汚い、流石役人。
見たいが、九条先生を天秤にはかけられない。
あの人は強い責任を伴う立場にいる人、こんな情報を得れば何かに巻き込まれる可能性はグンと高くなる。
「君が悩む意味はない。君が閲覧を決めた時点で、九条瞳には本情報の閲覧義務が適用されている」
「…僕のせいでもう手遅れだ。そう言いたいんですか?」
「幾つもあるトリガーの一つだ。局長に就任した時点で、こうなることは半ば決まっていた。
最後に4名でディスク3を閲覧、メモは禁止。以上だ」
僕が反論を見つける前に、ピシャリと会話は終了した。
………
何分経ったろうか、草加部さんは一言も発さない。
重苦しい空気が続くの中、室内にブザー音が響いた。
九条先生と武藤大臣、そして警護官であろう女性が二人入室してくる。
御堂さんと水無月さんはいない。
警護官2名は自己紹介をすることもなく、傍に控えた。
「これから、2025年9月に発生した未成年拉致監禁事件、俗称スイートエンジェル事件の非公開ファイルの閲覧を行います」
草加部さんの宣言と共に、警護官2名の手で対面ソファーがテレビに向けられる。
武藤大臣が本当にいいのかと念押ししているが、僕は空返事で映像の再生を待つ。
準備が整い、ソファーに腰掛けるのは僕と九条先生だけだった。
他の4人は、何故か僕らの左右に分かれて立ち見する様子。
…そうか、鑑賞している僕を観察するのか。
当事者である僕が、どのシーンでどんな反応を示すのか。
それが知りたいのならば、この開示の意味はやはり…。
考えを巡らせていると、室内のテレビに映像が映し出された。
九条先生の右手が、僕の左手を強く握りしめた。