泣き腫らした顔の女性二人を対面に迎え、九条先生に入れてもらったお茶をすする。
「恥ずかしい所を見せちゃって、ごめんさいね」
「兄が酷い事件で亡くなったとは、僕も聞いたので」
言うと、一瞬で空気が沈むのを感じる。
気まずい。
「光琉君も、大変だったわね」
「いえ、僕は良くして貰ってばかりです」
話題を変えたクリスティナさんが、それは良かったわと笑顔を返す。
「自己紹介がまだだったわね。光琉くんのお母様と結婚しているクリスティナよ。こっちが娘のアリス」
「アリス。お姉ちゃんだよ?」
アリスさんは訴えかけるような自己紹介をする。
なんで?お姉ちゃんって呼べってこと?今?
「はい。よろしくお願いします」
よくわからず、取り敢えずぺこりとお辞儀をして挨拶する。
不安そうだったアリスさんの顔が悲しみの表情に変わり、また啜り泣きを始めた。
クリスティナさんが謝りながらアリスさんを宥める。
気まずい。
「何でも聞いてみたいことを聞いていいのよ?」
「はい、そうですね…」
「どうしたのよ?」
「そりゃあ、僕だって緊張位しますよ」
「変ね。忙しい私にはいつも延々と質問してくるのに」
「それは、…少しだけ反省してます」
九条先生に茶化されながら応酬していると少し肩の力が抜けた。
深呼吸して腹を括る。
まずは一番大事なことを確認しよう。
「では、教えてください。葵衣さんと美雪ちゃんは、僕に会っても大丈夫だと思いますか?」
「絶対に喜ぶわ、今すぐにでも教えてあげたいもの」
「兄の死は、まだ知らないのですよね?」
「ええ…、その事は、私達も先日聞かされたばかりだから」
パッと咲いた笑顔はすぐに曇った。
どうしたって、ハッピーな奇跡の再会にはならないんだよな…。
どうすれば彼女達の心の負担を軽く出来るのか、答えを見つけられず、また次の言葉に詰まる。
「…でも、あなたが生きていてくれたから。光琉君が側に居てくれたら、きっと二人も乗り越えられるわ。だから、私達と一緒に暮らしてもらえないかしら?突然で不安かもしれないけど、精一杯貴方を支えるって約束するわ」
クリスティナさんは手を胸の前で握りしめて、懇願するように僕に訴えかける。
「お気持ちは、本当に嬉しいです。でも僕にはテル君、いえ、兄の代わりは出来ませんよ?」
「〜っ、ち、違うのっ!違うのよ、そんな意味じゃないの!貴方のことはちゃんと貴方として見ているわ、さっきのは私が…」
「責めたわけじゃないんです。大丈夫です、お気持ちは伝わってます」
大慌てで否定するクリスティナさんを宥めて落ち着かせ、乗り出した彼女の体の位置が戻るのを待った。
「──その、自信がないんです。
乗り超えてもらえる力になれるのか、そんな事が僕に出来るのか。
僕という存在が、皆さんが失ったものに釣り合うとは、とても思えなくて」
「そんな事ない、釣り合いなんて考えないで!比べなくていいの、今まで一緒には居てあげられなかったけど、光琉君も大切な家族なのよ」
この人は本心で言ってくれていると思う。
ただ、気持ちに頭や体がついてこない辛さは、僕も身をもって経験している。
同じような思いをさせてしまう事がとても怖い。
「僕を見るたびに、辛い思いもさせてしまうんじゃないかって。
泣かせてしまうんじゃないかって。
我慢して、心で泣きながら、笑顔を作らせてしまうんじゃないかって。
そうさせてしまったら、それは僕にとっても、とても悲しくて、辛いことで…
上手く言えないんですけど、…伝わりますか?」
「えぇ…えぇ…ありがとう、分かるわ…。も゛う、本当、私はダメね…ぐず、何度もごめんなさい…」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
その後も二、三言葉を交わし、九条先生が一旦今日はこの位でと切り上げた。
アリスさんは流れる涙を気丈に堪えるだけで、言葉を発することはなかった。
最後に二人と握手を交わして、次回は土曜日になる約束を残して、始めての家族面会は終わった
──────
「見たんですか?」
「うん。一番側でテル…、光琉君を見ていたのは私だし、ご挨拶もしたよ」
やや栗の花っぽい口臭をさせる栗華さんが、照れながら教えてくれる。
「僕がリミッターだって、向こうは知ってるんですか?」
「健康状態と一緒に伝えてあるよ」
そりゃそうか。
後から悲報の上乗せはしんどいだろうしな。
そうなると、『私が搾精もしてますわ。最近は生チンポでバチコンですの』なんて会話まで…してるのか?してないよな?
まさか僕が今、看護士さんのおっぱいを吸いながらピロトークしてるなんて、夢にも思わないだろう。あんな再開を果たした数時間後に、ベッドの上でイキ乱れて精子を垂れ流していたと知ったらさぞ失望するよな。
「あの人達は、ちゃんと分かってるよ。分かってて、受け入れたいって言ってるからね」
「ちゅぱ。…エスパーですか?」
「見直した?」
見上げた先の栗華さんは、いつもの安心する笑顔を向ける。
抱きしめる腕にぎゅっと力が入り、おっぱいに顔を埋めた。
「優しそうな人達でよかったね」
「………」
「これからは、寂しくなったらクリスティナさんとアリスさんに甘えるんだよ?」
「………」
僕は無性に悔しくなって、乱暴に乳首に吸い付いて、反対側の乳首をつねる。
「あんっ♡ も~、んんっ♡ イタズラしないの」
栗華さんだからしてるのに。