昨日、四度目の面会を終えた僕たちは、家族になる準備を開始することになった。
輝君の訃報、僕の生存、そしてこれから。
葵衣さんへの伝え方については、病院の先生方とクリスティナさんにお任せした。
新たな戸籍を得た僕は、男精管理局の病棟内であれば徘徊可能になった。
一応まだ部屋の施錠はしているし、外出は連絡してからだけど、外界はまるで別世界のようだった。
と、いうほどの感動は無かった。
男性患者は部屋にこもっているのか殆ど彷徨いておらず、受付で見かけた位だ。
ヒョロガリの僕が言える台詞ではないけれど、ガチムチは見当たらず、なよついた男が多かった。逆にデブも結構いた。
他に見るところは外の景色と売店くらいで、知らないパッケージのお菓子や飲み物を、貰ったお小遣いで幾つか買って戻った。
道ゆく看護師さん達が、僕を見て顔を赤らめながらギンギンにテントを張ってカウパーを滲ませる。そんなイベントも無く、多少の視線を感じながら会釈する程度で散歩は終わった。
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「は~~~…」
「さっきから溜息ばかりじゃないか、そんなんじゃ幸せが逃げるYO!」
「YOじゃないですYO! …だめだ、やっぱあがんない」
「oh!乗ってこいボーイ!手はこうっ!」
「ていうか、大人が昼間からゴロゴロして、働かなくていいんですか?」
「仕事相手がベッドから起きないんだYO!」
3度目の心理カウンセリングに、ウェルピ女史、もといマブになった
「それ、面白いですか?」
「ん?ああ、女子は皆読んだものさ。懐かしいよ」
明日羽さんが左手に持った漫画の表紙をこちらに見せる。
『ハプニンGood♡』
女子中学生が毎度エッチなハプニングに会い、絡んだ美少年から一方的に好意を寄せられ、望んでないのにハーレム状態になっていく話だ。
最終的には優秀な精子を幾つも体内に取り込み、史上最強イケメン美男子を何人も出産して、子供達が世界を席巻。
主人公の女の子は旦那にも子供にも愛され続けて、世界中から聖母と称されて後世まで世界一幸福な女として語り継がれる。
確かそんな感じだった。
最近、僕の部屋の棚には、14歳が目にする一般的な雑誌や漫画が持ち込まれて並んでいる。
姉のアリスさんが、面会に来るたびに何かを持って来てくれるのだ。
本人は別に読まなくてもいいと言って置いていく。
ならなんで?という疑問は言葉にせず飲み込んで受け取っている。
偉人伝や小説、図鑑なんかも少しある。
「大体ね、拒否ならまだしも、気乗りしないから不貞寝なんて初めされたYO!お姉さん大・困・惑⭐️」
明日羽さんは大袈裟に、ムンクの叫びのような謎ポーズをとる。
「それは前に見ました」
「おや、そうだったかな?」
言うとすぐ辞めて、スッと真顔に戻った。
「やっぱり女の人って、色んな精子が欲しくなるんですか?」
「ふむ。生物学的な意味、動物としての本能ではイエスだ。別の遺伝子も取り入れた方が子孫が繁栄し易い。
感情論なら、多くの人に愛されたい欲求は男女問わず持ち合わせている。生涯でただ一人、そんな愛にも憧れるけど、複数の異性が自分だけを生涯愛してくれる。これが欲望の鉄板さ」
テーブルに置いた『ハプニンGood♡』をもう一度持って、これこれと僕に見せる。
分からなくもない。
というか、男だってそうだしな。
なのに女性にはそうあって欲しくないなんて、都合のいい話だ。
「なんだいボーイ?もしかして恋の悩みかい?」
「僕は辛いのに、栗華さんは平気そうで」
「……oh……my……
モアッ、もっとちょうだい!お姉さんそういう話大好き!」
栗華さんが好きで堪らなくて一生側にいて欲しい。
いてもらうだけでは結婚生活は成り立たないから、自分も働いて支えてあげる男に早くなりたい。
男はどんな仕事に何歳から就けるのか、学歴や年齢は収入にどの位影響するのか。
考えれば考えるほど、分からないことばかりで、現実的にそれが無理なのだと理解してしまう。
体だってまだリハビリ中の身なのに、子供のようなことばかり考えて気持ちに整理がつけられない。
退院が近づくほど、不安と苦しさが募る。
明日羽さんは僕の話を聞いて、都度反応は示してくれる。
けど、「いつ好きって気づいたの?」「もっとアピールしなよ」「きゃー♡」とかそんな反応ばかり。女子高生かお前は。
結局、ベッド脇でお菓子とジュースを口にしながら僕としばらく駄弁った後、そろそろ戻らなきゃと言って帰って行った。
…あいつ、ゴミ位捨ててけや。