室内に短いブザー音が響く。
「どうぞ」と僕が応える事はない、この個室は防音設備だ。
ガチャリと外側から鍵が開けられ、「失礼します」と白衣の聖母が入室してきた。
僕のもう一人の専任看護師、御堂満夢見さんだ。
話し方も見た目もグラマラス。
前世の僕と同年代らしいが、年上の女性の色気を感じる。
入室するとすぐに内側からガチャリと施錠される。
この個室には、鍵を持たない者は誰も入って来れない。
僕が目覚めてから4ヶ月、ここから出たことは一度もない。
九条先生には安全が確約出来るまではどうか今暫く、と申し訳なさそうに頭を下げられたが、特に不満はない。
闘病生活には慣れている。
それに、リハビリが進んでいるとはいえ、僕はまだ自力で室内を歩く事さえ出来ない。
「本日から排泄器を外そうかと思いますが、宜しいですか?」
「やった!ありがとうございます!」
あまりの嬉しさに前のめりになって返事をすると、御堂さんも嬉しそうに頷いて準備に掛かる。
先日、補助付きであれば立ち上がれるようになった。
誰かに支えて貰えれば備え付けのトイレまでの2、30歩は歩ける。
これでやっと、自分で用が足せる。
それでは失礼しますと、毛布の中に手を伸ばしてお股付近を弄られ、取り付けられていた器具が外されていく。
少し匂うので、僕は思わず顔を顰めてしまう。
なのに二人は嫌な顔一つ見せずに淡々とこなしてくれる。
定期清掃の時もそうだ、申し訳なさと同時に、感謝してもしきれない。
下の世話だけは全て御堂さんが担当。
水無月さんはお手伝いのみ。
御堂さんが先輩特権でMySonを独占している、という訳ではない。
「あ、あわわわわわ…、み、見え…」
「やめなさい馬鹿」
くんかくんかと鼻を鳴らしながら、光に吸い寄せられる蛾のように、MySonを覗き込もうとするあわ女。
その残念な顔は、御堂さんの手でぐいっと押し退けられた。
平時は白衣の天使と見紛う水無月さんは、性が絡むとIQが著しく下がり、あわ女になってしまう。
普段の面影はカケラも見当たらないほどに鼻の下が伸びて、表情も酷いものになる。
官能的な雰囲気ならまだしも、盛ったモテない童貞を見ているようで、非常に残念な気持ちになる。
とはいえ、襲ってくるような素振りは無いので、無害だとは思う。
嗅覚が鋭いのか、匂い起因で頭が悪くなりがちなだけだ。
今お股を拭かれているのはわかるが、MySonの感覚はやはりない。
これまでも彼の鼓動を感じたことは一度もない。
彼もまた筋力が衰え、リハビリが必要なのか。
最悪EDなのではという不安はあるが、心の問題ならば今は僕が中身だ。
きっと大丈夫、焦ることはない、彼もこれからだ。
清掃が終わり御堂さんがズボンを戻す。
下半身が軽く清々しい。
点滴は結構前に外れていたので、これで完全に自由の身だ。
「あの、少し出せそうなのでトイレに行ってみても良いですか?」
「ええ、早速してみましょう」
「…あっ!わたし!私が支えます!」
「はい、お願いします」
僕といる時間は水無月さんが圧倒的に長い。
二人で行けるようにしないとね。
「では、ゆっくりで良いですからね」
ベッド脇に両足を下ろすと、右側に水無月さんがついて支えてくれる。
この体で転んだら骨折しかねない。
くんかくんかは…、されてない。
だけど、バレない程度に首元でスーハーされている。
これ位はいつもの事だし、表情は天使に戻っている。
大丈夫だよね?
信じるよ?
若干の不安を残しつつも、一歩一歩ゆっくりと進んで無事にトイレに辿り着き、スライド式のドアを開けて中の便座を目指す。
「よっ、っと!……ふ~」
息が上がりながらも、何とか便座に腰を下ろすことが出来た。
「凄いっ!早速出来たね!」
褒め上手の水無月さんはニコリと笑みを向け、僕の正面に回ってしゃがみ込み、流れるような手つきでズボンに手をかける。
「大丈夫です、あとは自分でやってみます」
僕もニコリと笑い、突き出された手を握りハウスを命じる。
「…え、っと、そうだよね」
声のトーンは明らかに下がり、しょんぼりとしながらトイレから退出する。
「…で、でも、危なく感じたら絶対呼んでね!」
「はい、無理はしません」
名残惜しげに扉が閉められたのを見届ける。
僕はズボンに手をかけ、何度も身じろぎしつつ、ゆっくりと脱いでいく。
ふむ。
腿まで脱げたが、彼の姿が見えない。
元気が取り戻せず、恥ずかしがって下を向いているのだろうか。
毛も殆ど生えていないから、成長が遅いのかもしれない。
小さくても、帽子を被っていても僕は笑わないよ。
そんな風に念じながら、膝まで下がったズボンを足元まで下ろした。
久しぶり、MySon。
いいや、こんにちは、新しい相棒。
僕は微笑みながら、股を大きく開いた。