せわしなく過ごしているうちに退院日の朝を迎えた。
忙しそうなのは周りの人達で、僕は勉強とリハビリの総仕上げ、朝と夕食後には搾精といつも通りだった。
半年と少し、僕にとっては長いリハビリだったけど、通常の3~4倍の回復力だという。
九条先生は精子の生産速度と比例しているのかもと興味深げに言っていた。
栗華さんは、昨日最後のセックスをした時も、様子に変化はなかった。
噛み締めるように深く抱き合ったし、名残り惜しみもした。
でも、分かれ難さに二人涙を流してのお別れにはならなかった。
彼女は今までと変わらず、良かったねと天使の笑顔で言った。
御堂さんは惜しんでくれた。
童貞を卒業した僕の体に大分依存していたと思う。
それは僕も同じで、快楽の解放という点でも凄くお世話になった。
朦朧とはしていたけど、一度だけ失神せずに耐えられたので、少しは快楽耐性が上がったかもしれない。
交尾としての快感ならば、彼女の方が僕に刻みつけたものは多い。
九条先生は精液検査以降、僕を抱くことはなかった。
セックスどころか性に関わる一切の行いが無かった。
というよりも、事件の機密情報を閲覧してからは僕に対して身体接触も極度に控えていた。
僕が輝君ではないと言ってくれつつも、僕に輝君を見ていたのだと思う。
悲しかったし、抱いて欲しかった。けど何度誘惑しても相手にされなかった。
前世の僕であれば、栗華さんに強い恋愛感情も抱き、その上で好きな時にいつでも繋がれている時点で満たされている。御堂さんや九条先生にも求めるなんてことはあり得ない。
でも今の僕は、沢山のチンポを欲しがる淫乱だ。それが事実。
最近では改善どころか、罪悪感や自己嫌悪が薄れてきていた気がする。
室内を見渡す。
普段から綺麗にしてくれていたので、あまり変化はない。
せいぜい、アリス姉が持ち込んだ書籍がなくなってスッキリした程度。
持ち出す荷物は手カバンが一つ。
中には愛華さんに買って貰った幾つもの下着と、生理用品。
僕は、人の役に立てる人間でありたい。
でも僕は、性欲以外に何も持っていない。
僕は、誠実な人間でありたい。
でも性や異性に対して、僕ほど不誠実な人間はいない。
この荷物は、まるで僕そのものに見える。
「光琉君」
開いてるドアをノックしながら、九条先生が僕に声をかけた。
「時間よ」
新しい人生の始まりの合図が鳴った。
お世話になった部屋に別れを告げて、はじめの一歩を踏み出す。
「ナプキンは付けた?」
「ええ。
淫乱ですから」
──────
「ああいう言葉は、絶対に外で使っちゃ駄目」
「はい…」
「好きとかエッチしたいとか、軽々しく言うのもやめなさい」
「はい…」
「本当にわかってる?水無月さんや御堂さんにしてるようなスキンシップも駄目よ?」
「はい…」
凄い怒られた。
ついでと言わんばかりに、次から次へとお説教が止まらない。
「最後に、手を繋いで貰えませんか」
「そういうのも、…仕方ないわね」
僕の表情で真面目なお願いだと察したのか、足を止めてそっと左手を掴んで歩いてくれる。
細くて長い指に包み込まれて、僕の体が安心する。
身動き一つ取れなかった僕を、死の淵から救い上げてくれた人の手だ。
一歩前を歩く九条先生を、じっと見つめながら歩く。
長いまつ毛に、キリッとした目鼻立ちの横顔。
見慣れた白衣と長いブラウンヘアーを靡かせて堂々と歩く姿は、まるでヒーローのようだ。
凛々しくて、頼もしくて、カッコいい。
僕は今からこの人の側を離れて生きていく。
九条先生がいない、前世とは違う知らない世界。
そう考えると不安が襲ってきて、握る手に力が入る。
「…大丈夫?」
九条先生から振り返り気味に問われ、僕は足を早める。
先生の真横に立って、僕も先生のように胸を張って、前を見て堂々と歩く。
そうすると力が湧いて来て、怖いものなんてないと不安が消えていく。
「平気です。なんたって僕は九条先生の患者ですからね」
「ふふ、何よそれ」
「僕の誇りです」
笑う九条先生に、元気になった姿を見せつけるように、もう一歩前に踏み出して応えた。
出入り口が近づくと、家族と護衛の二人が見えた。
側には水無月さんと御堂さん、最近何度か挨拶した婦長さん達もいて何か会話をしていた。
別れの挨拶は手早く済ませた。
元々湿っぽいのが苦手ではあるが、性器が逆転してからセンチになるとヘラついてしまうのだ。
情緒不安定になって泣くならまだしも、切なくて抱かれたくなると宜しくない。
あらかじめ手紙を書いておいたので、それぞれに感謝の一言を添えて渡した。
栗花さんの封筒には、僕の下着も一枚入れてある。
彼女が一番好きだったビキニを、ナプキン無しで着用してビニールに密閉して入れたおいた。
我ながら女々しいとは思うが、僕をすぐに忘れて、別の男に興奮してちんこを勃たせると想像すると我慢ならなかった。別れを惜しんでくれない彼女への腹いせだ。
無理を言って呼んでもらい、初めて会う事ができた年配の女性には、ハグもしてお別れした。
「どうですか、僕の力?」
「元気になって良かったわね〜」
「凄く強いでしょう?」
「ええ、凄すぎておばちゃん潰されちゃいそう」
大袈裟にリアクションを取ってくれるが、僕の体の線はまだ細いので、全力で抱きしめても潰せはしない。
「毎日美味しいご飯をありがとうございました」
「味気なかったでしょう?似たものも多くって」
「そんな事ないです、全部食べてたら体重も凄く増えました。これも見てください」
肌を出せる服装ではないので、力こぶのポーズを作って服の上から触ってもらう。
ちんまい力瘤なのだが、調理師のおばちゃんは態とらしく驚きながら、目端に小皺を作りながら嬉しそうに褒めてくれた。
「私たちにまで、お手紙ありがとうね。ぐず…他の皆にもちゃんと、読んで貰うからね」
「お願いします。本当にありがとうございました」
おばちゃんが一番ボロ泣きしながら、初対面の他人に過ぎない僕の回復と退院を喜んでくれた。
もう一度だけ、今度は優しいハグでお別れした。
それとお別れではないが、見送りに来てくれた母にもハグをする。
「お母さんもご飯沢山食べて、力つけないと駄目だよ?」
「光琉は凄いわね。こんなお母さんでごめんなさい」
「ごめんは禁止。今日は嬉しい日だよ?」
「そうよね、ごめ…。光琉、退院おめでとう」
「ありがとう。先に行って待ってるから」
「すぐに帰るから、皆んなと仲良くしててね。体には気をつけて、体調が悪くなったら…」
「大丈夫。クリス姐にちゃんと頼るから」
母にも一旦の別れを告げて、車に乗り込んだ。
半年以上、ずっと側に居てくれた人達が向こう側にいて、今は知り合ったばかりの人達に囲まれている。
不思議な気分で見送られながら、僕は病院を後にした。
素人の拙作をここまで読んでいただき、ありがとうございます。
一旦、序章的な区切りはここで終了です。
人物にフォーカスしたものが二人分あるので、それも追って投下します。
単純にエロい物が書いてみたくなり初挑戦したのですが、大幅にブレてシリアス展開になってしまいました。
なんというか、喘ぐのが主人公なので抜きどころが分からず、シーンを書くのも難しくて迷走していきました…。
悩んで手を止めるよりはと次章を書き続けていますが、あまり好まれないようであれば少し物書きの勉強をしてから別作品として描き直すかもしれません。
感想、評価を頂けると嬉しいです。