※この作品はR-18です。

性器が逆転するとは聞いてない   作:momo1ng

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天内アリス(1)

テルが見つかったのに家族で喜べる日は来なかった。

テルが帰ってきたのに私は何もしてあげられなかった。

 

なんでだろう。

分からない。

気がついたら、テルのお葬式が終わってた。

 

法律が適用されて戸籍から除外された。

その意味は分かる。

 

でもテルはまだ生きていた。

それなのに死んだ事にされた。

意味が分からない。

 

あおいママは壊れてしまった。

私が壊したものは、元には戻らなかった。

私が壊したものは、もっと壊れた。

 

ママは外に出ている時間が増えた。

この家は私が守らなきゃいけない。

 

何で。

何のために。

何を守るんだっけ。

 

…そうだ。

私はお姉ちゃんだから、美雪が大きくなるまで守ってあげないと。

 

──────

 

テルの双子の弟が生きていた。

生後直後から10年寝たきりだったけど目覚めた。

奇跡的にみるみる回復と成長を遂げたのだと言う。

 

馬鹿馬鹿しい。

 

あおいママを立ち直らせるために、そういう設定で付き合えというのか。

私たちは被害者家族だから、養子をあてがえば泣いて喜ぶとでも思っているのか。

数が少ない男の子だから、喜ぶとでも思っているのか。

テルの紛い物を、私の家族に混ぜろと言うのか。

伝えにきた大人達に、ふざけるなと私は怒鳴り散らした。

 

< 適合率 99.999% >

 

嘘だ、そんなはずない。

でもママは、出産直後に亡くなった弟の存在を知っていると言う。

なら、こんな嘘くさい話が、本当に?

 

いや、あり得ない。

そうか、やっぱりテルが生きてたんだ。

だって、テルは死んではいなかった。

 

面会日まで眠れぬ日を過ごした。

テルが生きてた。

やっとテルが戻ってくる。

だけど、別人のフリをしなきゃいけない理由がある。

 

拉致事件に、財界人や政府関係者が何人も関わっていた。

一時そんな噂が流れていたけど、この話でそれは現実味を帯びた。

誰も信用できない。

 

ママは私の言葉を信じてくれなかった。

テルに心から寄り添えるのは、私しかいない。

絶対に、今度こそ私が守ってみせる。

 

──────

 

この扉の先にテルがいる。

目が覚めたテルがいる。

再会を目前に、途端に怖くなって足が震えた。

生身のテルからどんな罵声や恨み言を浴びせられるのか、それに気づいたら部屋の前で動けなくなった。

 

テルは何度も私の前に現れた。

私に助けを求めて泣き叫び、失望して、恨んで、呪った。

私に守られるどころか、拒絶されるんじゃないか。

私がテルに近づいていいのか。

もしかして、テルも壊れるんじゃ…。

 

立ち竦んだ私を、ママは無理やり病室の中に引き入れた。

 

恐る恐る前を見たら、部屋の中には本物のテルが立ってた。

髪は真っ白だけど、肉付きや肌艶が良くなって、元気になった姿。

可愛らしいテルが成長したら、きっとこうなっていたと思わせる姿。

少し困った顔が、小さかった頃のテルにそっくりだった。

嘘じゃなかった、テルは本当に生きてた。

嬉しさで涙が止まらなかった。

 

「あ、んんっ。初めまして。天内光琉と言います。…」

初めまして?

ヒカルってなに?

あなたはテルでしょ?

 

そうだった、別人の設定だった。

テルは、光琉という弟を演じている。

涙を拭って、ママと話すテルを私はじっと観察した。

 

テルの面影はあるのに、テルが私を見るその目は、完全に他人に向けるものだった。

そんな目で見られるのが耐えられなくて、私は演技をやめるようにお願いした。

 

「アリス。お姉ちゃんだよ?」

「はい。よろしくお願いします」

 

私の名前にも、存在にも、この子は欠片も反応を示さなかった。

怒りも、喜びも、憎しみもない。

あるのは赤の他人に対する戸惑いだけ。

それを見せることに何の躊躇いも、罪悪感も感じていない。

この子の目は、心底私を他人と見ている事を突き付けてくる。

 

絶望した。

この子はテルじゃない。

テルは生き返ってなんかいなかった。

本当に別人なのだと、理解してしまった。

悲しくて辛くて、また涙が流れた。

 

ぼんやりとしながら、ママとこの子の会話を聞き続けた。

 

「僕という存在が、皆さんが失ったものに釣り合うとは、とても思えなくて」

途中、光琉と名乗ったこの子はそう言いながら、私を見た。

 

当たり前でしょ。

釣り合うわけがない。

でも。この子は、私達の苦しさを理解しようとしている?

 

「僕を見るたびに、辛い思いもさせてしまうんじゃないかって」

そう、今もとても辛い。

あなたを見ていると、テルだと思いたくなる。

 

「泣かせてしまうんじゃないかって」

そう、涙が止まらないの。

もう何度も、諦めたはずなのに。

 

「我慢して、心で泣きながら、笑顔を作らせてしまうんじゃないかって」

そう、ママは、いつも笑いながら泣いてる。

助けて、誰か助けてよ。

 

「そうさせてしまったら、それは僕にとっても、とても悲しくて、辛いことで…」

この子は、私達と同じだ。

同じように、悲しんでくれてる。

 

「上手く言えないんですけど、…伝わりますか?」

伝わってるよ。

 

似てるだけじゃない。

この子は、本当にテルの弟だ。

この子は一人で悲しんでる。

 

嘘じゃなかった。

光琉は、一人ぼっちで生きてきた、私のもう一人の弟だった。

 

 

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