他人の家の匂いがする。
家に上がると廊下を真っ直ぐ進み、洗面台に案内されて一緒に手を洗ってから、リビングに向かった。
庭同様に、家の中も綺麗に片付いている。シンプリストというほどではないけれど、子供が二人いる家庭の割に物が少なく思える。隣室の扉が取り払われてリビングと一体化しているのでかなり広い。なのに物が少ない分、少し寂しいとも感じる。美雪ちゃんのおもちゃとか、ゲーム機なんかは一切見当たらない。
玄関にもあったが、掛けられている写真はテル君も映った昔の家族写真が多い。
最近の写真は、入学式か卒業式のものだけだし、記念日なのに笑顔はない。
何だか、天内家の時間が止まっていたのを感じてしまう。
「光琉も沢山撮ろうね?」
「はい」
少しセンチになっていると、横を通ったクリス姐が明るい声で言ってくれたので、僕も明るい声で返しておいた。
この家を元気で明るくできないと、僕が家族になった意味がない。
「お仏壇、手を合わせても良いですよね?」
「もちろん」
お線香はあげずに、おりんを控えめに鳴らして手を合わせると、横にアリス姉も正座で並んで手を合わせた。
お仏壇にはテル君が好物だったと思わせる、子供向けのチョコ菓子が幾つか供えられていた。
キッチン、トイレ、お風呂を案内されて、母さんとクリス姐の部屋は遠慮した。2階に上がると美雪ちゃんが追いかけてきて、ダメだと通せんぼされた。見るつもりはなかったけど、ちょっと寂しい。
「ここがテルの部屋だったの」
そう言って見せてもらった奥の部屋は、小学生らしい子供部屋という感じではなく、ダンボールが幾つか並んでいて、物は大分整理されていた。
一箱分の思い出を残し、あとは引っ越しに合わせて処分することにしたそうだ。
皆、断腸の思いで決断したのだろう。
かける言葉が見つからずに眺めていると、アリス姉に次を促された。
「ここが私と光琉の部屋ね」
「へ~。………僕も?」
「うん。棚は開けたから、ここは光琉が使ってね?それと───」
アリス姉は僕が受け入れるのを当然のように説明を続けた。
…これ、どうするのが正解?クリス姐も承知の上?
化粧品や香水の類は見えないのに、部屋の中に女の子の匂いが充満している。鼻腔が刺激されて、膣の中をマン汁がたらりと流れた。恐らく、アリス姉がオナニーをしてから換気をしていない。そう思わせる、生々しい雌の匂いがする。
ここに長くいるのは良くないとは思うのだけど、どうしていいか分からず動けない。
僕がテル君の部屋を使いたいと願い出るのは、最後のお別れをしている家族の思いを踏み躙るようで気が引ける。
そうなると、美雪ちゃんかアリス姉、どちらかと相部屋になるしかない。
姉妹2人で1部屋にして、僕に部屋を空けて?なんて言える筈もなく。
ならこれが当然の成り行きか。
だがこれは、理性が効かなくなる。下腹部が疼いてムラムラが半端ない。早くここから出ないと。
「アリス姉は僕と一緒で迷惑じゃない?」
「何が?」
質問に質問が返ってきた。
「ううん、ありがとう」
「そこに座っててね」
アリス姉はにっこり笑ってベッドに腰掛けるように促すと、僕が開けっ放しにしていた部屋の扉をパタンと閉めた。
あぁ、換気してたのに…。
そうしておもむろに服を抜き始めた。
「あ、着替えるなら出て行くから」
「違うよ。大丈夫」
そう言ってアリス姉はベットから立ち上がる僕を押し戻して脱衣を再開する。
全然大丈夫じゃないんですけど?
そう思いながらも、露出し始める肌から目が離せない。
僕に笑いかける時以外、平時では愛嬌らしいものが全く無い彼女だが、素材はとても良い。
透明感のある白い肌がどんどん晒されて、ごくりと喉を鳴らす。
「…アリス姉?なんで脱いでるの?」
「え?て、手よりも、私がいいよね?」
「いや、なんで?」
「っ、口が良かった?」
慌ててスカートも脱いで、パンツとブラだけになったアリス姉が僕に詰め寄って押し倒す。
「そ、そうじゃなくて、僕はまだ大丈夫だから!服を着て!?」
「…光琉?」
「はいっ」
アリス姉の目からハイライトが消えて、僕は慌てて返事をする。
「約束して。嘘や隠し事はしないって」
「………ん~」
この表情、適当に約束するのは危険な気がして、僕はよく考える。
「嫌なの?なんで?約束出来ないの?」
「アリスねえを傷つける嘘はつかないけど、時には気遣いの嘘も必要でしょ?」
「そんなの必要ないよ?」
目がマジだ。
「えっと、嘘をつかずに生きられる人間はいないって本にも…」
「じゃあ私にはやめて?嘘を吐かれると傷つくから」
「…そう出来るように、頑張ってみる」
「じゃあ約束」
僕の小指とアリス姉の小指が絡まり、指切りの儀が執り行われた。
今どれに対して約束された?
頑張るに対してだよね?
「光琉は私に欲情してるよね?」
「…はい」
約束した側から嘘は吐けないので、正直に答える。
「そうだよね」
アリス姉は恍惚の表情を浮かべて、嬉しそうに身を震わせた。
「だからと言って、今アリス姉にさせようとかは思ってなかったから」
「出さないと、光琉は後で辛くなっちゃうよね?」
「…はい」
これも本当の事だ。
「光琉には毎日必要な事だよね?」
「そうだけど…」
「光琉ー?アリスー?降りられるー?」
救世主の声が一階から響いた。
「はーい!アリス姉、僕はまだ大丈夫だから。嘘じゃ無いから。この話は後でしよう?」
「光琉は私の事、好きだよね?」
「うん」
「分かった。後でね」
これはもう、いつまでも後回しには出来ない。
下でちゃんと相談しよう。