昨日、この世界についてまた少しだけ知ることができた。
別に特別な決意をした訳ではないが、気持ちが一歩前に踏み出せた気がする。
心も身体もリハビリ中だ、一歩一歩進んでいこう。
転生を理解してから、『貞操逆転世界をオチンポビンタで無双する』とかいう頭の悪い世界を想像しなかったと言えば嘘になる。
少し期待もしたが、そんなに甘い世界ではないようだ。
それに僕は、英雄願望がそこまで強くない。
なりたいと思う事はある。
だけど1、2年ならまだしも、一生特別な存在で居続けたいと願えるほど、肝が太くない。
特別な力を備えた者には、相応に大きな責任が伴う。
セックスだって好きだが、年がら年中腰振ってる猿なんて逆に地獄だ。
金と子種のために早く引退させられ、早死にした名馬もさぞ辛かっただろう。
何事もほどほどだ。
僕の座右の名は『一隅を照らす』。
誰かの人生を、少しだけ支えて助けてあげる、そんな生き方が好きだ。
そんな人達で成り立っている社会が好きだ。
それに恥じない生き方を探そう。
「大丈夫そうね」
「知っても、急に何かが出来るようになったりはしませんから」
今日も九条先生が来ている。
いつものように朝食、リハビリ、勉強、昼食を終え、精神面で何らかの変化がないかの確認だ。
「ふふ、随分立派なことを言うじゃない?」
「僕にはまだ何かをする土台すらありません」
「正直に言うと、境遇と年齢を考慮すると貴方はおかしな点ばかりなの。いい意味でね。こうして穏やかに会話ができている事ですら奇跡なのよ」
そうだよね、僕もそう思う。
「質問してもいいですか?」
「いいわよ」
話を変えよう。
「僕に家族はいるんですか?」
「ええ。でも目覚めたことはまだ知らないわ」
やっぱりね。
「今は合わせるための準備をしてくれている。そう考えていいんですか?」
「ええ。出来る限り早く、家族の元に返してあげたいと動いているわ」
「ありがとうございます」
「…随分と聞き分けがいいのね?不満を言ってもいいのよ?」
うん、14歳ならそうですよね。
「家族のことを何も思い出せないので、再会して一緒に過ごせるのか、いい息子を演じた方がいいのか、被害者である僕は嫌悪感のない性に対して、どう振る舞うべきか、とか悩んでます」
「…そう」
「僕は同情して欲しくないんです。可哀想な被害者として生きたくないし、僕の周りの人には笑顔でいて欲しい」
「…そうね。ええ、分かるわ」
やはりしんみりしてしまう。
僕はテル君じゃない。
でも先生はテル君として接してくれる。
この辺の温度感はどうしても出てしまう。
どうしたらいいんだろうか。
「次は、エッチな質問してもいいですか?」
「え、ええ」
「はい!私にも聞いて!」
戸惑う九条先生とは対照的に、正座姿で綺麗に挙手をする水無月さん。
ある意味今も監禁生活だが、この明るさにはいつも救われる。
「女性の性欲はかなり強いと教わりましたが、こんなに側で一緒に過ごしていても、僕を襲いたくならないんですか?」
「なります!」
一切の迷いなくシュバる水無月さん。
「…なる事もあるわ。犯罪も厭わないほど強い性欲が湧くことは、稀よ。これは個人差があるから、回答が難しいわね」
真面目に答えを探してくれる九条先生。
稀に犯罪覚悟でしたくなるんだ。
「例えば、家族生活、学校生活で襲われる性被害はどの程度ですか?」
「家族でするのは普通ね」
「え?」
だめでしょう。
「子作りはしなくても、合意の上で姫始めや搾精の補助を家族が担うことは多いわ。酷い事をされない安心感は家族が一番だから」
「…はぁ。なら近親相姦でのレイプはほぼないと」
「あるわ。統計では18歳未満の男子の15%は家族から性被害を受けているわ」
「たっか」
安心感とは一体。
前世はどれくらいだったんだろう、1%あったのか?
AVの企画か特殊な家庭で起きる犯罪、という漠然としたイメージしかないぞ。
「在学中の性被害率は小学で15%、中学で30%、高校で50%、大学で45%。学外以外での行為も含めてよ」
「いやいやいや、高すぎでしょう」
虐められっ子どころではない。
だけど、これなら家族は安心と言えるかも?
「近親相姦ってお子さんに悪影響ありますよね?」
「先天異常、流産、劣性遺伝なんかを全て合わせて『悪影響』とするなら、通常よりも2、3倍高くなるのは間違いないわ。薬で対処してもね」
あれ、低くない?
「高齢出産も悪影響がありますよね?」
「30歳以降、5歳毎に悪影響の確率は桁をあげて高くなるわ。正確な数値は調べないと分からないわね」
「いえ、大凡で充分です」
どうだったかな、こっちは似たような数字な気がする。
「特例はあるけど、45歳を過ぎての出産は不許可と考えても差し支えないわね」
「男性側の年齢による影響は?」
「35歳から精子の運動率の低下傾向、つまり着床率の低下。加えて60歳以降は5歳毎に胎児の悪影響の確率が倍で増えていくわ」
「75歳以降の精子提供は等級問わず禁止よ」
言うても、そもそも勃たなくない?
あ、違う。
僕についてるのマンコだった。
でも精子出すのは僕か。
あってた、ややこしいよ。
「精子には、等級があるんですね」
「寝たきりの時の貴方は5級。利用可能な最低等級だったわ。
…そろそろ、再検査を受けて貰う事になるわ」
「あ~、なるほど。それで昨日あの話を」
「察しが良くて助かるわ」
得心がいった。
しかし5級か、せめて普通位欲しかった。
将来パートナーができた時、自然妊娠させられるのかな。
「大丈夫だよ~、テル君は最低でも4級には回復してるから」
「なんで分かるんですか?」
「美味しかったもん」
「…え?」
何言ってんのこの人?
「水無月さんはシーメン・エキスパート資格の保有者よ。咀嚼で精子の運動率判定ができるの」
「味と香りです!」
わっつ?
「ソムリエみたいなものですか?」
「そうよ。先日の貴方への愛撫は検査の一環として不問にしたの」
「最近は体の匂いでも分かるようになって来たんだよ~」
やっば。
何この人しゅごい。
「もしかして、四六時中僕の匂い嗅いでるのって、医療行為だったんですか?」
「え?そ、そうそう、そうだよ~」
あ、これは単なるセクハラだ。
「…月に二度で充分でしょう?」
「え~と、テル君は念入りに検査してあげたくて、その〜」
「貴方って人は…」
九条先生はまた何か処分しなければと頭を抱える。
そうなんだよな。
処分する側だって結構辛いんだよ。
上司なんて、叱るよりも褒める方が気分はいいんだ。
なのに文句を言うのは、叱られるような問題を起こした人間だ、泣きたいのはこっちだってのに。
昔を思い出して同情心が湧いてくる。
「良いですよ、九条先生は気にしないでください」
「天内君…」
呆れながら怒っている九条先生を、優しくナデナデしてあげる。
大人だって辛い時は優しくしてほしい筈だ。
「それに僕もクンクン仕返してるんで」
「…え?」
「え?」
「え?」
なんで真っ赤になってんの?
九条先生まで。
それは御堂さんのキャラでしょ?
「そ、それってつまり…そういうこと、なんだよね?」
いや分からん。