面談を終えて護衛室を確認してから校舎を出る。
「勝手にすみませんでした」
「…やっぱり、私はアリスの母親ね。…私も自分が嫌なのよ、光琉が知らない女に何度も抱かれるのは」
「ごめんなさい…」
「光琉は立派よ。私が小さい女なの」
クリス姐の元気がない。
僕が模範生になろうとしているのが、かなりショックだったみたい。
「普通ですってー。ヒマだって嫌ですもん」
「私も想像すると面白くありません。理屈ではすべき事だとわかっていても」
「陽毬さん、司紗さんも…ありがとう」
来客用のスリッパを脱ぎながら、暗さを飛ばす雑談を交わす。
もうすぐ一ヶ月になるので、二人は僕以外の家族にも結構馴染んできている。アリス姉を除いて…。
最後の方は微妙な雰囲気になったけど、良さそうな人達だった。
校長や学年主任はかなり親身に考えてくれていた。
それにあの乳…生徒会長さん。
「素敵なお嬢さんだったわね。あの子とお付き合いするなら大歓迎よ?」
「何言ってるんですか。高嶺の花ですよ」
「光琉は世界一可愛いから丁度いい位よ」
身内贔屓のスケールがぶっ飛んでますって。
「怒られますよ?それに僕は肩肘張らずに付き合える、普通の子が良いです」
確かに芯が通っていて素敵な人だったけど、僕は釣り合わない。
多分二人でいるだけで息が詰まる。胸に挟まれたら物理的にも息が詰まる。
ダメだ。
良い人そうだったのに乳袋の印象が強烈過ぎる。
「でもあの人が生徒会長さんで良かったです。良い学校だと思います」
「そうね。私も安心できるわ」
クリス姐も学校自体には文句がないと言っているし、ここで決まりだな。
「こんにちわ」
「あ、こんにちわ」
在校生と思われる女子生徒から挨拶されたので返しておく。
気持ちのいい笑顔で会釈して、スッと立ち去っていった。
桜蘭はお嬢様学校では無いはずだけど、一般生徒ですら気品がある。流石は名門の一角か。
挨拶が「ご機嫌よう」の学校じゃなくて良かった。
面談の振り返りをしながら車に乗り込んだ。
「そう言えば、生徒会長ってあそこまで口を挟めるんですか?」
「鳳仙
「…ほうせん財閥?」
乙牌さんじゃなかった。
司紗さんが説明してくれてようやく理解できた。
鳳仙財閥。
四大財閥の一つで、東京都では
近畿・関西地方では最も大きな影響力を持つ一族。
乙葉さんは現当主の長女の娘で次女にあたる。要するに孫娘だ。
桜蘭学園は鳳仙グループが経営していて、あの理事長は分家の出で雇われの身。
頭が上がらないわけだ。
前の世界では財閥は解体されていたし馴染みはないけど、なんとなくヤバい存在だとは分かる。
庶民の僕はそんな人とはお近づきにはなりたくない。
クリス姐には悪いけど、自分からは関わらないようにしよう。
もう少ししたら、みぃとここに通うことになる。
校舎内も綺麗だったし、生徒さんも品があっていい学校だ。
こんな立派な学校でもう一度学生生活が送れるなんて、とんでもない幸運だよな。
そんな事を思いつつ、景観や道のりをじっくり眺めながら車に揺られて帰路に就いた。
Side 通りすがりの女子生徒
あら、可愛い子ね。こんな時期にどうしたのかしら?
見知らぬ制服を身に包んだ学生とその親子が見えたが、直ぐに廊下を曲がってしまった。
これから部活の練習なのに、綺麗に輝いていた真っ白な髪をつい追いかけてしまった。
護衛を二人もつけるなんて、名家の子かしら?
なら男の子よね?あんなに可愛いのに?
でもリボンだったわよね。不思議な子。
あ、いた。やっぱり凄く可愛い…。
気になってしまい、下駄箱越しに近づいて聞き耳を立てた。
こんな男の子が受験するなら情報が回ってくるはずなのに、私は聞いた事がない。
新入生じゃなくて編入生かしら?
「素敵なお嬢さんだったわね。あの子とお付き合いするなら大歓迎よ?」
「高嶺の花ですよ」
やっぱり男の子だ。
それにしても、もう母親公認の愛人候補が?
「光琉は世界一可愛いから丁度いい位よ」
ヒカルっていうのね。
もっと近くでもう一度見たい。
「僕は肩肘張らずに付き合える、普通の子が良いです」
良かった。母親公認の女はヒカル君の好みではないみたい。
「でもあの人が生徒会長さんで良かったです。良い学校だと思います」
「そうね。私も安心できるわ」
生徒会長?鳳仙乙葉に会ってたの?なんで?
小さかったしきっと新入生よね。桜蘭には春から通うのかしら。
何処の制服かもう一度よく見て、しっかり覚えておかないと。
「こんにちわ」
「あ、こんにちわ」
自然な素振りで姿を見せて爽やかな挨拶だけ交わしておいた。
護衛もいるのに、じっくり見たり探りを入れるような真似はしない。今は印象作りだけで充分。これが後々効いてくる。
痩せすぎているのが気になったけど、本当に可愛い子だった。髪の色といい、病気だったのかしら。
初対面なのに笑顔で返してくれる愛嬌もある。
間近で見たらもう気に入ってしまった。
この子は私の物にする。
スカートの中に手を入れたら、どんな顔で嬌声をあげるのかしら。
あの可愛らしい顔を、快楽と恐怖で歪ませたい。
想像しただけでゾクゾクして股間が迫り上がる。
それにしてもあいつ、もう唾つけてたの?
許嫁の愛人も居るくせに、手癖が悪すぎでしょ。
私も早くあの子の情報を集めないと。
学校を去って行く車を見つめながら、携帯を取り出して家に電話をかけた。
「───そう。中学3年か、高校からの編入。多摩ナンバーだったから東京在住よ。…いないわけないでしょ!良いから調べ直しなさい!」
使えない使用人ね。
無能ほど手よりも口を動かす。
そんな目立つ子がいれば、情報が無い訳がないと調べもせずに口答え。
ここは敵地だから学校から情報は得られない。せめて副理事が戻っていればなんとかなったのに。
コンコン
「失礼します」
「あら姫乃さん。珍しいわね、休日に何の用かしら?」
別に生徒会になんて用はない。
私からも探りを入れた方がいいと思っただけよ。
「ヒカル君は、春から高等部に通えるのですか?」
「…なんの話ですか?」
当然、
「先ほどヒカル君とお母様達にお会いして、ご挨拶をさせて頂きましたの」
「…そうですか」
既知の仲という印象を与えておけば、後はこの女が勝手に想像する。
「素敵な方達でしたから、受け入れの方が気になってしまって」
「…決まっている訳ではないわ」
「まさか拒否なさるのですか? …なら、姫立の系列をご紹介差し上げた方が良かったかしら」
「学園は歓迎しています。後はあちら次第です」
「それを聞いて安心しました。では失礼」
「………」
ドアノブに手をやった所で再考する。
いつも気取って勘違いしてるこの女に、もう少し牽制しておこう。
「あ、そうそう。鳳仙さんの印象はとても良かったみたいですよ?お母様には」
八方美人らしく、上手くやったようね。
「どういう意味ですか?」
「そのままですよ。ヒカル君は苦手だと言っていましたが。では」
「………」
パタン
肝心の本人が嫌がっていると分かれば、流石にちょっかいはかけないでしょ。
品格をやたらと気にする女だしね。
その癖にいつも下品な胸を揺らして、態とらしく男子生徒の注目を集めている。
気に入らない。
粗方情報は集まった。
春からに対する反応を見てもまだ中学生で間違いなさそう。あの制服を調べれば辿り着くのは容易。
後はどうやって接触するか。
学年が違っては機会も限られてくる。
新入生の中に、何人か手駒を用意した方が良さそうね。
──────
「なんでいないのよ!私が制服を見間違えたとでも言うの!?」
「そう言われましても…他に該当する学校はありませんし…」
「はぁ~、ほんっと使えないわね」
あの子が着てた制服は、細多摩中学のものだった。
ただの公立中学。
護衛を二人も引き連れて、あんな辺鄙な住宅地に住んでるなんておかしい。
おかしい上に、あの子は在学していなかった。
そういえば、リボンだったわね。
…借り物の制服?自分の制服は何で無いの?
…病気…持っていない?
…中学に、行ってない?
可能性はあるわね。
もしそうなら、余計な手垢がついていないのなら尚更そそられる。
あの親子仲なら家族すらミカンの可能性も。そうでなくても上の口やお尻はまだの可能性は十分ある。
「不就学生で調べ直しなさい。長期入院患者で病院もあたるのよ」
「承知しました」
面白くなってきたわ。