アリス姉が僕にスク水を着せたくないと文句を言っていると一組の親子が近づいてきて声をかけて来た。
「深層が見えている立派なお考えだと思いますよ?」
「…すみません、お騒がせしてしまって」
クリス姐が戸惑いながら応える。
「いえいえ、お話が聞こえてしまいまして。私姫川と申します」
「えっと、桜蘭高校の方で?」
「ええ、息子が今年2年に上りますの」
「そうでしたか。うちは今年からで───」
オバさんが何たら団体にも所属してるとか言い名刺を出して自己紹介を始めた。
ファーストコンタクトの時点で不快感があったが、ジワジワと生理的嫌悪に変わっていく。
警戒心、胡散臭。…ちょっと違うな。
距離感…パーソナルスペースの侵害か。
自分とは異なる考え方をしていて、それを躊躇なく行動でも示されるので、心理的抵抗感が生まれてストレスを感じる。
長らく他人と接してこなかったので久々の感覚だ。
クリス姐に任せて少し距離を取ろうとすると、アリス姉も察してくれたのか一緒に移動してくれた。
「へえ〜」
声が聞こえた方に目を向けると、デブが品定めするようにアリス姉を見ていた。
デカいな。体重は僕の倍はありそう。そして目つきがキモい。このババアの息子か?
こいつもスカートやらスク水着てるのかよ。勘弁してくれ…。見たら吐くぞ。
「おいチビ、そっちは姉貴か?」
「それが何か?」
「困ったら2年の姫川を呼べ。助けてやる」
「そいつはどうも」
なんだこいつ。なに見下してんだよ。
アリス姉もイラッとしたのか、僕の手を掴んで無言で離れようとした。
「待て女」
「何よ」
「喜べ、俺の愛人にしてやる」
「あ゛? 寝言は寝て言えよ豚が」
反射で過去一汚ない言葉が口から出た。
「………お前…今…なんて言った!?」
豚が一瞬呆けてから、プルプル震えながら怒声を上げた。
「ユウちゃん!?どうしたの!?」
瞬間、僕らの間には司紗さんが割り込んでいた。
豚が何か喚いているけど、僕の視界には赤い髪と背中しか見えない。
陽毬さんが僕の横につくと、アリス姉がクリス姐に加わり親子と言い合いになる。
僕も言い返そうとすると、陽毬さんが動かず喋らないようにと静止した。
やや暫くして「見込み違いだ」「親子揃って礼儀がなってない」等と大声で好き放題言いながら親子は去って行った。
「…何ですかあれ、胸糞悪い」
「やめなさい。汚い言葉を使わないの」
あのババア、クリス姐まで罵りやがった。
「
司紗さんがクリス姐に頭を下げる。
「姫立?」
「姫立財閥です。あそこの傍流は姫を冠しますので。調べておきます」
言いながらクリス姐が受け取った名刺を預かっていた。
その様子を見て冷静になった。
「…もしかして、仕事に影響が出ますか?」
「そんなの気にしなくていいわ。アリスの為に怒ってくれたんでしょ?ありがとう」
「あんなのに気を遣う必要なんてない」
名門私立、財閥の残る社会、人間関係にもっと配慮すべきだった。
そうでなくとも、社会人なら怒りは一旦我慢して当然だ。
大体、今の自分では喧嘩すら出来ないのに、護衛がいる生活に慣れて気が大きくなっていたのかも知れない。
「…すみません。僕から揉め事を作ってしまいました」
護衛の二人は便利な駒じゃない。
危険が迫らないように、事前に調べて回避する最優先の仕事だ。
なのに僕がこれじゃ、無駄な仕事を増やすだけだ。
「殴りかかって来たら良かったんだけどねー。まー後は司紗が何とかするよ」
「そういう事です。ただ、一旦堪えて貰えると助かります」
「はい…すみません」
初めての買い物だったのに何だか気分が落ちてしまった。
残りのサイズ確認を終わらせて一式をオーダーして店を後にする。
あの親子が留まっているとは思えないけど、少し回り道をしながらエスカレーターの方に向かう。
「見た目も中身も、両方まともな男はいますよね?」
「ええ。あんな先輩ばかりじゃないから、心配しなくても大丈夫よ」
クリス姐は僕の不安を払うように笑顔で答えてくれる。
だけど、僕の不安は何も晴れなかった。
手を繋いで横を歩いてくれるアリス姉を見つめる。
「どうしたの?」
僕に向ける表情は、さっきまでの怒りが嘘だったかのように優しい。
アリス姉は少しづつだけど、表情が柔らかくなってきている。
この笑顔を他の人にも向ける日が、そのうち来ると思う。
それはつまり、好きな人ができたら、今僕に向けてくれている愛情をその人にそのまま注ぐという事でもある。
それを想像すると胸が苦しくなって繋ぐ手に力が入る。
「…大学で、変な人に引っかからないでね?」
「そんな事あるわけないでしょ」
アリス姉は少し驚いた顔をしてから笑って応えた。
階下に降りる前に、セールの文字が目に映り足を止めた。
下着3着で半額。
庶民は半額という文字に弱い。
「気になる?見ていこっか」
クリス姐の言葉に甘えて見せてもらう。
自分で選んだことがないので、どんな種類があるのか興味があった。
目立つ場所で広めに陳列されている下着はジャストウエスト、ノーマルレッグ、ボクサー。この辺が一般的なのかな。
中を回るとかっこいい物から可愛い物まで揃ってる。
種類としてはセクシー系が多くて、奥の方の陳列にはレースの穴あきや玉が連なったヤバめの物まである。こういうのはアダルトグッズじゃないのかな。
「そ、それが履きたいの…? 学校には履いていっちゃだめよ?」
「こ、こういうのは家用でしょ。わかってるよ」
じっくり観察していたせいで勘違いされてしまい、慌てて否定した。
「じゃあ、一つはこれにするね…」
アリス姉が真っ赤な顔で、サイズを確認しながら穴あきのショーツを手に取った。
そういう意味じゃないんだけど、喜んでくれるなら履きたいって気持ちになってしまっている。
色々見るたびに履いて抱かれるのを想像してしまったせいで、お股が酷い事になってきてる。
「…他に、履きたいものはある?」
恥ずかしそうにクリス姐が聞いてきた。
多分、そういう意味だよね。
ならクリス姐が喜んでくれそうなのを選ばないと。
悩んだ末に、前世で脱がせるのが好きだった白の紐パンを選んでクリス姐に手渡した。
クリス姐が恥ずかしそうにするから、僕も余計に恥ずかしくなる。
折角アダルトではなく普通のを選んだのに、なんだか生々しくなってしまった。
最後の一枚は、栗華さんにあげてしまったコットンストレッチのビキニ。色はライトグレー。
スポーツショーツで、カル◯ンクラ◯ンの定番のあれに似てる。
履き心地が良かったから僕も好きだった。
二人の服も見ていこうと下の階に移動する。
普段着を見ようと言ったのに、二人に夜着て欲しい物を選ぶ流れになってしまった。
悪あがきして下着ではなくルームウェアを物色する。
アリス姉にはカップ付きのキャミソール、ショートパンツ、カーディガンのセット品を。色はアイボリー。
クリス姐にはナイトブラ付きのワンピースタイプのキャミソール。色はラベンダー。
普段はパジャマで寝ているクリス姐は恥ずかしそうにしていた。
アリス姉は今度から全部選んでと喜んでいた。何でも嬉しいんだと思う。
少し前なら呆れていたのに、今はその反応が嬉しい。
美雪ちゃんにもルームウェアを買ってあげないと拗ねると言われたので、ジュニアの売り場にも寄った。
セクシーな物は来てほしくないし、パジャマは持っている。
困っていると、キャラクター物が目に留まった。
フードにちぃ◯わのような顔が描かれてる水色基調のポンチョ。薄手だけどミィちゃんでも膝近くまである大きめサイズだ。
着ているみぃちゃんを想像するとニヤついてしまう。
だけど、こういった物は赤ちゃんへの贈答品と同じで、一度着せたらタンスの奥が常だ。実用性がないので買い手の自己満足で終わる悲しいアイテム。
「それが良いの?」
「いえ、着てるところを見たかっただけです」
「なら喜ぶわ、これにしましょう」
「いや着ない物を買っても…」
クリス姐は着るから大丈夫とサイズを確認してサッと会計を済ませてしまった。
判断が早い。
嫌そうだったら、記念に着た写真だけでも撮らせてもらおう。
「もうお昼ね。折角だしランチもしていきましょうか?まだ外で食べた事がなかったし」
「あの…ごめんなさい。…そろそろ帰らないと厳しそうです」
「体調が悪かったの!?」
「どこが痛いの?光琉、そういうのはすぐ言って!」
「ち、違くて…その…」
小声で、遅くなると溢れそうだと耳打ちする。
「アリス、朝してあげなかったの?」
「し、したよ。出なくなるまでちゃんとした」
そう。空になるまでして貰った。
なのにもう7合目まで来てる感じがする。今日の僕は何かおかしい。