ライザリン・シュタウトと名乗った美少女と出会い、コスプレでもなんでもない、本物と疑いようがない存在を前に悠二は、驚愕に硬直していた。
(なんで、気づかなかったんだ……)
初めてプレイしたアトリエシリーズ、それが『ライザのアトリエ』だった。
それ以来、アトリエシリーズのファンとなり、ライザはフィギュアなどのグッズも買ったほどだ。
外見、声音、クラウディアという名前、気づく様子はいくらでもあったはずだが──。
(見れば見るほどライザだ……いや、本人だっていうのなら当然なんだが、まさか本当に二次元の女の子が流れ着くのか……)
「あ、あの、そんなにジッと見られると、さすがにあたしも恥ずかしいかなぁって……」
と、気恥ずかしそうに言う女の子──ライザに悠二は、思考を打ち切って慌てて顔を背けた。
「わ、悪い!」
「う、ううん、別にいいけど……どうかしたの? あたしの顔をジッと見てさ」
ライザは、いやらしさはなく驚愕した様子だったため許し、疑問を口にする。
「あ、ああ。どっかで見た覚えがあってな。気のせいだったようだ」
悠二は言葉を濁した。
さすがに二次元の存在だと告げるわけにはいかず、見た限りだとライザはそこに生きているように見えるからだ。
(このライザは、少なくともいまたしかにここに生きている。それをおまえは、空想の存在だと否定する気にはならないな)
悠二はライザを自分と同じ生きている人間として思っていた。
だからこのことは、わざわざ言うまでもないと秘めることにする。
「そっか。それで、これからどうする?」
「そう、だな……」
辺りを見回すと、遠くに海が見え、背後には高い山が聳えている。
「とりあえず、近場を探索してみよう」
「うん! よぉし、冒険の始まりだ!」
と、悠二の言葉にライザは勢いよく立ち上がった。
「って、きゃあっ!?」
幸い悠二は咄嗟に顔を背けていたが、思わずライザは、勢いよくしゃがみ込んだようだった。
男の子の幼馴染たちに混じって子供の頃から遊んできたライザだが、さすがに裸は見せたことはない。
それも会ったばかりの男の子が相手となれば、その恥ずかしさはひとしおだった。
いくら他の女の子たちよりも自分の魅力に自覚は薄いとはいえ、ライザにも羞恥心はあるのだ。
胸元と股間を手で隠し、顔を赤くするライザは、辺りを見回すがやはり身を隠せるものは何もない。
悠二は、手で隠されことで余計に強調された胸元が目に入らないように顔を背けているが、ライザは誤魔化すように笑う。
「あ、あはは……や、やっぱり裸は、さすがにまずいよね……」
「あ、ああ、そうだな。だが、とりあえず動かないことには……」
「そ、そうだよね……」
悠二とライザは、どうしたものかと悩む。
動かないことには何も始まらないが、その最初の一歩がどうしても踏み出せない。
(ラ、ライザは女の子だし、やっぱりここは男の俺が!)
そう決心した悠二は、立ち上がるとライザに背中を向けて言う。
「お、俺が先に行くよ」
「──ユウジくん?」
「俺は男だし、まだマシだからさ。キミには、うしろをついてきてほしい。その、それでもいろいろ見えるかもだし、つらいかもだけど、緊急時以外ではうしろ見ないからさ」
「……どうして、会ったばかりのあたしにそこまで?」
「俺は男だし、キミは女の子だろ。こんな状況だし、俺ががんばるのは当然かなって」
「──っ」
当然といった様子で発せられた悠二の言葉にライザは、驚いて顔を赤くする。
むかしから男に混じって遊んできたライザだが、成長してからも女の子として扱われたことはない。
(な、なんだろ、このドキドキ……は、裸見られるのよりも高鳴る……それになんだか温かい)
だから悠二の言葉は、ライザにとって初めて向けられたものであり、その豊かな胸の内を高鳴らせた。
そして、悠二もまたライザを当然のように普通の女の子として接していた。
やはり悠二にとって目の前のライザは、生きている人間なのだ。
(──よしっ!)
決意とともにライザは胸元と股間を隠しながらも立ち上がった。
「と、とりあえず他に誰もいないってことを願って、行こっか!」
「ああ、わかった」
ライザの言葉に悠二も頷き、先頭を行く。
その大きな背中、臀部にいろいろな意味で顔を赤くし、ライザは胸元や股間を手で隠して若干腰が引けながらもうしろをついていった。
悠二とライザは、警戒しながらも歩を進め、山が聳える中心地から東へと移動していた。
森を抜けていくと、やがて開けた視界には、穏やかな白砂のビーチが広がった。
「おおっ、綺麗だねぇ! クーケン島とは、また違った海だー!」
穏やかな小波の青い海原、太陽を照り返す白い砂浜にライザはテンションが上がったようだった。
日本から出たことがない悠二も、こんな綺麗な海はテレビや動画でも見たことがなく、見とれていた。
(いままでの生き方に後悔はないけど、こんな綺麗なものが世の中にはあるんだな。……異世界だけどさ)
実際に目で見ないとわからない感動があると、悠二は初めて実感した。
「おおっ、見て見てユウジくん! いろいろ流れ着いてるよ!」
「お、どれどれ──って、前前!」
「えっ? ──あっ!? 〜〜〜〜っ!」
豊かな胸を揺らして興奮した様子のライザに悠二がつい振り返ると、瑞々しい裸身が映り、お互いに顔を赤くして体こど背けた。
(ライザは自分のことを第一作でも『どこにでもいるような普通の女の子』って言ってたが、どこがだ!)
まぶしい白い柔肌、たぷんったぷんっと揺れる生乳、細っこいおなか、ライザの代名詞? な太ももが目に焼きつき、悠二は高鳴る鼓動を必死に抑えていた。
(み、見られちゃった! ユウジくんにバッチリ見られちゃったっ! ク、クラウディアやリラさんに比べて、あたしみたいな普通の体なんか見て、ユウジくん、がっかりしてないかな……?)
ライザは綺麗なクラウディア、美人なリラを思い出して落ち込み、不安を覚えていた。
恥ずかしさもあるが、悠二にがっかりされたかもと思うと、不思議なくらい胸が痛かった。
それはまったくの杞憂で、むしろ悠二はその逆で魅力と興奮を覚えているのだが。
(そ、それに初めて男の子の見えちゃった! ちょ、ちょっとしか見えなかったけど、な、なんかこう……すごかった!)
たとえるなら以前に倒したドラゴンのようだったと、ライザは思う。
しばし気まずかったが、悠二とライザは、どちらからともなく行動を再開し、左右に分かれて背中を向けて浜辺を調べた。
いろいろと流れ着いてきているが、使えそうなものは多くない。
「あ、ユウジくん! ちょっとしたものでも拾えたら拾っといて! もしかしたら錬金術に使えるかもしれないから!」
「ああ、わかった!」
離れたところからのライザの声に悠二も大きな声で返した。
ライザから道すがら錬金術についての説明も受けていたし、ゲームで調合したこともある悠二は、言われてそうだったと気づく。
(本当に現実にアトリエシリーズの錬金術があるんだな。もしかしたら見れるかもしれないのか)
ライザの錬金術士としての腕前はすごい。
他のアトリエシリーズの主人公は、失敗はあれど錬金術が使える状態で始まる。
だが、ライザは錬金術を使えないどころか知らない状態で始まり、アンペルから教わって短期間で修得してみせた。
他のアトリエシリーズの主人公もすごいが、単純な才覚ならばライザはアトリエシリーズ歴代主人公でも、間違いなく上位に入ると言っても過言ではないだろう。
そして、使えそうな素材を波が来なさそうな中心に集めた。
そのガラクタ山を前にライザがあれこれ唸るのを、悠二は背中越しに聞いていた。
「──どうだ?」
「……う〜ん……見たことない素材ばっかだなぁ。でも、鉄の性質とか見ても、あたしの世界のとは段違いにいいものだよ」
悠二の問いにライザは、そう返した。
ファンタジー世界よりも、製鉄に優れた世界のものであればガラクタといえども馬鹿にはできないということだろう。
(ざっと見た感じ、地球のモノっぽいのもあったしな。どっちが上とかじゃなく、長所と短所があるんだろうな)
「うん、いろいろ使えそう」
見聞していたライザは、満足げに頷いた。
「そうか。それで、どうするんだ?」
「うん。素材を使って調合を──あ、あああああ〜!?」
言葉の途中、ライザは何かに気づいたように声を上げる。
今度は振り向かず、悠二が訊ねる。
「ど、どうした?」
「ちょ、調合で思い出したんだけど……あ、あたし、いま、杖も、釜も、ない……」
ライザの言葉に悠二も思い至る。
(そ、そういえばアトリエシリーズの錬金術といえば、謎の液体に満ちたおっきな釜を杖で掻き混ぜたりするんだったな)
シリーズで差異はあるのだろうが、少なくとも悠二のプレイしたものはほとんどがそうだった。
だが、その杖と釜もいまはない。
それどころか服も下着もないのが現状だった。
「そ、それに、ほ、ほら、もし、あのルールが本当なら、さ……」
ライザが恥ずかしそうに言うと、悠二も思い出した。
女の子は、特殊能力を持っている場合、セックスした回数(体内に摂取した)分の使用回数を得る(使用するごとに使用回数減)のだ。
ライザの錬金術が特殊能力扱いの場合、仮に杖と釜があっても使うことはできない。
せっかく素材を集めてもこれでは、どうしようもなかった。
「ご、ごめんね、せっかく集めてもらったのに……」
「い、いや、そんな、キミのせいじゃないさ。俺も忘れていたしな」
「……うん、ありがと」
せっかく役立てると思っていて落ち込むライザだが、悠二の気遣いに微笑む。
ふたりはこれからどうしたものかと、悩んでいると──。
ガサガサと森のほうから音が聞こえた。
「な、なに?」
若干怯えた様子のライザに悠二は、彼女を背にして立った。
「ユ、ユウジくん!?」
「言ったろ。俺は男だし、ライザは女の子だ。こんなときは、守らせてくれ!」
「う、うん、ありがとう」
冷静だが頼りになる悠二の大きな背中と低い声に、ライザは顔を赤くして胸を高鳴らせた。
(こ、こんなときに……やっぱりこれって……)
その正体にライザはなんとなく気がついてきていた。
もちろん、悠二も怖いものは怖いが、二次元で大好きなライザを守ろうという意思が勝っていた。
何よりこのライザは、生きているのだ。
そうこうしていると、茂みから何かが飛び出してきた。
「……え? ウサギ?」
ライザの言うように茂みから現れたのは、長い耳を揺らしてピョンピョンと跳ねる白い毛玉、ウサギだった。
ただし、大きさが中型犬くらいあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。
そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。物凄く不気味である。
ウサギは、その赤い目で悠二とライザを捉えた。
「キュウ!」
かわいらしい鳴き声を洩らしたかと思った直後、ウサギがその場で飛び上がり、空中でくるりと一回転して、その太く長いウサギ足で飛び蹴りを放った。
「危ない!」
「きゃあっ!?」
悠二は、咄嗟にライザを抱えて飛んだ。
ウサギの一撃は躱せたが、ガラクタの山を一撃で吹き飛ばしてしまった。
「ウ、ウサギじゃない!?」
ライザも強烈な攻撃に驚きの声を上げる。
あんなのいま喰らえば下手しなくても即死か、重傷だった。
しかもいまは、傷を治すための調合品も持っていないのだ。
悠二もその凶悪な一撃に戦慄していた。
(い、いったいどうしたら!?)
悠二はジクジクと痛む右の二の腕に顔を顰め、頭を悩ませていた。
「ユ、ユウジくんっ、それ!?」
赤く擦れたような傷に気づき、ライザも声を上げる。
「こ、こんなの擦り傷、だ!」
もっとすんなり言えたらよかったが、これが精いっぱいだった。
あらためて物語の主人公たちの痩せ我慢に頭が下がる思いだ。
ウサギは、再び攻撃の動作に入った。
それはもう見たと、悠二はライザを抱えて躱わす。
砂浜に突っ込んだウサギは、濛々と立ち込める砂煙のなか、ゆっくりと立ち上がって振り返る。
「ど、どうしよう、ユウジくん!?」
ライザの切迫した声。
腕のなかの柔らかく温かな感触に、悠二は必ず守ろうと覚悟を決める。
(いざとなれば俺が盾になってでもライザは逃がす!)
そんなことを当たり前のように考えていた。
ウサギは、次に回し蹴りを放ってきた。
それも躱わす悠二だが、ウサギは回し蹴りの遠心力を利用してくるりと空中で回転すると、逆さまの状態で空中を踏みしめて地上へ隕石のごとく落下し、着地寸前で縦に回転。
強烈な踵落としを炸裂させた。
あまりの威力に砂が柱のように立ち昇った。
ウサギはウサミミで逆立ちし、カポエラのアルマーダをより超人的にしたように足を広げたまま高速で回転をした。
悠二はそれすらも躱したが、奇跡はそこまでだった。
砂浜に足を取られ、尻餅をついてしまった。
「ユ、ユウジくん!?」
背後のライザが悲痛な声を上げる。
ウサギは、飛び跳ねながら高速で迫ると、悠二に再び飛び蹴りを放った。
絶体絶命のなか、悠二は右手に触れた硬質な何かを咄嗟に掴み、勢いよく突き出した。
それは絶妙なカウンターとなり、ウサギを串刺しにしてみせた。
「ギュッ……!?」
そんな断末魔とともに自らの蹴りの勢いが仇となり、刺し貫かれたウサギはビクビクと震えながら絶命する。
「ゃ、やっ、た……?」
偶然だが危険なウサギを仕留め、悠二は呆然と呟いた。
手にしていたのは、ガラクタの一部だった折れて先っぽが尖った鉄の棒だ。
ウサギの蹴りで吹っ飛んだものが、たまたま手にしたらしい。
「は、はは……か、勝てた」
突き出していた棒を落とし、力なく笑う悠二。
「ユウジくんっ!」
その声に振り返ると、ライザが勢いよく抱きついてきた。
「わっ、とっ……ラ、ライザ?」
「ごめんっ、ごめんね! あたしのせいでっ!」
困惑する悠二だが、ライザは泣いているようだった。
「い、いや、たまたま運が悪かっただけでさ……」
「それだけじゃなくて! あ、あたしが最初からルールに従っていたら、こんなことには……っ」
どうやらライザは、島のルールに従っていたら錬金術も使えて、もっと安全だったのではと気に病んでいるようだった。
だが、悠二からすればそんなことはない。
「──ライザは女の子なんだから当然だよ。俺はライザが無事で……守れて嬉しい」
「ユウジくん……」
感動したように潤んだ瞳で見上げてくるライザに、悠二は裸なこともあって恥ずかしくなり、誤魔化すためにおどけたように言う。
「そ、それにさ、せっかく守ったわけだし、俺も謝罪されるよりはさ……」
「──ありがとう、ユウジくん」
「ああ。ライザが無事で本当によかった」
微笑むライザに悠二が笑いかけると、ライザはボッと火がついたように顔を真っ赤にさせた。
悠二は、自分が震えていることに気づく。
「はは……かっこ悪いよな。いまごろになって怖くなってきたみたいだ……」
「──そんなことない」
「ライザ?」
「そんなことないよ。ユウジくん、すごいかっこよかった」
そう口にするライザの表情は、見たことがないほどに真摯なものだった。
そして、ライザは胸元に手を当ててぎゅっと握る。
「……うん。あたし、決めたよ、ユウジくん」
そう言うとライザは、悠二に身を寄せた。
「──ライザ?」
疑問に思う悠二にライザは、すっと目を閉じて顔を近づけ、そっとキスをした。
「──ん、ちゅ……」
ライザの温かく、柔らかい唇の感触が伝わってくる。
悠二はあらためてライザが生きていることを感じ取り、唇だけでなく全身の温かさと柔らかさに包まれ、自分も生きていることを──生き延びたことを実感した。
しばらくの間、ライザと口付けを交わしていた悠二。
どちらからともなく、名残り惜し気に唇を離した。
「……あたし、ユウジくんとなら、あのルール、従っても、いいよ」
「ライザ……」
「出会ったばかりでこんなこと言うのもどうかと思うけどさ……あたし、ユウジくんのこと好きだよ。だから、あのルールに従うならユウジくんがいい」
ライザの決意に彩られた表情を見て、悠二は問い返すような無粋な真似はしなかった。
「──わかった。ライザをもらう……いや、俺もライザが欲しい」
「う、うん! あたしのこと、もらって、ユウジくん」
お互いに顔を赤くして、そう言い合うとはにかんだのだった。
To be continued
次回ようやく初濡れ場になりますのでお楽しみいただけるようにがんばります!
せっかくなので第二ヒロインからは、もう少し早めに濡れ場を書けるようにしたいですね。
幸いどんなチートヒロインもこの島のルールは、適用されるので。やはりチートもエロの前には無力。
そういえばライザはだいじょぶですが採用するヒロインによっては、原作の時間軸しだいですがNTRとかになってしまいますね。
あと生活基盤がまったくできてないので、一般人とかはまだ採用できなさそう。生活基盤が安定したら、住人として一般人でも問題はなくなりますが。
それでは、もし気に入っていただけたのならお気に入り登録、高評価のほどよろしくお願いいたします!