※この作品はR-18です。

幽霊監獄の淫らな秘め事   作:調味みりん

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幽霊監獄の淫らな秘め事 2

「うぅ……。やっぱり眠い……」

 

寝不足のまま大学へと向かい、講義の席に着いた。大学の初年度となると、朝から夕方まで講義がギッチリと詰め込まれているものである。その上、どの単位も卒業に必須なものばかり。本来ならば、居眠りしている暇さえないのだが、連日続く寝不足に身体の方が耐えられなくなっていたらしい。

 

(だめ、だ……。意識が、……)

 

 シャープペンシルを手にした立香の意識が、ゆっくりと眠りに誘われていく。コツコツ、とチョークが黒板に文字を刻む音。カリカリ、と板書をノートに書き写す音だけが響く。授業の最中、心地よい眠気に立香の意識が落ちようとした時、異変は起こった。

 

 すり、と腰の辺りを触られたような気配がした。

 

「……! !?」

 

 意識よりも先に、その刺激に身体が反応する。異変によって眠気から呼び戻された立香は、戸惑いながら辺りを見渡す。皆、黙々とノートにペンを走らせているから、学生や教授たちの仕業ではないことは明らかだった。

 

(な、なに……!? 身体、触られてる!?)

 

 そう思ったと同時に、見えない何か――感覚的に、人の手のようなもの――が、がっしりと立香の腰を〈掴んだ〉。

 

「――ッ……!」

 

 反射的に、腰の辺りに視線を向ける。しかし、目線の先には何もない。腰を掴んでいるはずの手も。存在も。何も視えなかった。

 

(これ、って……!)

 

近頃起きている異変との一致。それに、喉がギュッと引き絞られるような錯覚を抱く。いっそ夢であってほしい。そう思った立香を嘲笑うように、腰に回された手の力が増していく。

 

五本の指先の位置さえ、はっきり伝わってくるような。そんな明確な感覚だった。それを身体が知覚出来てしまったことに、立香は戦慄した。

今までは眠っている時だけに起きていた異常。それが、遂に覚醒している時にも起こってしまっているのだと、立香は本能的に理解させられてしまったのだ。

 

立香が硬直してしまったのをいいことに、腰に添えられていた手のようなものが、するすると脇腹を伝って這い上がってくる。瞬く間に上半身に迫った手は、容赦なく立香の胸をまさぐり始めた。

 

(いや……っ!!)

 

むにゅ、と胸を掌で弄ぶように揉みしだいたかと思うと、立香の胸の頂を指先で撫で擦り始めた。

 

「っ……! は、」

 

ぞわ、とした感覚が胸の先から押し寄せてくるのを感じて、内腿を擦り合わせる。講義中であるから声も出せなければ、身動きさえ取ることができない。変に注目を浴びてしまうことだけは避けたいと思って、立香は声を押し殺す。

 

その間にも、胸をいやらしく攻めるような動きは止まない。胸の頂をカリカリと爪で引っ掻くような刺激がもたらされた後、捏ねくりまわすように嬲って、ぎゅう、と摘まみあげる。痛みに近い、それでも何だか腰がぞわりと浮くような感覚に立香は怯えた。

 

「ぁ……っは、ぁ、は……っ」

 

 荒い吐息が唇を濡らし始めたのを感じて、咄嗟に口元を抑えて俯いた。その間にも身体を弄られていくので、立香は気が狂ってしまいそうだった。

 

(ど、どうしよう……っ、こんなの……おかしい……、早く逃げないと……)

 

 逃げたいのに、身体の力が抜けてしまう。恐怖と混乱に支配され、思考が鈍ってしまっている。そんな立香を更に追い詰めるように、いつの間にか下半身へと滑り降りて行った手が、彼女のスカートの中に滑り込んできた。

 

「!」

 

 太腿の上を暫くゆるゆると撫でたかと思うと、立香のショーツ越しに秘部をなぞる。ショーツの上からゆっくりなぞる指の動きが何だか妙にいやらしくて、立香の吐息に熱が籠っていく。背中に汗が滲み、立香は吐息を堪えるために唇を噛んだ。

 

(な、なに……これ、っ……。いやなのに、身体が、熱くて変……)

 

自分の身体の、未だ知らずにいる感覚。それを見ず知らずの〈何か〉に強引に引きずり出されそうになっていることが、堪らなく恐ろしかった。

 

(怖い、……。このままじゃ、変になっちゃう……!)

 

顔色を赤くしたり蒼くしたりしながら、立香はこの状況から逃れなくては、と考えた。

 

(とにかく、逃げないと……!)

 

意を決して立ち上がると、手のようなものはするりと彼女の身体から離れていった。これ幸い、と机に出していた文房具を鞄に押し込むと、立香は追われるようにして教室から飛び出していった。

 

 

「……っ、最近おかしいよ……」

 

 自宅へと向かって駆け出した立香は、困惑しながらそう呟いた。このままだと、本当に危ないかも知れない。生命も、貞操も。そう真剣に迷い始めた彼女は、ぼうっと遠くを見渡す。

 

 何か、この状況を打破してくれる何かがあれば……。

 

「きゃあっ!?」

 

 考え事をしながら走っていたせいだろうか。曲がり角で誰かにぶつかってしまった。ぶつかってしまった人に謝ろうと、立香は思考を打ち切って俯いていた顔を上げる。

 

「す、すいませ――」

 

 そう言いかけた立香は、つい、声を詰まらせてしまった。目の前にいた人物に、一方的に見覚えがあったからだ。

 

 荒ぶる波の如き癖のある白銀の髪と、月の如く煌く金の瞳を持つ美貌の男。この街に越して来た時に見た、姿が二つ重なって視えた人であった。

 

 立香が固まっていると、男性は

 

「急ぐのもいいが、前を見て歩くことだな」

 

 と忠告してきた。この世の物ならざる美しい顔立ちをした男は、立香の方をジッと眺めて来た。その視線に応えるように、ジッと立香も見つめ返す。

 

すると、目の前にいる男性の姿が――初めて会った時と同じように――二つ重なって見えてきて、立香は目の錯覚かと瞬きをした。しかし、瞬きを繰り返しても、重なって見える男の姿は消えない。むしろ、先程よりもくっきりと、明瞭に見えるようになっていくばかり。

 

白銀の髪を後ろで緩く束ねた、血のような紅い瞳をした貴族風の男。その姿に目のピントが合ってしまっている。

 

(え? これって目の錯覚じゃないの?)

 

戸惑った立香が目を見開いた瞬間、男性と重なって見えた、紅い目をした男と目が合う。ジッとこちらを見定めるような眼差しを受けた立香は、視線を逸らせなくなってしまった。

 

「おまえ、何が視えて……」

 

 硬直する立香の様子を訝しんだのか、金の瞳を宿した男が口を開いた。その時、ツウ、と彼の首筋に二筋の流血が走った。何かで穴を開けたかのような二つの傷。そこから、こぽり、と溢れ出した鮮血の色と匂いに、立香は我に返った。

 

「け、怪我してる……?!」

 

 立香が血に動揺して声を上げると、金色の瞳の男は一瞬、きょとんとした表情を見せた。そのタイミングで、重なって見えたはずの貴族風の男性の姿は空気に霧散するようにして消えてしまった。

 

 しかし、突然の流血に驚いた立香には、そんなことを気にかけている余裕などなかった。鞄の中を引っ掻き回すように探ると、ポケットティッシュと絆創膏を取り出した。

 

「ちょっと失礼します!」

 

そう言って、立香は躊躇うことなく男の首筋を伝う血をティッシュで拭った。そのまま、絆創膏を彼の首に空いた傷口に張り付けてしまうと、

 

「絆創膏、あげます! ぶつかっちゃって、ごめんなさい!」

 

 と言い残して、走り出した。

 先程、教室で身体をまさぐってきた〈何か〉。それが、追いかけて来ているかもしれない。その恐怖が立香を焦らせていた。

 

「……」

 

 駆け出していく立香の姿。その後ろ姿を、月の色を宿した瞳の男は見送り続けていた。

 

たなびく緋色の髪と、心配そうに見上げてくる星の色を映した瞳。……その色が、網膜に灼きついて離れない。

首筋に触れた熱。ほんの一瞬にも満たないその接触で得た熱が、彼の胸を酷く焦がしていた。

 

 熱が逃れてしまわないようにと、首筋に貼られた絆創膏の上に指を重ねてしまう。じくり、と痛む傷の感覚すら、彼女の指先の熱を思い起こさせるようだった。

 

「――、」

 

 立ち尽くしている男の隣。空気が僅かに変質する。その気配に眉を顰めたくなる気持ちを感じながらも、彼は静かに息を吐いた。

 

 

 ……存在が二重に重なって見える。そんな不思議な人とぶつかってから、立香は自宅に向かって一目散に駆けていた。

 

(あと、あと少し!)

 

 そう希望を抱いて走っていた立香は、急に目に痛みを覚えてよろめいた。

 

「痛ッ?!」

 

 睫毛が入ったというよりも、ガラス片が眼球を突き刺したような。そんな鮮烈な痛みが目に走った。ズキン、ズキン、と眼窩を震わすような痛みが続いて、両目から涙がボロボロと溢れ出した。

 

「っ、うぁっ……!」

 

 目が、熱い。眼球が燃えるような感覚だった。こんな状態では、走ることはおろか、歩くことすらままならない。

 

(とにかく、目を冷やさないと。確か、近くに公園があったはず……)

 

 丁度、公園の入り口に差し掛かっていたことを思い出した立香は、覚束ない足取りのまま、公衆トイレの方へと向かった。

 

 ……トイレの手洗い場で目を軽く濯ぐと、先程のことが嘘であるかのように痛みと熱が引いていった。ジッと鏡を覗き込んでみるが、目の中にはゴミどころか睫毛すら入っていない。

 

(さっきのは、何だったんだろう?)

 

 先程の痛みと熱は、確かなものだった。しかし、それをもたらした原因が分からない。不可思議な出来事にモヤモヤとした気持ちを抱きつつ、立香は目薬を点しておこうとバッグの中を探った。

 

 取り出した点眼液を点して、眼球の上に落ちたそれを馴染ませるように目を閉じた。何度か瞬きを繰り返して、溢れた目薬をティッシュで拭う。

 

最後に軽く身嗜みを整えておこうと、もう一度鏡を覗き込む。鏡に映る自分の姿と、開け放たれた全ての個室。

ぼやけて見えていたそれらが、次第にはっきりとした輪郭を取り戻し、目のピントが合った時、

 

「ひぃっ!?」

 

 と立香は悲鳴を上げた。鏡の中に映る自分。その背後に、人型をした大きな靄がぴったりとくっついているのが〈視えて〉しまったのだ。

 

(まさか、着いてきて……っ?!)

 

 そう思った立香は、不覚にも後退りしてしまった。瞬間、背中が何かにぶつかる感覚がしたと同時に、がしり、と腕を掴まれた。

 

咄嗟に捕まれた腕の方に視線を向けるが、そこには〈何も無い〉。

 

自分の腕だけが――まるで、透明な何かに拘束されているかのように――不自然な形で宙空に固定されている。

 

「な、なに?! いや! 離して!」

 

異常な光景を目の当たりにして、立香の身体は恐怖で硬直してしまっていた。それをいいことに、今までにない強い力で両腕を抑えつけたかと思うと、服をぺろりと捲り上げてきた。

 

(!? 一人じゃない……!?)

 

 明らかに一人では成し得ない動きを繰り出されて、恐怖に息が詰まる。そんな彼女を嘲笑うかの如く、鏡に映る立香の身体の上に、異様な数の手が這い回り始めた。

 

「いやあぁあぁあっ?!」

 

 履いていたタイツは無惨に破られ、太腿を撫でられる。ぞわ、と鳥肌が立ったのも束の間、強引に肩幅に開かされた太腿を伝い上がって来た指先が、下着の上でピタリ、と動きを止めた。

 

そして、肉体の防衛反応で既に湿り気を帯びてしまっていた下着の上から、指のような形のものがぐりぐりと陰部を圧迫してきた。

 

「ぃあッ、ううっ……ん! 嫌ッ、あっ、あぅ、やめッ……」

 

 ひく、と内腿の筋肉が引き攣る。手は彼女の身体を好き勝手に弄ぼうと走り回って、立香の性感帯と呼べる箇所を乱雑に刺激していく。

 

「痛っ、ぅうっ……やだ、やめてよぉっ……」

 

 胸に伸ばされた手が、彼女の柔い胸を容赦なく揉みしだく。形が変わってしまう程に強く握られてしまった立香は、痛みと屈辱に涙声になって震えることしかできない。

 

 しかし、一方で下腹部に這わされた指がゴシゴシと強い力で股筋をなぞって、強引に感覚を引き出そうとしてくる。痛さと刺激による感覚の狂い。体の全てがおかしくなってしまっているような気がして来て、空恐ろしい気持ちが押し寄せて来た。

 

「うあ、ひぁっ、んくっ、いや、ぁ……!」

 

 足を閉じようとすると、いくつもの腕が立香の脚を押さえつけてきた。そして、立香の抵抗を阻むように、彼女の両脚を背後にいる腕がグッと持ち上げ始めた。そのまま、膝裏を抱えるようにして立香の身体を持ち上げてしまうと、強引にⅯ字に開脚させてきた。

 

鏡にショーツのクロッチ部分が曝け出される。強制的に陰部を見せつけられるような形になり、恥ずかしさで顔が熱くなっていく。

 

「いやっ、離して……っ!」

 

羞恥に耐え兼ねて、立香は身体を捩らせて藻掻いた。すると、そんな彼女の気を削ぐように、横から伸びて来た手の一つが、立香のショーツをぐい、と横に引っ張って――彼女の秘部を露出させてしまった。

 

「きゃぁっ?! いやっ、……やだぁっ!」

 

 鏡越しに自分の痴態を見せつけられた立香は、顔を紅潮させた。生理反応によって溢れた蜜で、性器は少してらてらと濡れていた。霊たちの指が立香の濡れそぼったソコへと一斉に伸ばされるのを、拘束されたまま見せつけられる。

 

「あ、いや、っ、だれか、……った、たすけてぇ……っ!」

 

 立香がそう叫んだ時、ビシッ……という音と共に鏡に亀裂が走る。そのまま、蜘蛛の巣のように鏡全体に伸びていった亀裂は、鏡の中に映る無数の手に伝線していった。

 

黒い炎のようにも見えるヒビは、立香を蹂躙する腕に絡みついたかと思うと、ぎゅう、と数多の腕を縛り上げていった。炎に巻かれた腕は、悶絶するように指先を引き攣らせて藻掻く。

 

「な、なに?!」

 

 突然のことに戸惑う立香を他所に、身体に纏わりついていた腕が蜘蛛の子を散らすように離れていく。身体を支えていた手が失われ、立香はその姿勢のまま地面に落とされた。

 

「ぅあっ!」

 

どさり、と地面に尻もちをついたその衝撃で、呆然としていた立香はハッと我に返る。慌てて衣服を直すと、振り返ることなくトイレを飛び出した。

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