※この作品はR-18です。

バグの終焉、あるいは運命の帰趨   作:K_TS

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歪んだ結末

「……っ」

重い瞼を持ち上げたシルフィの目に飛び込んできたのは、煤けた見知らぬ天井だった。

窓から差し込む斜陽は、すでに赤黒い夕方の光へと変わっている。

頭の芯に残る激しい偏頭痛を覚えながら、シルフィは自らの身体に走る強烈な違和感に気づき、跳ね起きるようにして起き上がった。

肌寒い空気。

――何も着ていない。

彼女の背筋に冷たい戦慄が走った。

 

隣を見る。

「あ……」

喉から小さな悲鳴が漏れた。

視線の先、そこには、同じく一枚の布すら身にまとわずに深い眠りに落ちている、ソマルの姿があった。

床を見れば、自分の服とソマルの服が、無惨に散らばっている。

――嘘、嘘でしょ……。

焦燥に駆られて寝台から立ち上がったその瞬間、自らの太腿を、どろりとした熱い液体が伝い落ちた。

彼女の身体の奥から床へと垂れ落ちる、ソマルの生々しい痕跡。

自分の白い肌のいたるところには、ソマルが付けた赤黒い痕が、いくつも残されていた。

 

「……私、……何をしてるの……っ!?」

混乱する頭を抱え、必死に記憶の糸を手繰り寄せる。

ソマルの部屋に入り、寝台に腰かけ――そして、二人ともまるで初めからそのために来たかのように、自然に結ばれた。

暴力を振るわれたわけではない。魔法や薬で理性を奪われたわけでもない。

狂いそうなほどの頭痛の中、シルフィは泣きじゃくりながら、床に散らばる自分の衣服をかき集めた。

ソマルが残した生々しい肌の痕を必死に隠すように、震える手で無理やり服を身に纏う。

――悲しいことに、それらの服を自らの手で進んで脱ぎ捨てた記憶さえも、鮮明に残っていた。

そして、ハッと息を呑み、シルフィは自分の左手を見つめた。

「指輪……がない……」

そこにあるはずの、緑の魔石の指輪が消えていた。

ルーデウスとの結婚の際、彼から贈られた、世界に二つとない大切な結婚指輪。

どんな時も肌身離さず着けていた、ルーデウスとの絆の証明だった。

 

「どこ……? なんで……っ!?」

頭の中が真っ白になる。

慌てて見渡すと床の上に落ちていた。

綺麗とは言えない床の上に落ちて汚れてしまった結婚指輪

 

隣でソマルが身じろぎをする。

「……ん、シルフィエット? どうしたんだよ、そんなところで……」

眠そうに手を伸ばしてくるソマル。それが恐怖でしかなかった。

シルフィはその手を振り払い、慌てて指輪を拾い上げると、鍵の開いた扉を乱暴に押し開け、夕闇に染まるシャリーアの街へと裸足のまま飛び出した。

身体の奥に残る他人の痕跡に耐えながら、彼女はただ、我が家へと向かって、泣きながら走り続ける。

 

**********

 

夕闇が完全にシャリーアの街を包み込む頃、シルフィは我が家の門をくぐった。

衣服の隙間からはソマルの付けた赤黒い痕が覗いている。

ルーデウスの名を心の中で幾度も叫びながら、彼女は屋敷の扉を押し開けた。

「……ただいま」

怯えながら声を絞り出す。

しかし、幸運にもルーデウスとロキシーは仕事から、エリスは修行からまだ戻っていなかった。

玄関で出迎えたのは、留守を預かるリーリャだった。

 

シルフィは必死に声を震わせ、あらかじめ考えていた嘘を口にした。

「ごめんね、リーリャさん……。アリエル王女のところに寄っているうちに、ちょっと遅くなっちゃった」

「左様でございましたか。すぐにお風呂を沸かせますね」

長年グレイラット家に仕える有能なメイドは、シルフィが抱えるあまりにも深い闇には気づかず、その言い訳をそのまま受け入れた。

ルーデウスたちが戻る前に、考える時間ができた。

それだけが、今のシルフィにとっての唯一の救いだった。

 

浴室へと向かい、お湯を汲む。

熱いお湯で、彼女は自分の身体を擦り洗い始めた。

ソマルの唇が触れた場所、

ソマルの手が触れた場所、

そのすべてを皮膚が赤く腫れ上がるほどに猛烈に洗う。

しかし、どれだけお湯を浴びせても、肌に焼き付いた赤黒い痕は消えてくれない。

シルフィは壁に背中を預け、ずるずると床にへたり込んだ。

彼女は震える手を自らの下腹部へとあてがった。

「ボク……ルディ以外の人と……」

声にならなかった。

お湯と共に足元へ流れていく、自身で汚した男の痕跡。

肉体に刻まれた既成事実は消えない。

愛する夫を裏切ってしまったという底知れない罪悪感が、シルフィの心をズタズタに引き裂いていく。

 

しばらくして…

「ただいま、シルフィ」

玄関の扉が開き、聞き慣れた夫の声が響いた。

その瞬間、自室に戻っていたシルフィの心臓がドクンと跳ね上がる。

(ルディに言わなきゃ。謝らなきゃ。離婚されちゃうとしても)

胸の奥に渦巻く恐怖と罪悪感を無理やり心の底へと押し込め、階下へ降りる。

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