※この作品はR-18です。

バグの終焉、あるいは運命の帰趨   作:K_TS

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見えない檻

それからのシルフィは屋敷から一歩も出なくなった。

特にシャリーアの街に行くことは強く拒んだ。

市場への買い出しはもちろん、アリエル王女の元への挨拶も、何かと理由をつけては全てリーリャや他の者に任せるようになった。

あの街のどこかにソマルがいる。

その事実が、彼女の足をすくませていた。

 

ロキシーやエリスは心配したが、ちょっと体調が悪いからと曖昧に笑った。

「シルフィ、本当に大丈夫ですか? 具合が悪いなら、お医者様を呼びますが……」

「そうよシルフィ! 悪いところがあるなら、稽古すればすぐに吹っ飛ぶわ!」

二人の純粋な気遣いに、シルフィは胸を締め付けられながらも、

「ううん、本当にちょっと疲れが出ちゃっただけだから」

と、いつもの穏やかな笑顔を取り繕って首を振る。

しかし時折シルフィがシャリーアの街の方角を見ながら物思いにふける様子を二人は不思議に思った。

 

ルーデウスもシルフィの変化に気付いていた。

夜の生活を拒むようになったのだ。

それも体調が悪いからと言われると無理強いできるものでもなかった。

「……ルディ、ごめんなさい。最近、なんだか本当に身体が重くて……」

夜、ベッドの中で背中を向け、小さく身を縮めるシルフィ。

彼女の本心は、ルーデウスを拒みたくなどなかった。

寂しそうな彼の顔を見るのは身が裂かれるほど辛い。

けれど、ルーデウスの手が自分の肌に触れようとすると、身体が、肉体が、知らない男に触れられた時のように凍りつき、拒絶の悲鳴をあげるのだ。

(ごめんなさい、ルディ……ごめんなさい……!)

暗闇の中、シルフィはきつく目を閉じ、涙を堪えていた。

 

一方、拒まれたルーデウスは、暗闇の中で天井を見つめていた。

さすがにこの不自然な状況を前にして、疑念を抱きつつあった。

(おかしい。体調が悪いだけなら、治癒魔術で治せるはずだ。なのに、彼女は魔術を使おうとすることすら、どこか恐れるように避けている……)

以前、オルステッドの事務所で聞いた言葉が、忘れていたはずの記憶の底から、冷たい気泡のようにぷつぷつと湧き上がってくる。

『世界には正しい歴史に修正しようとする力が働く』

『お前が産まれたことによる変更が間違った歴史であり、それを正そうとする力が働くやもしれん』

 

(……いや、考えすぎだ。シルフィは疲れているだけだ。俺がしっかり支えてやらないでどうする)

ルーデウスは必死に不吉な予感を振り払うように頭を振り、背中を向けて眠る妻の、触れることのできない白い髪を、切なげに見つめることしかできなかった。

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