小鬼との戦闘を終えマンションの自室へと帰って来た雪花は携帯端末を充電器に差し刀と符のケースを部屋の隅に纏めて置きシャワー室へと向かい土埃と返り血で汚れた身体を洗うためシャワーを浴びる。
「今日も下級妖魔の群れだったか…一刻も早く上級妖魔を滅ぼし両親の願いを叶えなければ…。」
と決意を固め寝室に向かい眠りについた。
朝を迎え身支度を整え退魔用の装備を纏め退魔本部へと向かう。
東都の中央に位置する地上5階建ての退魔本部へ着き受付を通り奥にあるエレベーターで最上階へと上がり本部の最高指令室の前に着くと扉をノックし
「失礼します、風見雪花入ります。」
と言い扉を開ける。
「やぁ風見君昨夜は御苦労だったね、救助された女性も妖魔との記憶もなく帰宅途中に貧血で気を失っていたという事にしておいた衣服も治療の間に同じ物を用意出来たので今回も妖魔の事が公になることはないだろう。」
と妖魔本部の最高指令官である火野が告げる。
「不幸中の幸いというかそれは良かったです。」
と雪花は少し安堵の表情を浮かべる。
「しかしこれだけ情報社会となった現代では市民に妖魔の存在を隠し通す事にも限界が来るだろうが…実際妖魔の事がSNS上では都市伝説として囁かれているぐらいだからなぁ。」
「それでも余計な不安を与える事がないにこしたことは無いと思います。」
と雪花は思いを告げると
「風見君のその正義感は君のご両親からしっかりと受け継がれているね。」
「私はあまり両親のことは覚えていませんがその正義には誇りを持っていますので。当然私をここまで育てて頂いた司令官やここ退魔本部の方々へのご恩も忘れていません。」
「いや俺も現役の頃風見さんご夫妻にはお世話になったからねそれの恩返しも兼ねての事だから君が気にする程の事ではないよ。さて思い出話もこの辺にしておいて昨夜の報告の確認なのだが、風見君が現場に到着した時には被害にあわれた女性が1人と小鬼が六匹で他に周囲は何もいなかったという事で大丈夫かな?」
「はい私が着いたときには辺りには他に誰もいませんでした、何か気になる所でもありましたか?」
「いや疑う訳では無いがここ数日行方不明者特に女性の不明者が増えて来ていると報告があったから改めた確認したかっただけだ。」
「そうでしたか、では今夜から巡回の際注意深くするようにします。」
「ふむ、此方も退魔本部総力をあげレーダー感知等でサポートするようにするので君の方も宜しく頼むが決して無理はしないようにな。」
「お気遣いありがとうございます。サポートの方宜しくお願い致します。」
「了解した。それでは本日の報告は以上だがこの後君はどうするつもりだ?」
「私はこの後装備の補強、修繕を頼んで地下の鍛練場で少し稽古をしようかと思っています。」
「わかったでは何かあれば此方から連絡を入れる様にするので宜しく頼む。」
「了解しました、では失礼致します。」
と雪花が部屋を出ようとした時にタイミングを合わせたかのように部屋の扉がノックされ1人の人間が入ってきた。
「いやぁ失礼するよ。おや火野君に話があって来たのだが風見君も来ていたのか。」
と入ってきたのは退魔本部を運営する議員の阿久土(あくど)だった。彼は所謂2世議員であまり良い噂を聞かないが権力を持っている人物で退魔本部にも強い影響を持つ人物であった。
「これは阿久土議員ではないですが本日はどの様な用件で来られたのでしょうか?」
と火野が阿久土に話かけると
「いやぁ最近行方不明者が多くなっていると報告があったので確認しに来たのだけだがまさか風見君が来ていたとはな。」
と風見の方に目をやると
「私は司令官との報告は終わりましたので失礼するところでしたので。」
と改めて部屋を出ようとする雪花に阿久土は
「まぁまぁそう言わずにすぐ終わるので良ければこの後一緒に食事でもどうかな?」
とにやけた顔で雪花の方を見るが雪花は気にもかけない様子で
「せっかくのお誘いですがこの後色々と準備がありますので失礼致します。」
と一礼し部屋を後にする雪花だった。
退魔本部でその様な会話が行われている時、人間のいる世界から隔離された空間では
「あっ…あっ…あっ…」
「嫌…止めて」
「もう嫌…誰か…助け……」
と行方不明になっている女性が妖魔の群れに犯されていた。そんな空間の傍らで昨夜、雪花の事を遠くからから見ていた人影がこう呟いていた。
「ふぅ…人を攫ってきて我々妖魔の餌や苗床にするのも今のままでは埒があきませんねぇ。妖魔の通り道を封印している結界をなんとかしなければ何時まで経っても強い妖魔を人間界に送る事が出来ませんからね。昨日の小鬼位だと唯々無駄に消耗するだけになってしまいますからね。」
と悩んでいる人影の正体は姿の方はまるで人の様だが肌の色は血が通っているかわからない程に白く額にはあまり目立たないが角が一本生えている。名を幽鬼と言い上級の妖魔だ。
「私が人間界に行く度に大量の妖気を封印して下級以下にして行かないと行けません。どうにかして封印の場所を見つけなければ…おや?あれは……」
と妖魔の術を使って映していた人間界の映像に目を幽鬼がやるとそこには本部から出て来た阿久土と付き添いのSPの姿が映っていた。そしてその会話を聞いた幽鬼は口角を上げ醜悪な笑みを浮かべながら
「あの人間上手く使えそうですねぇ。」
と呟いた。
所を人間界に戻して
「全くあの忌々しい小娘がせっかくこの儂が目をかけてやったというのになんだあの態度は?全く礼儀という物がなっとらんではないか。」
と悪態をつく阿久土に取り巻きのSP 達は
「全くですないくら今妖魔と戦闘できる唯一の退魔師とはいえ流石に阿久土様にあの様な態度はいかがなものかと。」
「しかし私達日頃から鍛えてるSP でも力は勝てても武術を兼ねた戦闘では敵いませんから、どうしたものかと。」
と2人の取り巻きが口々に話していると
「ええい、そんなことわかっておるわ。じゃがあの小娘の父親の風見雪牙や母親の涼花の時から退魔師の存在が気にくわんのだ。特に雪牙の正義感を振りかざした態度にそれを信仰するかの様な火野の態度には何度腹を立てた事か、まぁ涼花の方はまだ容姿の方でましに思えたが、それでも態度には苛立ちを覚えた物だ。あの小娘にはどうにかして屈辱を与えてやりたいものだ。」
「しかし先程申し上げた通り現在妖魔とまともに戦えるのもあの女1人というのも事実ですから表立ってどうにかする事も出来ませんね。」
と言われ業を煮やした様な態度で阿久土は
「そんなことわかっておると言ったじゃろがもういい今日はこのまま帰宅するから車を回せ。あぁイライラするわ。」
と不機嫌な態度で本部を後にする阿久土だった。
時は移り夜の東都の一等地に建つ阿久土の住む豪邸の1室。
「しかし今日の事は何度思い出しても忌々しいわ。」
と言いながらグラスに注いだ酒を一気に飲み干す阿久土。
「あの小娘どうにかしてやりたいが……」
と呟いたその時
「成る程そうことでしたら私がお力添え致しましょうか?」
と阿久土の背後から声がかかる
「誰だお前は警護の者は一体何をしている?」
と周囲に向かい叫ぶ阿久土に対し声の主は
「あぁこの家の他の方には眠って頂いています。安心して下さい全員命に別状はありませんので。」
と声をかけ直ぐに
「申し遅れました私は幽鬼と申します。貴方方が妖魔と呼ぶ者の内の一人です。危害を加えるつもりは今はありませんので少し話を聞いて頂ければと思いまして今日は来させて頂きました。」
と笑みを浮かべながら話す幽鬼に
「妖魔と話す事など何もないわ、警護の者は退魔本部は一体何をしているのだ何のために儂が援助していると思っているのだ。」
と怯えながら叫ぶ阿久土に
「まぁまぁそんなに悪く言って上げなくても。私が妖気を大分封じていますし、あぁでも貴方を葬る位は出来ますが。」
と幽鬼が告げると阿久土は更に怯え
「なっ何がいるのだ金ならいくらでも出すぞ。」
と言って牽制するがそんなこと気にする素振りは見せず
「いえいえ人間の金などに興味はありません。ただ少し私に協力して頂ければ貴方や周囲の人間の命、今後の安全は保障しますので……」
と普段なら、正常な人間の思考なら乗る事などない提案に阿久土は恐怖のせいもあってか耳を傾けてしまった
「協力?一体どんな事を?」
「見た所貴方は退魔の本部にかなり権力を持っているみたいですので少し教えて欲しいことがありまして。」
「儂に教えて欲しいことだと?」
「ええ、教えて頂きたいのは貴方達人間が封印した妖気の発生源の場所のありかですよ。教えて頂ければ後は貴方に危害は加えません事を約束しますよ。それに時間を頂ければ風見雪花の事もどうにか出来る様にしますよ。」
と言う正に悪魔の囁きに阿久土は
「あの小娘を……?そういう事なら……。少し待っていろ。」
と今までに見せていた以上の醜悪な笑みをし席をたち書斎へとむかい暫くして部屋に戻ってきた阿久土の手には1枚の地図が握られていた。
「幽鬼と言ったかお前が望む物はこれだな。この地図に記されている点が封印の場所だ。」
と部屋のテーブルに広げられた地図に指を指す。
「成る程この5ヶ所ですかこの場所なら……ふむ。今回はありがとうございました。今夜の密会は是非ご内密にお願いしますよ。後三日程したら動いて行きますので最後によろしければこちらを」
と幽鬼は阿久土に禍々しい装飾のされたタブレットの様な物を差し出した。
「これは?」
「これは特別な術を施した投影機です。余り人の目につかないでご覧下さい。では」
と言い残すと幽鬼は闇の中へ消えて行った。残された阿久土は
「そういう事かこれは楽しみじゃわい。」
と言い、初めて行われた人間と妖魔との会合は一旦幕を閉じた。