「今夜の妖魔は狂犬が3匹か…。」
と刀に手をあて距離を測る雪花と対峙する妖気を纏った三匹の犬はそれぞれ白く濁った目と鼻息も荒く大きく開けた口からは絶えず唾液を垂れ流し異様な雰囲気を醸し出している。そして雪花が動き出す前に三匹各々がバラバラに襲いかかる。
「くっ…目で終えない程では無いが速い.…それなら1匹ずつ対処するまで。」
と一番端に位置する狂犬1匹に狙いを定め瞬時に距離を詰め
「疾風一閃!!」
と自身の霊力で作り出した風を刀に纏わせて抜刀し斬り伏せる。一瞬で狂犬の身体は二つになり絶命する。残った二匹は着地すると同時に身体を雪花の方に直ぐむけ直す。そして今度は全く同時に今度は低く飛び掛かる。流石の速さに雪花は刀を構え直す暇もなく、刀を手放し符を取り出す。
「低く来る、ならば氷柱の陣!!」
と符に霊力を込め地面に放つと一瞬で雪花前方の地面が凍り幾つもの氷柱が生え狂犬の身体を貫き二匹の狂犬は絶命するが一匹の身体から切り離された前足が勢いのままに雪花のスーツの袖をかすめ傷をつけた。
「退魔用に霊力を編み込んで作られたスーツに傷をつけるとは万が一にでも肌に触れれば私も深傷をおったかもしれなかったな、とりあえずこの周辺はこれで問題なさそうだな、後処理は処理班に任せて他を巡回するか。」
とイヤホンで本部に連絡しその場を後にし他の巡回へと向かった。
……雪花がその場を離れ処理班が到着するまでの僅かな時間に
「風見雪花やはりまだこの程度の妖魔では太刀打ち出来ませんか、まぁ今回は別の目的があるのでこれで問題ないのですが…」
と辺りを見回す幽鬼、
「ありました、これが欲しかったんです。」
と先程雪花のスーツを傷付けた狂犬の足を手に取り手に取り闇へと消えて行った。
妖魔の空間に戻ってきた幽鬼は妖気で満たされた液体が入った禍々しい器の中に持ち帰ったスーツの破片と共に狂犬の足を放り込んだ。するとみるみる内にスーツと氷の破片と足が溶けていく。
「これでこの液体は奴の退魔装備や氷の霊力を記憶した薬が出来たわけですね。次から産まれてくる妖魔に与えていける…後二日…。」
雪花が狂犬を倒し2日経った日の午前1時、退魔本部に妖魔の出現を表すアラームが鳴り情報班のオペレーターの声が響き渡る。
「妖魔の発生を確認、場所は東都北部山中、神社跡地付近確認出来る妖魔の気は4体です。雪花さん至急現場に急行して下さい。」
その声を聞き火野司令官は焦った口調で
「そこは不味い、風見君だけでなく救護班、処理班、封印班全てのサポーターは直ぐに急行出来る様に準備を急いでくれ。」
その連絡を受けた雪花から
「風見雪花後5分程で現場に到着します。そのまま妖魔に対応します。」
その言葉に火野は
「一刻も早く対処してくれ頼む。」
と一言返し火野は
(ただの偶然なら良いが万が一の事があれば大事になってしまう雪花君頼んだぞ。最悪俺が出る事準備もしておかなければ)
と思い用意を始めた。
そして雪花は連絡のあった神社の境内に着き辺りを見回し
「風見雪花現場に到着しました、直ちに妖魔の探索と排除に努めます。」
そう連絡を入れすぐに周囲を警戒しながら探索しようとした時、辺りの幾つかの茂みが突然揺れそこから人程の大きさをしたカマキリが4体姿を表した。その身体は揃って普通のカマキリより青みがかかり、鎌は右手はカマキリと同じく細かな刺があり左手は鋭い刀のような形状をして全身は妖気を纏って異質な存在感を放っていた。
「いつもの妖魔と何かが違う?…いやそんなこと考えても仕方がないか。ならばこちらから攻めるのみ。」
と刀に手を当て構えようとしたその時一体のカマキリが左の鎌を振るう。すると刃先から放たれた斬撃がじめんを削りながら雪花に向かう。
「何?これはまるで私の…はっ」
と驚く雪花だがすぐに刀を構え斬撃を受ける。しかし斬撃の重さに雪花は少し押され後退してしまう。その姿を見た
カマキリ達は左手の鎌を各々振り回し始めた。計4本の鎌から飛んでくる斬撃に対し雪花は刀で払える物は払い無理な物は最小限の動きで避けて斬撃をかわす。斬撃の切れ味は鋭く周囲にある大木はおろか石で出来た灯籠をも真っ二つにしてしまう。その様子を見た雪花は
「これは時間をかけると此方が不利になるか…ならば。」
と胸ポケットのケースから符を取り出し
「これで動きを止める、周囲を凍らせろ円氷陣!!」
符を地面に放つと雪花を中心にし地面が円を広げる様に凍りついていく。やがてカマキリ達に届きその身体を氷漬けにする
「ふぅ…これで後は砕くだけだな。」
と刀を構え近づき一体を砕こうとしたその時、カマキリを覆っていた氷にひびが入り中から再びカマキリの身体が姿を表す。
「何っ?氷漬けにしたはず…!?」
と突然の事に驚いた一瞬の隙に右手の鎌が雪花をめがけて振り下ろされる。
「くっ」
と後ろに飛び避けようとするが鎌の刺が左肩のスーツに引っ掛かり勢いそのままに下のYシャツ毎スーツを破り取る。
左の袖が無くなり生身の左手が剥き出しになる。幸い雪花自身にケガはなかったが退魔用のスーツが破られた事に動揺を隠せない雪花だった
「退魔用に作られた装備があっさりと破られただと?それ以前にあのカマキリに氷が通用しなかっただと?」
と思考する雪花をよそに残りの三匹を覆っていた氷が割れ落ち再び動き出す。そして再び各々左の鎌を振り回し斬撃が雪花に向かってくる。動揺が抜けきっていなかった雪花に刀を構える暇はなく避ける動作に集中する。何分と避け続け濃くなった妖気の影響か耳にしたイヤホンからは不快なノイズが流れ続け通信も出来ない状態を着け続ける訳にもいかず外し投げ捨てる。そんな中流石の雪花も体力が削れ始め動きに陰りが見え始める。四体のカマキリ各々の動作を見ながら避けていた。そんな中雪花にも感知出来ない程の微弱な妖気を帯びた物が近付いていた。そして……チクッ…
「痛っ!!何だ?」
と急に首筋に痛みが走り痛みの元になった場所を手で叩きそのままカマキリから距離を大きくとる様に後に飛び退き手に着いた物を確認する。
「これは蜂か?微弱な妖気…まさか毒か?」
と思うとすぐに符を取り出し首に当て霊力を込める。解毒の霊力を込めた符は優しく光り身体の毒を完全に抜く…筈だった。
そんな様子を妖魔の空間から見ている幽鬼は
「残念ですねぇ、厳密にはその蜂に与えたのは毒ではないんですよ。それにしても退魔の霊力や装備を覚えさせた妖気を少し注いだだけであそこまで効果が出るとは思いませんでした…これならこの後の計画にも良い影響を与えそうですねぇ…おやどうやら蜂に与えた薬の効果が出始めたようですね。」
と語る。
幽鬼が遠くで語っている間に雪花の身体に異変が起きていた。
「何だ?これは?身体が熱い…全身が痒い…解毒の符が効かなかったのか?」
と雪花が自分の置かれた状況を確認する。顔は紅潮し全身から大量の汗が吹き出し身体が重くなる。蜂が体内に持っていたのは毒ではなく媚薬であり命に別状のない物で毒に反応する解毒の符では効果がなかったのだ。
そんな様子を見たのかカマキリ達は一匹が左で斬撃を飛ばし残りが雪花に対し距離を詰めてくる。
「くっ…仕方ない…氷結陣…!!」
とさっきは破られたが動きを止めるために符を使う。襲いかかってきたカマキリ達は凍りつき地に落ちた一番近くにいたカマキリにむかい刀を振るう。いつもの様に斬る事は出来なかったがそれでも砕くだけの威力は持っていた。一匹を砕きもう一匹を砕こうと飛び掛かった瞬間雪花めがけて飛んできた斬撃に刀で受け対応した雪花だったが空中でしかも体調最悪な状況で受けきれる筈もなくそのまま弾き飛ばされてしまう。かろうじて受け身を取った雪花だがその衝撃が身体中を駆け巡りそれに媚薬が反応して思わず声をあげてしまう。
「あぁぁぁ…身体が…身体が疼く…痒い痒い…」
と雪花が悶えているといつの間にか氷が落ちていたカマキリと斬撃を飛ばしていたカマキリが雪花の周囲を囲い地に伏せた雪花を覗き込む。その無機質な眼に雪花も恐怖を覚えた。青ざめた顔の雪花に無慈悲な鎌が振り下ろされる。雪花も震える身体に無理矢理力を込め刀を握り鎌を受け流していく。しかし今のコンディションでは全て捌くことは出来ず終には鎌が雪花のスーツを裂き破いていく。
「きゃあぁぁ嫌っ!!止めろぉぉ!!」
と叫ぶ雪花の抵抗も虚しくスーツにY シャツ、更には身につけていた黒のブラジャーまで細切れになり美しく整った胸を妖魔にさらけ出してしまう。赤面し身体を丸め隠そうとする雪花に対し口や右の鎌を使い雪花という名の餌を補食するかの如く腕や足を抑え込んで身動きが取れなくなってしまう。補食されるのか犯されるのかどちらかを覚悟した雪花は
「くっもはやここまでかお父さんお母さん、育ててくれた火野司令官すみません私はここまでのようです…」
と諦めて抵抗を止めた時…
「簡単に諦めるな!まだ俺もいる!!炎皇拳!!」
と声が聞こえると同時に炎の塊が雪花を囲んでいたカマキリの首を飛ばした。
「火野…司令官…?」
と突然の事に思わず雪花は安堵し一筋の涙がこぼれ落ちた。
「遅くなってすまないとりあえず細かい話は後にしてお前はでも羽織って後ろに下がっていろ。」
と火野は自分のスーツを脱ぎ雪花に預ける。そして一匹生き残ったカマキリに目を向け
「幾ら現役より霊力も落ちたとはいえ貴様ごときには真っ向勝負では遅れはとらんぞ。」
と拳を構え再び霊力で作った炎を纏わせ一瞬で距離を詰めカマキリの顔面を捉え一瞬で消し炭にした。
「流石…これが火野司令官の本気の力…私では到底及ばな…」
「これはお前に対し調子に乗って妖気を無駄に使いすぎたコイツらが馬鹿なだけだ。それに全盛期の俺なら最初の一撃で三匹とも消し炭にしていた筈だ。真っ向勝負ならお前には敵わない。」
と雪花の言葉を遮り話した火野は続けて雪花に対し
「細かい話は後にしてお前は救護班と共に本部に先に帰って治療しておくように。俺は封印班とこの辺を調査してから本部に戻る。」
それを聞いた雪花は下を向き唇をかみながら付近に着いていた救護班と共に現場を後にした。その様子を確認した火野は
「それにしてもこれはどうやら偶然では無いようだな…これは退魔本部も本腰をいれて対処に当たらねばならないな…すまない雪花最後の頼みの綱は君なんだ…立ち直ってくれ…。」
とうつむき語った。
その時阿久土邸では
「くそっ火野の奴めもう少しで忌々しいあの小娘を…しかしあの小娘の表情にはたまらん物があったなぁ。」
と終始映像を見て股間を膨らませていた阿久土の端末に幽鬼の姿が映り話しかける。
「いやぁそう言うと思ってましたが、此方はこれで計画通りなのでねぇ。」
と映像の中の幽鬼が話しかけると
「計画通りなら構わんが本当に大丈夫なんだろうな?儂の立場もかかっているのだぞ?」
と阿久土は聞き返す。
「これから少しずつ少しずつ削いでいくのでお楽しみは後にとっておくものなのでしょう?まぁ気長にお願いしますよ。では事後作業もあるのでこの辺で離れます。」
と通信を切り幽鬼は
「自分の利益と欲望しか考えない人間は扱い安くていいですねぇ。これで此方の戦力も強く出来そうですね、これから面白くなってきますねぇ。さて次の準備に取り掛かるとしますか…風見雪花…せいぜい楽しませて下さいねぇ。」
と笑みを浮かべ姿を消した。