巨チンを見込まれて大人気アイドルのセックスケア担当にスカウトされました。 作:ユリイカ
アングラなアダルトショップでの買い物を終えて薄暗い路地裏へと戻ったセリナは、この日一番の満足そうな顔でショッキングピンクの紙袋を携えていた。場末の猥雑な店に配送サービスなどあるはずもなく、例えあったとしてもセリナがそれを利用することはなかっただろう。
「タケル様、今夜はたくさんご奉仕させていただきますね♡」
「何がご奉仕だよ、自分が楽しみたいだけだろ」
「ひゃんっ♡」
でれでれと淫らな笑みを浮かべる牝犬の尻を叩く。それだけでセリアはぴくんと震えて軽く達していた。
「というか気を付けろよ。ここは"保養施設"の外なんだろ。そんなあからさまな紙袋持ってたらスキャンダルどころの騒ぎじゃないんじゃないのか」
目の覚めるような美女の手にピンク色の紙袋。そこに屈強なタケルを添えれば、それだけで一定の何かが成立してしまう。道ゆく人々がつい振り返ってしまうような強いシグナルだ。
しかし、炎上など露ほども考えていないかのようにセリナは堂々と大きな胸を張っている。
「芹川セリナがアダルトショップの紙袋を持ってイケメンな男性と白昼堂々とデートをするなんて、誰も思わないですよ」
「色々ツッコミどころはあるが……。まあ、それも確かかもな」
後半部分はともかく、とタケルは頭を掻く。
世間の話題を席巻するニュースター、芹川セリナ。今まさに芸能界の頂点へと駆け上りその光を解き放つ彼女がそんな淫猥なことをしているなど、まず発想すら浮かばない。お色気や大人びた魅力で売り出しているタレントならばまだしも、彼女は清純のど真ん中を貫くような無垢な輝きである。
「そういうわけですから、早く帰りましょう♡」
無用な心配よりも欲望の方が優っている変態牝犬トップアイドルであった。仮面の下に隠しきれていない本性に、タケルは思わず呆れてしまう。
ハイヤーを待たせているところまでは少し歩く。その間に、先のファミレスのように絡まれることはあるかもしれない。タケルは緩みかけていた気持ちを引き締め、セリナの細い腰を抱き寄せた。
「まったく、まだ昼過ぎだぞ」
「でも、もう我慢ができなくて……♡」
すりすりと柔らかい女体が擦り付けられる。ふわりと甘い女の香りが立ち上り、タケルの鼻先をくすぐった。
「明日からはまた予定が詰まっていますし、今のうちにたくさんご奉仕させていただきたいんです」
「ヤリ溜めしたいだけだろ。これ以上エロい身体になったら、もう清純派アイドルとして呼ばれなくなるぞ」
「んほ゛っ♡ そ、その時はタケル様専属ドスケベおなほアイドルに……♡」
今のスターダムをかなぐり捨ててもいい、と平気で口にするアイドル。それは非常にそそられるものがあるが、そもそもタケルがセックスケアマネージャーとなったのはセリナがアイドルとして成功したからだ。本末転倒な欲望は、当然叶えられるはずもない。
大通りに出れば人通りも増える。二人は自然と隙間を開けて、恋人というにはそっけない距離感を保つ。セリナはお忍びのトップアイドルであり、タケルはそれに付き添うマネージャーである。
アダルトグッズが詰まった紙袋も、余計な装飾や文言があるわけではない。すました顔のセリナが持てば、どこかのブランドのショッパーに見えないこともない。
「……セリナ」
「どうかしましたか?」
身長180cmを超えるタケルはよく目立つ。その反面、周囲を見渡すだけの視野もある。彼は周りに聞き取れない程度に声を抑え、セリナに囁く。
「車に乗ったら、すぐにマンションに帰れ」
「え?」
予想だにしない指示に、少女が瞳を揺らす。タケルは彼女にまっすぐ前を見て平静を保てと言添えて続ける。
「心配するな。ちょっと買い忘れたものがあるだけだ」
「それなら、私も一緒に行きます」
「そんな荷物持って長時間出歩かない方がいいだろ。なに、すぐ帰るさ」
「そんな……」
一見しただけでは分からずとも、何かの拍子に袋の中身が露呈する可能性は常にある。タケルの言葉はもっともだった。セリナもただのアイドルではない。ドスケベな本性を除けば、油断も隙もない完全無欠のトップアイドルであり、その道のプロフェッショナルである。
「わかりました」
逡巡の末、彼女は頷く。それを見届け、タケルは満足する。
駅前のロータリーに黒い高級車が止まっていた。タケルが先ほど社用スマホで手配したものだ。あれに乗れば、セリナの安全は確定する。
近づく二人の姿を認めて、運転手が後部ドアを開ける。すぐに乗り込み、すぐに発車できるように、全てが洗練されている。
「じゃあな」
「……お、お気をつけて」
セリナは車へ乗り込みながらタケルを振り返る。だが、その言葉を遮るようにドアは閉まり、重厚な車体は滑らかに動き出した。
「さて」
視界の端にずっと写っている人影に、タケルはようやく向き直る。季節外れの厚着で体型を隠し、帽子とサングラスとマスクの3点セット。何より、その胸ポケットからわずかに覗くレンズのきらめき。
タケルと目が合った途端、その人物はあからさまに驚き、身を翻す。巨漢に睨まれれば誰でも怯えるだろうが、その動きは手慣れていた。
「警備には連絡したし、あとは見失わないだけだ」
タケルは身体がデカいだけで武道や逮捕術の心得があるわけではない。ましてや、追跡など初めてである。しかし、セリナの周囲を嗅ぎ回る不埒な輩を許しておけるわけもなかった。
脱兎の如く逃げ出した人を追いかけ、猛牛のように走り出す。都心の往来は掻き分けるまでもなく、地響きをさせる大男に怯えて道を開ける。
開けた視界に、逃げる背中がよく見えた。小柄で華奢な雰囲気。少年のようだ。帽子を目深に被り、前に向かって逃げている以上、顔まではよく分からない。グラスベルの警備がどれほど優秀かは知らないが、追いかけなければ群衆に紛れてしまうだろう。
「待て!」
「っ!」
タケルの低い声。逃げる少年の肩が跳ねるが、当然止まらない。くるりと向きを変え、路地裏へと飛び込んでいった。タケルもそれを追いかけ、室外機のそばに転がっていたバケツを蹴り飛ばす。がこんと大きな音が反響する中、少年はさらに角を曲がる。
建て増しと改築の重なったコンクリートの迷宮は複雑怪奇そのものだ。華々しく絢爛な表通りから一歩奥に入れば、途端に薄暗く湿気の多い雑然とした風景へと変わる。
逃走者はかなり土地に精通しているようで、まったく迷いがない。一方のタケルは初めての町、その上体格に合わない狭い道とあって、全速力は出せない。それでも歩幅の差か、体力の違いか、徐々に距離を詰めていく。
「……こいつ」
走りながら、タケルの脳裏に疑念が浮かぶ。
だがそれを検証する余裕などない。そのうちに路地に面した小さなドアが見えた。タケルがあっと声を上げる間もなく、小柄な影はその中へと飛び込む。
「どういうことだよ」
困惑がタケルの頭を埋め尽くす。セリナを狙う記者かストーカーか、とにかく真っ当な人間ではないと思っていたが、その像に亀裂が走る。
考えている余裕はなかった。
タケルはドアノブを掴み、勢いよく開ける。
外観からは想像のできない、ラグジュアリーな内装。シャンデリアが輝きを放つエントランスはがらんとしていて、絨毯の上に倒れ込んだ小柄な逃走者だけがいた。
「お前、誰だ……?」
荒い呼吸を繰り返し、土下座しそうな勢いでうずくまる人影。タケルの誰何に、恐る恐る顔が上げられる。帽子が落ち、サングラスが外れ、マスクを下ろしたその素顔は――。
「ご、ごめんなさい……。許して……」
「女の子?」
今にも泣きそうな顔で怯え切った、童顔の少女であった。
「いや、どっかで見覚えが……あるような」
タケルは記憶をたぐる。
ここは、グラスベルが所有する"保養施設"のひとつ。そこに迷わず逃げ込んだということは、彼女もまたここを利用することができるもの。つまり……。
「お前、じゃなくて君もアイドル、なのか?」
「ひん」
セリナを狙う怪人は、ぽろりと涙をこぼして頷いた。