巨チンを見込まれて大人気アイドルのセックスケア担当にスカウトされました。 作:ユリイカ
都内に点在するグラスベルの"保養施設"は部外者の侵入を厳格に禁じている。奥まった路地裏にひっそりと存在するドアも偽装のためのものであり、その内部はしんと静寂に満ちた上品な内装が広がっている。
ワインレッドの絨毯に、小柄な少年がへたり込んでいた。セリナを付け狙い、タケルに追われ、ここに逃げ込んできたのだ。やっていることはストーカーのそれだが、間違いなくグラスベルに所属するタレントだ。
「ぼ、僕のこと……ネットに書かないで……」
「SNSはやってねえよ。というか、ええと」
うるうるとした瞳で懇願する少年を見下ろしてタケルは言葉を濁す。
既視感はあるのだが、いったいどこで見たのか分からない。セリナほどのトップアイドルならばまだしも、多少有名な程度であればもともと芸能ごとに興味が向いていないタケルには難しい。
しかし本人は自分の名前が知られていないことに愕然とした様子で、慌てて自ら素顔を晒した。
柔らかそうな茶髪に丸い瞳、華奢な肩周りとすらりと浮き上がる鎖骨。その下のわずかな膨らみ。……膨らみ。
「女の子!?」
「そ、そうですよぅ」
タケルが衝撃の事実に叫ぶと、少年改めボーイッシュな少女は唇を尖らせる。性別を正しく認識すれば、いくつか思い当たる節もある。
「たしか、そうだな、天竜……?」
「はいっ! 天竜ツカサです!」
ぱぁっと表情を明るくして無邪気に喜ぶ少女。彼女もまた、グラスベルが誇るアイドルのひとりである。タケルも詳しいことは知らないが、その中性的な容姿と爛漫な性格で、明るくエネルギッシュな魅力を持っている、新進気鋭のニュービーだ。
セリナほどの地位にはいないが、彼女の背中を睨みつけて猛追しており、特にSNSでの発信に力を入れている、らしい。そもそもSNSをほとんど触っていないタケルには縁遠い世界の話である。
「それで、どうしてグラスベルのアイドルが同じ事務所のアイドルをストーキングしてたんだ?」
「ストーキングなんて失敬な! 僕はセリナちゃんを守護るために――」
「あー、そういうタイプか」
「そういうタイプって何!?」
拳を握りしめて力説するツカサを見て、タケルもおおよその事情を察するに至る。
つまりツカサはトップアイドルの芹川セリナに心酔しており、勝手に自警団じみた活動をしていたのだろう。全くもって厄介ファンの典型である。
「セリナちゃんがマンションを出たのに気付いて追いかけてみれば知らない大男が引っ付いてるし、あ、あまつさえあんな店に……。セリナちゃんを解放しろ!」
「うーん……」
普通のストーカーとは違ってグラスベルの内部にいる以上、セリナの住居まで把握しているのが厄介だった。しかもトップアイドルのドスケベな本性までは知らぬようで、タケルが彼女を脅しているというストーリーを脳内で組み上げている。
先ほどまでの弱々しい姿はどうしたのか、ツカサはびしりと指を突きつけて要求する。タケルにしてみれば小柄なチワワが可愛く吠えているようにしか見えないが、中身は厄介ストーカーである。
「とりあえず、自己紹介をさせてもらおう。俺は金剛タケル。一応、昨日からセリナのマネージャーだ」
「ま、マネージャー!?」
名刺などを貰っていないことを思い出しつつ、タケルは社用スマホを見せつける。これを持つ者はグラスベルの関係者のみ。名刺代わりにはなるだろう。
実際ツカサも理解したようで、目を丸くして驚いている。
「ど、どうやって内部に……。まさか事務所の中にセリナちゃんの厄介ファンがいるなんて!」
「お前じゃい」
親指の爪を噛みながらブツブツと呟く様子は、とてもキラキラとは程遠い。これでフレッシュなアイドルなのだから、彼女たちの仮面には目を見張る。
「まあ、マネージャーと言っても業務は全部レナがやってるんだが」
「レナさんとも知り合いなのか。ぐぅ、本当に真っ当なマネージャーなのか?」
セリナのマネージャーである佐藤レナは事務所内でも一目置かれているようだった。その名前を出した途端、ツカサはぐっと警戒を緩める。
「なるほどそういうことか。貴方、セリナちゃんの専属の――」
はっとして手を叩く少女の言葉に、タケルはどきりとする。
「――護衛なんだね!」
だが続く言葉は事実から離れたものであった。
ツカサはうんうんと頷き納得しているようだが、タケルは武道や逮捕術の心得もないただのデカいだけの男である。しかし、一度追いかけられた恐怖体験からか、彼女はすでに確信してしまっている。
タケル自身としても、護衛と勘違いされた方が好都合であった。セックスケア担当という常識を疑うような役職よりもよほど論理が通っている。
「……まあ、そういうもんだ」
スキャンダルからセリナを守るという意味では、実質護衛かもしれない。
そんな屁理屈を内側で捏ねながら、タケルはぎこちなく頷いた。
「ということは、僕らは同志というわけだ。セリナちゃんという神の子を守護るため、君は表から、僕は裏から、頑張ろうね」
「いや、お前はダメだろ」
「なんだって!?」
どこかすっきりとした顔で手を差し出すツカサ。当然、そんなわけはない。タケルがすげなくそれを払うと、彼女は愕然として口を開いた。
「アイドルがストーキングしてどうする。本業に専念しろよ」
「僕の本業は親衛隊なんだが?」
すっと提示されたのは芹川セリナファンクラブ会員証。ナンバー3である。筋金入りである。
「よし、本人に言おうか」
「ごめんなさいいいいいっ! ゆるじでぐだざいいいいいっ!」
会員証を掲げてむふんとしているツカサの姿を写真に撮り、メッセージアプリを立ち上げるタケル。その足にアイドルが抱きついて咽び泣いていた。グラスベルの"保養施設"でなければ許されない光景であった。
「セリナに憧れてグラスベルに入ったってことだろ? 本人に挨拶すりゃいいじゃないか」
「いや、それはその……リアルで会って幻滅されるとか、ヤだし……」
「こいつ……」
見た目は子犬っぽい可愛い少女なのに、中身はSNSに足元から頭頂まで染まった根暗現代っ子である。急におどおどとし始めたチワワを見て、タケルは思わず天を仰ぐ。
「というかお前もアイドルなんだろ。ツカサの追っかけしてる場合か?」
「だ、だってぇ……」
天竜ツカサも売れているアイドルだ。この過酷な業界では上澄みと言っていい。だが、本人のやる気がそちらには向かず、根本は芹川セリナの追っかけであるというのがもどかしい。容姿も(対外的な)性格も素晴らしいのだから、きっと正面を向いて活動に励めば、さらに飛躍はできるはずだった。
「ほら、アレだ。アイドルとして売れれば事務所から"ご褒美"ももらえるんだろ」
別にタケルはツカサのマネージャーではないのだが、つい世話を焼いてしまう。思い出したのは事務所が用意する"ご褒美"制度。これのために他の事務所から移籍する大物までいるという、大手事務所の金と権力にモノを言わせた福利厚生である。
トップアイドル芹川セリナが望んだのは、己の性欲を解放できる存在――金剛タケルという男。人間一人さえ、実績があれば与えられるのだ。
「ご、ご褒美……。なるほど、それなら合法的にセリナちゃんと……」
別にご褒美など使わずとも友達にはなれるだろうに、厄介オタクは近視眼的で思い込みが激しい。とはいえ、動機が歪でも彼女が活躍するのなら悪いようにはならないだろう。
タケルがため息をついて、ツカサに渡したスマホを取り返そうとしたちょうどその時である。
「ほわっ!? セリナちゃんから!?」
「おい、それは俺の――」
突然端末が震え、受電を報せる。
タケルが手を伸ばしたが、一瞬遅かった。厄介オタクでスマホが生命維持装置と同価値の現代っ子である天竜ツカサは、無意識レベルの流れる操作で応答してしまう。パスコードによるロックも通話を繋ぐだけならば意味がない。
顔から血の気が引くタケルの目の前で、ビデオ通話が始まった。
『タケル様♡ ど、ドスケべ雌犬おなほのセリナがお待ちしておりますので、早く帰ってきてください♡ オモチャも未開封で想像オナニーして、おまんこトロトロにして待っております♡ はっ♡ うっ♡ クリトリスコキッ、止まらなくてっ♡ このままだと、壊れちゃうっ♡ お、お願いします♡ タケル様の本物おちんぽ、早くぅ♡」
全裸でしゃがみ、カメラに向かって蹲踞の姿勢で秘部を晒し出す美少女。至宝とまで称されるトップアイドルの、流出してはならない姿があった。セリナは黒髪を振り乱しながら、赤く腫れた肉豆を摘み、ぐにぐにと強く扱く。そうしてガクガクと腰を震わせながら絶頂し、咽び泣きながら懇願を口にする。
立ち尽くす少女の手からスマホを奪い取るも、全ては遅すぎた。
呆然とする天竜ツカサ。冷や汗が、タケルの背中を滝のように伝う。全ての時間が、止まっていた。