巨チンを見込まれて大人気アイドルのセックスケア担当にスカウトされました。 作:ユリイカ
清々しい朝を迎えたタケルとセリナがタワーマンションのエントランスに降りると、きっちりとブラックスーツを着こなしてサングラスをかけたマネージャー、レナが待ち構えていた。
ゲスト用のカフェスペースで優雅にコーヒーカップを傾けていた彼女は、二人の姿を認めるとゆっくりと立ち上がる。むっちりとした腰回りをくねらせるように歩み寄り、無事に一夜を過ごした両者を讃えるように口元で微笑んだ。
「おはよう。その分だと、昨日はお楽しみだったようだね」
「はい♡ ご主人様にたっぷりと愛していただけました♡」
ここがまだ"保養施設"の中であるのをいい事に、セリナはにこやかな表情でぎょっとするような事を言い放つ。だがフロントのコンシェルジュたちも、広々としたエントランスの各所に立つ黒服の男たちも、視線を向けることさえない。その異様な景色だけで、タケルはグラスベルの力の片鱗を垣間見た思いだった。
「それで、今日は一日オフの予定だけど、どこかにお出かけかな?」
書類上、タケルは芹川セリナのマネージャーということになっているが、その主業務を担うのはレナの方である。彼女は当然の如くセリナの予定をしっかりと把握していて、彼女がエントランスまで降りてきたことを不思議に思ったようだった。
「家財道具を揃えたいと思ってな。ベッドはともかく、椅子が一つしかないのは困りものだ」
「ふぅん。ネットで注文してもいいし、コンシェルジュを使って部屋全体をコーディネートさせてもいいんだけどもね」
「セリナと俺の部屋になるんだ。自分で見て決めたいだろ」
「まあそういうことなら止めはしないさ。もちろん、身バレ防止の備えはしておくんだよ」
グラスベルが保有するこのマンションに住むのは、トップアイドルをはじめとした一流の業界人ばかりである。当然、街中に繰り出せば要らぬ気苦労に苛まれることも多いため、買い物の代行や外商の訪問なども行われている。望めばこの広大な塔のなかだけで全ての生活は完結するのだ。
だが、セリナはサングラスと帽子とマスクでしっかり素顔を隠す用意を整えてまで、タケルの提案に乗った。それ自体、以前の彼女ではあり得ないことである。
「はいこれ。社用のスマホだから肌身離さず持つように。私に直通の番号も登録されてるし、グラスベルの各種支援を受けられる申請アプリも入ってる。あとは、"保養施設"に関する資料も入ってるから、暇な時に読んでおくといいよ」
リナはブラックスーツの胸元、白いブラウスに包まれた谷間からスマートフォンを取り出してタケルに渡す。これ自体がグラスベル所属の人員であることを示す証明書ともなる、重要なものだった。
「レナは付いてこないのか?」
「これでも敏腕マネージャーでね。折衝だったり営業だったり、いろいろと仕事は山積みなのさ」
てっきりレナも帯同するものと思っていたタケルは、黒服のマネージャーが再び椅子に腰を落ち着けるのに首を傾げる。どうやら彼女はタケルたちを待ち構えていたわけではなく、カフェスペースで仕事をしていたようだった。見ればテーブルにはラップトップが置かれ、砂糖の空袋が山積みになっている。
社外秘の情報も多く取り扱う以上、彼女も"保養施設"内でしか仕事はできないようだった。
「いざという時は適当に通報してくれて構わないよ。どこからともなく警備が来るから」
「グラスベルって何者なんだ……」
「唸るほど金と権力を持ってるただの芸能事務所さ」
ひらひらと手を振って適当な見送りをするレナ。タケルはその言葉に嘘がないことを察して思わずため息をつく。そうして、傍らで静かに佇みながらも表情はそわそわと落ち着かない子犬のような少女の手を掴んだ。
「じゃあ行くか」
「はい、タケル様♡」
地下駐車場で黒塗りのハイヤーに乗り込み、行き先を告げる。あとは寝ていても目的地へ辿り着く。毎朝満員電車で押し潰されそうになっていた日々と比べると、別世界のように快適だ。
ウキウキと遠足に行く子供のように浮き足立っているセリナと共に降り立ったのは、都内でも輪をかけて煌びやかな中心地。世界的なブランドの旗艦店が立ち並び、高貴な人々が闊歩するガラスの王城。上品な風格さえも漂ってくる荘厳な街並みの最中で、タケルは思わず手で口を覆った。
「……くすんで見える」
道ゆく人々を眺めての第一声であった。
大都会の上位数%に君臨する上澄みの成功者たち。彼女たちは家系も財力も才覚も、完全無欠の天上人である。間違いなく、タケルからすれば手が届くはずもない人種であった。
しかし、そんな高嶺の花たちでさえも褪せて見える。
それはひとえに、隣に立つ少女の輝きが強すぎるからだろう。帽子を目深に被り、黒の濃いサングラスで目元を隠し、大きなマスクで顔の輪郭まで隠し、それでもなお、漏れ出るオーラが周囲の花を焼き枯らす。圧倒的な美の波動があった。
彼女の身体の隅々まで全てを間近に見たからだろう。セリナという極上を知ってしまったタケルは、それと比べざるを得なかった。
そう思えば、マネージャーでありレナもまた、その美貌と抜群のプロポーションで芸能界の表舞台でも十分以上に通用するはずだ。まだ素顔は見たことがないが、それでもそう納得させるだけの、オーラがあった。一般人とは違う、隔絶した品格とでも言うべきものが。
「タケル様?」
「あ、ああ……。いこうか」
至宝のような少女に怪訝な顔で覗かれ、タケルは我にかえる。変装しているとはいえ、ここは"保養施設"の外である。セリナはタケルと最低限の距離を保ち、軽やかにヒールの硬い音を奏でる。
この期に及んでタケルはようやく、この辺りの店にまったく馴染みがないことに気がつく。ショーウィンドウに並ぶ品々はどれも煌びやかでハイセンスな代物ばかりで、とてもではないがタケルが触れられるような値段ではない。
「ここのブランド、以前着せてもらいました。あんまり着心地は良くなかったですけど」
しかし、そんな高級店のひしめく通りを、セリナは下町の商店街を巡るような気楽さで歩く。その姿を見ていると、タケルもこんなところで気圧されるわけにはいかないという気持ちが湧いてきた。
トップアイドル芹川セリナの傍らに立つ者として、ふさわしくならなければならない、と。
「この店、入ってみるか」
「いいですね。行ってみましょう!」
目に留まった店に足を向け、二人揃って中へ。恭しく一礼して出迎えた店員は、タケルを見てわずかに眉を顰めた直後、人相を隠した少女に視線を移してあからさまにぎょっとした。それでも声に出さず耐えたのは、高級店としての矜持があったからだろう。
いかに変装をしたとて、セリナのオーラは隠しきれない。なぜ彼女が、うだつの上がらない男を伴って現れたのか。そんな衝撃が店員を襲ったはずだ。
「家に置く家具を替えようと思って。お話伺っても?」
「も、もちろんです。その……」
「マネージャーもよく家に来るので、椅子が欲しいの」
「なるほど。そういうことでしたか」
淫らな本性をおくびにも出さず、年齢以上に卒なく会話をこなすセリナ。当たり前だが、彼女はこのような振る舞いに慣れている。タケルが不用意に口を開くこともなく、二人の関係性まで説明し、無用な噂が立つ可能性を芽の段階で摘み取った。
店員はあからさまに安堵したような顔をして、本領を発揮し始める。タケルはただセリナの後ろを軽鴨の雛のように付いて周り、たまに意見を求められた時に軽く頷いたり首を振ったりするだけの装置となるのだった。