※この作品はR-18です。

星のない夜だから…   作:c.c.k

1 / 2
――人は、寂しさだけで道を踏み外すことがある。

FF7本編とは異なる関係性を描いた二次創作です。

本作で描きたかったのは、英雄でも戦士でもない、戦いの裏側で孤独を抱えた「一人の女」と「一人の男」の姿です。

ティファとバレット。

仲間として、家族として支え合ってきた二人の間に、もし別の感情が芽生えてしまったら。

その先にあるものが救いなのか、それとも破滅なのか。

性的描写を含む作品となりますので、その点をご理解のうえお読みください。


第1章

 

 

ミッドガルの夜は、どこまでも重くて、暗い。  重油の焦げた匂い。砂混じりの埃っぽい風。そして、そこに暮らす人々の、もう何度目か分からない「諦めの溜息」。それらすべてが、出口のないスラムの底に、まるで泥のように澱んでいる。

――知っている。この街に、逃げ場なんてどこにもないことくらい。

アバランチの活動から皆が戻り、カウンターの私に別れを告げて、各々に去っていく。  店の隅では、リーダーであるバレットが、その巨大な身体を椅子に沈めていた。  マリンは地下で眠っている。四歳の彼女に、私たちの「仕事」の匂いを嗅がせるわけにはいかない。  彼女が地下にいればバーが、彼女がバーにいれば地下が、それぞれの聖域になる。  それは、私たちが戦いの中で必死に守り続けている、脆くて危うい「家族ごっこ」のルールだった。

「…………」

バレットと出会って、三年。  気づけば、私は二十一歳になっていた。  その年齢を意識した瞬間、拭き続けていたカウンターが、鉛のように重く感じられた。  故郷を焼かれ、両親を失い、帰る場所を奪われてから、もう五年。  私の時間は、あの日から止まったままだ。神羅への怒りという、副作用の強い薬を飲み続けることで、どうにか「自分」という形を保っているに過ぎない。  同じ喪失を抱えるバレットを支え、マリンの母親代わりを務める日々。  仲間。疑似家族。そんな綺麗な名前の「楔(くさび)」が、バラバラになりそうな私の心を、辛うじて繋ぎ止めている。

「今日は、まだ閉めねぇのか?」

バレットの声は、いつもより重く、濁っていた。  私は彼と目を合わせることができず、ただ手元のグラスを執拗に磨き続ける。

「……もういいの? まだ、飲み足りないんじゃないかなって」

最近のアバランチは、何をやっても空回りだった。  バレットの瞳に灯る苛立ちの炎。リーダーとしての、あるいは「父親」としての焦燥。  けれど、彼はその牙を私には向けない。どれほど追い詰められても、このカウンターを挟んでいる時だけは、私を「守るべきもの」という枠の外には出さない。    ――それが、寂しい。  ――なんて、思ってはいけないはずなのに。

彼が引いた境界線。その優しさが、今の私には酷く残酷で、遠いものに感じられた。

「……じゃあ、もう一杯だけだ」

コルクを抜く音が、深夜の店内に冷たく響く。  今日の彼は、その背中が少しだけ小さく見えた。  私だって同じだ。日々の生活に、テロ活動に、育児に奔走して、自分の感情なんてどこかに置き忘れてきた。  二十一歳。若さなんていう輝きは、ミッドガルの鉄屑と砂にまみれて、とっくに磨り減っている。  だから。……だから、今日はまだ、独りになりたくなかったのかもしれない。

「私も、飲んじゃおうかなぁ」

胃の奥を突き上げる熱が欲しかった。  喉を焼くウィスキーの刺激。それは、どんな甘ったるい慰めの言葉よりも、ずっと誠実で冷徹だった。  飲み慣れないアルコールが、私の張り詰めていた理性の糸を、一本ずつ、じりじりと焼き切っていく。

気づけば日付が変わり、ボトルは空に近づいていた。  ふわふわと浮き上がる意識。私という存在が希薄になっていく心地よさ。  そんな私の顔を覗き込み、バレットが隣の席を勧めてくる。

「ったく、弱ぇんだから程々にしとけよ」

呆れたような声。いつもの慈愛。  普段なら救いになるはずのその声が、今は、私を「子供」の場所に押し留める壁にしか聞こえなかった。

「大丈夫よ。これでも、バーの看板娘なんだから……っ」

アルコールが、私がこれまで必死に纏ってきた「鎧」を、無残に剥ぎ取っていく。  隣に座るバレット。至近距離。  威圧的なほどの質量。そして、鼻腔を突くタバコと硝煙、そして「男」の体臭。  過敏になった嗅覚が、それを拒絶できずに吸い込んでしまう。   (バレットって……こんなに、大きかった……?)

グラスへ伸ばした指先が、目測を誤って滑る。  倒れそうになるグラス。時間の経過さえもが停滞する感覚の中で、私はただそれを見ていた。

「あっ……」 「おいっ……!」

重なった、二つの指先。  冷たいガラスよりも先に伝わったのは、火傷しそうなほどの熱い体温。

「ご、ごめ……」

不自然な作り笑いで逃げようとした私の手を、バレットの大きな掌が包み込んだ。  慈愛でも、憐憫でもない。もっと野性的で、切実な、一人の男としての「欲」が伝わってくる。

「わ、わりぃ……つい……」

バレットが謝り、私は逃げるように席を立った。  分かっている。ここで立ち去れば、明日もまた、いつもの「家族ごっこ」を続けられる。  でも、二十一歳まで封印してきた私の「女」が、彼の熱に触れた瞬間、どうしようもなく暴れ始めていた。  ざわつく胸を誤魔化し、背中を向けて歩き出そうとした、その時――。

ギシッ、と椅子が軋む音。  足元に伸びる、巨大な影。  次の瞬間、私の世界は彼の腕の中に閉じ込められた。

「わりぃ……分かってる……今日だけ……今日だけでいいんだ……」

耳元を掠める、低く湿った声。  背中に押し付けられた厚い胸板と、早鐘を打つ心音。    ――ああ。冗談じゃない。    彼も、私と同じなんだ。  この三年、ずっと押し殺してきた孤独。リーダーとして、父親として、自分を殺し続けてきた男の、致命的なまでの「弱気」。   「た、頼むって……何を……」

声が、震えて止まらない。  拒絶しなきゃいけない。マリンのことを、アバランチのことを考えなきゃいけない。  なのに、彼の熱い吐息が首筋を撫でるたび、私の理性はじりじりと溶けていく。  彼の弱さが、私の中に眠っていた「守られたい」という、醜くて卑しい本能を暴き出していく。

問うまでもないことだった。  ミッドガルの底で、多忙に殺し続けてきた私の寂しさ。  それが今、目の前の男の剥き出しの孤独に惹きつけられ、一つになろうとしている。    誰もいない店内にキッチンのシンクを叩く水音が響く。  それが、私が踏み外した境界線の音のように聞こえた。

 

---

 

喉まで出かかった拒絶の言葉が、形を成す前に熱に巻かれてほどけていく。  深く息を吸おうとして、自分の肺がまともに機能していないことに気づいた。背中から押し付けられるバレットの、暴力的なまでの体温。それが、私が必死に積み上げてきた「拒むための理由」を一つずつ、無慈悲に、そして丁寧に奪い去っていく。

――いけない。  脳が鳴らす警鐘は、もう耳の奥でキンキンと響く不快な雑音でしかない。  四肢からは力が抜け、指先さえもが重力に従って垂れ下がっていく。    私のこの絶望的な沈黙を、彼は「同意」と受け取ったのだろうか。  首筋から胸元へ回された彼の左腕が、まるで意志を持つ生き物のように這い動き始めた。薄いタンクトップの生地を透かし、節くれだった巨大な掌が、私の右の乳房を無造作に――けれど、確かな所有感を持って包み込む。

「……っ」

初めて触れられる、自分以外の指の硬さ。  首筋に顔を埋めたバレットが、私の存在をすべて吸い尽くさんばかりに、深く、荒い呼吸を繰り返す。うなじに吹きかかる熱い呼気が、私の皮膚を粟立たせ、脳の奥を白く濁らせていった。

正直に言えば、怖かった。  二十一歳になるまで、男性という「異物」を、自分の内側に招き入れる覚悟なんて持たずに生きてきた。一度火のついた男の劣情が、これほどまでに重く、甘く、抗いがたい質量を持っているなんて、私は知らずに生きてきた。

(バレットも……寂しかったのかな。……なんて、甘いかな。私だって……そう、私だって……)

彼の拍動が背中を叩くたび、私の胸の奥で澱んでいた「何か」が、行き場を求めて暴れだす。  ミッドガルに来る前の激動、来てからの息つく暇もない日常。私の心は、ただ摩耗するだけの消耗品だった。故郷を失った喪失感も、行き場のない怒りも、すべては「アバランチ」や「マリン」という都合のいい大義名分の影に追いやり、置き去りにしてきた。    忙しい毎日に「喜び」はあっても、この胸の奥にこびりついた「独りの女」としての孤独を吐き出す瞬間なんて、ただの一度も無かった。  まさか、こんな形で。自分のものではない熱を借りて、それを吐き出すことになるなんて。

乳房を覆う掌の力が、ほんの少しだけ強まった。  逃げ場を完全に塞ぐほどではない。ただ、そこから逃れるという選択肢だけを、静かに、確実に消していくような重圧。    触れられているという事実よりも先に、それを拒まなかった自分自身の「本能」に気づいてしまった。  布越しに伝わるバレットの体温が、私と彼の境界を曖昧にしていく。大きな掌が、そこにあることを確かめるように留まり、動かない。それだけなのに、呼吸の仕方を忘れてしまう。  耳元で重なる彼の荒い吐息が、今夜のこれが「家族の延長」などという生温いものではないことを、残酷なまでに突きつけてくる。

声を出せば、きっと止まれる。  そう分かっているのに、喉はひどく乾き、言葉は形にならない。……いや、違う。形にすることを、私が拒んでいる。  バレットが見せた「弱さ」への罪悪感。それに縋ることでしか孤独を癒やせない私自身の「弱さ」。二つの弱さが、この沈黙という名の共犯関係を強いていた。

バレットの掌が、ついにタンクトップの裾から滑り込んできた。  そのままブラジャーの薄いカップを押し上げ、ついに直に触れ合う、熱と熱。  節くれだった無骨な指先が、過敏に尖り始めた乳首を指の腹で強く掠めるたびに、甘く切ない痺れが背中を駆け抜け、頭頂部まで突き抜けていく。

「……んっ……はぁ……」

私の唇から、自分でも聞いたことのない艷やかな喘ぎが零れた。  彼は私の胸元を覆う布地を、容赦なく捲り上げる。夜の空気に晒された肌が、驚くほど熱を持っているのがわかる。解放された双丘が、バーの薄明かりの下で震えながら、無防備な痴態を晒していた。  寂しさを主張するように痛いほど尖る、乳首の先端。  まるで、こうなることをずっと待っていたかのように、私の身体は、私の意志を裏切って敏感な反応を繰り返す。

バレットの左手が、腹部の柔らかい曲線をなぞりながら、下へ、下へと降りていった。  耳元では野獣のような荒い息遣いが続く。彼はスカートの裾を無造作に手繰り寄せ、太ももの付け根を目掛けて再びその大きな手を上昇させる。

薄い下着の布地を無理やり割り込み、彼の指先が私の陰部を直接なぞり始める。

「っ……あ……」

既に濡れそぼり、愛液を溢れさせている場所をなぞられることに、激しい羞恥がこみ上げる。けれど彼の指先は、迷うことなくショーツのクロッチを脇へと退かし、熱く湿った膣口の中へと、深く指を沈め込んでいった。

「あぁ……んっ……!」

逃げるように突き出した腰の先。  私の臀部に、布越しでもはっきりと分かる、バレットの猛り狂ったペニスが押し当てられている。

(あぁ……もう……止まれない。止まる道なんて、とっくに無いんだ…)

押し付けられる圧倒的な熱と硬度。ぐりぐりと尻肉を抉るように押し当てられるその感触に、私は彼の狂おしいほどの男性としての性と、その裏にある切なさを、同時に感じてしまう。  感じれば感じるほど、私の奥底から溢れ出す愛液が、溜まりに溜まった今までの孤独を吐き出すように零れ落ちていく。

二人の息遣いが、店内の静寂を塗りつぶすように激しさを増していく。  バレットが躊躇いなく私を抱きかかえると、セブンスヘブンのテーブルの上へと横たえた。  背中に触れた天板は、驚くほど冷たく、硬い。  いつもはお客さんが笑い声を弾ませ、グラスを置くはずの場所。  そのあまりに無機質な感触が、今ここで行われようとしていることが、日常の延長線上にない「決定的な間違い」であることを、静かに告げていた。

バレットは焦れったそうに腰のバックルへ手をかけ、左手だけで器用にベルトを外すと、そのままズボンごと膝下まで押し下げた。  不意に視界へ飛び込んできたバレットのペニスの質量に、私は息を呑み、思わず顔を背けた。    あまりにも彼らしく、野性的で、暴力的なまでに猛り狂った熱。  太い血管が浮き上がり、脈打つその巨大な肉棒は、私が想像していた「性」の概念を根底から覆すほどに禍々しかった。  けれど。……けれど、その荒々しさの裏側に、彼が押し殺してきた孤独の丈を見るようで、どこか愛おしささえ感じてしまった。

バレットが私の両足を割り開き、その間に自身の身体を沈めてくる。  露わになった私の膣口のすぐ傍に、彼の熱い亀頭が迫る。  言おうか言うまいか、迷いの果てに、私は震える声を漏らした。

「そ、その……初めて……なの……」

刹那、バレットの呼吸が止まった。

「……は?」

低く、掠れた声。問い返すでもなく、ただその事実の重みを喉の奥で噛みしめるような響き。  バレットの胸が、ぐっと大きく持ち上がる。一度深く息を吸い、吐き出す。まるで、自分の中に沸き上がる獣のような衝動を、必死で押さえつけるかのように。

「……くそ……」

小さな悪態。それは私に向けられたものではなく、純粋な私を泥沼へ引きずり込もうとしている自分自身への、吐き捨てるような拒絶。  代わりに、彼は私の額に自分の額を寄せた。

「……わりぃ。今なら……まだ……」

「やめられる」。そう続けようとしているのが、痛いほど分かった。  けれど、彼は離れなかった。密着した体温も、私の膣口を圧迫する彼の硬度も、そのまま。  迷いと欲と後悔が、等しい重さでそこにあった。

目を合わせる勇気はなかった。  それでも、逸らしていた視線を彼の股間の「熱」へと戻してしまった時点で、もう答えは出ていた。  止める理由は、頭の中にいくつもあった。  けれど離れなかったのは、今夜が取り返しのつかない「間違い」になると分かっていても、バレットから発せられる温もりだけは、嘘じゃなかったから。

冷え切った指先と、内側で熱を増していく私の芯。  その、どうしようもなくちぐはぐな感覚こそが、今の私の、逃げ場のないすべてだった。




第一章からかなり重たい話になりました(笑)

この作品を書き始めた時は、ここまでティファが泥沼に沈んでいくとは自分でも思っていませんでした。

ただ、彼女の置かれていた環境を考えていると、「この時期のティファなら、誰かに依存してしまってもおかしくないんじゃないか」と思えてきて……。

その相手がバレットだったら、きっと二人とも簡単には抜け出せなくなる。

そんなところから始まった作品です。

ここからさらに二人の関係は深みに入っていきます。

コメントなどいただけますと次回の投稿の励みになります。率直な感想やご意見など、何でもいただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。