大理石の壁が高級感を漂わせるラブホテルの室内。ダブルベッドの上で腰を前後に運動する自分は、見知らぬ女性の膣内を本能の限りに貪り尽くしていた。
綺麗な黒髪を持つ女だ。糸のように流れる細い長髪を無造作にベッドの上で散らかし、肉棒で突かれる度に喘ぎ声を奏でながら乱れる姿は実に愛おしい。ペニスを咥え込む膣口は愛液を垂れ流し、潤滑でスムーズなピストンを可能にしていた。
発達した筋肉質の身体で覆い被さり、女性の両手首を押さえ付ける。視線は快楽に浸り切った女の表情を真っ直ぐと捉え、腰の運動を一層と速めていく。打ち付ける肉の音が狭い間隔で鳴り響き、女性の尻肉が波打つように揺れ始める。怒涛の勢いで膣内を刺激される女性もダメと言いながらペニスを受け入れ、間もなくして彼女は全身を痙攣させる大きな絶頂を迎えた。
女の容赦ない腹からの喘ぎ声が室内に反響する。彼女の絶頂に合わせて自分も股間の抑制を解除すると、脳内に快楽物質が生み出されると同時にペニスを伝って大量の精液を噴射した。
女の膣内にぶち撒かれた、“特異的”な性質を持つ精子。身体の変異によって成分が変化した体液を存分に吐き出していくと、自分は勢いよくペニスを引き抜き、女性もまた瞬間的な快感で端的な嬌声を奏でながら敢え無く気絶した。
彼女の股間から精液が流れ出る。両脚を情けなく開き、仰向けになりながら意識を失った女性。自分はその様子を達成感と共に眺め遣ると、ペニスを軽く拭いた後にそそくさと着替え始めた。
水色から黒色に変化していくグラデーションカラーのニットシャツ。黒色のジョガーパンツに白色のシューズを身に着け、銀色のネックレスを首に掛けていく。続けて鏡と向かい合い、175cmの背丈と
支度を整え、ポケットにしまっていた自分の財布を取り出していく。そこから二枚の万札を引き抜くと、自分はそれを気絶する女性の手に握り締めさせた。
ラブホテルを後にして、外に出てきた自分は夜空を仰ぎ見る。
星々が燦々と輝く、とても綺麗な星空だった。まるでプラネタリウムに来たかのような感動すら覚えるほどの壮観な光景。今いる場所が歓楽街でなければ、きっと心は洗われたのだろう。
――西暦2030年 日本 東京 新興歓楽街『
“精力”は一旦補充した。しかし、この程度では数日しか持たない。
恐ろしいことに、自分は『淫魔』に変異してしまった。あまりにも突然の出来事だった。就寝中に異変を
突然変異は現在、世界中で起こっている異常現象として話題が持ちきりだった。世間はこれを“キュバス化”と呼称し、緊急事態を宣言している。キュバス化した人間は驚異的な身体能力や異能力を得る代わりに、他者の“精力”を摂取しなければ生き永らえることができない体質へと変化する。その精力の定義については曖昧であるものの、現段階の研究結果としては主に、性的な干渉で得られる快感が精力に繋がるとされていた。
要は、快感は淫魔にとっての食事なのだ。人間がご飯を食べて栄養を蓄えるように、淫魔は快感で栄養を蓄えていく。その快感というものがまた難儀で、マスターベーションではカロ○ーメ○トくらいの満腹感しか得られず、腹を満たすにはどうしても他者との性的な干渉が必要になってくる。豪勢な食事であればあるほど、その満腹感が増加する。つまり、セックスの満足感が食事の質に大きく関わってくるのだ。
ただ、自分が淫魔であることを公言することはできない。キュバス化した人間は恐るべき身体能力や異能力を有している故に、人類の脅威として敵視されている。政府や警察に見つかったら最後、幽閉されて研究室に送られるか始末されるだけだ。
現在、キュバス化の原因や異能力のメカニズムなどが解明されていないため、人類側も対処に頭を悩ませていた。中には政府の陰謀説や外国からやってきたウイルス説など、様々な憶測が飛び交っている。今の自分にできることは社会の貢献や問題の解決ではない、ただただ息を潜め、キュバス化が世間にバレないよう独りで戦う選択肢のみ。
自分は“食事”を済ませ、ラブホテルの前から移動した。行く先は特に決めず、新興歓楽街『
だが、歓楽街の奥へ進むにつれて、その様子は怪しくなる。バーやスナックで軽いジャブを打ち、無料案内所やラブホテル、そしてソープランドの
歓楽街『龍明』をほっつき歩いていると、直にも公園に出てきた。道沿いには多くの女性が佇んでいる。要は立ちんぼだ。先程も自分はここにいた女性に声を掛けて、お金と引き替えに“食事”を行った。
不本意ではあるものの、これも生きるためだった。自分は己の
心の何処かでは、好みの女性を探していたのかもしれない。いずれそのお相手で“食事”を行うかもしれないから。だからこそ、“その人物”を見つけた時は少なからずと心を躍らせたのもまた事実だった。
158cmの背丈である、小柄で華奢な女性だった。前髪をパッツンに切り揃えたヴァイオレットカラーのセミロングヘアーと、宝石のように輝く同色の大きな瞳。丸っこい顔の輪郭と無機質な肌質はまるで美形の西洋人形を思わせ、可憐な風貌も相まってか非常に愛嬌のある存在感を放っていた。服装は、華奢な体格を覆い隠すシルエットの黒色ポンチョと、清楚な印象を与える白色ブラウス、ふわっとした質感が可愛らしい黒色のフリルミニスカートに、黒色のオーバーニー&黒色の厚底ブーツという格好をしていた。
頭にかぶっている猫耳付きの黒色キャスケットがチャームポイントであり、黒色のトートバッグが地雷系の雰囲気を助長している。今もスマートフォンに注目している彼女を見つけた瞬間にも自分は高揚し、同時にして内なる本能、淫魔の食欲がそそられた。しかし自分は自制し、彼女をまじまじと見つめながらも前を通り過ぎようとする。
その時、スマートフォンから顔を上げた彼女が、可憐な声音でこちらに言葉を掛けてきた。
「おにーさん」
「え? 俺?」
彼女はまん丸な目をくりくりっと動かし、自身の愛嬌を熟知したあざとい調子で言葉を続けてくる。
「このあと、どーです?? ウチとイイコトしませんか?? おにーさんが相手ならお安くしておきますよ??」
「あぁーっと……ごめん、用事を終えた後で疲れてるから……」
「そーですか。それは残念です」
自分は誤魔化すように微笑みかけ、足早に立ち去ろうとした。しかし、次にも口にしてきた彼女の“言葉”に自分は反応せざるを得なかった。
「淫魔というのも大変ですねー。心中お察ししますよー、“
正体と本名を呼ばれ、自分は心臓を鷲掴みにされたかのような緊張感を帯びながら恐る恐ると振り返る。
彼女はまん丸な瞳で、あざとい上目遣いを行いながら口角を吊り上げて微笑んでいた。両手を後ろにやり、可憐な佇まいでこちらを見据えている。一切もの揺らぎがない視線を受けて自分は激しく動揺していくと、彼女はクスッと苦笑した後にとてとて歩み寄りながら、愛嬌を武器にした可愛らしい調子で喋り掛けてきたものだ。
「ウチは“ラミア”と言います。急に驚かせてすみませんねー。ですけど、アナタとおハナシするためにコチラでお待ちしてたよーなモンですから。いろんな紳士の方々からお誘いされましたよー?? ですが、全部お断りしました。こーしてカンキさんとお会いするために、です。――ご予定とかありますか?? もし無いなら、ちょっとだけウチに付き合って頂けませんかねー?? “インキュバス”のカンキさん」