文が監禁凌辱を記録する毎日が始まった。
仕事が終わり、夜に必ず自宅のシアターで鑑賞会に興じていた。
日常のお楽しみになっていた。
古小屋で放課後の少年達が、慧音と淫乱の限りを尽くす。
唾液と白濁に濡れ、不義子の誕生の瞬間が徐々に近付いていく。
少年達が慧音を輪姦するたびに、新たなプレイを編み出していた。
「いやあ、我ながら趣味が悪い。妖怪なんて悪趣味でなんぼですが。」
文は自虐を交えながら、この加虐を満喫していた。
ただ映像を鑑賞するだけではなかった。
眼虫は古小屋に充満する三人の負の情念を蓄積させ、映像データと共に送信する能力を持っていた。
術師との感覚共有、映像と音声の記録を送受信、精神エネルギーの移送。
三つの能力を兼ね備えた式神だったのだ。
文はこの式神を大量生産し、幻想郷で最大限活用していたのだ。
眼虫は文が発明した式神。
防御力と機動力は低く戦闘能力は皆無で貧弱だが、僅かな妖力で召喚できるのが長所である。
鴉の使い魔を操るよりも効率的だった。
「私はつくづく式神の傑作を発明したものです。」
モニターから放たれる負の情念を文は残さず吸収する。
糧を積み重ねて自分を高めていく。
この地道な努力を重ねることで、のし上がっていけると信じてきた。
お陰で修羅場を何度も乗り越えてこれたことも。
「人喰らい以外にも自分を高める方法はある、今私がやっているように。
制約が多い幻想郷では、特に重要と言っても過言ではない。」
里人食禁止条例がある限り、人喰らえるのは外の世界の人間ぐらいだった。
だが絶対数が少なく、ありつけるのも一苦労だった。
常にライバルとの闘争が勃発するリスクが付いて回った。
「そういえば、ルーミアは人食い出来なくて世知辛いのだとか言ってましたねえ。」
ルーミア、宵闇の妖怪で容姿は年端もいかない女児だった。
野良妖怪で文にとっては、取るに足らない小娘でしかなかった。
取材で出会い文は、ルーミアに人狩りは待ち伏せするのが良いと説いた。
しかし・・・。
「そーなのかー、でも大変だしめんどくさーい。」
そう言って取り合いもせず去っていったのだ。
「所詮、下級妖怪とはいえ流石に呆れましたね。ちょっとした工夫も嫌だとは。
盆暗はいつまでも盆暗なのがよく分かる。」
向上心の強い文からすれば、嫌味を垂らさなきゃやってられなかった。
「上を見上げれば天井がない、下を見下ろせば底が見えない。
幻想郷はいつだってそう。」
どんな種族もピンキリ、それがこの世界だった。
「賢者・八雲紫は言った、ここは全てを受け入れる残酷な世界だと。
残酷さに押し潰されないためには抗うしかないのよ。」
慧音のように理想が肥大化し地に足が着かない。
ルーミアのように怠惰に溺れて堕落の贅を尽くす。
どちらも悪道でしかなかった、文にとっては。
モニターを観ながら自戒を胸に刻んだ。
監禁凌辱が始まって約2か月半。
いつものように文はモニターで鑑賞会をしていた。
慧音が真夜中で、監禁されながら寝ていた時のことだった。
「ん?天井に何かいる・・・。」
暗い密室で淡く光る小さな何かがゆらゆら揺れていた。
徐々に慧音に近付いていた。
「まさか・・・人間の魂?、それも転生するための。」
人魂だった、冥界からやって来た。
冥界の主によって輪廻の中で、再び人間に転生するために誕生を望んでいた。
主である西行寺幽々子の計らいだった。
人魂は寝ている慧音の子宮に宿り、着床した受精卵に生命力を与えた。
こうして新たなる生命が誕生する。
これが魂の循環だった。
「あ~あ、ついに妊娠してしまいましたか。」
慧音は毎日、避妊もされず輪姦され続けていた。その度に子種が注がれていた。
その結果、ついに望まない妊娠をしてしまったのだ。
「まあ、だからといって何かする訳もありませんが・・・。」
文は慧音がどうなろうと捨て置くつもりだった。しかし、これから誕生する赤子のことを思うと憐れに感じた。
「流産するか山に捨てられる、まともに育てられることは無い。」
折角、転生を果たせた魂も報われない。ただ前世がどんな人生だったか知る由もないが。
「おそらく前世は良い人生とはいえなかったのでしょう。
西行寺幽々子に聞けば詳細が分かるでしょうが。」
ただ文にとって幽々子は苦手な人物だった。
嫌味が強くお高くとまった言動が癇に障るのだ。
かといって気に入られたら呪殺され、冥界の住人に変えられてしまうのだ。
「八雲紫曰く、昔は人間の少女で慈悲深く優しすぎたと言っていましたが。」
信じられない話だった、話半分に聞いていた。
ただ文自身、幽々子の人間時代には面識がなかった。頭ごなしに否定はしなかった。
「あの女によって破滅の人生が約束されてしまう、ままならないわね。」
だが幽々子のやることに、ケチは付けたくもなかった。
世界に輪廻がある限り、誰かが背負わなければならない。
冥界の主は汚れ役だった。
「あの赤子には次は幸せな人生を願いますよ、幽々子。」
赤子の死後、幽々子に直接頼み込むのも悪くないと思えた。
早朝、6時30分。
文は新聞の見直しに励んでいた、今日発行するためだ。
内容の一部は慧音の神隠しの件だった。
しかし、真実は書いておらずあくまで失踪に触れるだけだった。
人里では慧音のことを言及する者がほぼいなくなっていた。
「これで修正は終わりと、後は印刷して配送するだけですね。」
自宅には専用の印刷機があった、にとりに特別注文して製作させた。
にとりには機械関係でいつも世話になっていた。
「にとりは良いメカマンですよ、河童なことが惜しいぐらいに。」
文とにとりは旧知の仲だった、プライベートでも付き合いが深かった。
にとりに地位の向上の手助けをしようかと、提案したこともあったが遠慮された。
そういう柄じゃないと。
「ただのメカマンの方が気が楽か・・・昔からそうでしたね。」
文はあくまでにとりの意志を尊重した、親友として。
印刷が終わり新聞紙の束を鞄に詰めこむ。
「さて、行きましょう。」
文は外出し、妖怪の山を後にした。
紅魔館、香霖堂、永遠亭、人里・・・。
幻想郷を駆け回り新聞配達をこなしていく。
使い魔の鴉にも配達の手伝いをさせていた。
だが、目的はそこだけではなかった。慧音と少年達の調査も兼ねていた。
文は人間の探偵に化けて人里に踏み入れた。
時刻は10時30分。
「失礼します、探偵の射命丸です。」
主犯の少年の実家に着いた、聞き込みをするために。
文は玄関に失礼すると母親が応対しに現れた。
「あら、探偵さんじゃない。いらっしゃい。」
「これは○○さん・・・そのお腹、まさか。」
文は母親の腹部に目を向ける、懐妊していた。
服越しではほんの僅かに膨らんでいる程度だが、文の観察眼で見抜いた。
「よく分かったわね、二人目の子を身籠ったの。もう旦那様がいつも祝ってくれて困っちゃう。」
「それはおめでたい!誕生が楽しみですね。」
「ええ、まだ次男か長女か分からないけど。」
母親は素直に喜んでいた、夫とも相思相愛な様子だ。
「長男くんが父親になるのも楽しみですね。」
文は孫が誕生するのを暗喩する。
「やだ射命丸さんったら~!いくらなんでも気が早いわよ!」
「これは失礼しました、あはは。」
両親は自分の長男が、慧音を監禁凌辱しているのを知らない。
これから孫の誕生が始まることも。
「話は変わりますが、一ついいですか?」
「なんでしょう?」
「慧音先生について何かご存じでしょうか?
宜しければお伺いしたくて。」
文の知らないふりだった、慧音のことはよく把握していた。
「いえ・・・慧音先生は突然失踪してしまって。
うちの○○も信じられないと言っておりました。
どうか無事でいてくれるといいのですが・・・。」
「そうですか、寺子屋の生徒達も心配でしょうに。」
主犯の少年は両親に白を切っていたことが分かった、当然そうするとしか言えなかったが。
(上手いことしらばっくれていますね、まあ人のことは言えませんが。)
まさに茶番劇だった、文と少年が繰り広げる。
「何かあったら射命丸さんに連絡するわ、これからもよろしくね。」
「ありがとうございます、それでは失礼します。」
文は新聞を母親に渡し玄関から去った、だが・・・。
「さて、調査といきましょうか。」
ここに来たのは挨拶のためではなかった、本当の目的は少年の部屋の探りだった。
文は人のいない裏路地に赴き、鴉に獣変化した。
そして、窓に舞い降り妖術でロックを解除し嘴で器用に開いた。
見事に少年の部屋に侵入してみせた。
「今なら少年は寺子屋にいる、母親は病院に向かった。」
この家には誰もいない、個室を探るチャンスだった。
「少年は何かを隠している、私の勘がそう告げている。」
人は隠し事をしているとき、必ず行動に変化が生じる。
例は懺悔室で告白する、親しい人に打ち明け秘密を共有するなど。
文は経験則でそれを精通していた。
獣変化を解除し部屋の隅から隅まで調べる、まるで家宅捜索する検事のように。
文は押入れを探っていると隠し戸を見つけた。
「これは、まさか・・・。」
中には古本が一冊入っていた。
文は手に取る。
本の題名は・・・。
「「 慧音先生飼育日誌 」」
「なんて題名なんだか・・・。」
文は呆れながらも本を開く。
「親がやっているのを見て赤ちゃんの作り方を知った僕たちは」
「自分たちでも作ってみたくなった」
「そこで僕たちは慧音先生に」
「僕らの子供をうんでもらおうとした」
「慧音先生との子作り1日目」
「僕たちは何度も先生に種付けした」
「それから毎日、慧音先生を犯し続けた。」
ここから先は白紙だった。
「クソ以下な内容ですね、どこまで愚かなんだか。」
文は心底、侮蔑した。だが、一つのことに気付いた。
「少年達が監禁凌辱を始めたのは、夜中に両親の出歯亀をした2日後。
ということは出歯亀する少し前に妖気を仕込まれた・・・ということか。」
二人の両親が、夜の営みを行うタイミングを狙っていたことになる。
それで少年達は、性欲のモンスターに豹変されてしまった。
夫婦の健全な営みが悪用されたのだ。
「真っ当な夫婦の情事を悪用するとは・・・私よりも質が悪い。」
文は黒幕の悪辣さを非難する、流石に看破できるものではなかった。
最後のページを開くと一枚の写真が挟まれていた。
写真には慧音と二人の少年が、談笑する光景が写っていた。
時期はおそらく、監禁凌辱が始まる一年前だった。
「三人は至って普通な女教師と生徒の関係でしたか。
そして少年達は以前から大の仲良しと。」
この関係に少し思うところがあった、今はもうこれには戻れない。
黒幕が慧音を始末するのはいくらでも手段はあった。
だが慧音を殺すどころか、女としての尊厳を破壊し尽くす行為に走った。
異性に対する価値観が狂ってしまうだろう。
それだけに飽き足らず、少年達の将来を破壊してしまったのだ。
少年達の脳は妖気で変質してしまい、理性や良心が欠落してしまった。
もうまともな最期は拝めないのは想像できた。
「人のことを言える立場じゃありませんが、余りにも外道が過ぎる。」
文自身、楽しんでいた。
だが冷静に考えると慧音を始末するために、里の少年達を巻き込む必要はなかった。
「少年達も犠牲者なことには変わらない
まあ・・・やってきたことを考えると同情しませんが。」
しかし、里人の殺害を禁止する条例があっても洗脳を禁止する条例はなかった。
法の抜け穴を突いたやり口だった。
「黒幕はつくづく狡猾な奴ですよ、私よりも・・・。」
文ですらやらないことを平然とやってのける。
憧れどころか蔑みしか湧かないが。
文は日誌の内容を撮影してコピーした。
その後、日誌を隠し戸に戻し部屋を片付けた。
そして、再び鴉に化けて飛び去ったのだった。
時刻は19時00分
文は仕事を終えて、妖怪の山に帰還する途中。
「そこにいたか、射命丸文。」
「・・・?」
突然、上空から声が聞こえた。
見上げるとそこには黒馬天狗が滞空していた。
飯綱丸龍の直属の配下であり古参のエリートだった、格は文と同じくらいだった。
外見は黒馬の頭と背中に翼を生やす、どこかペガサスを彷彿とさせるものだった。
黒馬天狗は、文の目の前に舞い降りる。
「これは黒馬殿、ご足労いただき光栄の至り。」
「世辞はいい、我は飯綱丸様の伝言を承った。」
文は訝しむ、龍が自分に何の用か腑に落ちなかった。
「至急、本殿の会議室参の間へ集合せよ。以上だ。」
「御意、多忙な身ありながら連絡頂き感謝します。」
文は深々と頭を下げる。
「世辞はよせと言っている、余り待たせるなよ。では失礼する。」
黒馬天狗は上空の闇夜へと姿を消した。
「飯綱丸様が今になって・・・隠し事がバレたか?いやまさか。」
文は急いで帰還し、本殿に向かった。胸騒ぎと共に。
時刻は19時30分。
場所は本殿。
本殿は天狗達の本部である政の要所だった。
トップである天魔の在所も兼ねており、大天狗達の拠点でもあった。
内装は荘厳かつ趣深い代物だった。
文は会議室参の間の下座の席に座り龍を待った。
どこか緊迫した心境を漂わせていた。
会議室の出入り口には警備の鶴天狗が監視していた。
(別にトンズラしたりしませんよ・・・。)
文は本殿のお堅く格式ばった雰囲気が苦手だった、もっとお気楽な場所が良かった。
「射命丸文殿、飯綱丸様がお見えです。」
鶴天狗が扉を開く。
「わざわざ急行させて済まなかったな、射命丸文。」
飯綱丸龍が会議室にて参上した。
「とんでもない、私如きに勿体なきお言葉。
こちらこそ心配を掛けさせて恐縮の至りです。飯綱丸様。」
「そう気を使うな、私とお前の仲だろう。」
飯綱丸龍、文よりも遥かに年上で上司にあたる大天狗の妖怪だった。
妖怪の山の幹部格であり、文は頭が上がらなかった。
龍と文は平安時代から出会い、新人時代に色々と世話になっていたのだ。
龍は上座に座り文と向かい合う。
「鶴天狗、下がっていいぞ。二人だけにしてくれ。」
「ごゆるりと、大天狗様。」
鶴天狗は退出した。
文と龍、二人だけの会議室が出来上がった。
「さて、心置きなく始めようか。私たちの会議を。」
ついに会議が始まった。
「飯綱丸様、今日のご用件はなんでしょう?何か火急の事態にでも?」
「いや、そういう訳ではない。お前についての会議だ。」
「私ですか・・・?」
会議の主題は射命丸文についてだった。
「ストレートに言おう、何か隠し事を抱えているだろう?
・・・射命丸?」
「私がですか?いったい何を・・・。」
文に緊張が走る、ここにははたても椛もいない。
ただ相手は三人がかりで立ち向かっても勝てるか怪しい龍だった。
「とぼけなくていい、お前に見せたいものがある。」
龍は懐に手を入れる。
「これだ。」
「!?ッ」
なんと眼虫だった。
逃げられないように、小結界で拘束されていた。
文に焦燥が走る・・・。
「私の眼虫・・・。」
「そう、お前の式神だ。それもお気に入りのな。
おっとこいつ以外にも。」
龍はさらに眼虫を5匹取り出した。合計6匹を捕獲していた。
文は動揺を隠し質問する。
「何故、飯綱丸様は私の式神を捕獲したのですか?
眼虫を普段使いしているのは、すでに把握していたはず・・・。」
「それは分かっている。だが、私はこう考えた。
お前は何か隠し事をしているのではないかと。」
文は極力、平静を装っていた。だが危機感を募らせていた。
「抜け目のないお前が独自に調査して、真相を暴いていても不思議ではない。
そこでこの式神達を捕獲して解析させてもらった。
その結果、こいつらがデータを高頻度で送受信し合っていた痕跡が見つかった。
それも約2か月間もな、随分と働き者じゃないか。」
文は確信した、龍は見抜いていると。
「眼虫をここまで働かせていたのは久々じゃないか?
いつもは異変が起きなきゃまずそうはさせない。
お前は何かを掴んでいる、私には内密にしてな。」
龍の鋭い眼光が文を貫いた、もう言い逃れは不可能だった。
「射命丸文、今から腹に抱えていることを全て話せ。誤魔化せると思うな。」
「・・・・・・。」
(これは言い逃れ出来ませんね、正直になるしかない。)
二人の沈黙が流れる、そして・・・。
「ふふふふふふふ。」
「・・・?」
「あははははははははははははは!!」
文は笑い声を弾けさせた、会議室を響かせるほどに。
「・・・。」
「いやあ参りました、飯綱丸様。ここまでされたら申し開きの余地がありません。」
文は両手を上げ、降参のポーズをとった。
芝居がかった動作で、わざとらしさすら感じさせる所作だった。
龍はさらっと流す。
「今まで私は隠し事をしていました、飯綱丸様。」
「やはりそうか、まあそうだろうな。」
龍は真顔を崩さず、文を直視する。
文は笑うのを辞めて真剣な表情を見せる。
「寺子屋の小僧達が、慧音に古小屋で不義理を働いていることを掴んでいた訳だ。」
「・・・・・?」
文は呆気にとられた。
「あの・・・飯綱丸様、知っていたのですか?神隠しの真相・・・。」
「ああ、小僧達が洗脳されていることもな。」
龍の態度は自慢げなものに変わっていく。
「・・・いつから知っていたのですか?」
「お前が古小屋に到着する前から。」
「そんなに早くですか・・・。」
時期からして、文が黒幕に警告を受けたよりも早かった。
「例の奴が天魔様に図々しくも手紙を寄こしてな、慧音には手を出すなと命令をしたのだ。
全く無礼な話だ、挨拶すらせず指図に走るとは。
私自身で首を刎ねてやりたいところだ。」
龍は憤慨する、無理もなかった。
天魔のことは誰よりも慕っているのだから。
「天魔様と会議を終えて、私は独力で慧音の探索に励んだ。
その結果、人里近くの森の古小屋で監禁されていることが分かった。
文が古小屋に到着するずっと前にな。」
「流石ですね、私よりも迅速に発見するとは・・・。」
「私はお前の上司だぞ、それ位は出来なければ務まらんよ。
慧音が里の外にいると仮定して、里に出た者達全員をマークした。
それで小僧二人が慧音を監禁する前日に、古小屋で屯っていたことが分かった。
小僧の一人はずっと前から小屋を発見していたこともな。」
龍は、精神の領域を広げ僅かな足跡に残る残留思念を掌握することに長けていた。
主犯の少年が、森でキノコ狩りに勤しんでいたことも以前から把握していた。
「ということは天魔様も飯綱丸様も慧音の所在は分かっていた・・・。
私だけではなかったのですね。」
「そういうことだ、さっきはドッキリというやつだな。
わっはっは。」
龍は朗らかに笑う。
文は脱力する。
「脅かさないで下さいよ~!洒落になりませんよ本当に。」
「いやあ悪かったな、あまりに文が生真面目なものだったからつい。
・・・だがそんな文も古小屋をお楽しみにしていた訳だ。」
「う・・・まあ・・・それは、そうですが。」
毎日、出歯亀していたことは事実だった。
「そして自分も熱くなってしまって
茶屋の男子を誘惑してスケベなことをしていた訳だ。」
文の情事まで把握していた。
「・・・なんでそれを?」
「椛が残念そうにしていたからな。
それにはたてがお前の情事を念写してな、それを私に見せてくれたよ。」
「・・・は、はい?」
文は、聞き捨てならないことを聞いた。
はたてが自分を出歯亀していたことに。
「はたてが・・・あの時のことを?」
「そう、お前が男子とベッドの上で身体を許していた光景を激写していた。
それを私に披露してくれたよ、興奮しながらな。
いや~日も落ちないうちに抱き合うなんて情熱的ですなあ。
別れの夕陽はさぞかし格別でしょうな~。」
文は顔を真っ赤にして絶叫する。
「きゃあああああああああああッ!!!
あのバカなんてことをッ!!
上司になんてもの見せ付けてくれてんのよッ!!」
「そう恥ずかしがらなくてもいいじゃないか。
お前以外も筆おろしはやってる訳だし。
私なんて過去に神職の双子の男子達を誘惑してな。
夜の密室の中、三人で過ちを犯して・・・。」
「部下にそういう下世話な話は辞めてくださいよ!
反応に困るじゃないですか!!」
文は赤面しながら叫ぶ、自分の夜伽をネタにされるのは恥ずかしかった。
「ふふふ、年の割にまだまだ心が若いな文も。
まあ昔から男女の関係には繊細だったが、特に少年相手だと。」
「いいじゃないですか、もうそういうのは。」
「しかし少年におっぱいを吸われて母乳を出すとは。
妊娠してるなら打ち明けてくれても良かっただろう。
出産祝いもしたいしな。」
はたては授乳プレイも念写していた。
「妊娠なんてしてませんよ!?肉体操作で出しただけです!
・・・まあそんなことより、一ついいですか?」
「ん?どうしたんだ?」
龍は少し残念そうに返事する。
文が母親になるのを少し期待していた。
「慧音を陥れた張本人は、一体誰なのですか?
相当な実力者なのは承知しておりますが・・・。」
空気感が変わる。
二人の表情が真剣なものになる。
「ああ、そいつだが私には分からん。
お前の時みたいに遠隔思念を送ってこなかったからな。だが・・・。」
「だが?」
「これは天魔様の結論だが、黒幕の正体は・・・。」
「・・・。」
「摩多羅隠岐奈だと仰った、知っているだろう?」
「奴が・・・異変を起こした女神である者が。」
摩多羅隠岐奈、幻想郷の創造の当事者である賢者達の一角だった。
そして、神の一柱でもあった。
文とは以前、異変で関わっており知らない仲ではなかった。
「そう、お前は面識があったな。私もあの異変で動いていたが。
天魔様と摩多羅は昔からの付き合いでな、この警告の手紙は筆癖が一致していると。
以前貰った摩多羅の手紙とな。」
「ということは、手紙を送ったのは。」
手紙を書いたのが同一人物なら。
「摩多羅ということになる、偽装でなければだが。」
龍は天魔の下した結論を肯定した。
「あの古小屋を建てたのは摩多羅ということに?」
「可能性はある、異端者を嬲るためにな。
たまたまゴロツキが建てた小屋を、利用しただけというのも有り得るが。」
もし前者なら悪趣味にも程がある所業だった。
「お前が警告されたのも、はたての念写が妨害されたのも。
慧音を助けても不思議じゃない。
そう奴が判断したのは確かだろうな。」
「私が慧音を助ける・・・まあそうしていたでしょうね。
流石に性奴隷にされたのを歓迎する気もないですし。」
文も慧音とは軋轢が何度かあったが、助けないほど薄情でもなかった。
はたても、お人よしで助けずにはいられない性分だった。
「他に質問はあるか?」
「いえ、ただ飯綱丸様に一つ渡したい物が。」
文はスカートのポケットから掌ほどの大きさの小箱を取り出す。
「その箱は?」
「どうぞお受け取りください。」
文は小箱を風で浮かせ龍に渡す。
龍は箱を開けて中を見た。入っていたのは・・・。
「妖気を取り込んだ呪符だな、森の残り香もするが。」
「これは里と古小屋の道中で撒かれていた妖気を、呪符で取り込ませた物です。
もし妖気の分析が完了すれば、黒幕が摩多羅なことの確証になると思いますが。」
「それは助かる。
私も奴が残した妖気を確保して情報部門に解析させていてな。
サンプルが多い方が捗るだろう、渡しておく。」
龍は笑顔で小箱を懐に入れた。
「私がもっと妖気を採取しましょうか?
あの道中で。」
「いや、もうあそこには妖気は残っていないと部下から報告された。
監禁が始まって三日後に消失したと。
小僧二人に妖気が完全に定着してお役御免になったといったところか。」
「そうなのですか、事前に採取して良かったです。」
「文だけが頼りだ、こういう事態は。」
龍の文に対する強い信頼を感じた、昔から続いていた。
「それでは話は着いたことだし、会議はお開きにするか。」
「もうドッキリはほどほどにして下さいよ、心臓に悪いです。」
「ははは、いやあ面白くてついな。」
二人の会議は終わった。
文は気が抜けて疲弊した表情を滲ませる。
だが、まだやることがあった。
「ところで飯綱丸様、はたての写真をお持ちでないでしょうか?
もしあるのなら私に預からせて貰えないでしょうか?」
「念写の出歯亀写真か、持っているが何故だ?」
「はたてに突き付けてから、ヤキを入れようと思いまして。
いくら何でもおいたが過ぎるでしょう。」
少年との情事を、上司にバラされるのは捨て置けなかった。
文にとっては大事なプライベートだからだ。
「そういうことか、ならプレゼントしてやろう。」
龍は眼虫達と写真を文に渡す。
写真は合計30枚もあり、文と少年の営みが赤裸々に暴かれていた。
文はふしだらな写真の数々に呆れ果てる。
「どんだけ念写してたんですか・・・はたての奴。
まさか飯綱丸様以外にもばら撒いてたりして。」
「そればかりは吐かせるしかないな。
しかしまあベッドの上で全裸になって誘惑するとは。
大胆なことですなあ、まだ精通もしてない少年に。」
「いいじゃないですか・・・そのことは。」
文は気まずそうに答える。
「こういう時は、少年に服を脱がさせる方が本格的だぞ。
その方が色気があってだな。」
「だからいいって言ってるでしょ!もう!」
ムキになってしまう文に、龍は楽しんでいた。
こんなことは久々だった。
「はは、すまん。
ところで文、これから二人で飲みにいかないか?」
「良いですが、二人でですか?」
椛やにとりは誘わないのは意外だった。
「ああ、久々にな。異変も一段落ついたことだし。
まだ予断を許さないが。
お前と晩酌したいと考えていたところだ。」
「そうですか、場所は如何いたしましょう?」
「ミスティアの屋台だ、そこなら落ち着いて飲めるしな。」
夜雀の妖怪であるミスティア・ローレライが営む屋台だった。
文の行きつけであり好物の八目鰻が名物だった。
「良いですね、そこなら楽しくやれそうです。」
「それじゃ、行こうか。」
二人は会議室を後にした、消灯されてただ静寂だけが流れた。
時刻は20時00分。
文と龍はミスティアの屋台へと向っていた。
その道中は森の中を歩んでいた。
ミスティアは永遠亭がある、迷いの竹林の近くで営業していた。
「しかし、はたてがこんなスキモンめいたことを・・・。」
「それは文もやってるじゃないか、慧音に。」
「まあ、それはそうですが・・・。」
文も古小屋の監禁凌辱を出歯亀していた。
それも念写ではなく式神に撮影させて。
「まあ流石にはたてもお前の情事を、ブラックマーケットにバラまくことはしないだろうよ。
私が保証する。」
「そこは分かってます、一線を越える子ではないので。」
文も内心、はたてがばらすのは龍と椛くらいだとは信じていた。
「ただ、危ない事をしたがる年頃なので。
守矢の連中が侵攻したとき、私が成敗してやると言って飛び出そうとした時は
流石に止めましたよ・・・。」
「そんなこともあったな・・・。文が説得してなかったら後の祭りだった。
戦争が勃発なんてなったら事態は泥沼だった。」
過去に守矢の勢力である八坂神奈子、洩矢諏訪子、東風谷早苗の三柱が妖怪の山に侵攻する異変があった。
不法占拠そのものだったため、山の天狗と河童が集結して迎撃する戦争が始まる一触即発の危機と化した。
幸い霊夢と魔理沙の二人によって戦争は回避された。
「あの時は大変でした、もし戦争が起きて幻想郷が甚大な被害を被ったら・・・。
その後の異変を考えたら、もう詰んでいましたよ。」
「今にして思えば文と椛、にとりや雛が働いてくれなかったら未来が変わっていた。
霊夢たちを上手く誘導して、悲劇を未然に防いでくれたからな。
ただ感謝しかない。」
あの時、はたては独断専行の責任で謹慎処分を命ぜられた。
異変後、泣いて反省していたが。
「言い過ぎですよ、飯綱丸様。
ただみんな幻想郷を守るために必死だっただけです。」
「そんなお前たちがいるから、私は大天狗を続けられる。」
龍は部下たちを労わる。
長年、大天狗を続けてきた人心掌握力の賜物だった。
「お上手ですね、飯綱丸様。
まあ上司が貴方だからこそ、みんなが山に残っているのです。」
「私達のお陰で妖怪の山が栄えているのだな。
これからもよろしくな、文。」
二人の確かな信頼関係がそこにあった。
「これからも皆の上司でいてくださいよ、飯綱丸様。」
「勿論だ。」
文と龍はミスティアの屋台に着いた。
二人の楽しい夜が続いた。