普通の下着が、こんなにも頼りなく感じる日が来るとは思わなかった。
雑居ビルを出てから人通りのある道まで戻り、駅を越えた先の角で美綴と別れた。最後までこちらを振り返っていた友人の姿が見えなくなると、凛は張っていた肩を落とした。
遠坂邸までの一歩ごとに、制服の内側で大量の精液が揺れる。脚を閉じて歩いても、ぬるいものが太腿へ細く垂れてくる。
「……っ」
声を噛み殺して玄関を開け、鍵を掛ける。鞄を廊下へ置き、靴も揃えずに洗面室へ急いだ。
制服を脱ぐ。汚すなと命じられた布地の表は綺麗なままなのに、パンツを穿いていない下半身は惨めに濡れていた。そのちぐはぐさが、男たちの笑い声を耳の奥へ蘇らせる。
「消えて……全部、消えなさいよ」
シャワーの湯を強くする。髪から肩、胸、腹、脚へ熱い筋が流れた。片脚を浴槽の縁へ上げ、指で掻き出す。ぐちゅっ、と粘った白濁が押し出され、指の間を伝って排水口へ落ちた。
「んっ……く、ぅ……」
傷んだ内側を指が擦るたび、腰が勝手に引ける。それでも凛は奥へ指を入れ、何度も掻き出した。身体が震えることと、自分の意思は別だ。湯に薄まった白い筋が見えなくなるまで手を止めなかった。
洗い終え、身体を拭く。引き出しから普通の下着を選ぶ。柔らかな布が臀部を包み、クロッチが肌へ触れる。それだけのことに胸が詰まった。
バイブもローターも、金属の貞操帯もない。ただのパンツ一枚が、今夜だけは薄い扉のように思えた。
ベッドへ横になると、凛は深く眠った。夢を見る隙さえない眠りだった。
◇
翌日は、何も起こらなかった。
目覚めたときもパンツは乾いたまま。登校中にスマホは鳴らず、校門の向こうに黒服もいない。椅子へ座っても器具は作動せず、ただ木の座面がスカート越しに触れるだけだった。
それはあまりにも平穏な学校生活で、凛は一時間目が終わるまで何度も鞄の中のスマホを確かめてしまった。
「遠坂。今日はちゃんと人間の顔してるじゃない」
休み時間、美綴が机へ腰を預けた。
「昨日までは何に見えてたのよ」
「徹夜続きの亡霊」
「失礼ね。昨日はよく眠れたの」
「ならいいけどさ」
美綴の目が一瞬だけ細くなる。雑居ビルへ入った後の記憶を失っていても、分かれ道で問いを呑み込んだことまでは忘れていない。
「あの建物で、本当に何もなかった?」
凛は膝の上で指を組んだ。眠らされた美綴の首に回された腕を思い出す。
「ちょっとした行き違いよ。もう片づいたわ」
「……そう」
説明になっていない。美綴も分かっている。それでも、今日は凛の顔色を見て追及を止めた。
「今度、埋め合わせしてくれよな。甘いもの、高いやつ」
「はいはい。覚えておくわ」
いつもの軽口で会話が閉じた。凛は息を吐き、黒板へ視線を戻した。
昼休み、凛は弁当を手に屋上へ上がった。フェンス際の風を避けられる場所では、先に来ていた士郎と桜がシートを広げている。
三人で腰を下ろし、桜が包みを開くと、焼き菓子の甘い匂いが青空の下へ広がった。
「姉さん、今日は顔色がいいですね」
「昨日たっぷり寝たから。心配させたわね」
「凛、無理してないか?」
士郎はシートの向かいから、まだ探るように凛の顔を見ている。
「してないわよ。ほら、食欲もある」
凛はクッキーを一枚取り、わざと大きく齧った。バターの甘さが舌へ広がる。
「そうだ、今日は午後の授業も短いんだよな」
士郎の言葉に、凛は時間割を思い出した。
「ええ。いつもより一時間は早く帰れるわ」
「この前言ってた魔術訓練、今日でもいいか? 目を閉じたまま魔力を安定させるやつ」
「構わないわ。夕方、うちへ来なさい。余計な家事を片づけてからね」
「分かった。四時半には行ける」
「先輩、また根を詰めすぎないでくださいね」
桜が微笑むと、士郎は少し困った顔で頷いた。
「遠坂が止めてくれるさ」
「私を安全装置みたいに言わないで」
屋上を渡る風の中で、三人の笑いが重なった。何でもない昼休みだった。
何でもないことが、こんなにも愛おしい。
◇
午後の短い授業を終えて、凛は地下の工房へ直行した。
遅れていた研究を再開する。ジェイクから届いていた触媒を固定台へ置き、測定用の宝石を三点に配置する。魔力を細く流すと、触媒の表面へ淡い光が走った。
「……嘘」
針が予測値を越えて止まった。
入力を絞り、もう一度測る。結果は同じ。触媒の反応が良いだけではない。自分の魔力出力そのものが上がっている。
凛は回路を一本ずつ意識し、流量を変えた。力は澄み、以前より淀みなく指先へ集まる。測定誤差ではない。
成果だけを見れば、喜ばしいはずなのに。胸の奥は少しも浮き立たなかった。
(いつから、こんなに……?)
考えたくない。昨夜のことなど、思い出したくもない。
そう拒んだ途端、白く濁ったものを何度も中へ出された感触が、数字の裏から蘇った。器具が外れたことでは説明できない。変化を感じ始めた時期と、大量の精液を受け入れ、身体が何度も絶頂させられた時期が重なる。
追うつもりなどないのに、点と点が勝手につながってしまう。
(精液は確かに生命力とも言える……生命を生み出すものなんだから、魔力と影響し合う可能性が、まったくないとは……)
そこまで考えて、凛は激しく首を振った。
(いやいや、そんなまさか。そんな単純な話があるわけないでしょう)
もし本当にあれが原因なら、この澄んだ力は、男たちに身体を弄ばれた結果ということになる。成果を喜べば、受けたことまで肯定するようで吐き気がした。喜ばしいはずなのに、どうしても喜べない。
「……相関があるかもしれない。それだけよ」
凛はノートへ数値を写し、仮説の末尾へ大きな疑問符を二つ付けた。嫌悪だけで観測を捨てるのは魔術師として間違っている。けれど、これ以上を今すぐ考えることもできなかった。
時計を見る。四時まで、あと三十分。
士郎を迎える準備をしなければならない。
工房を閉めて一階へ戻り、廊下とリビングへ消臭剤を吹く。洗面室のタオルを替え、ソファのカバーを整える。昨夜脱いだ制服は洗濯機へ入れた。研究ノートの一冊と測定用の小さな宝石だけは、続きを確認するためリビングのテーブルへ持ってきた。
チャイムが鳴った。
「早いわね、士郎」
時計はまだ四時前だ。凛はノートを閉じ、玄関へ向かった。
モニターに映った二つの顔を見た瞬間、足が止まる。
金髪の男と、雑居ビルにいた男の一人だった。
二度目のチャイムが鳴る。
凛は振り返った。テーブルの宝石。ノートの術式図。カーペット脇に残した簡易測定陣。
「まずい……!」
踵を返し、宝石とノートを棚の奥へ押し込む。指先で簡易測定陣の魔力を散らし、チョークの線を濡れ布巾で乱暴に拭った。消えきらない線の上へ小卓をずらす。
魔術の痕跡を隠し終える前に、玄関の扉が強く叩かれた。
焦る必要はない、と自分へ言い聞かせる。地下室には魔術の鍵が掛かっているから心配ない。あの二人はこれまで、魔術の存在など知らない一般人として振る舞っていた。宝石と線を片づけたいま、一階には怪しげなものは何もないはずだ。
凛は呼吸を整え、玄関を細く開けた。
「何の用?」
「よぉ、遊びに来たぜ凛ちゃん」
金髪の男が扉へ靴先を差し込み、笑った。もう一人が凛の肩を押し、二人そろって家へ入ってくる。
「帰りなさい。ここは私の家よ」
「知ってるから来たんだろ」
凛は右手の回路を開きかけた。
男がスマホを取り出す。画面には雑居ビルで制服のまま押さえつけられた凛が映っていた。指を滑らせると、眠った美綴の顔へ切り替わる。
「ここで暴れてみるか? 友達の住所も、彼氏の名前も分かってんだぜ」
開きかけた回路を閉じるしかなかった。
「……美綴に触れたら殺すわ」
「じゃあ大人しくしてろ」
リビングへ向かいかけたもう一人の男が、トイレの脇で足を止めた。
そこには、いつでも替えられるように置いていた未開封のオムツの袋がある。器具を外された昨夜、もう必要ないと思った安心で、片づけるのを忘れていた。
「おい、見ろよ。ちゃんとオムツまで用意してあるぞ」
「準備いいなあ、凛ちゃん。今日は何人分を腹に溜める予定だったんだ?」
凛は唇を結んだ。男たちと会う時は外して見せないようにしていたのに。
「彼氏が来る前に、俺たちが穿かせてやろうか?」
「触らないで」
袋へ伸びた手を凛が払いのけると、男たちは声を上げて笑った。
時計が視界へ入る。士郎が来るまで三十分もない。
「夕方から彼氏が来るの」
二人の笑いが止まり、凛は拳を握った。
「もうすぐ来るの。だからお願い、出ていって」
金髪の男は隣の男と顔を見合わせた。やがて、口元を吊り上げる。
「そりゃいいや。一発ずつさせてくれたら出ていくよ」
「ふざけないで。時間がないの。本当に、もうすぐ来るんだから」
「だったら早く済ませた方がいいだろ。俺たち二人が一回ずつ。終わったら帰ってやるよ」
「嫌よ。何もしないで出ていって」
男がスマホの画面を凛へ向け直す。制服を捲られた自分と、意識のない美綴。時計の針は士郎の来訪時刻へ近づき続けている。
攻撃すれば映像がどうなるか分からない。押し問答を続ければ、士郎がこの二人と玄関で鉢合わせる。選べるものなど、最初から残されていなかった。
凛は爪が掌へ食い込むほど拳を握った。
「……一回ずつ終わったら、帰るって約束しなさい」
「ああ、約束するよ」
肩を押され、リビングへ戻された。
◇
カーペットの上で、凛は両膝をつかされていた。
スカートは腰まで捲られ、パンツは両膝に引っ掛かっている。正面の男のものを口へ含まされ、背後では金髪の男が尻を左右へ開いていた。
「ほら、時間ないぞ。彼氏が来ちまう」
「んぐっ……ん、ぅ……!」
髪を掴まれ、腰を引かれる。太い肉が喉の手前まで押し込まれ、唇の端から唾液が垂れた。
背後で亀頭が濡れた入口へ押し当てられる。
「や、め……今、入れたら……っ」
「口が暇になってから喋れ」
腰を突き出される。ぬちゅっ、と粘膜を割って一気に入ってきた。
「んんんっ!」
悲鳴は口を塞ぐ肉へ潰された。前から喉を突かれ、後ろから腰を打たれる。凛の身体は二人の間で前後へ揺れた。
ぐちゅっ、ぱんっ。濡れた音と、男の腰が尻へ当たる音が交互に響く。
時計の針が進む。
(あと何分? 士郎が来る。早く終わらせないと――違う、終わらせるために動くなんて……!)
口の男が凛の頬を叩いた。
「舌、止まってるぞ」
凛は目を閉じ、舌を動かした。ここで逆らって長引かせる方が危険だ。士郎が来る前に終わらせないと。
正面の男の呼吸が荒くなる。背後の動きも速くなった。ぐちゅ、ぐちゅっ、と内側を抉られ、過敏な場所へ先端が擦れるたび、下腹が勝手に縮む。
「くるぞ。飲めよ」
同時に、背後の男が凛の腰を根元まで引き寄せた。
ピンポーン。
チャイムが鳴った瞬間、口の中へ熱い精液がびゅるっ、びゅるっと放たれた。背後でも肉が奥へ押しつけられ、どくどくと中出しされる。
「んんっ――!」
凛は目を見開いた。玄関の向こうに士郎がいる。
男が口から抜ける。舌の上に溜まった精液が唇から零れそうになる。奥で脈打っていた肉も、ぬちゅっと引き抜かれた。白いものが内腿へどろりと伝う。
凛は反射的に口を押さえ、二度、三度と喉を鳴らして飲み込んだ。
「早く、隠れて……!」
金髪の男が、玄関の方へ顎をしゃくる。
「はいはい、隠れておいてやるよ。その代わり連絡したら来いよ」
「出したら帰るって約束したでしょう……!」
「嫌なら約束どおり、今すぐ玄関から帰ってやるよ」
ピンポーン。
二度目のチャイムが凛の返事を急かした。
「……分かったから、早く隠れて!」
「洗面室、借りるぜ」
男二人が廊下へ消える。その背中を追う余裕もなく、凛は震える脚で立ち上がり、パンツを一気に穿く。クロッチが精液を受けてすぐ重くなった。スカートを下ろし、髪を手櫛で整える。
洗面室の扉が閉じるのを確かめ、凛は唇を袖で拭った。
息を吸う。笑顔を作る。
玄関を開けた。
「悪い、少し早かったか?」
士郎が紙袋を片手に立っていた。
「いいえ。ちょうど片づいたところよ。入って」
自分の声が震えていないことだけを確認し、凛は身体を横へずらした。
◇
士郎はリビングのカーペットへ胡坐をかいた。凛はその正面に座る。洗面室は廊下を挟んだ右手、士郎の背後にある。
「今日は外からの情報を切って、自分の魔力だけを一定に保つ訓練よ」
「分かった」
「背筋を伸ばして。肩は力を抜く。目を閉じなさい」
士郎が目を閉じる。
「魔力を制御するとき、無理に量を増やそうとしないこと。まず一本の流れを作って、それを途切れさせない」
凛は士郎の両手を上向かせ、指先へ自分の指を重ねた。
「ここからは同調を使うわ。私の声を耳じゃなく回路で受け取りなさい。返事も要らない」
浅く回路を接続する。士郎の魔力の輪郭が触れ、凛の意識へ不器用な熱が流れ込んだ。
凛は声を出さず、思考を細い糸へ整えて伝える。
〈入口を絞って。そう。いま広げると流れが暴れる。一定の幅を保ちなさい〉
士郎の魔力が揺れ、すぐ戻る。
〈焦らない。目で確認しようとしないで、内側の圧だけを――〉
腹の奥から、ぬるいものが動いた。
先ほど中出しされた精液が、とろりと入口から漏れる。パンツの内側へ広がり、湿った布が敏感な場所へ貼りついた。
「……っ」
声になる寸前で止める。しかし身体の強張りは接続へそのまま流れた。
同調が揺らぐ。
士郎の眉が動いた。
「凛?」
「目を開けない。いまのは私の方の雑音よ」
「大丈夫なのか?」
「講師を心配する前に、自分の流れを保ちなさい」
いつもの調子で言い切り、凛は呼吸を整えた。両脚を強く閉じる。パンツの中で精液が押し広げられ、じわりと尻側へ滲んだ。
〈もう一度。入口を細く、出口まで同じ幅で〉
思考の声だけは冷静に作る。士郎は頷き、再び集中した。
数分後、テーブルに伏せていたスマホが鳴った。
短い着信音が、凛には警報のように聞こえた。画面には登録していない番号と、一言だけ表示されている。
『来い』
凛は接続を解いた。
「ちょっとそのまま目を閉じて、絶対に開けないで集中してなさい」
「え? 凛、どこへ――」
「一人で同じ流れを維持できるか見るの。五分よ」
返事を待たず立ち上がる。歩くたび、濡れたパンツが肌へ擦れた。
洗面室の扉を開けると、腕を掴まれて中へ引き込まれた。扉が背後で閉まる。
「わりぃな、我慢できなくてよ」
「さっき出したばかりでしょう……!」
「もう勃ったんだから仕方ねえだろ」
男は洗面台の縁へ腰を預け、凛の肩を押した。もう一人は扉の前に立ち、耳を澄ませている。
「早くしろ。彼氏に呼ばれるぞ」
凛は膝をついた。目の前の肉を口へ押し込まれ、喉を詰まらせる。
「んぐっ、ぅ……!」
頭を前後へ動かされる。じゅぷっ、じゅぽっ、と狭い室内へ水音が響いた。士郎との距離は扉と廊下一本だけ。凛は音を小さくしようと唇へ力を入れたが、その分、男は気持ちよさそうに息を吐く。
「上手くなったじゃねえか」
(違う。早く戻るため。士郎をここへ来させないためよ)
自分へ言い聞かせ、舌で裏側を擦る。男の腰が小刻みに動き、先端が喉の奥へ当たった。
「出すぞ」
髪を掴まれ、口の中へ押しつけられる。びゅるっ、と熱い精液が舌へ飛んだ。
「んっ、んぅ……」
凛は鼻で息をしながら飲み込む。男が抜くと、唇と顎の間に白い糸が伸びた。手の甲で拭おうとした凛へ、扉際の男がタオルを投げる。
「彼氏が待ってるぞ」
笑いを含んだ声に、凛はタオルを握り潰した。
「分かってるわよ」
口元を拭き、鏡で顔を確認する。目が潤んでいる。冷水を指へつけ、目尻を押さえた。
リビングへ戻ると、士郎は言いつけどおり目を閉じていた。両手の上で、弱い魔力が途切れそうになりながらも続いている。
「遅かったな」
「五分も経ってないわよ」
「声が少し変じゃないか?」
「廊下で咳き込んだだけ。ほら、集中」
凛は再び正面へ座り、士郎の指へ触れた。自分の口内に残る味を意識から切り離し、同調を結び直す。
〈今度は私に引っ張られないで。自分の流れを先に作る〉
士郎の魔力が応じた。
凛は教え続けた。声を出さずに済むことが、今は救いだった。
◇
四十分ほどで訓練を終えた。
「今日はここまで。最初よりは安定したわ」
士郎が目を開き、長く息を吐く。
「途中で何度か、凛の方から変な揺れが来たけど」
「接続を切り替えた反動よ。気にしなくていいわ」
「そうか?」
「疑うなら次はもっと難しくするわよ」
「いや、信じる」
士郎は苦笑した。凛は立ち上がり、パンツへ染み込んだ冷たい湿り気をスカート越しに意識する。
「休憩にしましょう。紅茶を淹れるわ」
台所で湯を沸かし、茶葉をポットへ量る。蒸らした紅茶を二つのカップへ注ぎ、紅茶を二杯載せた盆を手にリビングへ戻った。
二人でテーブルを挟んで座る。士郎はすぐにカップへ口をつけ、凛も香りを確かめるように一口だけ飲んだ。
その時、ポケットのスマホが震えた。
『来い』
さっきと同じ二文字。
凛はほとんど減っていないカップを置いた。
「ちょっとトイレに行ってくるわ」
「ああ」
廊下へ出る。トイレの扉を通り過ぎ、洗面室へ入った。
待っていた男が凛の腕を引き、洗面台へ両手をつかせた。
「今度はこっちな」
「紅茶を入れたから長くは――」
言い終える前にスカートを捲られた。精液で濡れたパンツが膝まで引き下ろされ、尻を持ち上げられる。
「ずいぶん濡れてるじゃねえか」
「あんたたちが出したものよ……っ」
亀頭が入口を擦る。すでに緩んだ内側へ、ずぶっ、と挿入された。
「あっ――!」
凛は洗面台の縁を掴み、悲鳴を噛み殺した。
男は待たない。腰を引き、すぐに深く突き入れる。ぱんっ、ぱんっ、と臀部へ腹がぶつかり、洗面台の瓶がかたかた揺れた。
「声、出すなよ。彼氏に聞こえるぞ」
耳元へ落とされた声は囁きだった。
「くっ……あ、ぅ……!」
片手で口を押さえる。もう一人が瓶を手で押さえ、水道を細く出した。しゃああ、と流れる水へ紛れても、ぐちゅっ、ぐぽっ、と内側を抉る音までは消えない。
「凛?」
扉の外から士郎の声がした。
全身が凍る。
男は止まらなかった。腰が尻へ当たる寸前で動きを止め、衝突音だけを殺して短く、速く抉り続ける。ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐぽっ。湿った音に合わせ、身体が洗面台へ小刻みに押しつけられた。
「凛? トイレじゃないのか?」
男が凛の耳へ唇を寄せた。
「答えろよ。入ってきちまうぞ」
熱い囁きと同時に、ずんっ、と最奥を突かれる。凛は息を吸おうとする。声が裏返りそうになる。
「ごめん、ちょっと汚しちゃって、洗面室よ。入らないでくれる?」
なんとか一息で言った。その最中にも、ぐちゅっ、ぐぽっ、ぐちゅっと休みなく肉が出入りする。最後の音を言い終えた直後、腰を強く引き寄せられ、「んっ」と短い声が漏れた。
「大丈夫か? 気分悪いのか?」
「平気……! 気に、しないで……っ」
ぐちゅっ、ぬちゅっ、ぐぽっ。
扉一枚の向こうに士郎がいる。
そのすぐ内側で、凛はスカートを捲られ、名前も知らない一味の男の腰を受け止めている。ぐちゅ、ぐちゅっ、と音を抑えた速い往復が、言葉の切れ目ごとに奥を叩く。助けを呼べば扉は開く。だが開けば、もう一人の男が士郎をどうするか分からない。映像も美綴も残ったままだ。
凛は唇を噛み、洗面台を掴んだ。
「優しい彼氏だな」
男が耳を舐める距離で囁いた。腰は止まらない。ぐちゅぐちゅっ、ぐぽっ、ずんっ。衝突音を殺したまま、さっきより激しく奥へ突き上げてくる。
「おら、我慢せずイけよ」
「黙り、なさい……っ、あ、あぁっ……!」
堪えていた声が喉の奥で崩れる。扉越しに残る士郎の気配と、内側を掻き回すぐちゅっ、ぐちゅっという音が重なった。凛は洗面台へ額を押しつけ、声を噛み殺したまま絶頂する。
「結構かかりそうか? 何かしてるなら手伝うけど」
「っ……!」
脚ががくがくと震え、腹の奥がきゅうっと男の肉へ絡みついた。
ぐちょっ、ぐちょっ。
「いいぞ、もうすぐ出そうだ」
囁きとともに根元まで押し込まれる。
「やっ、中は――んんっ!」
びゅるっ、びゅるるっ……!
扉一枚の向こうには、まだ士郎が立っている。そのすぐそばで熱い精液が奥へ何度も注がれ、押しつけられた下腹がどくどくと脈打った。
「……凛?」
「平気。もうすぐ、終わるわ。先に、リビングで待ってて……すぐ行くから」
「……分かった。無理するなよ」
士郎の足音が一歩、扉から遠ざかる。
男は息を整えながら、凛の背へ覆い被さり、声を潜めたまま笑った。
「やっぱ寝取りは興奮するわ」
もう一人が声を殺して笑った。
「凛ちゃんも興奮してたでしょ」
肉が引き抜かれる。白い精液が入口から溢れ、膝まで下ろされたパンツの上へぼたぼた落ちた。
凛は振り返り、男を睨んだ。
「……次に士郎の前でやったら、映像ごとあんたたちを焼くわ」
「怖え怖え。早く戻れよ」
凛はタオルで太腿を拭き、汚れたパンツを穿き直した。鏡の中の頬は赤い。冷水で顔を濡らし、呼吸を平らに整える。
リビングへ戻ると、士郎はテーブルの前に座って待っていた。凛のカップはほとんど手つかずのまま、湯気を失っている。
「本当に大丈夫か? 顔が赤いぞ」
「ちょっと気分が悪くなっただけ。今は平気」
「病院、一緒に行くか?」
「必要ないわ。昨日よく眠れたと思ったけど、まだ疲れが残ってるみたい」
士郎は納得していない顔をした。それでも凛が鞄を手渡すと、受け取る。
「分かった。今日は帰る。でも、何かあったらすぐ呼べよ」
「ええ」
「約束だぞ」
「分かってるってば」
凛は玄関まで士郎を送った。
扉が閉まる前、士郎がもう一度振り返る。
「訓練、ありがとう。今度は一人でも維持してみる」
「次までに練習しておきなさい」
いつもの笑みを作る。士郎はようやく頷き、門の向こうへ歩いていった。
その背中が見えなくなるまで、凛は玄関に立っていた。
士郎は何も知らない。
それでいい。いまは、それだけでいい。
背後で洗面室の扉が開いた。
「お疲れ、凛ちゃん」
男たちの笑い声が、静かな遠坂邸へ戻ってきた。
◇
「もう帰りなさい」
凛が振り向くと、金髪の男はソファへ深く腰を下ろした。
「せっかく遊びに来たのに、飯も食わずに帰れるかよ」
「遊びじゃない。あんたたちは私の家へ押し入ってるの」
「細かいこと言うなって。腹減ったな」
もう一人が台所を覗き、冷蔵庫を開ける。
「何か作れよ。格好は、そうだな。エプロンだけでいい」
「ふざけないで」
金髪の男がスマホを軽く振った。画面に映る美綴の顔が、凛の言葉を止める。
「裸エプロン。彼氏に作るみたいに、ちゃんと美味いの頼むぜ」
凛は二人を睨みつけたまま、服を脱いだ。
ブラウス、スカート、汚れたパンツ。最後にブラジャーを外す。台所のフックに掛けてあったエプロンだけを身につけると、前は胸と腹の一部を隠したが、背中も尻も剥き出しになった。
「似合うじゃねえか」
「黙って座ってなさい」
凛は包丁を取り、野菜を刻んだ。せめて手元だけに集中する。鍋へ油を引き、肉と野菜を炒める。香辛料の匂いが立ち、さっきまで家に残っていた消臭剤の匂いを上書きした。
背後へ気配が近づく。
「火を使ってる。触らないで」
「料理中の方がいいんだよ」
エプロンの裾が持ち上げられた。凛はすぐにコンロの火を弱める。
「やめ――」
両手を調理台へつかされ、脚を開かされた。洗面室で出された精液がまだ入口を濡らしている。
男の肉が後ろから押し当てられた。
「入れるぞ」
「許可なんて、出してない……っ」
ずぷっ、と根元まで挿入される。
「あぁっ!」
エプロン越しの胸が調理台へ押しつけられた。男が腰を引くと、中の精液まで絡んだ音が鳴る。
ぐちゅっ、ぬちゅっ、ぱんっ。
鍋が小さく煮立つ音に、肉のぶつかる音が重なった。
「焦げる……わよ……!」
「飯の心配か。余裕あるな」
ソファの男が笑いながら立ち、コンロを消した。
「これで集中できるぞ」
「誰が、こんなことに……んっ、集中なんか……!」
背後の男は凛の腰を掴み、一定の速さで打ちつける。逃げようと足をずらすたび、調理台へ押し戻された。胸の先が布越しに擦れ、内側では先端が同じ場所を繰り返し抉る。
「あっ、や……そこ、ばかり……っ」
「いい声出るじゃねえか。彼氏の前でも我慢してたもんな」
士郎の顔が浮かび、羞恥で喉が詰まる。その反応さえ男には伝わった。
腰を強く引き寄せられ、奥へ肉が押しつけられる。
「やっぱ超気持ちいいわ。中に出すぞ」
「もう、何度も……やめ――っ」
男の身体が震えた。どくどくと新しい熱が注がれ、凛の腹の奥が重くなる。
びゅるっ、びゅるるっ……!
「んぐぅっ……!」
抜かれた直後、精液が太腿を伝った。凛は調理台へ額をつけ、息を整える。
「料理、冷めるぞ」
「……あんたたちが止めたんでしょうが」
震える脚で立ち直り、火をつけ直す。エプロンの裾から落ちた白い滴が床へ点々と続いた。
男たちは出来上がった料理を食べ、凛にはほとんど与えなかった。
◇
食器を片づけた後、凛は風呂場へ連れていかれた。
「シャワーくらい一人でさせて」
「洗ってやるよ」
シャワーを頭から浴びせられる。エプロンは濡れて肌へ張りつき、すぐに外された。
凛は浴槽の縁へ手をつかされる。一人が背後から脚を開き、もう一人が正面へ回った。
「もう両方ともは嫌……!」
「せっかく広い風呂場なんだ。使わなきゃ損だろ」
背後から指が入り、溜まった精液を掻き回す。ぐちゅ、ぐちゅっと白濁が溢れ、床を流れる湯へ混じった。
「ひっ……や、そこは、もう……!」
正面から顎を掴まれ、口を開かされる。凛は顔を逸らそうとしたが、濡れた髪を掴まれて戻された。
口を塞がれるのと、背後から挿入されるのはほぼ同時だった。
「んんっ!」
湯の跳ねる音、喉を突かれる湿った音、尻へ腰が当たる音が狭い風呂場へ反響する。
じゅぽっ、ぐぽっ、じゅるるっ。
凛は声を出すこともできず、両側から揺さぶられた。膝が滑るたび、背後の男が腰を抱えて引き上げる。そのたび肉が奥へ入り、腹の内側まで押される。
「ほら、立ってろよ」
「んぐっ、ぅぅ……!」
身体はもう疲れ切っているのに、擦られ続けた粘膜だけが熱を持つ。望んでいない反応が腹の底へ集まり、凛は爪を浴槽の縁へ立てた。
ぬぷっ、ぐちゅっ……!
背後から数度強く突かれ、視界が揺れる。
「あ、あぁっ――!」
口から肉が外れた瞬間、悲鳴が漏れた。脚が震え、内側が男の肉を締めつける。
「こいつ、またいったぞ」
「身体は正直だな、凛ちゃん」
「……違う」
凛は濡れた床へ手をついた。
「何がだよ」
「身体が反応しても……私が、あんたたちを選んだことにはならない」
男は鼻で笑い、もう一度腰を押しつけた。
「じゃあ、朝まで確かめようぜ」
◇
寝室のベッドは、眠るためには使わせてもらえなかった。
凛は仰向けに押さえつけられ、両脚を左右から開かれた。金髪の男が上へ乗り、もう一人は枕元で胸を揉む。
挿入されるたび、濡れたシーツがぐちゅっと鳴った。誰の精液かも分からない白濁が、腿の付け根からシーツへ広がっている。
「やっ……もう、休ませて……」
「若いんだから平気だ」
「そういう、問題じゃ……あっ、あぁっ!」
脚を肩へ担がれ、深く突かれる。ベッドがぎしぎしと軋み、身体が枕の方へずれた。胸を掴む手に爪を立てても、男は笑うだけだった。
金髪の男が凛の顎を掴み、逃げようとした顔を正面へ戻す。
「こっちも開けろ」
「や……んむっ!」
拒む唇を無理やり塞がれた。歯の隙間へ舌をねじ込まれ、舌を深く絡め取られる。ぬちゅっ、くちゅ、くちゅっと唾液が鳴り、息をしようと顔を逸らしても、枕元の男に両手首を押さえつけられたまま逃げられない。
腰を突かれるたび、男の舌まで口の奥へ押し込まれる。凛は鼻へ詰まる呼吸を震わせ、胸を反らした。
「んんっ……ふ、ぅっ……!」
ようやく唇が離れる。二人の間に唾液が細く糸を引いた。
一人が出せば、もう一人へ代わる。
横向きにされ、後ろから入れられる。四つん這いにされ、腰を引かれる。仰向けへ戻され、開いた脚の間へまた男が入る。
「んっ、あ……や、ぁ……!」
ぱんっ、ぐちゅっ、ぱんっ……!
びゅるっ……びゅるるるっ……!
悲鳴は次第に掠れ、喘ぎは息だけになった。湿った音とベッドの軋みだけが、夜の長さを刻み続ける。
窓の外が暗い藍色へ変わっても、男たちは止めなかった。
凛は一睡もできないまま朝を迎えた。
最後の男が抜けると、身体の中からぬるい精液が溢れた。下腹は重く、脚には力が入らない。喉は口で奉仕させられたせいでひりつき、声を出すだけで痛んだ。
金髪の男が時計を見た。
「今日は学校を休め」
「……どうして」
もう一人がカーテンを指で開く。
朝の薄い光が寝室へ差し込んだ。凛はシーツを胸へ引き寄せ、窓の外を見る。
遠坂邸の前に、黒いバンが停まっていた。
エンジンはかかったまま。運転席の人物はここからでは見えない。
通学路へ出れば、美綴も士郎も桜もいる。けれど今日は、その道へ足を踏み出すことさえ許されない。
「どこへ連れて行く気」
男たちは答えなかった。
黒いバンだけが、門の外で凛を待っていた。