※この作品はR-18です。

濁った宝石   作:湖畔R

20 / 31
第20話 儀式の第一段階

 ――逃げなければ。

 

 そう思うのに、足が動かない。

 

 逃げ場のない夢の闇で、間桐臓硯が笑っている。

 

 石造りの蟲蔵。湿った土の臭い。無数の殻が擦れ合う、かさかさという音。

 

 幼い桜の裸身へ、淫蟲が群がってくる。脚を閉じても、腕で胸を隠しても、隙間から潜り込まれる。処女を奪ったぬるい肉が、身体の奥を掻き回す。

 

 嫌だと叫んだはずなのに、声が出ない。

 

 いつの間にか、見下ろしている顔が間桐慎二に変わっていた。

 

 押さえつけられる。踏みにじられる。身体の内側も、口の中も、大量の精液と淫蟲で満たされていく。

 

 息ができない。

 

 精液の底へ沈みながら、桜は必死に水面を探した。

 

   ◇

 

「――っ!」

 

 大きく息を吸い込み、目を開いた。

 

 白い天井。薄暗い照明。鼻に残る酒と香料の臭い。

 

 さっきまでいたVIPルームだ。

 

 けれど、初老の男の姿はなく、外国人風の男だけがソファに腰掛けていた。長い脚を組み、目覚めた桜を静かに眺めている。

 

「お目覚めですか」

 

「ここは……っ、あ……?」

 

 起き上がろうとして、両手首が引かれた。

 

 がしゃんっ、と硬い金属音が鳴る。

 

 桜は幅の狭い拘束台の上で、両手両足を大きく開いたX字に固定されていた。手首にも足首にも金属の輪が食い込み、身を捩るほど四肢が外へ引っ張られる。

 

 しかも、足元には見知らぬ女性が跪いていた。

 

 焦点の合わない目。表情のない顔。その顔が桜の開かれた股間へ埋まり、舌が剥き出しのクリトリスを、ぺちゃ、ぺちゃっと舐めている。先ほどの行為で残った精液が膣口からとろりと漏れるたび、女性はそれまで舌先で掬い取った。

 

「ひっ……や、やめて……! 放して、くださいっ!」

 

 手首を引く。足を閉じようとする。

 

 がしゃ、がしゃんっ、と拘束具がけたたましい金属音を立てただけだった。

 

 女性の舌は止まらない。桜の声など聞こえていないように、同じ速さで動き続けている。

 

「あっ、そこ、舐めないで……んっ……!」

 

 身体が跳ねるたび、金具が四肢を引き戻した。

 

 外国人風の男はソファから立ち上がった。

 

「あの方は、満足してお帰りになりました。ですが、私はまだ満足していません」

 

「もう、十分でしょう……姉さんのことを知っているなら、教えてください……!」

 

「質問はあとにしましょう。まずは、あなたの身体を調べさせてください。この魔術は、対象が覚醒状態でないと使えませんので」

 

 男が拘束台へ歩み寄る。

 

 女性が桜の股間から顔を上げ、音もなく脇へ退いた。代わりに男の両手が、左右の乳房をわし掴みにする。

 

「あなた魔術師っ…!? やっ……!」

 

 逃れようと腰をよじる。だが両手両足を開かれた姿勢では、背中が台の上を擦るだけだ。

 

 男の指が乳房へ沈んだ直後、掌からピンク色の光が滲み出した。

 

 熱くはない。それなのに、光が皮膚を抜けて身体の奥へ流れ込んでくるのが分かる。

 

「あ……な、何を……っ」

 

 光は胸の内側から腹へ、さらに下腹へと枝分かれした。内臓を一本ずつ冷たい指で撫でられ、直接つままれているような感覚に、桜は喉を引きつらせる。

 

「んっ、うぅ……気持ち悪い……やめて……!」

 

 肩を浮かせようとするたび、拘束が手首を引く。乳房を掴む両手から逃げる余地はなかった。

 

 しばらくして、男は興味深そうに目を細めた。

 

「やはり、ずいぶん変わった身体ですね。純粋ではない。ですが、そのぶん非常に興味深い」

 

「なにを……言って……!」

 

「私は癒しの魔術を得意としていましてね。ただ、普通の怪我に使うようなものではない――完全に壊れきったものを、少し治すことができる」

 

 男はそこで少し間をおいて、桜の目をじっと見て話を続けた。

 

「……あなたの身体を、処女だった頃の状態へ戻せると言ったら、どうしますか」

 

 桜は息を止めた。

 

 男の掌から光が消える。乳房を離されても、掴まれていた箇所には指の形の熱が残っていた。

 

「そんなこと……姉さんからも聞いたことなんて……」

 

「遠坂さんにも分からないことはありますよ」

 

 穏やかな声だった。だからこそ、甘い毒のように耳へ入ってくる。

 

 証拠はない。どんな術式なのかも、代償が何なのかも、男は説明していない。処女だった頃へ戻せるという言葉も、身体を調べた光の意味も、何一つ未確認のままだ。

 

 それでも――きれいになれる、という言葉が、桜のいちばん弱い場所へ刺さった。

 

 先輩に触れられるたび、嬉しさの底から蘇る過去。

 

 何も知らず、何も汚されず、まっすぐ立っている姉への劣等感。

 

 消せるなら。あの蟲蔵も、兄にされたことも、身体に染みついたすべても、なかったことにはできなくても、せめて痕だけは――。

 

 自分と姉の関係が完全に知られていることなどもはや重要ではなかった。

 

「私に従ってくだされば、遠坂さんの場所もわかる。そして、あなたの身体は綺麗になる。どうしますか」

 

「姉さんの、場所……」

 

 男の申し出は、どちらも未確認だ。

 

 拒めば、姉の場所も、過去を消せるかもしれない約束も、どちらも失う。

 

 けれど、そもそも桜には選択肢がない。四肢を縛られたまま、どれを選んでもこの男の前から出られない。

 

 桜は唇を噛み、震える息を吐いた。

 

「……分かりました。従います。何を、すればいいんですか」

 

 男は満足そうに微笑み、指を鳴らした。

 

   ◇

 

 部屋の奥の扉が開いた。

 

 ずしん、ずしん、と床を揺らして入ってきたのは、異様なほど大きな男だった。

 

 頭から足首まで黒い全身タイツに包まれ、顔の形さえ隠されている。ただし陰部だけが露出していた。

 

 太い腿の間で、巨大なペニスが反り返っている。先端から先走り液が糸を引き、床へ落ちた。その皮膚の下では、桜を調べたものと同じ桃色の光――魔力らしきものが、血管に沿って脈打っている。

 

「この男性と、先ほどの女性は、催眠状態にある私の手駒です」

 

 男の説明が真実かどうかは分からない。けれど、大男は桜の悲鳴にも、目の前の男の声にも、顔を向けなかった。

 

「彼の身体は、強化してあります。これから最初の儀式――第一段階を始めます」

 

「第一、段階……?」

 

「彼に好きなようにされるのを、耐えてください」

 

「待って……それが、治すことと何の関係が――」

 

「説明は、終わってからにしましょう」

 

 カチッ。

 

 拘束台の内側で機械が噛み合う音がした。

 

「ひっ……!」

 

 背もたれが起き、腰の位置が持ち上がる。同時に足首を固定した支柱が左右へせり出し、桜の脚をさらに大きく開いた。

 

 分娩台のような姿勢だった。尻が台の端へずらされ、股は限界まで開かされる。足先を引こうにも、金属の輪が足首を支柱へ縫い止めている。

 

「いや……こんなの、入るわけ……」

 

 大男が脚の間へ立った。

 

 巨大な先端が、濡れた入口へ押し当てられる。

 

「や、待って、せめてゆっくり――」

 

 ぬぽっ、と膣口が押し開かれた。

 

 次の瞬間、大男は桜の腰を両手で掴み、一気に挿入した。

 

「あ゛ああああっ!」

 

 ずぶっ、ぐちゅっ、と肉が無理やり割り広げられる。太いペニスが一息に奥まで入り、先端が子宮口へぶつかった。

 

「お、奥っ……だめ、壊れますっ……!」

 

 大男は答えない。

 

 腰を掴んだまま、桜の尻を拘束台へ押しつける。そして、すぐに腰を引いた。

 

 ぬちゅるっ、と太いものが入口近くまで戻り、ずんっ、とまた最奥を穿つ。

 

「あっ、あ゛っ、ああっ!」

 

 ぱんっ、ぱんっ、と肉同士がぶつかる音が部屋へ響く。突かれるたびに手首の金具が引かれ、肩が台から浮きかけた。逃げようとすれば関節を痛める。桜は悲鳴を上げながら、拘束具へ体重を預けるしかない。

 

 ずちゅっ、ぐぽっ、ずんっ。

 

「ひぁっ、子宮っ……そこ、叩かないでっ……!」

 

 腹の奥を一突きされるたび、クリトリスとは別の場所から痺れが走った。

 

 望んでいない。止めてほしい。それでも身体は刺激から逃げられず、膣が太いペニスへ絡みついてしまう。

 

「や……来る、いや、こんなので……あっ、ああああっ!」

 

 絶頂が背骨を駆け上がった。

 

 直後、大男の腰が最奥で止まる。

 

 ドクンッ、と巨大なものが脈打った。

 

「え……や、まさか――」

 

 びゅるっ、びゅるるるっ!

 

「あああっ! 熱いっ、出てるっ!」

 

 最初の大量の精液が、膣の奥へ注ぎ込まれた。何度も脈打つたびに熱い液体が増え、逃げ場を失った腹が内側から押し上げられる。下腹が目に見えて膨らみ、桜は息を浅くした。

 

 ようやく脈動が弱まっても、大男は抜かない。

 

「もう、終わりですよね……?」

 

 答える代わりに、腰が引かれた。

 

「うそ……あ゛っ!」

 

 膣内の精液をかき混ぜながら、再びペニスが動き始める。ぐちゅっ、ぐぽっ、と先ほどより重い水音がする。逆流した白濁液が、結合部から太腿へ垂れた。

 

 腹の膨らみを揺さぶられ、また子宮口を叩かれる。

 

「やめて、もう入ってる……お腹、いっぱいなのに……!」

 

 懇願は届かない。

 

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。

 

 速度が上がり、桜は二度目の絶頂へ無理やり押し上げられた。

 

「んああああっ!」

 

 ドクンッ。

 

 二度目の中出しが始まる。

 

 びゅるっ、びゅるるっ、と最奥へ熱が追加されるたび、膨らんだ腹がさらに張った。

 

「あっ……あ、入らない……もう、入らないです……っ」

 

 それでも大男は接続を解かなかった。

 

 少しの静止のあと、また腰が動く。中へ溜まった精液が、太いペニスで奥へ押し戻され、子宮口の周りをぐぽっ、ぐぽっと鳴らす。

 

「もう、出さないで……お願い……!」

 

 大男は無言のまま桜の腰を持ち上げ、深く突き込んだ。

 

「ひぎっ……!」

 

 ドクン、ドクンッ。

 

 三度目の精液が放たれる。

 

「いやあああっ! お腹、裂ける……っ!」

 

 びゅるるっ、と長く続く射精に、下腹は硬く丸く張った。膣口から溢れた分だけが、とろりと尻の下へ流れていく。

 

 それでも巨大なペニスは抜けず、桜の奥を塞いだままだった。

 

   ◇

 

「次は、上からも取り込んでいただきます」

 

 外国人風の男の声に、桜は荒い息のまま顔を向けた。

 

 催眠状態だと説明された女性が、男の前へ跪いていた。

 

 ズボンの前から引き出されたペニスを、女性が無表情で咥える。

 

 じゅぽっ、じゅるっ。唇を根元まで滑らせ、舌で亀頭を擦る。機械的なフェラには、息遣い以外の感情がなかった。

 

「何を……する、つもり……」

 

 男は女性の後頭部へ手を置いた。

 

 数度、口内へ腰を押し込む。やがて男の指に力が入り、女性の喉奥でペニスが止まった。

 

 女性の頬が膨らむ。

 

 口に大量の精液を出されたのだと気づき、桜は首を振った。

 

 女性は精液を口に含んだまま立ち上がり、桜の方へ顔を向けた。

 

「い、嫌……来ないで……!」

 

 まだ大男と接続された桜の頭へ、ゆっくり覆いかぶさった。逃げようとしても、手首は開いたまま固定され、首を左右へ振ることしかできない。

 

「んんっ!」

 

 女性の手が頬を挟み、唇が重なった。

 

 ちゅぱっ。

 

 歯の隙間へ舌がねじ込まれ、ぬるい精液が口移しで押し込まれてくる。

 

「んっ、んんーっ!」

 

 舌で押し返そうとするほど、苦い液体が喉へ流れた。息を求めて喉が動く。

 

 ごくっ。

 

 自分の嚥下音が、やけに大きく聞こえた。

 

 女性は桜が飲み込むまで舌を絡め、口内が空になると唇を離した。糸を引く唾液を拭いもせず、また外国人風の男の元へ戻る。

 

「げほっ、けほっ……どうして、こんな……」

 

 その間にも、大男のペニスは桜の膣内を塞いでいる。わずかに身じろぎされただけで、膨らんだ腹の奥から精液がぐぽっと溢れた。

 

 女性は再びペニスを咥えた。

 

 じゅぽっ、じゅるるっ。

 

「やめて……またする気ですか……!そんなの、飲めません……!」

 

「飲めますよ。先ほどもできました」

 

 男は淡々と腰を動かし、また大量の精液を女性の口へ放った。

 

 女性が桜へ向き直る。

 

「来ないで……お願い、もう――んむっ!」

 

 再び口移しされた。

 

 舌に絡みつく粘り。鼻へ抜ける生臭さ。顔を背けようとする桜の後頭部を、女性の片手が台へ押しつける。

 

「んっ、ぅ……ごくっ、げほっ!」

 

 二度目の精液が喉を通り、胃へ落ちる。

 

 女性の唇が離れたとき、桜は咳き込みながら空気を吸った。

 

 女性はまた外国人風の男の前へ戻った。四度目の衝撃に揺さぶられる桜の視界の端で、女性の頬が三度目の精液に膨らんだ。

 

 だが下半身では、大男の腰がまた引かれていた。接続を保ったまま、膣内の白濁を掻き分け、四度目へ向けて巨大なものが動き出す。

 

「や……もう、やめ……っ、あ゛っ、ああっ!」

 

 ぱんっ、ずちゅっ、ぐぽっ。

 

 力の抜けた身体が、拘束台の上で何度も揺すられた。

 

「これで四度」

 

 男の穏やかな宣告と同時に、巨大な先端が子宮口へ押しつけられる。

 

「いやああああっ!」

 

 ドクンッ。

 

 四度目の中出しが始まった。

 

 びゅるっ、びゅるるるっ、と絶え間なく熱い液体が注がれる。入る余地など残っていないはずなのに、大男の脈動は止まらない。膣口から押し出された精液が、ドロリと太腿を伝った。

 

 桜は声も出せず、張った腹を上下させた。

 

 射精が終わると、大男は腰を引く。

 

 ずりっ、ぬちゅるっ。

 

 巨大なものが抜けた途端、塞がれていた膣口から白濁液が溢れ出した。

 

 大男はそれを顧みず、部屋の隅まで移動する。壁際で向きを変えると、命令を待つ置物のように静止した。

 

「おわ、……り……?」

 

 桜が安堵する間もなく、女性が三度目の精液を口に含んで覆いかぶさってきた。

 

「んむっ……!」

 

 唇を塞がれ、舌を絡め取られる。三度目の精液が少しずつ流れ込み、喉へ貼りついた。

 

「んっ……ごく、っ……うぇ……」

 

 吐き出す力も残っていない。

 

 桜が精液を飲み込むと、女性は口から離れ、そのまま桜の下腹部へ移動した。

 

「なにを……」

 

 女性が開いた股間に顔を埋めた。

 

 ずずずっ。

 

「ひっ……あ、吸って……?」

 

 唇が膣口へ密着し、膣内の精液を吸い上げていく。張りつめていた奥の重みが、わずかに動いた。

 

 ずずっ、じゅるっ。

 

 女性は口いっぱいに溜めると顔を上げ、また桜へ覆いかぶさる。

 

「まさか、それを……嫌、汚い……!」

 

 ちゅぱっ、と唇が塞がれた。

 

 大男から注がれた精液が、今度は女性の舌を伝い、口移しで桜の口へ戻ってくる。

 

「んんっ……う、ぉえっ……!」

 

 嘔吐きながらも、鼻を塞がれ、喉が反射的に動く。

 

 ごくっ、ごくっ。

 

 女性は飲ませ終えると、下腹部へ戻った。

 

 今度は両手を、精液で膨らんだお腹へ置く。

 

「や……押さえ、ないで……!」

 

 ぐっ、と上から押さえ込まれた。

 

「うあっ!」

 

 内側の液体が圧迫され、開いた膣から精液がぺちゃっ、ドロリと溢れ出す。女性はそれを舌で舐めとった。

 

 ぺちゃ、じゅるっ。

 

 口いっぱいに回収すると、また顔を上げる。

 

「いや……もう、分かりました、から……」

 

 拒んでも同じだった。頬を挟まれ、口移しされ、舌で押し込まれる。

 

 ごくっ。

 

 膣の奥にあった熱と重みが、少しずつ口を通り、胃へ移されていく。

 

 女性はまた下腹部へ戻る。腹を押さえる。溢れたものを舐めとる。桜へ覆いかぶさり、口移しする。

 

 ずずっ。ぺちゃっ。ちゅぱっ。ごくっ。

 

 同じ往復が繰り返された。

 

 これが回収の工程なのだと理解すると、桜の抵抗は弱まった。受け入れたのではない。ただ、頭を振るたびに喉へ精液が詰まり、苦しむ時間が長くなるだけだった。

 

 また腹を押される。

 

 とろり、と少量が漏れる。

 

 また飲まされる。

 

 やがて女性が両手で腹を押しても、膣からほとんど溢れなくなった。

 

 女性は顔を上げ、桜の股間から後ずさった。

 

「第一段階は、これで終了です」

 

   ◇

 

 外国人風の男が手を振ると、女性は無表情のまま部屋から出ていった。

 

 カチッ、カチッ。

 

 続けて小さな金属音が四つ鳴る。

 

 手首と足首の拘束が、解除された。

 

 桜はすぐに脚を閉じようとした。けれど股関節が痺れ、まだ大きく開かれているような感覚が残っている。引かれ続けた肩も痛み、腕を胸元へ戻すだけで顔が歪んだ。

 

 太ももには、回収されきらなかった精液が細い筋を作っていた。

 

「次の条件をお話しします」

 

「まだ……あるんですか」

 

「今夜は、あの男性と一晩過ごしてください。彼があなたを求めたら、拒まず受け入れること。お気づきと思いますが、彼に言葉は通じません。そして朝まで、この部屋を出ないでください」

 

 桜は部屋の隅を見た。

 

 大男は、巨大な身体を壁際に置いたまま動かない。顔を隠す黒い布のせいで、どこを見ているのかも分からなかった。

 

「それが……次の条件?」

 

「はい」

 

 断れば、ここまで耐えたことも、姉の情報も失う。

 

 桜は痛む肩を抱き、短く息を吐いた。

 

「……わかりました」

 

「結構です」

 

「その前に、教えてください。せめて、姉さんがどこにいるのか」

 

 男は少し考える素振りを見せた。

 

「私の知る範囲では、遠坂さんは、あの方――先ほどあなたにペニスを舐めさせていた資産家の邸宅にいらっしゃいます。ただし、部屋まではわかりません」

 

 事実だと確かめる術はない。それでも桜は、その一言を取り落とすまいと胸の内で繰り返した。

 

 資産家の邸宅。

 

 姉さんは、あの男の家にいる――かもしれない。

 

「それはどこですか」

 

「それは、儀式が終わってからにしましょう」

 

「今、教えて」

 

 考えるより先に、声が出た。

 

 男は気分を害した様子もなく、薄く笑う。

 

「明朝、最終段階を行います。儀式が成功すれば、あなたは晴れて処女となり、そして遠坂さんの場所の手がかりもお教えします。急ぐ必要はありません」

 

 姉の場所も、身体が治るという約束さえ、まだ男の言葉でしかない。

 

 しかし桜にはその言葉を信じるしかなかった。

 

 外国人風の男は一礼し、部屋を出た。

 

 扉が閉じても、大男は動かない。

 

 桜は片方の肩を庇いながら、拘束台の縁へ身体をずらした。床へ足を下ろすと膝が折れかけ、台へ手をついてどうにか立つ。

 

 部屋の奥に、併設されたシャワー室が見えた。

 

 ふらつく足で中へ入り、扉を閉める。

 

 内側を探したが、鍵はない。

 

 桜は大男のいる部屋を一度振り返り、それからシャワーの栓をひねった。

 

 熱い湯が頭から降り注ぐ。

 

 腕を洗う。男に掴まれた胸を洗う。張りの残る腹を、痛まないようそっと撫でる。

 

 どれだけ流しても、口の奥に残る味までは消えてくれなかった。

 

 資産家の邸宅。

 

 唯一得られた、確かめようのない手掛かり。

 

 姉さんは、そこにいるかもしれない。

 

 桜はもう一度だけ胸中で繰り返し、湯を止めた。

 

 水音が消える。

 

 その直後。

 

 背後で、シャワー室の扉が音を立てて開いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。